Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

キンドル後の出版業界

2010-01-25 15:19:03 | その他
キンドルが著者印税70%を提示して話題となっている。日本人は紙が好きなので日本で定着
するかどうかは疑問だけど、旬な情報という点に価値のある経済書・ビジネス書などでは
普及するかもしれない。
というわけで、仮に電子書籍が普及した場合の影響について考えてみた。他人事ではないし。

結論から言えば、出版社自体が消滅することは無いと思う。
既存の出版社の最大の役割はマーケティングで、その強さ(書店の棚面積と言い換えても良い)
が著者に対するPRとなっている。この部分は確かに電子化で消えてなくなるのだけど、彼ら
には配本以外にもいろいろな役割がある。

1.編集力
持ち込んだ原稿がそのままの形で本になるわけではない。というより、ビジネス書などでは
自分で書く著者のほうが少ない。ばらばらとめくれば、テープ起こしか直筆かはすぐにわかる。
もっとも、彼らは情報の専門性や視点に価値があるので、文章はプロに任せるというのは
合理的ではある。実際にはいろいろ忙しいだろうし。
ちなみに僕自身はそういうところは変に潔癖症で、他人が書いたモノに自分の名前がつくのは
イヤなので、全部仕上げてから持っていくことにしている。

2.品質保証能力
全部とはいわないが、それなりの格のある出版社は独自のフィルターで原稿チェックしている
ので、出版社の名前には一定の品質保証効果がある。
たとえば。
「日本国のバランスシートはぜんぜん余裕があるので債務残高は心配ない」
とか言われても、人並みな知性のある社会人なら
「なんで俺の資産を勝手に計上してんだよ、いまどき天皇陛下の赤子かよ」
と冷静なツッコミをするはず。
というわけで、まともな出版社はこういうのははじくから知識人のタイムラインには
引っかからず、アマゾンで注文したのを読んでみて「なんじゃこりゃ!?」とびっくり仰天
するリスクは今のところない。※

というような機能がまったくない直接取引市場というのもなくはないだろうが、普通に考え
れば、そういったノウハウを持つ既存出版社が進出するはずだ。
よって、大手と中小零細出版社という共存関係は今後も続くと思われる。

ただし、両者の力関係は激変するだろう。
既に一定の知名度と実力のある書き手は上記の役割なんていらないわけで、取り分の多い
インディーレーベルから出版するだろう。逆に、良いものはあるが書きなれていない専門家
や知名度に欠ける新人は、大手経由で発表するはず。
要するに、
インディー:大物+雨後のたけのこ
大手系  :準大物、学術系、新人デビューモノ
といった区分けになる気がする。従来の逆だ。
もちろん、大手も大物を囲い込むために価格競争に巻き込まれるだろうから、どちらに
転んでも著者にとって悪い話ではないだろう。

ついでに言っておくと、大物とはいえ書いている時間のない書き手向けに、編集やゴースト
の請負業が活発になるだろう。従来から「大手の実力のある編集者」が独立する話はあった
が、この流れはいっそう進む気がする。いずれにせよ、ガラパゴス状態だった大手出版の
年功序列制度は、完全に崩壊するはずだ。

※モリタクみたいに、あえてそういう内容の本を書いて、リテラシーの低い人達に売りつける
という戦略は、マーケティング戦略としてはクレバー。