Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』

2010-01-11 13:08:39 | 
今週末発売予定の新刊『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想
についてご報告。

タイトルは大きく変わっているが、
「若者はなぜ3年で辞めるのか」
「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか アウトサイダーの時代」
に続く新書3冊目にして、三部作の最終回だ。

元々は、2作で終わる予定だった。現状提示が中心の一冊目に対し、処方箋として
の2冊目という位置づけだ。年功序列がイヤなら転職すればいい。実に簡単な話だ。

ただし、それだけでは足りないのではないかと考えて作ったのが今回の3冊目になる。
このご時勢、個人ですいすい泳ぎ回れる人間は限られている。
なにより、このままだと日本自体が凋落する一方だろう。
前作が個人のキャリアへの処方箋とするなら、
今回は社会への処方箋という試みだ。


そういう意味では、(新書ではないけど)昨年の「1%の賃下げが~」とスタンス
は似ているかもしれない。ただ、今回は幅広く理解してもらえるよう、“ある工夫”
がしてある。

「自分のキャリアアップ以外に興味は無い」という人は、勝間さんの本を読んだ方が
御利益があるだろう。
「正社員でいられるだけで幸せ」という人は、ずっと足元だけを見て生きるといい。
(ただし、この先なにがあっても文句は言わないことだ)

断言するが、ポストが増えず40歳以降の昇給が頭打ちである以上、
これからもサラリーマンの賃金は下がり続ける。
“氷河期世代”という言葉は消えていくかもしれないが、氷河期自体はデフォルトとして
定着するだろう。
そういう状況を変えるべきだと感じているすべての人におススメしたい本だ。

キヤノンマーケの採用担当者はそこそこ文才がある

2010-01-09 16:23:50 | 採用
キヤノンマーケティングが11年度卒の新卒採用をストップするという話が話題となって
いる。ちなみに日系大手の新卒採用は、だいたい以下のような流れだ。

1.秋ごろからセミナーやイベントで囲い込み、母集団形成
2.春先から段階的に選考開始
3.GWまでに終了

他所が追い込みに入った段階から母集団を作り直すというのは不可能だから、この段階
で休止というのは事実上の新卒採用見送りだろう(もし採るとしてもごく少数のはず)。
ものすごくオブラートでくるんでいるけど、要するに先行きが不透明なので採りません
ということだ。

キヤノンだけ特別苦しいとも思えないので、これは単純に日本経済の見通し自体が
相当ヤバいということだろう。
キヤノン同様、ほとんどの大手企業は終身雇用死守を標榜しているから、同様に入り口を
絞り上げてくるはず。これから2階の椅子はどんどん減っていくだろう。
「どうしても大手に入りたい!」という学生さんには、現状では可哀そうだけど諦めてね
としか言いようがない。日本型雇用というのはそういうものだから。

そうそう、たまに
「不況の後は第二新卒市場が盛んになるから、その時にリベンジすればいい」
なんてことを言う素人もいる。

なるほど、確かに「企業が後から若手を補充したがるような状況こそ、若者にとって
理想的である」というのは間違いない。
ただ「徹底した労働市場の流動化無くして、そんな恵まれた時代は二度と来ない」
ということも、間違いない。

なぜ若者は保守化するのか

2010-01-07 11:27:35 | 書評
なぜ若者は保守化するのか-反転する現実と願望
山田 昌弘
東洋経済新報社

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山田先生の新刊。保守化といってもネトウヨ化ではなくて、
リスク回避の安定志向になったという意味だ。

理由は言うまでもない。
大企業の正社員だけが保護され、下請けや非正規雇用が捨て駒にされるのを
見れば、誰だってそうなる。
結局のところ、現状はまだまだ新卒一発勝負、20代前半が人生最大の関ヶ原
というわけだ。
山田氏は実家が自営業でない学生には院進学は勧めないそうだが、人事部的
にも正しいアドバイスだと思う。

本書では他にも、若者の変化の深層を次々と描いていく。
たとえば、「結婚して家庭に入りたい」という20代女性の増加について。
現状の保育所のコストを考えると、それを大きく上回るリターンが得られなければ
労働インセンティブはわかない。そう考えると、非正規雇用比率が5割近い20代女性が
「家庭に入りたい」と願うのは、「昭和への回帰」というより単なる「労働意欲の喪失」
とみるべきだ。
仕事での自己実現や経済的自立が困難なために、昭和的モデルに依存していると
いうのが実情だろう。

そういった価値観が良いか悪いかはともかく、現実問題としてこの流れは、未婚率
の上昇をもたらしている。彼女らの希望をかなえられる男性は、もはやありふれた
存在ではない。

男も女も、大昔には合理的だったシステムに、いつのまにかがんじがらめに縛られて
生きているわけだ。これが閉塞感の正体だろう。

週刊東洋経済での連載をまとめたものであるため、やや流れが交錯するが、エッセンスは
充実している。変なイデオロギー抜きに社会問題を考察したい人にはおススメの入門書だ。

民主党は労働分配率を大きく引き上げてくれるでしょう

2010-01-06 10:16:04 | その他
藤末議員のブログ上の発言が話題となっている。
同じ時期に東洋経済onlineで連載されていて、なかなか良いことを言うなあと思って
いただけにちょっとびっくり。
有権者向けのリップサービスだと思うけど、労働分配率も絡む話なので少しフォロー。

まず、企業の配当を制限して労働分配にまわすという意味がわからない。
「銀行員の賃上げのために利子をカットしときましたから」と言われて、その銀行の
預金者は納得するだろうか。しないだろう。

