
「ヒューマン・フロー 大地漂流」 アイ ウェイウェイ監督 独 ☓ ☆
世界的美術家のアイ ウェイウェイ(北京五輪の「鳥の巣」設計者)が手がけた難民問題のドキュメンタリー映画です。
地域紛争や貧困、宗教対立そして気候変動などが原因で故郷を離れざるを得ない人々がこの20〜30年の間に激増しています。撮影された2016年当時6500万人と推定され年々増加しています。23カ国の難民キャンプなどの現場を訪れ難民たちの言葉を拾い集めます。難民生活は平均25年に及ぶとされそこで育った子どもたちは満足な教育を受ける機会もなく過激な武装組織に取り込まれていき、紛争の激化という悪循環になっているようです。監督自身はほとんど語りませんが、難民たちへの「尊厳(リスペクト)」が感じられます。美術家らしく厳しい現実の映像もニュース映像とはまったく次元の異なる美しい映画になりました。
トランプ大統領が国境に壁を作ることが話題になっていますが、現在は約70箇所に壁が建てられ、難民の移動を阻んでいます。難民たちは命からがら海を渡っても安住の地はありません。一方なぜか迷い込んだ1頭のトラに対しては多くの人がなんとかしてのびのび生きられる場所へ移動させるために力を注ぎます。動物に対しては無償の愛を注げるのに・・・。
どうしてこのような世界になってしまったのかすべての観客に問題提起する秀作です。
タバコは、不思議なことに命がけで海を超えてやっとたどり着いた次の瞬間ライフジャケットの奥からタバコを出して喫煙する姿がありました。また、水も食料も十分とは言えない環境の中でもひとりやふたりの喫煙者がいることが奇妙でした。「いのちよりニコチン」なのでしょうか。(☓)