山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

大会の位置づけ

2009-04-30 09:50:53 | Weblog
 100kg超級の代表に棟田選手が選出された。昨日行われた全日本選手権2位という結果を受けて、強化委員会で決定された。

 新聞等の報道を見る限り、これまでの実績から高井選手、棟田選手のどちらを選ぶかという選択であったようで、大きな差はなかったが決勝戦まで駒を進めた棟田選手が選出されたということだった

 今や柔道は国際スポーツであり、国内で勝つことはもちろんだが、世界で勝てる実力が代表選考においては不可欠な要素であることは理解できる。しかしながら、北京以降に行われた国内、国際大会の結果も踏まえてみて見るとどうもわかりにくい部分がある。以下、ざっとこの階級の大会での成績を挙げてみた。*は国内大会

講道館杯*    優勝 加藤光将(愛知県警) 2位 佐藤武尊(了徳寺学園)
嘉納杯      優勝 高井洋平(旭化成) 2位 棟田康幸(警視庁)
世界無差別選手権 高井、棟田・・・2回戦負け
トビリシ大会   3位 立山広喜(日本中央競馬会)
パリ大会     出場者なし・・・棟田、高井が出場を辞退
ハンブルグ大会  3位 棟田 高井・・・2回戦負け
ブタペスト大会  2位 上川大樹(明治大学)
選抜体重別*   優勝 高橋和彦(新日鉄) 2位佐藤武尊
全日本選手権*  2位 棟田 3位 生田、立山

 調べてみて気がついたのは、講道館杯で優勝、2位のいずれの選手も嘉納杯を含めていずれの国際大会にもチャンスを与えてもらっていないことである確かに講道館杯に高井、棟田が欠場していたので「勝っても評価に値しない」ということなのだろう。しかし、嘉納杯は日本から4人出場枠がある大会である。4人の中にでも講道館杯の優勝者が選ばれないというのであれば、この大会の価値はどこにあるのだろうか?また、国際大会にも選ばれないということは、はじめからチャンスがないと言っているのと同じである

 また、これだけ層が薄くなってしまった重量級であるにも関わらず、パリ大会には選手を派遣していない。確かに、予定していた棟田、高井両選手が直前に怪我をして出場を辞退した経緯はわかるが、重量級は減量の必要もないのだから、急遽選考しても問題はないはずである。敢えて言わせてもらえば「誰を行かせても勝てないのはわかっている」しかし、だからこそ、可能性のある選手にチャンスを与えて「我慢して育てていくことが何より大事」ではないか日本以外のどの国をみても、日本ぐらい粒ぞろいの選手がいるところはない。以前にも書いたが、日本はそういった「金の卵」たちを本気で育てているとは思えない、見えない

 さらに強化が見込んで国際大会に起用した選手達は選抜体重別では結果を残せなかった。彼らは本当に鍛えられているのだろうか?

 これまでも100kg超級だけは、選抜体重別後に選考せずに全日本選手権をみての選考である。単純な疑問だが、なぜ重量級には2度のチャンスが与えられるのだろうか?また、講道館杯や選抜体重別のこの階級の価値はどこにあるのだろうか?今年の選抜体重別の優勝、2位の二人は全日本選手権に出場していない(地区予選敗退)。本気で全日本選手権を選考の対象に位置づけるのであれば、せめて体重別選手権出場の選手は全員、推薦で出場させるべきだろう。

 全日本選手権は、講道館試合審判規定なので、これが微妙に勝負に影響している面もある。今回、棟田選手が何度か場外に逃れるといったケースがあったが、審判は「反則」を与えなかった。現在の国際ルールであれば場内外の判定はおおらかで今回の棟田選手のケースも許される程度であった。思うに、審判は国内ルールと国際ルールが曖昧になっている部分もあるのではなかったか?また、棟田選手が負傷によってドクターを呼ぶシーンや休むシーンが見られた。これも、国際ルールでは見られないシーンである

 言いたいことは2点。一点は、国内大会の意味と価値をしっかりと示してもらいたいということである。国内ランキングをつくることは難しくとも、結果を残した選手を正当に評価してあげる必要はあるはずで、それが全体のモチベーションアップにつながるはずだ

 もう一点は、全日本選手権は世界選手権、オリンピックの選考の対象から除外するべきだと思う。無差別で競っていること(現在の世界選手権、オリンピックには存在しない階級)、国際大会とは違うルールで戦っていることなどから、選考の対象にするのは無理がある

 全日本選手権は、日本柔道にとって特別の大会である。過去にも多くの名勝負、伝説を生んできた。今大会も斉藤制剛(旭化成)選手は準々決勝で棟田選手と対戦し、気迫溢れるすばらしい戦いを見せてくれた。女性の私から見ても全日本で戦うことは男のロマンなのだと理解できる。だからこそ、この神聖な大会を選考会のひとつにしてしまうことは、様々な思惑が交錯したり、代表選考の裏側などが見えてしまっ興醒めしてしまい、本当に残念だ

 さらに決勝はどちらかが技あり以上のポイントを取るまで無制限でやらせてほいい。剣道の場合はそうである。日本のその年の最高峰の選手を決めるのが判定ではあまりにも情けない。昨日の決勝戦も、それまで攻め続けていた穴井選手が棟田に「注意」がいった途端に守りに入るシーンがあった。それまでの戦いぶりがよかっただけに最後まで攻めて欲しかったというのが多くの人の感想だったに違いない。これは、穴井選手がというよりはルールが問題なのだと思う

