Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

書評:職業としての大学教授

2010-06-01 12:33:09 | 書評
職業としての大学教授 (中公叢書)
潮木 守一
中央公論新社

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日本の大学教員ポストについて、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスといった先進各国
の大学教員事情をからめつつ比較、解説する。
同じ博士や教授であっても、それぞれの国で随分と事情が違う点が興味深い。

大方の人が予想していることだとは思うが、やはりアメリカは流動性が高く、給与水準は
市場の論理に従って決められている。同じ大学内でも、ビジネス、法律系の教授の給料が
文学、芸術系の教授の2倍以上であり、州立大の公務員でありながら、研究系の教授は
私学の水準だったりといった具合だ。
「遊んでる奴と同じ給料なのは納得できない、年功序列はおかしい」
といって左巻きの教授すら私学に逃げ出す日本の国立大学とはえらい違いである。


そういう意味では、やはりドイツがどこか日本に近い。
教授ポストに昇格できるのは40歳近くになってから。身分はあくまで公務員で、定年は
65歳。ノーベル賞もらった物理学者が「定年の無いアメリカに移住します」といって
大問題になる点も、あまり笑えない。

それでも、やはりドイツの研究者は恵まれている。
ドイツの博士号取得者の大半は、望めば時間差なしですぐに就職している。
電子工学系95%に及ばないにしても、文学系も68%が職を得ている。
企業が高学歴者を採用する理由は、企業と大学の間にある敷居が低いからだ。
ちなみに、ドイツ主要企業200社の半分は、トップが博士号取得者である。
日本との違いは明らかだろう。

国が大学や機関にカネをばらまいて任期付きポストを増やすことには限界がある。
やはり、最後は民間企業が雇うしかないのだ。上記のような問題をはらみつつも、ドイツの
大学システムが機能しているのは、なんだかんだいいつつもドクター達が飯が食えていると
いう点が大きいだろう。

その点、飯すら食えない日本の博士は悲惨である。
現在、年間6000~8000人程度の新規採用枠しかないにもかかわらず、年間16000人程度の
博士が生まれている。そしてとても重要なことだが、これから少子化が進む中で、需給関係
はより悪化することが確実である。

最後に、著者はきわめて現実的な提言で本書を締めくくる。
「大学の既存ポストも含めた新たな選抜制度を設計するまでの間、
大学院の新規募集を 一時的に停止すべき」


正社員や弁護士もそうだが、本来はいかなる事情があれ、既にポストについている人間の
既得権のために、新規参入者の権利が阻害されることがあってはならない。
それが「学ぶ」という権利であればなおさらだ。
だが、今手を打てば、新たな被害者は減らせるのは間違いない。
そう考えると、僕は著者の提言を乱暴だという気にはなれない。
著者の言うとおり、20代を実社会でのキャリアを経験することなく過ごすということは、
とても高リスクなことだからだ。

ところで、本書の提言からは、人口減社会というものの恐怖をリアルに感じてしまう。
著者の提言というのは、要するに「これから少子化で需要が減るのだから、大学院という
高等教育機関への人材の投資を減らしましょう」というきわめて合理的な話だ。
この発想は、すべての企業や消費者にも当てはまる。そりゃデフレにもなるだろう。

「内定取消! 終わりがない就職活動日記」

2010-04-11 10:11:32 | 書評
内定取消! 終わりがない就職活動日記
間宮 理沙
日経BP社

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内定取り消しに追い込まれてしまった女子学生のルポ。日経BPで連載していた著者のものだ。
基本的には以前書いたとおり、“ツケ”はどこかで誰かが払わないといけないので、
「二か月分の基本給+取消証明書」のような明確なルール化をしてしまった方が良い。※
誰が悪いというよりも、そういう合理的な判断をしないまま、ただ「頑張れ!諦めるな!」しか言って
こなかった政治も司法も経営も労組もみんなに責任がある。

そういう意味では、どことなくそういった社会の矛盾をえぐり出す旅のように読めなくもない。

何の変哲もない女子大生が、ある日突然、内定辞退の強要という理不尽な目にあう。
「おまえなんて辞めちまえ!いらねえんだよ!」「そ、そんな…」
彼女は仲間を集め、大学就職課という頼れるバックアップも手に入れ、悪の黒幕たる人事担当者に挑む。
激しい戦いの末、ようやく彼女らは悪に勝利する。だが、残ったのは一枚の謝罪文のみ。
「すいませんでした、やっぱり内定出します」なんて事にはならない。その余裕が無いから取り消したわけで。
というか、今さら本人たちもイヤだろう。

