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やっせんBO医

日本の教科書に記載されていない事項を中心にした個人的見解ですが、環境に恵まれず孤独に研鑽に励んでいる方に。

ウイルスと市中肺炎

2014年11月03日 17時21分18秒 | 感染症
市中肺炎は多くの総合診療医にとって苦労させられる疾患の一つである。起炎菌を検出するための十分な検査を常に行えるとも限らず、しばしばエンピリックな治療に終始せざるを得ない。とはいえ、高度医療機関においてさえ起炎微生物が同定されるのは全体のせいぜい6割程度だ(Am Rev Respir Dis 1993; 148: 1418-1426、Chest 1998; 114: 1588-1593)。結果として、それらを踏まえた国内外のガイドラインは残りの約4割をほとんど無視する形となっている。その少なからぬ部分を占めるのはウイルスではないかと想像されてはいたものの、一般にその検出が容易ではないことや、そもそも治療薬剤が限られることもあって、大方の関心を惹いてこなかった。けれども、SARS(severe acute respiratory syndrome)やavian influenza A(H5N1)、2009 pandemic influenza A(H1N1)、そしてMERS(Middle East respiratory syndrome)とグローバル化した世界にあっては他人事として片づけられない脅威が相次ぎ、呼吸器ウイルスの役割に改めて目が向けられている状況だ。

近年ではPCR法のような核酸増幅アッセイが進歩し、ウイルス検出能は格段に改善しているらしい(Clin Infect Dis 2005; 41: 345-351)。これらの方法も用いて再評価した結果、市中肺炎症例のおよそ3分の1程度にウイルスが寄与しているといわれている(BMC Pulm Med 2014; 14: 144、Chest 2010; 138: 811-816、Curr Opin Infect Dis 2009; 22: 143-147)。しかも、これは医療・介護関連肺炎においても同様であったという(Am J Respir Crit Care Med 2012; 186: 325-332)。その頻度は季節や流行状況に左右されるとはいえ、市中肺炎ではインフルエンザウイルスやライノウイルス、パラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルス、ヒトコロナウイルス等々が検出されている。ライノウイルスは従来、感冒の原因としてはよく知られていたものの、最近になって下気道感染へのかかわりを示すエビデンスが増えているようだ(Am J Respir Crit Care Med 2012; 186: 325-332)。小児における肺炎や細気管支炎、また、喘息やCOPDなどを有する患者での増悪、さらにはnursing home居住者における肺炎その他の重篤な呼吸器疾患のアウトブレイクに関連することが指摘されている。一方で、ライノウイルスRNAは無症候の高齢者でも上気道検体の3%から検出されるなど(BMJ 1996; 313: 1119-1123)、健常者において検出される呼吸器ウイルスの頻度は市中肺炎患者におけるそれよりも有意に低いとはいえゼロではなかったという(Chest 2010; 138: 811-816)。鼻咽頭の検体からウイルスを検出したとしても、それがどの程度下気道感染を反映するのかさらに検討が必要だろう。

ウイルスが肺炎発症に寄与するにしても、そこにはしばしば細菌感染を伴っていることが示されている。とすれば、それぞれがどのように関わっているのかは解明されるべき重要なテーマであるに違いない(Infect Dis Clin North Am 2013; 27: 157-175)。市中肺炎においては従来、複数の起炎微生物による重複感染は例外的なものとみなされていた(Pneumonia Essentials 3rd ed. Physician’s Press 2010)。多くの呼吸器ウイルスは単独で下気道粘膜に浸潤し、複製されうることを示す証拠が増えつつある一方で、細菌感染リスクを上昇させることも知られている(Expert Rev Respir Med 2010; 4: 221-228)。ウイルス感染と肺炎球菌感染には相関がみられ、呼吸器ウイルス感染が細菌性肺炎に先行する例も少なくない(Clin Infect Dis 1996; 22: 100-106、Clin Microbiol Rev 2006; 19: 571-582)。インフルエンザと細菌性肺炎の合併は広く認識されており、その機序としてインフルエンザウイルスが好中球機能を抑制することなどが明らかにされている(Am J Respir Crit Care Med 2000; 161: 718-722)。ウイルスと細菌の混合感染はそれぞれの単独感染よりも強い炎症を引き起こし、臨床的にも重症化しやすくなることが懸念され(Scand J Infect Dis 2009; 41: 45-50)、実際、いまだエビデンスとして十分とは言えないものの、ライノウイルスと肺炎球菌の混合感染は重症化に関連するとの報告がある(Thorax 2008; 63: 42-48)。

