大島の空の下で

伊豆大島在住の中年のおっさんのブログです.日々の出来事を綴っていきます.一部は mixiとマルチポスティングしています.

「ぴんぞろ」を読んで

2011-08-14 00:20:37 | Weblog
今期の芥川賞は該当作品無しとのこと.賞のクオリティを維持するためには必要な結論だったのでしょう.文藝春秋の9月号は選考過程で上位にあったと思われる戍井昭人氏の表題作を掲載しました.
売れない脚本家があるきっかけで斜陽の温泉地で若いストリッパーの前説として仕事をすることになり,後日彼女の前座で花電車を演じていた祖母の事故死を機にストリッパーを古巣の浅草に連れ帰るまでをモノローグで綴った作品です.舞台のモデルは水上温泉と思われます.白状してしまうと,作品に出てくるホテルと一字違いでかつて盛んにテレビスポットを流していた温泉旅館に泊まり団体旅行の勢いで踊り子が一人しかいない,まさしく場末のストリップ劇場にくり込んだ経験があるのです.おかげで読み進みながら登場人物の歩く温泉街の情景がリアルに想像できました.直木賞候補作と間違えそうなわびしくもふて腐れることなく黙々と生きていく人が登場する日本人好みのおはなしでワタシも好感を持ちました.ただ選者の島田雅彦氏の選評「以前に似たような話を読んだことがあるという印象…」と同じ読後感があってしばし沈思黙考した結果,浅田次郎の「あじさい心中」という短編を思い出しました.これは出版社をリストラされ自棄気味で旅に出たカメラマンと場末の温泉街のストリッパーとの束の間の触れ合いを描いた小説です.こちらの女性はそれと気付かないまま客として来た生き別れの我が子とナマ板ショーを演じてしまったり,呼び込み・照明など諸々の手間をしていたコンビの老人が縊死するなどやるせなさの度合いがより濃い作品です,場末のストリッパーという素材や彼女の相棒の不慮の死,リビドーの感じられない主人公のストリッパーへのまなざし等々プロットは異なるもののよく似た点が目に付く小説だと思います.