時遊人~La liberte de l'esprit~

優游涵泳 不羈奔放 by椋柊

リリィ・シュシュのすべて

2008-10-16 | 映画


田園の景色がわりと綺麗な地方都市
中学二年の自分・蓮見雄一の家は
実の母親と
新しい父親と
その連れ子の弟との4人家族
でも
もうすぐ5人家族になる

学校ではいじめを受けている
窒息しそうな毎日

そんな自分にとって
リリイ・シュシュだけが「リアル」

自分の部屋に閉じこもり
膝を抱える



~回想~ 1999年 十三歳

リリイすら知らなかった時代
それは
自分にとってバラ色の時代だった

中学生になった自分は
星野修介と同じクラスになる

新入生代表で答辞を読み
勉強も出来る
そんなスーパーマンのような星野と自分は
同じ剣道部に入っり仲良くなった

ある日
剣道部の仲間たちと野球部の応援に行った自分は
久野陽子に再会した

夏になり
剣道部では三年生が引退
厳しい練習にへとへとになる自分たちは
合宿が終わったら
みんなで沖縄旅行にいこうと計画する

そして
秋葉原でカツアゲしていた不良たちから
金をまんまと横取りし
西表島に旅立った

南の島で
夏休みを満喫する自分たち

でも
そこで星野は
溺れかけ
追い討ちをかけるように
旅で出会った学生の交通事故現場に
遭遇してしまう

そして
不吉な予感を連想させながら
旅は終った



新学期

星野は豹変した

クラスの飯田と辻井を子分に従え
すっかり人が変わってしまった星野

剣道部にも顔を出さなくなった

そして自分は
星野のイジメの対象となった

自分が主宰する
リリイ・シュシュのファンサイト
「リリフィリア」の中だけが
本当の居場所

‘フィリア’と言うハンドルネームの自分は
その中で
‘青猫’と名乗る
リリイファンと知り合い
心を通わせていく

 

~回想~ 2000年 十四歳

二年生になった今でも
ひったくりや万引きをしては
星野にお金を上納している自分

ある日
自分は
星野から新たな仕事を言い付けられる

それは
同じクラスの津田詩織を尾行するというもの

そこで
自分が知ったのは
津田が
星野に援助交際をさせられているという事実

以来
自分は
津田の見張り番として行動を共にするようになる

自分にとって
息のつまる学校生活での唯一の光
それは
二年生になって
同じクラスになった久野陽子の存在だった



成績も良く
ピアノの腕前も学校一の久野は
男子からの人気も高い

ちょうど学校では
校内の合唱コンクールを控えていた

久野の存在が面白くない
神崎すみかを中心とする女子一派は
久野に反発し練習をさぼっていた

学級委員長の
佐々木健太郎は困惑するが
久野から
アレンジを変えた課題曲の譜面を渡される

それは
ピアノなしバージョン
つまり
アカペラでの合唱だった

久野が
ピアノを弾かないことで納得した神崎一派たちも参加し
合唱コンクールは成功した

でも
その編曲をしたのが
久野だったと知った神崎は…



12月8日

チケットをゲットした自分は
リリイ・シュシュのライブが開催される
渋谷キャトルヘ向かった

そこで
‘青猫’と会う約束をしていた

ところが
そこにいたのは星野だった

自分が
リリフィアの管理人であることに気づいていない星野は
自分からチケットを奪うと
ひとりでライヴを満喫した

会場に入ることの出来なかった自分は
ライヴ終演後の雑踏の中
どさくさに紛れて星野を刺し殺した

自分にとって
リリイ・シュシュだけが「リアル」

いままで誰も描けなかった
十四歳の世界がここにある

そして2001年

十五歳になった自分は
淡々とした日々を送っている



偶然?
とは言え
一度死にかけた星野は
その直後
本当の死を目の当たりにする

このことが
星野の人生感と思考回路に
劇的な変化をもたらした事は言うまでもない
PTSDと言うのは大げさだろうか

「沖縄の言い伝えでは
 ヒトには7つの魂がある
 おまえは二つも落としたからあと五つしかないぞ
 この島になにか悪いモノ持ってきたんじゃないか」 

‘死’に対する絶対的な敗北感

プラス
地元の住人が発したこの言葉は
星野にとって
圧倒的なまでの‘死’に対する
畏怖としてインプットされた

絶望的な未来

これまで
抑圧・抑制していた心の感情が
一気に爆発してしまった

闇の迷宮に入り込み
ひたすら落ちていくだけの星野…

≪死のうと思いました≫
≪何度も 何度も≫
≪でも 死にきれなかった≫
≪堕ちる!堕ちる!堕ちる!≫
≪永遠のループを≫
≪落下し続ける≫
≪だれか!≫
≪僕をたすけて!≫
≪ここらか連れ出してくれ!≫

同じ心の闇を共有していた
‘フィリア’と‘青猫’



雄一の衝動は
‘青猫’が
星野であると知った瞬間に生まれた

思いを寄せる久野陽子を傷つけた星野
津田詩織を死に追いやった星野
自分を虐げ続けた星野

それらの感情が
一気に向けられたのか

リリイ・シュシュの世界を
冒涜したことに対する報復か

己と同じ闇を持つ‘青猫’の存在を
消去することで
自己の崩壊を食い止めたのか

いや
‘青猫’に
救いの手を差し伸べたに過ぎないのか

雄一の世界では
殺意に
如何なる意味があったのだろう

リリイ・シュシュのエーテルは
穢されたのか
穢れが回避されたのか

ともかく
‘フィリア’は
再び呼吸を始めた



暗い気持ちを抱え込んだまま
終わらせないのが凄い

救いようのない結末なのに
夕日に照らされた音楽室で
ドビッシーを奏でる久野陽子と
それを静かに見守る
雄一の姿には

一瞬
不確かだけれど
未来があることを予感させる
希望や救済を連想させる

田園の中で
リリイ・シュシュに聴き入る雄一
空に舞う凧
秋の光
久野陽子が淡々とピアノを引き続け姿
そしてピアノの音色

岩井俊二が作り出した
これらの映像美が
救いをもたらす



最近の十四歳って
こんなに過酷な現実と向かい合ってるの?
心に闇を抱えているの?
怖え~よ~
学校で平穏な生活送る人って
少ないんでしょうか?

自分が十四の時だって
そりゃ~
明るい未来を想像したり期待するより
焦燥感や未来に対する絶望感の方が強かったけど

自分の居場所…
そう言えば
あるようでなかった
自分の部屋に独りでいるときだけが
唯一だったかも

気持ちをぶつけられる大人…
一応いたか
ある事実を知ってから
信じられなくなったけど

親との関係…
あれが家族と言えるのかどうか…

日光の猿みたいに
ミザル・イワザル・キカザルを決めこんで
生活してた気がする

そうすることで
平穏な生活を送った
少数派に属していたんだった…

第一線で活躍している俳優さんが
ちらほら見受けられました
皆さん
顔立ちが初々しいと申しますか
フレッシュさん特有の‘輪郭の不確かさ’が
いいですね~

とは申せ
内容はいたって重い
青春に光があるなら
闇もまた存在することを知る
そんな作品です





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