ウイルス性肺炎を正しく診断することができれば抗生剤の適正使用の上からも大きな意味があるのは言うまでもない(J Infect 2014; 69: 507-515)。ところが、感染を確認するための簡便な検査が限られている上、臨床所見から予測することさえ必ずしも容易ではないのだ。ウイルス性肺炎や細菌性肺炎でみられる症候はきわめて多様で、しかも共通するところが多い。それなりに特異的とされる所見はいくつか報告されているものの、明瞭に区別できるほど信頼を置けるものではないようだ。ウイルス性肺炎患者でもっともよくみられる症候は39℃以上の発熱(66.7%)、倦怠感(64.6%)、膿性痰(52.1%)で(BMC Pulm Med 2014; 14: 144)、筋痛の存在は何らかの呼吸器ウイルスによる肺炎(OR 3.62)やインフルエンザ肺炎(OR 190.72)と関連していたとするもの(Thorax 2008; 63: 42-48)や、ウイルス感染例では非ウイルス感染例と比較して咽頭痛が有意に多かったとする報告(日呼吸会誌 2011; 49: 10-19)がある。

一方、画像所見がウイルス性肺炎と細菌性肺炎との鑑別に役立つかもしれない(日呼吸誌 2013; 2: 678-687)。季節性インフルエンザおよびH1N1インフルエンザやアデノウイルス肺炎では高頻度に小葉内網状陰影がみられ、それ以外のウイルスによるものでも同様な所見を呈するという。胸部X線で間質影をみた場合は一般にウイルス性で、肺胞性陰影は細菌性を示すものとされるけれども、前者のほとんど(90.3%)が両側に病変を伴っており、胸部X線パターンとして優勢にみられたのは、interstitial(43.1%)、peribronchial(37.5%)、alveolar(19.4%)で、胸水が存在したのは14例(19.4%)だったと報告されている(Am J Respir Crit Care Med 2012; 186: 325-332)。

CRPが10mg/dL以上なら80%以上の確率で細菌感染と判断できるとする文献もあるとはいえ、一般に白血球数やCRP値では十分な感度と特異度をもって鑑別することは難しいとされる(Curr Opin Infect Dis 2009; 22: 143-147)。マイコプラズマ感染症例の約50%で陽性になるとされ古くから用いられてきた寒冷凝集反応も特異性が高いものではなく、EBウイルス、サイトメガロウイルスなどのウイルス感染症やリンパ腫でも上昇する(Clin Infect Dis 1993; 17Suppl1: S79-82)。細菌感染発症後6~12時間以内に増加し、感染が制御されれば1日で半減するというプロカルシトニンは、肺炎症例で0.5 μg/L以上であれば細菌感染を支持し、繰り返し低値であれば細菌感染は否定的とされるけれども、肺炎の管理における正確な役割についてはいまだ議論されているところだ(Scand J Infect Dis 2014; 46: 787-791)。コミュニティーでのウイルス疾患の流行の存在や患者の年齢、発症の速さ、症状、バイオマーカー、画像、治療反応性、などから総合的に判断するしかなさそうだが、細菌性とウイルス性肺炎を明らかに鑑別するような臨床的アルゴリズムは存在しないのである(Lancet 2011; 377: 1264-1275)。

いままさに世界の耳目を集めているのがエボラ出血熱である。このウイルスを抑え込めるのか、あるいは日本に上陸することもあるのかいまだ見通せていないけれども、人間社会に脅威を与える感染症は現代も後を絶たない。あらゆる疾患の中でも、感染症ほど人類に影響を与えてきたものはなかった(ジャレド・ダイアモンド 銃・病原菌・鉄 草思社文庫 2012年)。それは人類史をも左右し、現代の文明のあり方にも少なからず関わってきたのだ。そして、これからもそのように存在し続けるのだろう。(2014.11.4)

