3、静止系を決めるのは観測者の主観ではなく客観的な観測データ
ここまでの議論で分かる様に時計Aが静止系にある場合と時計Bが静止系にある場合ではそれぞれの時計が示す固有時が入れ替わるのでした。
(1),時計Aが静止系の場合
時計Aの固有時=5秒
時計Bの固有時=3秒
(2),時計Bが静止系の場合
時計Aの固有時=3秒
時計Bの固有時=5秒
そうして固有時は観測可能な測定値ですから、固有時の観測結果からどちらの時計が静止系であるのか、判断する事が可能になるのです。
つまりは「静止系を決めるのは観測者の主観ではなく、客観的なデータ=客観的な事実」と言う事になります。
さてそれではどうやって固有時を観測するのか、もう一度確認しておきましょう。
時計Aが左から右に、時計Bが右から左に相対速度V=0.8Cで接近しています。
それで距離 L でその2つの時計がリセットされます。(注1)
この場合L=4Cです。
さてそれで時計Aの前方4Cの所に時計Cが時計Aに先行する形で時計Bに向かいます。
それでこの場合4Cという距離は時計Aが属している慣性系αにあるメートル原器で決定した距離となります。
同様にして時計Bに先行して時計Dが時計Bから距離4C前方にあって時計Aに向かいます。
この時もまた距離4Cは時計Bが属する慣性系βにあるメートル原器で設定されます。
さて時計Bは時計Aとすれ違う前に時計Cとすれ違います。
その時に時計Bと時計Cはお互いにあいての時計の時刻を読み取ります。
あるいはお互いに相手の時計を観測しあいます。
これがイベント①です。
イベント①の時に時計Bが示していた時刻をTB@イベント①と書きましょう。
そうであれば時計Cの時刻はTC@イベント①です。
そうして今度は時計Bは時計Aとすれ違います。
このイベントがイベント②です。
この時、時計Bの時刻はTB@イベント②
同様に時計Aの時刻はTA@イベント② です。
さてそうであれば時計Bの固有時は
時計Bの固有時=TB@イベント②ーTB@イベント①
で算出できます。
さて今度は時計Aです。
まずは時計Aは時計Dとすれ違います。
これがイベント③です。
この時の時計Aの時刻はTA@イベント③
同様にして時計Dの時刻はTD@イベント③
その後時計Aは時計Bとイベント②ですれ違います。
さて、そうなりますと時計Aの固有時は
時計Aの固有時=TA@イベント②ーTA@イベント③
で計算できます。
以上の状況で4つの時計(=時計A,B,C,D)について6つの時刻の観測データが得られます。
上から順に
TB@イベント①
TC@イベント①
TB@イベント②
TA@イベント②
TA@イベント③
TD@イベント③
これら6つのデータは客観的な観測データです。
つまり時計Aが「私が静止系である」と主張し、また時計Bが「いや、私こそが静止系である」とそれぞれの観測者が自分の主観的な判断に基づいていろいろと勝手に主張しても、そんな主張とは無関係に決まってしまう客観的な観測値です。
そうしてまたこの6つのデータは、ローレンツ不変です。
つまり「どのような相対速度を持つ第5番目の観測者が観測しても、その値になる観測データである」と言う事になります。(注2)
さて、こうしてめでたく時計Aと時計Bの固有値が観測によって決定できましたので、その観測結果をもって「慣性系α(時計AとC)が静止系なのか、慣性系β(時計BとD)が静止系なのか、判別できる」と言う事になります。
さあそれで、これをもってこのお話がおわりならばよろしいのですが、なかなかそうはまいりません。
静止系と判定された慣性系は一体何に対して静止していたのでしょうか?
あるいはこう聞いてもいいかもしれません。
慣性系αと慣性系βの違いはなんですか?
まあそういうわけで、このお話はこれで終了、という訳にはいかないのであります。
注1、時計のリセット方法については「時計Bからみた時のNM図」の「追記:時計のリセットについて」にてご確認願います。
表現上「時計Bは時計Cに合わせてリセットする」と書いていますが、実際は時計Bのリセットボタンをここで押す必要はありません。
同様にして時計Aは時計Dに合わせてリセットするのですが、ここでも時計Aのリセットボタンは押されません。
リセットは記録されたデータから机上計算で行う事が可能であるから、と言うのがその理由となります。
注2:観測者の数は各時計に一人ずつですので、固有時決定までに4人の観測者が登場しています。
それでその次に登場する「固有時決定にからんでいない観測者」は5番目の観測者となるのです。