ハリウッド映画的に言えば、敵味方の屍が累々とする中、「俺たちはいったい何のために戦ったんだ!?」
みたいな一抹の寂寥感を感じさせてくれるエンディングだ。いや、それだけ良く出来たルポですよ。
というわけで、やはり争いは非効率だということで、ルール化は必要だろう。

しかし。本書に出てくる企業の人事担当取締役は、なぜにここまでマッチョなのか。
「内定取り消しなんてしちゃいけないんだ、だから辞退に追い込むんだ」というコンプライアンス意識が
高い人なのはわかるけども、ここまでしちゃうと逆に高リスクだ。
恐らく、企業としてギリギリの瀬戸際にある会社なのだろう。
実は、内定取り消し理由の25%は倒産である(厚労省発表)。「業績の悪化」と倒産でほぼ100%。
50人以上の内定取り消して3カ月後に潰れた日本綜合地所のように、三途の川の手前でうろうろしているような
会社が大半だと思われる。

こういう状況で「取消企業の社名公開」なんてやられたら、売り掛け金や債権の取り立てが一斉に来て
間違いなく川を渡る羽目になる。ということで、人事部には人事部なりに焦っていたのではないか。

根本にメスを入れないまま、規制のみで押さえつけようとすれば、歪みは必ず形を変えて、より立場の弱い
部分に顔を出す。大手から中小へ、正社員から非正規、若者へ。22歳の女性というのは、もっとも
歪みの押しつけられやすい存在と言える。
本人がこういった経験をばねに、構造的な課題にまで理解を深めてくれることを祈りたい。


※それでも、新卒カードは失うことになるが。

書評「最悪期まであと2年! 次なる大恐慌」

2010-04-01 14:05:52 | 書評
最悪期まであと2年! 次なる大恐慌―人口トレンドが教える消費崩壊のシナリオ
ハリー・S・デント・ジュニア
ダイヤモンド社

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派手なタイトルだが、各国の経済成長について、人口経済学の視点から割と真面目に予測した書だ。
「老いていくアジア」「人口経済学」といった良書があるので、割と知っている人も多い考え方だと思う。
簡単に言えば、生産年齢人口の割合が高くなっていく間(人口ボーナス期)に工業化が進むと
経済は急速に発展し、割合が減少に転じると長期的な低迷に入るというもの。
本書はこれに世代ごとの支出の波を重ねることで、より突っ込んだ予測を立てる。

あくまで一つの観点に過ぎないのだが、20年前に日本の凋落を予想している点は評価していいだろう。
また、本書の言う「支出の波」とダウ平均がこれまでのところ、きれいに一致しているのも事実だ。

では、本書の描く近未来はどういったものか。
先進各国のベビーブーム的世代が支出ピークを過ぎることで、デフレが各国の基調になるとする。
日本こそ先進各国の未来図というわけだ。

日経平均株価は1990年から2003年にかけて家計消費と同様に右肩下がりのトレンドを
描いていたが、この間の下落率は80%にも達した。つまり、米国のベビーブーム世代
によるバブル・ブームは、たとえ原油高や信用危機、住宅バブルの崩壊などが
起こらなかったとしても、ほどなく終わる。
欧米諸国にとって日本は、株式と不動産のバブルが縮小すれば何が起こるかという
格好の見本なのである。


一方、21世紀が人口増加率の高いアジアの世紀になることは間違いないが、中国の覇権は長くは
続かない。一人っ子政策のせいで人口ボーナスがあと数年で終了し、先進国化する前に失速するためだ。
本書の予測では、21世紀後半に経済チャンピオンの地位に就くのはインドである。

個別の主要国の予測も載っているのだが、(今のままなら)日本の未来ははっきりいって暗い。
ただし、その頃にはロシア、イタリア、ドイツ、スペインといった茶飲み友達が出来ているので、
寂しい老後ではないだろう。

余談だが、この手のパニック本というのは不況時には平積みになっているものだ。
内容はピンキリなので、出版社と著者(訳者)名を参考にするといい。
両方聞いたこと無い名前だとパスした方が無難だろう。