診断困難な結核症

2014年05月19日 04時15分20秒 | 感染症
一般臨床の場ではシマウマを探すなという。普段見慣れているはずの疾患でも、その呈しうる症状、所見が想像以上に広く、多様であるというのはままあることだ。そして現れているのが非特異的な所見ばかりだとすれば、相応の覚悟で臨む必要がある。そのようなものとしてよく知られてはいるものの、しばしば対応が後手に回り苦杯を嘗めさせられる、それが結核である。

実際、病理剖検輯報を用いて結核臨床診断の精度を検討したところ、1999~2004年における剖検での結核1725例において、肺結核の生前診断率は55.7%、粟粒結核にいたってはわずか21.9%にすぎなかったという(結核 2007; 82: 165-171)。そこで肺結核見逃し例の生前診断名をみると、呼吸器疾患では肺炎・気管支炎(30.8%)が最も多く、34.0%は呼吸器外疾患と診断されていた。粟粒結核見逃し例においては呼吸器外疾患と認識されたのが72.0%と多かったというのは頷けるにしても、腎不全や悪性腫瘍、敗血症などとされていた。また、新たな検査法の導入により診断率の改善が期待されるけれども、1984年以降明らかな変化はみられていないようだ。結核を念頭に置いた精査が十分に行われていないことも示唆される。

結核を疑わせる典型的所見に乏しければ診断に難渋する一因となるのは言うまでもない。とりわけ胸部画像所見はその診断の契機になりうる、要諦ともいうべき位置を占めている。しかしながら、剖検で活動性肺結核が確認された18例(粟粒結核5例を含む)を対象とした研究において生前に診断されたのはわずか4例にとどまっていたのだが、胸部 X線で被包乾酪巣など内因性再燃の先行病変を示す結節・線維化巣がみられたのは 9 例のみで、6例では結核病変の陰影が肺線維症、胸水および癌の陰影に紛れて指摘できず、さらに11例は病変が好発部位に存在していなかったと報告されている(結核 2009; 84: 71-78)。

粟粒結核は結核菌が血行性に播種し、少なくとも2臓器以上に粟粒大の結核病巣がびまん性に散布しているものと定義されるけれども、上述のようにこの病型はさらに診断困難である。肺病変はきわめて特徴的な所見を呈するとはいえ、剖検により粟粒結核と確定された254例のうち140例は胸部X線で所見が明らかでなかったと報告されているように(Scand J Infect Dis 2003; 35: 794-796)、胸部X線写真で異常がみられないからといって否定できるわけではない(Am J Roentgenol 1980; 134: 1015-1018)。そもそも粟粒結節を示す陰影の出現は病理組織所見の形成に数週遅れることもありうるのだ(Thurlbeck’s Pathology of the Lung 3rd ed. Thieme Medical Publishers 2005年)。これらを踏まえ、粟粒結核という用語は、Disseminated tuberculosisのうち胸部X線で粟粒影を伴うものに限定して使われるべきだという意見もある。逆に言えば、このような問題意識の下にDisseminated tuberculosisという言葉が用いられていることがしばしばあることに留意しておく必要があるだろう。

このように粟粒結核を疑うべき臨床的ないし画像的な特徴を欠く症例は決してまれとは言えず、このような一群をとくにCryptic miliary tuberculosisと呼ぶことがある(Br Med J 1969; 2: 273-276)。発熱がなく転移性癌を強く疑わせるような進行性の衰弱を呈するもの、と紹介する文献もあるが、必ずしも厳密に定義づけられたものではない。発熱、体重減少、貧血など非特異的な症状を呈し、ツベルクリンテストもほとんど常に陰性で、かつては剖検ではじめて診断される例がほとんどであった。胸部X線や通常のCTでは典型的粟粒影を指摘できず、そのような例では画像検査を繰り返す必要があるのと同時に、積極的にHRCTを行う意義がある(J Comput Assist Tomogr 1998; 22: 220-224)。血液の抗酸菌培養に加え、骨髄や肺、肝の生検も考慮すべきなのは述べるまでもない。 

