大島の空の下で

伊豆大島在住の中年のおっさんのブログです.日々の出来事を綴っていきます.一部は mixiとマルチポスティングしています.

【読書】 乙女の密告

2010-08-23 23:53:33 | Weblog
最初に告白してしまうと,アンネの日記をきちんと読んだ記憶がありません.いままでに知っていたことといえばナチの迫害から逃れるべく家族で長期間隠れ家での生活をおくった末にゲシュタポに見つかり収容所で亡くなったユダヤ人少女の日記であること,出版当初は完全版ではなく性に目覚めた頃の記述等,差しさわりのある箇所がかなり後なってから発表されたこと,生理用品会社の社名が彼女の名を冠したモノだということくらいです.
したがってこの作品の重要部分であるアンネのアイデンティティーにかかわる言葉が既出の訳でも読むことができるのか否かも知りません. 

重たいテーマですが女子大学生の日常をコミカルに描写しながら差別化せずにはいられない人間の避けがたい性向をユダヤ人差別のメタファとして著すという超絶ワザを見せてくれていてなんとも不思議な読後感の作品でした. エキセントリックな行動で笑わせる教授が実は重たい役割を負った人物という設定はどこか井上ひさし氏の「モッキンポット師の後始末」を彷彿とさせます. 読了直後に純文学としてどうなのかなという感想が頭をよぎりましたが今回この作品を読んだことによって,彼女が亡くなってから66年が経過したこと,彼女はアムステルダムの隠れ家から現在にいたるも不明の密告者により逮捕されたこと,ユダヤの人々が当時アイデンティティー上の問題を抱えていたこと,日本はナチスドイツの同盟国であったこと, ホロコーストがあったこと等々新規既知とりまぜて忘ないほうがよさそうな事がいろいろと想起されました.それだけでも意義ある作品かと思われます.

「乙女の密告」 第143回芥川賞受賞作

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