大島の空の下で

伊豆大島在住の中年のおっさんのブログです.日々の出来事を綴っていきます.一部は mixiとマルチポスティングしています.

「アサッテの人」を読んで

2007-08-13 20:45:09 | Weblog
芥川賞受賞作と言えば,みずみずしくも格調高い文体とか新奇・平凡を問わずプロット中に凡人には思いつかない現代を感じさせる鋭い描写といったものを期待して毎期掲載誌を購入しています. ところが此度の諏訪哲史氏の作品はのっけから意味不明語の連発で始まり,かなり戸惑います. ケレン味のある主・客取り混ぜた文体のうえ,マトモな文章の書き手なら避ける括弧にくくられた解説なども平然と使用されています. 

「ナンジャこれは!」 が読み始めたときの正直な感想です.ところが主人公であるアキちゃん叔父の失踪に至る軌跡を読み進むうちに 「それ,あるあるっ」 「ワカル,ワカル」 の連発に変ります. 全体の構成は本文中に明言しているとおり,予定調和的なエピソードの挿入や収まりの良いエピローグでの締めくくりをあえて避けています. その居心地の悪いゴツゴツした読みにくさがそのまま,お約束の日常を拒否して「アサッテ」の方に行ってしまった叔父の行動のメタファーになっているのだと思います.

心の奥ひだに分け入って丹念に無意識領域を探り記述していく手法はマルセル・プルーストを起源とする近代小説の手法.・・とは昔どこかで読んだ付け焼刃知識.「失われた時を求めて」は自身にとっては難解でいまだ読了できていませんが.本作はそんな挫折経験を持つワタシにも得心できる小説のおもしろさを味わえる作品でした.