もちろん、配当を抑えて従業員に回すというアプローチもある。
たとえばドリームインキュベーターの堀紘一氏は、常々
「うちは配当は薄く、社員にあつく報いる」と語っている。
別に“友愛”を信奉しているわけじゃなくて、優秀な人材を囲い込んで業績拡大します
よという戦略であり、それを評価する人が株に投資するというわけだ。

そういう個々の事情を無視して、ドリームインキュベーターみたいな会社も、惰性で
漂流しているような電機みたいな会社も、一律で同じ規制を適用しちゃったらどう
なるか。

「うちに投資してくれたら、これだけリターン出しますよ!」
というご褒美を見せることも無く、かといって
「我が社は人的投資や内部留保で、これだけ成長して見せますよ」
という説得力のあるロードマップすら描けず、ただただ規制で労働分配率だけが高い国。
日本人も含めて、誰も投資しないんじゃないかな。
団塊世代なんて節操ないから、退職金とか全部新興国に投資しそうだ(笑)

そうそう、あちこちで書いてきたことだけど、日本は賃金が硬直しているせいで
不況になったら労働分配率は自動的に上がる。民主党が政権とっている間は心配
されなくとも上がりっぱなしでしょう。

参照:「公開会社法」が日本を滅ぼす

「産めよ増やせよ」は長続きしない

2010-01-04 14:17:34 | その他
イランが独身女性の一部国営企業での就労を制限しているそうだ。
近年、出生率が急激に低下したため、「はやく結婚して道徳的・宗教的義務を果たせ」
ということらしい。社会の成熟度は、女性の労働環境を見ればすぐにわかる。

封建的社会から女性の社会進出が一定程度進むと、出生率や既婚率が低下する傾向
がある。男女の役割分担がボーダレスになり、結婚や出産の機会費用が高まるためだ。

改革の方向性としては、共働きや就業支援などによってそれらのコストを下げるしか
ない。つまり、ボーダーレス化をさらに強力に進めるわけだ。
雇用について言えば、やはり流動化を進め、封建的家族モデルを薄めることになる。
キャリアに1,2年穴が空いても後からいくらでもリカバーできる制度に変えていく
こと、休職後も復職しやすくすること、そして、男性も育休を取れるような仕組み
にすることだ。
北欧諸国は上記のような施策によって出生率の反転に成功している。

そういう選択肢ではなく「女性は家庭に入るべき」と言って、負担と共に古い価値観を
押し付ける社会は、残念ながら成熟しているとは言いがたいだろう。

もっとも、わが日本国も全然イランのことは笑えない。
日本の女性の賃金は男性より33.4%も低く、イランの19.5%に
完敗している。

もちろん今どき先進国で30%超えてる国なんて他にない(Global Gender Pay Gap 2006)。
ガラスの天井か目に見える天井かの違いだけで、考えようによってはちゃんと明言
しているイランの方が民主的な気もする。

ついでに言っておくと、労働市場が硬直している日本の場合、大卒女性が出産と
同時期に退職してパートタイムとして復職すると、キャリアにとどまった場合と比較
して2億円以上の経済的損失となる。
“子供手当”だけでカバーするつもりなら、最低2億円は出さないと効果が無いだろう。
というわけで民主の子供手当ては、(少子化対策としては)やるなとは言わないが
本丸には程遠い。
本丸は日本のイスラム化…ではなく、労働市場改革だ。

「夢がない」という夢のある話

2010-01-03 09:46:09 | その他
「経済にせよ雇用にせよ、最近は暗い話題が多いですね」というような
ことをよく言われる。といっても実際そうなんだから仕方がない。
非正規切りにしても、06年から警告し続けてきて実際そうなって
しまったわけだし。
「現状で問題ありません!これからも日本は繁栄し続けます!」
なんていうのはただのバカか詐欺師だ。

ところで、あちこちで話をしていて気付いたことがある。
「終身雇用を柱とする昭和型システムは絶賛崩壊中」
という現状を解説すると、反応はどうも2種類に分かれるようだ。
まずは「はぁ…そうなんですか」と萎えるタイプ。新人から50代まで幅広いが、
かちっとした会社の勤め人が多い。要するに昭和型システムで守られている
(と本人は思って生きてきた)グループだろう。

一方で、「そりゃ面白いですねえ」とポジティブにとらえるグループもいる。
こちらも年代問わずだが、フリーや年俸制など、非昭和型のワークスタイルだ。
「面白いとはなんだ」と思うサラリーマンもいるかもしれないが、彼らにしてみれば
汚れ役や使い捨てにされるわ、賃貸やローンは借りにくいわ、彼女の実家に挨拶に
行ったらイヤミは言われるわ、雇調金はもらえないわ(でも税負担はさせられる)
でいろいろ言いたいこともあるのだろう。

そういえば年末。某週刊誌の記者が二人、2010年の展望を取材に来て、
「サラリーマンの平均賃金はさらに10年下がり続ける」
「もう景気は大きくは回復しない」
「従業員数万人規模の超大企業で潰れるところが出始める」
「年金は実質破綻している。医療も団塊世代分までは支えられない」
「いずれにせよ現状のままなら、財政的に行き詰まる」
なんてダークな話をこってり話してあげたのだが、二人の反応が180度違っていて
興味深かった。簡単にいうと、怯えた子犬のような目をするおじさんと
ワクワクする若手で、もちろん後者はフリーライターだ。
両者の間の壁が消え、制度に守られていたアドバンテージが
消失するのだから、究極の格差是正といえるかもしれない。


考えてみれば、「幕府が倒れるから心配だ」というのは幕府の中の人だけでよいので
あって、今から考えればそれは喜ぶべき進歩だった。
リセットボタンを押すか押さないかの違いはあるにせよ、リセット自体は遠からず
なされるだろう。それを暗い話だと感じてしまう僕自身、まだまだ昭和的なモノを
内部に引きずっているようだ。