特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

μ粒子が動いているのか、地球が動いているのか?

2023-04-27 08:53:32 | 日記

1、宇宙線由来のμ粒子の時間遅れの測定

さて今更ながらのテーマです。

そうして「動くものは時間が遅れる」という事の実例としてよく取り上げられる例でもあります。

それでここでは「なるほど、動くものは時間が遅れる」のだが、「時間が遅れるのはμ粒子なのか、それとも地球なのか」という話です。

というのも時計Bの主張を聞くまでは「そりゃμ粒子だろう」と思ってはいました。

しかしながらその判断は実に「主観物理学の判断=自分が静止しているととらえている判断である」と言う事を知ってしまいました。

そうであれば「本当に動いているものはμ粒子なのか?」と改めて問う必要があるのです。



まずはネット上にあげられている記事を参照しておきます。

16. なぜミュー粒子は地表までやってくるの? : https://archive.ph/Z15ge : 

『ここで、アインシュタインの相対性理論にかかわる話を紹介しましょう。13と14で、パイ中間子はミュー粒子に崩壊すると書きました。ミュー粒子も短命で、50万分の1秒という短い時間で死んでしまいます。こんな短い時間しかこの世に出現しないのです。ミュー粒子は大気の上層部、地上から約10km上空で作られます。光の速さで走っても、走れる距離は、およそ600mにしかなりません。これでは地上に達することはできませんね。

しかしアインシュタインは特殊相対性理論の中で、物体は光速に近づくほど、寿命が延びる、つまり時間がゆっくり流れると予言しました。彼の理論が正しければ、ミュー粒子の寿命は50万分の1秒ではなく、10倍ほど寿命が延びます。すると600mではなく10倍走ることができて、6000mの間は消滅せず走れるようになり、ミュー粒子は地表まで飛来できるというわけです。』

実に簡単、明瞭な説明であります。

静止しているμ粒子の寿命を約2マイクロ秒である、としても光速に近いスピードで地表に向かうので寿命が10倍に伸びて標高ゼロ=海面まで届く、という説明になっています。(注1)



2、さてそれで、上記の説明は地上に立つ観測者がμ粒子を観測した場合の記述になっています。

それで問題は「それじゃあμ粒子から見たらその状況はどう見えるのか?」という所にあります。

「Ⅳ.素粒子の寿命の伸びと相対性」: http://www.sp.u-tokai.ac.jp/~yasue/ffn/soutairon-4.pdf :

8P~9Pにかけてその事についての記述があります。

それによれば

『 海面が近づいて来る時、海面との距離が縮んで見えるということにより、海面衝突までの経過時間が短くなり、やはり、ミュー粒子の減り方が少なくなって、実験結果を再現する事が分かる。』 と結論付けられています。

この場合はμ粒子は静止しており、そのかわりに地球がμ粒子側に運動している、という前提での計算になっています。

特に(4・23)図で示されたμ粒子のコメントにも注意が必要です。

それによればμ粒子は「距離が縮むぞ」と主張しています。



同様の計算をした別の記事も揚げておきます。

(µ 粒子の寿命と走行距離 (1)) : http://rokamoto.sakura.ne.jp/education/physicsIIB/life1.pdf :

『2. 同様に、運動中の µ 粒子から見た地上までの距離は短くなるので、所要時間は~となり 、寿命よりも十分に短いので平均として地上に到達できる。
以上の結果より、同じ現象が二つの見方から整合的に記述されたことになる。』とまとめられています。



3、さてそれで、μ粒子の寿命が延びて地表に到達する事は分かった。

そうしてまた、μ粒子からすれば「地球がμ粒子側に動いてきた」と想定した場合は(相対論でありますから、μ粒子が動いても、地球が動いても同じ結果を与えなくてはなりません)地球が移動するべき距離がローレンツ短縮する事でμ粒子の寿命時間内で海面がμ粒子の位置にまで到達できる、という説明も了解しました。

これは地上に立つ観測者にとっては上空で生成されたμ粒子が本来はその寿命時間内には到達しえない海面まで何故か到達しているという観測事実を「静止μ粒子の立場から説明した」という事になっています。

そこまではいいのです。

それでですね、その時に言及されていない事は「その時に静止μ粒子は地球に置かれた時計が進んでいる、と観測したのか、それとも遅れている、と観測したのか、どちらなんだ?」という所にあります。



4、解かれなくなくてはいけない問題

状況がはっきりしてきましたのでまとめておきましょう。

静止μ粒子の寿命は2マイクロ秒。

地上6kmの上空で宇宙線により生成される。

光速に近い速度で地表に向かう。

その為に寿命が10倍に伸びる様に地上の観測者は観測する。

ちなみに寿命が10倍に伸びる速度Vは

10=1/sqrt(1-V^2)  を満たす。

従って

V=sqrt(1-0.1^2)=3/10*sqrt(11)≒0.995C

これによって本来は600mしか走れない、そこで寿命が尽きるはずのμ粒子が寿命が延びて6kmを走って海面まで到達する事が可能となる。



以上をいままで行ってきた時計A、B、Cについての議論と整合性が取れた表現にするならば

時計Aは地上に置かれる(海抜0m=海面上)。

時計Bはμ粒子に付ける。

時計Cは地上6kmの上空に設置。この場所でμ粒子は生成される。そこがイベント①

イベント①にて時計Bと時計Cはリセットされる。

イベント②はμ粒子が6km走って海面に到達しそこで寿命が終わる場所。そうしてそこは又時計Aに時計Bが到達する場所でもある。

ちなみに時計Aと時計Cは地上から見て同期がとれている。したがって地上からは時計Cがリセットした時刻で時計Aをリセットできる。

そうしてμ粒子と地球の相対速度Vは約0.995Cである。



以上の条件で

イ、地球が静止している、とした場合のMN図

ロ、μ粒子が静止している、とした場合のMN図

を描けばよい、それが回答を与える事になります。



注1:μ粒子の寿命の固有時

静止しているμ粒子の寿命が約2マイクロ秒である、と言う事は「μ粒子の寿命の固有時は2マイクロ秒である」と言っている事になります。

そうしてこれは固有時ですからどのような相対速度を持つ観測者が観測しても「μ粒子の寿命は2マイクロ秒」と観測されなくてはなりません。

もしそのように観測されない、としたならばその観測者がつかっている時計と物差しの目盛りがずれている、と言う事になります。



但しμ粒子の崩壊過程は量子力学的な確率過程である為に目の前にある一つのμ粒子について、その崩壊するタイミングを予測する事はできません。

しかしながら多くのμ粒子の寿命についてはその平均値を確定する事は可能となります。

従ってここでは目の前にある一つのμ粒子はそのようにして得られた平均値の寿命を持つ、と言う事を前提とした話となっています。


PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/LeUrC

https://archive.md/VCpd6