蜂巣肺honeycomb lungという用語は1949年OswaldとParkinsonによって造語されて以来、広く使われている(ハイツマン 肺の診断. メディカルサイエンスインターナショナル 1995)。「Diseases of the Lung」(Lippincott Williams & Wilkins 2003)の記載に従えば、径2~10mmの密集した嚢胞状の気腔で、明瞭な壁を持つものをさす。主に呼吸細気管支と肺胞道が周囲組織の線維化により牽引され拡張したものであり、単にcystic air spacesないしcystsと呼ばれる薄い壁に境界された空間とは区別される。つまりその壁は線維性組織からなるそれなりの厚さを持つことがhoneycombingの特徴で、この点Webbの教科書(High-resolution CT of the Lung 第4版. Lippincott Williams & Wilkins 2008)は壁の厚さを1~3mmと記述し具体的である。以上を踏まえ「特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き」(2004)にも、「線維化のはっきりしない場合には蜂巣肺とせず、単に嚢胞性病変と表記すべきである」と記載されている。また日本では、嚢胞の大きさがそろっていること、胸膜直下に二層以上並ぶこと、も重視する立場があり、欧米とはやや異なるように思う。
このhoneycombingを認める疾患として反射的に特発性肺線維症(IPF)が意識されるけれども、特異的所見というわけではない。臨床的にはIPFやリウマチ肺はもちろん、肺LCHやサルコイドーシスで見られる頻度が高く、塵肺症(特に石綿肺)でも時にみられるものだ(Radiologic Diagnosis of Diseases of the Chest. Saunders 2001)。慢性過敏性肺炎も近年しばしば言及されるように忘れるわけにはいかない。
一方、Genereux は肺既存構造の完全な破壊を伴っている重度の非可逆的な線維化により特徴づけられる、非特異的な病理学的・放射線学的な所見をend-stage lung(ESL)と呼んだ(Radiology 1975; 116: 279-289)。具体的にはhoneycombing、extensive cystic air spaces with well-defined walls、conglomerate fibrosisが挙げられる(Radiology 1993; 189: 681-686)。この概念の背景には、間質性肺疾患はその表現型や原因の如何にかかわらず最終的に線維化の進行した段階に至るという仮説があり(Am J Med 1981; 70: 542-568)、COPDや嚢胞状気管支拡張症は除外されている。ただし肝や腎のように臓器全体に一様に病変がみられ機能不全を伴うとは限らず、あくまでも形態的に定義されており、しかも病変はしばしば肺のごく一部分に限られ、呼吸状態や肺機能などの生理学的な異常を反映するものではないことに注意を要する。そのためか案外ESLという呼称が使われるのを見ることは少なく、欧米の代表的な教科書にも項目として取り上げられていない。
上述のように肺全体がESLで占められることはむしろ稀であることから、画像でその基礎疾患を指摘するのはそれほど困難ではない。病変の存在部位・気管支血管束との関係・その他の所見の存在が有用な手がかりになる(Radiology 1993; 189: 681-686)。また、「Interstitial Lung Disease」(BC Decker Inc 2003)にはhoneycombingの径が5mmより大きなものはサルコイドーシスでみられること、一般に間質性肺疾患では肺気量は減少するが、サルコイドーシス・慢性過敏性肺炎・末期の好酸球性肉芽腫症では肉芽腫が細気管支に存在することにより肺過膨張を伴うこと、が記載されている。