日本の路地を旅する

2010-03-06 13:22:13 | 書評
日本の路地を旅する
上原 善広
文藝春秋

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路地とは、いわゆる地区のことだ。“路地”と名付けたのは中上健次だが、響きを気にいった著者は
好んで使っているという。
強く関心があるテーマというわけではないのだけど、著者の前作「被差別の食卓」を一気に読んでしまったため
今回も迷わず手に取った。

高い理想を掲げていくわけでも熱い情熱をふりまいていくわけでもなく、氏は、ただ、路地から路地へ
旅をしていく。東北から佐渡、沖縄まで。
テーマも、最近の事件から吉田松陰までと、筆の向くままに進んでいく。
そこに描かれるのは、飾らぬ路地の今である。
路地の長老が語る話は確かに生々しいものが多いが、それはあくまで昔話だ。
今はむしろ、路地という良い意味でも悪い意味でも独立した世界が消え、一つの文化が滅びつつある
という現実がある。

著者自身の前半生も重ね合わされながら、滅びつつある文化へのノスタルジーを語るというのが
本書のスタンス。
平和で安定した路地への満足と、滅びゆくルーツを惜しむ気持ちが入り混じっていて、何とも言えない
リアリティが感じられる。たぶん、多くの地方出身者には、何らかの響くものがあると思う。
「イオンもTSUTAYAも出来て便利になったけど、なんか違うよなあ」と地元に違和感を感じている人
は僕だけではないはずだ。

あぶらかすのブレイクを見てもわかるように、もはや路地は路地でなくなったのだろう。
ただ、文化の発展というのはそういうもので、実は我々も、世界中からやってきたソウルフードに
囲まれて生きている。

今回も、食事が一つのキーワードで、あちこちで必ず酒と食いものの話題が入る。
どうも食べるのが大好きな人らしく、文章読んでるとこっちまで何かこってりしたものを食べたくなる。
とはいえ、あぶらかすもさいぼしもちょっと手に入らないので、とりあえずフライドチキンでも
買いに行ってくるかな。

内閣総理大臣 増補版 ――その力量と資質の見極め方

2010-02-27 15:25:22 | 書評
内閣総理大臣 増補版 ――その力量と資質の見極め方 (角川oneテーマ21)
舛添 要一
角川書店(角川グループパブリッシング)

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舛添氏が02年出版の自著に加筆修正した新刊。
前半部ではマキャヴェリからアリストテレスまでを引用し、自身の政治哲学を述べていく。
「政治の本質とは可能性の技術であり、政治家は理想よりも結果責任を重視すべき」
「理想を掲げて戦争するようなリーダーは迷惑なだけで、常にあらゆる選択肢を冷静に検討すべき職業」
など、内容はいたってオーソドックスなリアリストだ。

そしてその立場から、選択を回避して先送りをもっぱらとする鳩山政権、そして現代日本政治の悪しき
庶民主義を、どちらも政治家の義務を果たしていないとして批判する。

これは同感だ。麻生さんのバー通いを叩くメディアはともかく、便乗して(普段行きもしない)居酒屋通いを
してみせる政治家を見ていると、そんなことしてる場合かよと思う。
自転車で走り回ってドンキでスーツ買って見せる議員なんて、頭おかしいんじゃないかとさえ思う。

ではリーダーに必要な資質とは何か。
なにより有権者に対してビジョンを提示する能力であり、ビジョンを生み出すには、歴史、哲学を学ぶこと
が必須であるとする。「現代の政治水準はヴィクトリア朝以下だ」という意見の裏には、オルテガ的な
大衆批判のニュアンスも感じる。

さすが本職の政治学者だけのことはあって、安倍さんや麻生さんの本よりははるかに質が高い。
ただ、後半になると急失速する。
肝心要の本人のビジョンがとっても曖昧なのだ。

たとえば「規制緩和と自由競争を柱とする小さな政府主義者だ」と前半で言っておきながら、
こんなことをさらりと言ってのける。

日本企業の労働生産性の高さと品質管理の優秀性を支えたのは、日本人の高い
勤労意欲であるが、その勤労意欲を手厚くバックアップしていたのが、終身雇用制と
年功序列による雇用の安定と収入の保証であった。これらの日本モデルを、もはや
グローバルスタンダードに合わないという理由であっさり破棄して一顧だにしないのではなく
むしろ日本モデルこそが日本社会の活力の源泉であることを強く打ち出していくという
ヴィジョンがあっていい。


