前章の話は結局の所「地球座標系が基準慣性系である」という結論になります。そうして「μ粒子座標系は基準慣性系ではない」、その地位は地球座標系よりも低い、という事になりました。
そうであれば「μ粒子座標系から見た・そこを基準として相対論電卓で計算した時間のおくれ」は「地球座標系によって却下され」「遅れているのはお前の時計だ」とされてしまったのです。
これはつまり「光速で移動しているのは お前の方だ」と地球がμ粒子に言っている事になり、その反対の主張は成立していない、という事になります。
さて、これは相対論の成り立ちからすれば認めにくい主張です。「すべての慣性系は同等である」という「平等主義が相対論のはず」でしたらから。「運動と言うものは相対的である」と言い換えてもいいでしょう。「宇宙には絶対座標系などない」という主張にも聞こえます。
しかしながら、その立場に立てば「双子のパラドックス(加速度運動なし)」は決して解かれる事はない様です。「宇宙船通信パラドックス」は解決する事はないでしょう。
その様な状況であっても「地上にふりそそぐμ粒子の時間は・寿命は延びる」のでした。
そうしてまた「宇宙船で通信を行えば、一つの記録しかそこに残らない」というのは「確実な事」であります。2つの相違した記録がそこに残る、などという事はありえません。それではまるで「多世界宇宙論」になってしまいます。(量子力学の世界観、「多世界宇宙論」を否定するものではありませんが、ここは相対論の世界の話ですのであしからずご了承願います。)
そうなると問題は「特殊相対論が成立している(様に見える)宇宙において、何故地球はμ粒子よりも『基準である』といえるのか?」 コトバを変えますと「なぜ静止していると見なせるのか?」という事になります。
それにしても「静止している」とはなんですか?
一体「何に対して静止している」のでしょうか?
何もない空間だけの世界で静止の概念は成立するのでしょうか?
そうして「何もない空間だけの世界」に二人の観察者を立てて相対運動させた時の関係を記述したのが特殊相対論でした。
その様な世界であれば「静止」とは「二人の観察者の間の相対速度ぜろの事」となります。それ以外には定義できないでしょう。
しかしながら、我々が暮らす宇宙ときたら「からっぽ」どころか「そこいらじゅうで忙しくいろいろな事が起きている宇宙」です。
そのような世界であれば「静止」というのは「宇宙に対して静止している」=「宇宙に対して相対速度がゼロである」と言えそうです。
さて観測可能な宇宙の大きさは半径が450億光年だったと記憶しています。そうして「その見渡す限りの宇宙にある存在のもつ慣性系の平均をとった慣性系が基準慣性系になるのだ」と言うのが当方の主張になります。
その基準慣性系がゼロ点、宇宙に対して静止している慣性系です。
「いやそんなものでは漠然としていて計算の時の基準にならない」という指摘に対しては「ほぼそれと同等な存在がCMBパターンである」と答えましょう。
CMBパターンとはビッグバンの時の名残りの「宇宙マイクロ波背景放射パターン」の事です。つい最近、といっても20世紀の終わりから21世紀にかけてですが、爆発的に進歩した「精密宇宙観測の成果」です。
https://archive.fo/oELx3 :地球の衛星軌道に乗せた観測機によるマイクロ波の全天測定結果
それでこのパターンの生データには銀河系そのものがこのパターンに対して秒速600kmで移動している為に、観測値にドップラー効果による2極のパターンが現れます。
https://archive.fo/6gxhm :このページの右上の画像がCMB測定値に現れる2極のドップラー効果によるパターンです。
上記パターンはそれを取り除いたもの、つまり「宇宙の平均的な慣性系に立つとこう見える」というものになります。-->:https://archive.fo/oELx3
ちなみに秒速600kmの詳細はこうなります。
https://archive.fo/PEGI6 : 動画で見る時はこちらー>:https://www.businessinsider.jp/post-200606
銀河系による移動量がCMBパターン≒宇宙空間に対してはもっとも大きい、という事がよく分かります。
さてそれで、CMBパターンに対して2極のドップラー効果によるパターンが現れない慣性系が「観測可能な我々が暮らす宇宙での基準慣性系である」と主張します。
そうなると地球は基準慣性系の地位から転落する事になります。
そうしてまた光速で飛ぶμ粒子の座標系で測定したCMBパターンはとても大きなドップラー効果による2極パターンを示すでしょう。
それでこれが「光速で飛ぶμ粒子の座標系が基準慣性系になれない」=「運動しているのはお前だ」と言われるゆえんになります。
さてそれで「いったい地球がどれくらい基準慣性系の地位から転落したのか」という事になるのですが、基準慣性系で100秒経過する間に地球上では99.9998秒の経過となります。
相対論電卓で物体の時間 T0 に99.9998秒をセットし、相対速度を秒速600kmで計算ボタンをポチります。
https://keisan.casio.jp/exec/system/1161228694
答えは100.0000003秒。100秒で0.0002秒の遅れが確認できました。
「えっ、そんなもの?」
「そう、それぐらい小さい」ので地球はμ粒子に対して「俺が基準だ」と大きな顔が出来たのでした。
そうして「地球が大きな顔が出来た理由」は「地球がμ粒子よりも桁違いに大きくて重いから」ではありません。
単に「基準慣性系に対する地球の相対速度が小さかった」と言うだけの理由なのであります。