結局、読影する上で最も注意を要するのは肺気腫を合併している症例ではないだろうか。細菌性肺炎が胸部X線上あたかも蜂巣肺のように見えることがあるのは以前から知られていたが(Ann Intern Med 1970; 72: 835-839)、honeycombingの存在を指摘するには胸部X線は不十分で、圧倒的にCTが有利であるのはいまさら述べるまでもない(Radiology 1987; 162: 377-381)。しかし肺気腫が存在しているとHRCTをもってしてもNSIPとUIPの鑑別は困難になるなど画像診断上の課題が指摘されている(Radiology 2009; 251: 271-279)。それどころかhoneycombingと遠位細葉型肺気腫(distal acinar emphysema)の鑑別に悩む臨床医も多いはずである。さらに気腫を伴う間質性肺疾患は最近特に注目されているテーマだ。パターンとしては、肺気腫自体ないし感染等により線維化を伴ったもの、合併した肺気腫と間質性肺炎の分布が異なるもの、間質性肺炎の中に気腫性病変が混在するもの、の三つが考えられるのだが項を改めて述べることにしたい。 (2009.6.10)
このhoneycombingを認める疾患として反射的に特発性肺線維症(IPF)が意識されるけれども、特異的所見というわけではない。臨床的にはIPFやリウマチ肺はもちろん、肺LCHやサルコイドーシスで見られる頻度が高く、塵肺症(特に石綿肺)でも時にみられるものだ(Radiologic Diagnosis of Diseases of the Chest. Saunders 2001)。慢性過敏性肺炎も近年しばしば言及されるように忘れるわけにはいかない。
一方、Genereux は肺既存構造の完全な破壊を伴っている重度の非可逆的な線維化により特徴づけられる、非特異的な病理学的・放射線学的な所見をend-stage lung(ESL)と呼んだ(Radiology 1975; 116: 279-289)。具体的にはhoneycombing、extensive cystic air spaces with well-defined walls、conglomerate fibrosisが挙げられる(Radiology 1993; 189: 681-686)。この概念の背景には、間質性肺疾患はその表現型や原因の如何にかかわらず最終的に線維化の進行した段階に至るという仮説があり(Am J Med 1981; 70: 542-568)、COPDや嚢胞状気管支拡張症は除外されている。ただし肝や腎のように臓器全体に一様に病変がみられ機能不全を伴うとは限らず、あくまでも形態的に定義されており、しかも病変はしばしば肺のごく一部分に限られ、呼吸状態や肺機能などの生理学的な異常を反映するものではないことに注意を要する。そのためか案外ESLという呼称が使われるのを見ることは少なく、欧米の代表的な教科書にも項目として取り上げられていない。
上述のように肺全体がESLで占められることはむしろ稀であることから、画像でその基礎疾患を指摘するのはそれほど困難ではない。病変の存在部位・気管支血管束との関係・その他の所見の存在が有用な手がかりになる(Radiology 1993; 189: 681-686)。また、「Interstitial Lung Disease」(BC Decker Inc 2003)にはhoneycombingの径が5mmより大きなものはサルコイドーシスでみられること、一般に間質性肺疾患では肺気量は減少するが、サルコイドーシス・慢性過敏性肺炎・末期の好酸球性肉芽腫症では肉芽腫が細気管支に存在することにより肺過膨張を伴うこと、が記載されている。
結局、読影する上で最も注意を要するのは肺気腫を合併している症例ではないだろうか。細菌性肺炎が胸部X線上あたかも蜂巣肺のように見えることがあるのは以前から知られていたが(Ann Intern Med 1970; 72: 835-839)、honeycombingの存在を指摘するには胸部X線は不十分で、圧倒的にCTが有利であるのはいまさら述べるまでもない(Radiology 1987; 162: 377-381)。しかし肺気腫が存在しているとHRCTをもってしてもNSIPとUIPの鑑別は困難になるなど画像診断上の課題が指摘されている(Radiology 2009; 251: 271-279)。それどころかhoneycombingと遠位細葉型肺気腫(distal acinar emphysema)の鑑別に悩む臨床医も多いはずである。さらに気腫を伴う間質性肺疾患は最近特に注目されているテーマだ。パターンとしては、肺気腫自体ないし感染等により線維化を伴ったもの、合併した肺気腫と間質性肺炎の分布が異なるもの、間質性肺炎の中に気腫性病変が混在するもの、の三つが考えられるのだが項を改めて述べることにしたい。 (2009.6.10)