元厚労相が日本のホワイトカラーの労働生産性の実情を知らないというのは救いようがないと思う。
申し訳ないけど、もうこの時点で前半の説得力は僕の中では音を立てて崩れてしまう。

そして経済政策は、インフレターゲティングを提唱する。
いや、それ自体は別にいいんですけど、「首相がインフレ目標を公約にする」だけで経済がよみがえる
というのは、あまりに楽観的過ぎるだろう。

他にも、「郵便のユニヴァーサルサービスは維持すべき」だとか「日本経済は外資の侵攻にさらされている」
とか、そっち向けの香ばしい発言も適度にまぶしてある。
要するに、巧みに全方位に気を使う典型的な名刺本というわけだ。

とりあえず改革否定はありえない。でも下野した自民党の一員としては痛みを伴う改革を前面には
出しづらいし、なにより漂流する保守派も取り込みたい。
とりあえず日銀は分かりやすいスケープゴートだ。という苦衷の綱渡りがなんとなく透けて見える。

というわけで、政治家・舛添先生が何をどうしたいのかというビジョンはさっぱり見えてこないのだけど、
とりあえず政権中枢への並々ならぬ意欲をお持ちだということだけはよくわかる一冊。
大臣時代のこぼれ話や鳩山政権採点等、良いところもたくさんあるので、とりあえず読んでみて損は無い。

スノーボール ウォーレン・バフェット伝

2010-02-01 18:26:21 | 書評
スノーボール (上) ウォーレン・バフェット伝
アリス シュローダー
日本経済新聞出版社

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ウォーレン・バフェット唯一の公式伝記と銘打った本書。
現役の人物の伝記に対して上下巻計1300p以上という分量はちょっと冗長すぎる気もするが、
なかなか示唆に富む本に仕上がっている。

バフェットというのは“オマハの賢人”として知られる著名な投資家で、オバマ政権の閣僚
入りするのでは、という噂もあったくらいの大物だ。
投資家と聞くとこのご時世、金融資本主義の負の面を連想する人もいるかもしれないが、
バフェットは“そちら側”の人間ではない。金融工学で派手な勝負を繰り広げるウォール街
に常に批判的で、「自分の理解できないものは買わない」というルールからIT銘柄にも
手を出さない。もちろん、仕組みの複雑すぎる金融商品にもだ。
「バフェットも衰えたな」と笑うものは多かったが、今も変わらずマーケットに立ち続けて
いるのは彼のほうだ。

本書は、投資に関する指南書ではなく、あくまでも彼の伝記にあたる。ノウハウが知りたい
人には物足りないかもしれないが、その分、彼の人間性が垣間見られて面白い。
この人はかなりの変人で有名で、大金持ちなのに酒は飲まず、ハンバーガーやポテトといった
アメリカンなフードが好物で、というか基本それ以外は食べない。
ソニーの盛田昭夫氏に招かれたディナーでは、選り抜きの板前が作った日本料理に最後まで
箸をつけなかったが、もちろん悪気があってのことではない。ビル・ゲイツに
「当社で一番美人なスタッフを(PCのセッティングに)派遣しましょう」と言われて断った
時と同じく、好きじゃないからいらないというだけの話だ。
(結局、オンラインでブリッジがやりたくて使うようになったが)

そんな彼の行動原理は、いたってシンプルなものだ。
「人がどうふるまうかを大きく左右するのは、内なるスコアカードがあるか、それとも
外のスコアカードがあるかということなんだ。内なるスコアカードで納得がいけば、
それが拠り所になる」

これは僕自身もつとに感じていることで、「あーこの人は充実してるな」と感じられる人
というのは、自分の中に何らかの絶対的基準があり、諸事それに照らし合わせて生きている
ように見える。

面白いのは、アウトサイダーかどうかには関係無い点。ばりばり年俸制の企業で稼いでいても、
常に他者との相対的比較でしか自身を測れない人というのは、どこか余裕がない。
“相対的レース”に終わりはないからだ。