 国内外問わず大会が多くなっているだけに、それぞれの大会の位置づけ、意味、価値をしっかり示していくことは重要だと考える。また、日本柔道は他の国とは違って、オリンピックや世界選手権が最高でなく、全日本選手権で勝つことだけを目指す選手がいても良いのだと思う



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8 コメント

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選考会除外に賛成です (Unknown)
2009-04-30 17:22:04
私も、五輪や世界選手権等の選考会にして欲しくないな、と思います。他の選考会とは違って国際ルールで戦うわけではないし、それに何より素人目に見ても、審判の先生方が全柔連の意向をもって裁いてらっしゃるようにしか見えなかったから。技の判定や指導の取り方など、全選手を平等に見ているというようには見えませんでした。審判こそフェアーであるべきなのに。選考会のひとつだから、番狂わせは極力避けたいから、ですよね?これでは一生懸命に戦っている選手が気の毒です。観る方としては番狂わせがあってもいい、寧ろ意外な結果の中から新しいスターが生まれてもいい、と思います。皆が(選手・審判の先生方も含めて)純粋に真剣に柔道という競技を楽しむ大会であって欲しいです。その方が、ずっと素晴らしい大会になると思います!
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Unknown (どん)
2009-04-30 18:26:19
「日本最強は世界最強でなくてはならない」という考え方でもあるのでしょうか?
全日本の権威を国際試合にもちこむのは理解できません。

確か、五輪代表はその年の全日本覇者を出場させていたと思いますが、北京代表の石井選手は全日本以外の試合はろくに出場していなかったはずです。
世界ランキングが導入された現在、レース回避しまくってランキング圏外になった選手が全日本で優勝したらどうなるのでしょう?
八百長まがいの出来レースでもやるのでしょうか?
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Unknown (会社員)
2009-04-30 19:16:06
山口先生、斉藤制剛は新日鉄じゃなくて、旭化成所属だっぺ…
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小川直也 石井慧 (エバー茅ヶ崎)
2009-04-30 20:27:00
始めまして石井の事務所の代表で、小川道場の支援会の責任者をしている者です。

私は柔道の事は素人ですが、このブログは私個人の意見として納得します。
石井慧、小川直也の事をコメントして頂けた事感謝します。
自宅の道場で小川さんは週5回、直接子供への指導をしています。
茅ヶ崎の街中を子供達と一緒に、ランニングしています。
ちなみに石井は、総合へは食べる為でなく、純粋に地上最強を目指してのことです。
オリンピック後の言動も、普段は明るく人を楽しませようとする性格なので、あのような発言をしてしまいました。
各方面には、ご理解していただけない部分が多少ありますが、二人とも柔道を本当に愛している者です。
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Unknown (元実業団選手)
2009-04-30 22:04:38
棟田選手の痛がるそぶり単なる時間稼ぎです。
スタミナ回復の為の。
学舎出身の棟田選手の後輩からはっきりと聞きました。
試合中、棟田選手はスタミナ回復の為にいつもやると。



この様な選手を代表で選び続けてる事は、
海外の柔道関係者に日本から誤ったメッセージを送り続ける事と同じ意味を持ってしまいますね。


北京五輪では、日本は素晴らしい柔道を目指してると良いメッセージを送れたばかりなのに。
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山口先生は誰が可能性があると思いますか? (元柔道家)
2009-05-01 00:08:50
>>だからこそ、可能性のある選手にチャンスを与えて「我慢して育てていくことが何より大事」ではないか

私なら上川君を推します。理由は若いから可能性があります。(今回のフランス大会のように2人も欠場するなら上川君のような若い選手を出して経験を積ませるべき)

それから全日本を選考対象から外すというのは賛成です。非常に選考が複雑になるだけです。海外で弱くて国内だけで強い選手も存在しますので。
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棟田選手について (元格闘家)
2009-05-01 00:18:09
山口香さんはじめまして、いつもブログ拝見させて頂いています。私も棟田選手の試合態度は前々から気になっていました。私の知人で学舎出身で棟田君の3学年先輩の人からスタミナ回復の為にわざと大袈裟に痛がって時間を稼いでいると言っていました。はっきり言って非常に見苦しいです。日本柔道のトップの棟田君があれで許されるのなら、必ず誰か彼の真似をすると思います。しっかり棟田君に指導すべきだと思います。
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どんさんへ (ななし)
2009-05-01 09:42:57
ちゃんと調べましょう。
石井は超級に転向した後だけでも以下の試合に出ていますよ(除く全日本選手権)。
 2007年:嘉納治五郎杯東京国際柔道大会
 2008年:オーストリア国際柔道大会
 2008年:カザフスタン国際柔道

それ以前、アテネオリンピック以降では主な大会だけで以下に出ています(除く全日本選手権)。
 2005年:嘉納治五郎杯国際柔道大会
 2005年:フランス国際柔道大会
 2005年:ハンガリー国際柔道大会
 2005年:全日本選抜柔道体重別選手権大会
 2005年:講道館杯全日本柔道体重別選手権大会
 2005年:韓国国際柔道大会
 2006年:嘉納治五郎杯国際柔道大会
 2006年:オーストリア国際柔道大会
 2006年:全日本選抜柔道体重別選手権大会
 2006年:ワールドカップ柔道国別団体選手権
 2006年:ドーハアジア競技大会
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