ちなみに「基準慣性系は観測可能な宇宙の中で一番早く時間が進む慣性系である」という事になります。
それ以外のどの慣性系も基準慣性系に対して相対速度を持つために、基準慣性系の時計に対して時間の遅れが発生します。(と相対論は言います。)
しかしながら、銀河系全体では基準座標系に対して100秒で0.0002秒程度の遅れが生じている為に、我々は通常は銀河系内の現象を観察する事では「その時間の遅れ」を感知する事が難しいのです。時間の遅れは相対的ですから、比較するものがなければ「遅れを認識する事」はできません。それで「難しい」となります。
但し銀河系内であっても観測者の基準慣性系に対する相対速度はいろいろであり、時間の遅れは個別に決定されますので、不可能という事にはなりません。
そしてこれを地上で感知できるのが「μ粒子の精密寿命測定」であり、また宇宙空間においては「準光速で移動する宇宙船間の通信記録」=「宇宙船通信パラドックス」となります。
宇宙空間での話は後回しとして、「μ粒子の精密寿命測定」の話をしましょう。とはいえ「μ粒子の精密寿命測定」も「宇宙空間での話だ」と見るのがこの話のミソであります。
それで、以下に展開される計算手順は当面の概算を与えるもの、と考えて下さい。
通常の地球上の時間の流れの中では静止μ粒子の寿命は 2.2・10^-6秒と観測されます。この状況は秒速600kmで移動中の地球上でも変わりはありません。観測系に対して静止しているμ粒子の寿命は 2.2・10^-6秒と地球での時計では観測されます。
それで天頂から降ってくる光速μ粒子の速度を地上の観測者は精度よく測定しなくてはいけません。
しかしながら、今はそのデータがないので以下の手順によって「この時の光速μ粒子の速度」を概算します。
前のページよりの引用で「光速μ粒子の寿命が20.7・10^-6 秒まで伸びている」と地上では観測されました。
それでその時の光速μ粒子の地球に対する相対速度は秒速298094.5kmとなります。
相対論電卓で物体の時間 T0 に2.2秒をセットし、相対速度を秒速298094.5kmで計算ボタンをポチります。
https://keisan.casio.jp/exec/system/1161228694
答えは20.700001秒。まあこんな所でしょう。
光速μ粒子が飛び込んでくる方向に地球が向かっている(お互いが接近する方向に移動)時にμ粒子の寿命測定をしたとします。ちなみにこれは接近しつつある2台の宇宙船の話である、とも見なせます。
相対論的に加算された結果の相対速度は秒速298094.5kmでした。
いっぽうで地球は秒速600kmで基準慣性系に対して移動中でした。
そうして向うからμ粒子が飛んできています。さてこのμ粒子の基準慣性系に対しての相対速度はどれほどでしょうか?という問題になります。
相対論の速度加算で600+????=298094.5 を解く事になります。結果は298087.7です。
物体Aの速度 v1 に600、物体Bの速度 v2に298087.7で計算ボタンをポチります。
https://keisan.casio.jp/exec/system/1161228695
答えは298,094.490 です。まあ、こんな所でしょう。
以上で基準慣性系に対しての地球の相対速度が秒速600kmとμ粒子の相対速度が秒速298087.7kmと求まりました。
さあそれで、基準慣性系で飛んでくるμ粒子の寿命を計算しましょう。
答えは20.65879となります。
相対論電卓で物体の時間 T0 に2.2秒をセットし、相対速度を秒速298,087.7kmで計算ボタンをポチります。
https://keisan.casio.jp/exec/system/1161228694
答えは20.65879秒。
これが基準慣性系での時計で計った「向うから飛んでくるμ粒子の寿命の延び」になります。
他方で地球上での観測では同じものを計っているのですが20.7という数字になります。
差分は0.04121・10^-6秒。
この差分は「地球は静止している」という前提で地球上の観測者が計算した為に発生しました。
以上をまとめますと、飛んでくるμ粒子の相対速度を精密測定(7ケタの精度が必要)し、同様にそのμ粒子の寿命の延びを精密測定(5ケタ程度の精度が必要でしょうか)します。
そうして相対論電卓で計測された相対速度と静止時のμ粒子の寿命、2.2・10^-6をセットしポチります。
これが「地球が静止している」=「地球は基準慣性系である」という前提での寿命の延びの計算値になります。
他方で精密測定した寿命の延び(実測値)があります。
この2つの値が5ケタ程度の精度で一致していたら「地球は基準慣性系であった」という事になります。
他方で「ずれていた」ら「地球はその分、基準慣性系に対して運動している」という事になります。
注:μ粒子の相対速度測定は真面目に地上の時計と物差しを使ってやる必要があります。μ粒子の寿命の延びから相対論で計算した相対速度を使うのでは循環してしまいますので、ご注意を。
注2:地球とμ粒子の相対速度測定は地球のCMBに対する移動方向を確認して行う必要があります。
天頂から降り注ぐμ粒子を想定していますので、地球のCMBに対する移動方向を無視して全方向で平均をとってしまうと、地球の基準慣性系に対する相対運動は検出されない事になります。
追記:上記の話は大筋ではあっていると思うのですが、すべての状況を考慮しつくした、と言う状況には至っておりませんので、後日に至りて修正が入る可能性がある事を申し添えさせて頂きます。
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