レールの完全に崩壊した社会で幸せな人生を送るカギというのは、資格や学歴ではなく、
自分だけの絶対的な基準を見つけることではないか。
「お金をいっぱい稼ぐ方法」的な啓発本なら他に手頃なのがたくさんあるわけで、この分厚い
伝記がベストセラーになっている現実をみると、意外にアメリカ人も自分の立ち位置に
悩んでいるのかもしれない。


親子就活

2010-01-24 11:55:50 | 書評
親子就活 親の悩み、子どものホンネ (アスキー新書)
中村昭典
アスキー・メディアワークス

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毎年そうだけど、今年も就活本シーズンである。
いろいろ出ているが、“親子”というユニークな観点でまとめたのが本書だ。

親世代にも実感できるようにバブル期と比較しつつ、現在の就職活動をまとめていく。
就職活動というのは普通は一回しか経験しないものだから、何年経っても自分の時の固定観念
でロックされがちだ。結果、現在の就活とずれてしまうリスクがある。
予断だが、僕が見た最大のずれは、東大の就職イベントで就活に悩む後輩に対して
「東大生ならどんと構えていればいい」と自信満々で語っていた痛いOBだ。
もうそんな時代じゃないですから。

そこまでいかなくとも、50歳以上であれば、情報はアップデートする必要があるだろう。
その点、本書は理想的な入門書である。

僕が特に気に入っているのは、本書が企業内の変化にも言及している点。
成長時代の終焉、非正規雇用を活用した業務の切り分け、中途採用などの(一定の)流動化
によって新卒一括採用は終焉しつつある。
確かに景気変動の影響は依然として新卒採用に大きな影響を持つが、ただ好況を待っている
だけではキャリアパスは開かれない時代だ。

後半、親と子の関係について章が割かれる。
既に大学に親がついてくる程度では誰も驚かないだろうが、現実では会社に親がついてくる
時代だ。企業もそれを意識して、父兄向け説明会まで始める企業もある。
著者は必ずしも親の介入を全否定はしない(じゃなきゃこんな本は書かない)。
むしろ安易な「お前の好きにしろ」は責任放棄だとする。
その言葉は互いを理解した上での最後のきめ台詞だという考えには、全面的に同意したい。


なぜ若者は保守化するのか

2010-01-07 11:27:35 | 書評
なぜ若者は保守化するのか-反転する現実と願望
山田 昌弘
東洋経済新報社

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山田先生の新刊。保守化といってもネトウヨ化ではなくて、
リスク回避の安定志向になったという意味だ。

理由は言うまでもない。
大企業の正社員だけが保護され、下請けや非正規雇用が捨て駒にされるのを
見れば、誰だってそうなる。
結局のところ、現状はまだまだ新卒一発勝負、20代前半が人生最大の関ヶ原
というわけだ。
山田氏は実家が自営業でない学生には院進学は勧めないそうだが、人事部的
にも正しいアドバイスだと思う。

本書では他にも、若者の変化の深層を次々と描いていく。
たとえば、「結婚して家庭に入りたい」という20代女性の増加について。
現状の保育所のコストを考えると、それを大きく上回るリターンが得られなければ
労働インセンティブはわかない。そう考えると、非正規雇用比率が5割近い20代女性が
「家庭に入りたい」と願うのは、「昭和への回帰」というより単なる「労働意欲の喪失」
とみるべきだ。
仕事での自己実現や経済的自立が困難なために、昭和的モデルに依存していると
いうのが実情だろう。

そういった価値観が良いか悪いかはともかく、現実問題としてこの流れは、未婚率
の上昇をもたらしている。彼女らの希望をかなえられる男性は、もはやありふれた
存在ではない。

男も女も、大昔には合理的だったシステムに、いつのまにかがんじがらめに縛られて
生きているわけだ。これが閉塞感の正体だろう。

週刊東洋経済での連載をまとめたものであるため、やや流れが交錯するが、エッセンスは
充実している。変なイデオロギー抜きに社会問題を考察したい人にはおススメの入門書だ。

ジミーの誕生日

2009-12-12 14:41:53 | 書評
ジミーの誕生日 アメリカが天皇明仁に刻んだ「死の暗号」
猪瀬 直樹
文藝春秋

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1948年12月23日、午前零時1分。一人の男が絞首台に上った。
元宰相の東條英機だ。6人の男たちも後に続いた。
なぜ、彼らA級戦犯はその日に処刑されねばならなかったのか。

