大島の空の下で

伊豆大島在住の中年のおっさんのブログです.日々の出来事を綴っていきます.一部は mixiとマルチポスティングしています.

「敵対水域」を読んで

2009-02-02 00:02:09 | Weblog
 ワタシにとって潜水艦といえば米国貸与の中古ガトー級が活躍する「サブマリン707」が原点.これに夢中になったのが小学校低学年の頃.トム・クランシーの「レッドオクトーバーを追え!」は20代の終わり.現在は都内出張からの帰途,横須賀沖でしばしばセイルを見ることがあります.何冊かの読み物で仕入れた付け焼刃情報ですがメカ好きオノコとしては雑談のネタになる程度のことは知っているつもりです.この本はそのうち読もうと思い入手したものの起伏に乏しい事故ドキュメントのような気がして何年もの間ツンドク状態だったものです.
 主題であるソ連の戦略ミサイル潜水艦K-219の事故は1986年10月に発生しています.ワタシにとっては11月に控えた故郷大島への転勤の準備中の出来事でした.緊急浮上のためセイルに装備された潜舵がほとんど垂直になった写真がテレビで報じられビックリしたものです.当時「レッドオクトーバー」を読んでからいくらも経たない時期だったので事の重大さはある程度理解ができました.
 今年は少し身の回りを整理したいウィルがあったので場所をとるハードカバー本はさっさと読んで処分するつもりで昨夜遅くから読み始めました.読了後すぐに感じた事は心が痛い,そしてもっと早く読めばよかったです.
 数々のエピソードが緻密な構成で配置されている上,現代の武人たちの矜持や世界の軍事状況を描きながら底流にはソ連の軍人たちの持つ体制に対する諦観があるという,ドキュメンタリーとは思えない読ませる作品です.原子炉の緊急停止機構が破損し弱冠21歳の一水兵が自らの命と引き換えに原子炉のメルトダウンを防ぐくだりや,死刑か長期間の重労働という刑を覚悟の上でモスクワからの冷酷な命令に逆らい部下たちの命を守った艦長の行動などはまるでお約束通りに書かれた軍事小説のようです.米ロとも空中発射やICBMによる核攻撃手段は大幅に削減されたようですが大陸間弾道弾と遜色ない射程をもつに至ったSLBMは自国付近の海域から発射可能となったため現在も隠然たる核抑止力として機能しているのではないかと思います.
 現在米国の戦略ミサイル原潜の一部は対ゲリラ戦用に大改造されているようです.海底に張り巡らされたSOSUSマイク群もクジラの生態観察などに流用されているともどこかで読んだことがあります.でも地上から全ての核がなくなる日はワタシの寿命のあるうちにはこないと思います.この事故の14年後にはバレンツ海で「クルスク」が魚雷の爆発事故を起し乗組員全員が死亡しています.ホント人間ってなかなか反省しない生き物です.

「敵対水域」
1998 文芸春秋
ピーター ハクソーゼン, R.アラン ホワイト, イーゴリ クルジン, Peter Huchthausen, R.Alan White, Igor Kurdin, 三宅 真理