大島の空の下で

伊豆大島在住の中年のおっさんのブログです.日々の出来事を綴っていきます.一部は mixiとマルチポスティングしています.

abさんご

2013-03-03 01:21:52 | Weblog
冒頭の2~3ページを読んでは投げ出すことを4回ほど繰り返した末,思いついて音読で読み下すという方法でやっと読了しました. 活字を追いながら小説の世界に入り込むまでには多かれ少なかれ抵抗があるものですがこの作品はかなり手強かったです.ストーリーは早くに母をなくした女の子と(おそらく)大学教授の父との生活に割って入った女中が父の後妻に入り云々…というさほど起伏のある話ではありません.たぶんこの小説はそういった物語性に注目すべきものではないのでしょう.一見非常に読みずらそうな横書き・ひらがな多用文が声に出して読んでみるとビックリするくらいリズムがよく,流れるようなセンテンスの連続から物語を掬い上げるのを楽しむことが本旨なのではなかろうかと感じました.釣りが必ずしも釣果を食するためでなく水中から魚を取り出すことを楽しみとするのにちょっと似ています.
 読了後再読すると当初暗号めいた言い換えで意味不明だった多くの名詞がことごとく判読できるようになるというのも手品っぽくて楽しいです.黙読しにくく斜め読みを許さない文体を丁寧に通読するとそのご褒美に読み解きキーを与えられるかのようです.読了に多くの時間は要しませんが読者に少々の根気を強いる不思議な小説でした.
この取っつきの悪さのため単行本の部数はさほど伸びないのではないかと予想しますがサテどうなりますか….

第148回芥川賞受賞作