旧家の取り壊しの際に出てきた祖母の日記を、一人の女性が猪瀬氏に
持ち込んだことが発端となり、昭和の忘れられた歴史が浮かび上がってくる。

日本がポツダム宣言受諾を決めたのは8月10日。マッカーサーが厚木に降り立つ28日
までの間、権力の空白期間ができた。マッカーサーが降り立つ直前まで、厚木には
徹底抗戦派が篭城し、「マッカーサーがやってきたら特攻をかける」と意気込む
兵までいたという。結局、彼らを説得したのは皇族だった。

そんな中を先遣隊と共にやってきたマッカーサーが、速やかな武装解除と占領の
ためには「天皇制度が不可欠だ」と考えるようになったのも当然だろう。

退位もさせず、裁判にも呼ばず、引き続き“平和日本”の象徴として地位に残って
もらうため、憲法制定の動きとあわせ、様々な駆け引きが繰り広げられる。
最終的に駆け引きに勝ったアメリカは、自分たちが作った枠組みをより強固なもの
とするために、最後にある仕掛けを残した。

なるほど、彼らが心配したように、お調子ものの日本人はとっくに戦争のことなんて
忘れ果てている。東條が死刑になった日なんて、誰もおぼえちゃいないだろう。
ただ一人を除いては。

それにしても、60年後、今度は中国がその象徴を使うことになるとは、彼らも予想
しなかっただろう。
今年ももうすぐ12月23日がくる。
少なくとも本書を読んだ人は、その日にもう一つの意味があることを思い出すはずだ。

労働市場改革の経済学

2009-12-05 17:48:51 | 書評
労働市場改革の経済学
八代 尚宏
東洋経済新報社

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経済学的な観点から、日本型雇用の弊害について説く。
最近はかなり一般メディアでも取り上げられるようになったが、本書では特に
“家族”というアングルが新鮮だ。

たとえば、終身雇用を維持するには、全国転勤を通じた柔軟な組織内再配置が必要だ。
となると、女性には家庭に入ってもらって夫を支えてもらう必要がある。
労組も雇用保証とバーターだとわかっているから、転勤はもちろん、女性の肩たたき
にも寛容だ。
こうして、男は過労死するまで企業戦士として働き、女性は学卒
だろうが修士だろうが家庭に入るという家族像が生まれたわけだ。

ここにメスを入れずに罰則強化するだけでは、過労死も男女差別も永遠に無くならない。

だが、大黒柱である男性正社員の昇給モデルが破綻したことで、この家族モデルは
機能不全を起こし、世帯あたりの出生率低下を引き起こした。
本来なら北欧やフランスのように共働きで対応すべきなのだが、子育ての一段落後の
再就職では非正規雇用が中心となり、収入・キャリアの両面で著しいロスが生じる。
大卒女性が子供を二人出産した場合の機会費用は2億3千万にのぼり、こうなると
子供手当て程度では焼け石に水だ。

抜本的な少子化対策には、著者の言うように、雇用の流動化を進め、多様な働き方を
実現していくしかない。年齢や性別に関わらず再チャレンジできるシステムへの
切り替えだ。

もちろん、安易な規制強化も厳しく戒める。
当の派遣労働者たちが望んでもいないのに、「かわいそうだから」と言って外野が
派遣規制を求めるのは「高熱の子供を水風呂に放り込む」ようなものだと切り捨てる。

だが、個人的に強く印象に残ったのは、労働組合についての鋭い言及だ。
大手の労働組合は、年功序列賃金により賃金の一部を会社に出資しているようなもので
(しかも転職市場が無いから)株券と違って自由に売買も出来ず、株主以上に会社に
密接な運命共同体である。これはそもそも本来の労組とは根本的に異なるものであり、
欧米での労・使対立とは、日本でいうなら労・労対立だとする。

本書を読み終えてふと感じたのだが、現在の日本型雇用システムで得をしている人間が
果たしてどれくらいいるのかということ。大手の45歳以上男性正社員がそうなのだ
ろうが、彼らは雇用労働者の1割程度にすぎない。また彼らにしても、気づかず
失っているものは数多い。
それを気づかせることが変革の第一歩なのだろうが、それにはもう少し痛みが
必要なのかもしれない。