このCryptic miliary tuberculosisは高齢者や悪性腫瘍などの基礎疾患を有するものに多いことが知られている(Q J Med 1986; 59: 421-428)。近年ではHIV感染症の存在も無視できない。つまり免疫反応の低下を背景に持ち、病態にも深く関わっていることが推測される。とすればこれが必ずしもコインの両面に譬えられるというものでもないけれども、Nonreactive tuberculosisが連想されるに違いない。すなわち、抗酸菌に富んだ微小な壊死巣はみられるもののほとんど細胞浸潤がなく、肉芽腫の形成に乏しいという特異な病理像である(Intern Med 2003; 42: 1268)。

いずれにせよ、免疫能が低下している患者では、結核の臨床像および画像所見が非定型になりうることから、とくに慎重な判断が要求される。併存疾患を有することの多い高齢者ではさらに診断が困難になることから、原因不明の発熱症例などでは常に疑ってかからなければならない。ときには積極的精査を行うだけの根拠に乏しいと感じ、しつこく検査をオーダーするのにも躊躇してしまいがちかもしれないが、そうではないなのだ(Ann Clin Microbiol Antimicrob 2008; 7: 8)。まれな臨床所見を呈する粟粒結核症例が数多く報告されており、air-leak syndromes(pneumothorax, pneumopericardium)やARDS、腎不全、心血管系疾患などとして発症した場合には想定すらできないことも多い(Ther Clin Risk Manag 2013; 9: 9-26)。結核の確定的な証拠がなくとも抗結核治療を迅速に試みるべき例もあるかもしれない(Am J Med 1982; 72: 650-658)。結核罹患率が低下しつつあるとはいえいまだに問題であり続ける結核について、総合診療に携わる者こそこれまでの経験から学び、改めて深く認識しておくことが求められるのである。

結核の減少のかなりの部分は衛生環境や栄養状態の改善によるという。衣食足りての成果といえそうだが、われわれの社会はそれに見合う精神的成熟を遂げているだろうか。多様性を受け入れられず、馴染みのない思考や習慣を見下し、仲間だと思えなければ排斥する、というのは洋の東西を問わず昔からうんざりするほど観察されてきたことだが、この頃ではさらにすすんで、自分とは異なる考え方感じ方をする人間が存在するということすら了解できない人間が増えているらしい。世界は自分の心に適う形でしか見えていないのかもしれないなどと疑ったことは一度もなく、また脆い自我の持ち主であるが故に自らの正当性を常に確認しなければ心が安まることのない人間は、ものごとを過剰に合理的な物言いで決めつけ、あるいはごく親しい身内以外の他人に怠惰、偏狭、排他的、頑迷固陋、その他あらゆる負の記号を押しつけては、周囲を辟易させる。このところ世間をにぎわす“モンスター”はそのような存在であるのかもしれない(片田珠美 他人を攻撃せずにはいられない人 PHP新書)。己を犠牲にするというほどでなくても二の次に考える、あるいは面倒なことがあっても相手のおかれた状況を慮りお互い様だと譲り合う、そんな日常に暮らしたいと思う。 (2014.5.19)

肺炎リスクを左右する薬剤

2014年03月31日 04時16分51秒 | 感染症
高齢化にまつわる諸問題はすでに日本のここかしこで表面化している。老人が増え続けているというだけではなく、核家族化の成れの果てとして、かつてのように子や孫からの支援を受けることもできず孤独の中に置き去りにされているようなケースも増えているようだ。望みうる最善の健康状態を維持するには患者の置かれた状況を踏まえないわけにはいかない。薬剤の管理にも支障をきたしているとすれば、メリットとデメリットを勘案したうえで可能なかぎり処方を減らすことも選択肢の一つとなる。

高齢者における医学的に大きな問題の一つが肺炎の合併であることに異論はないだろう。このリスクを下げることができるとすれば大いに意義のあることであるに違いない。とくに誤嚥が懸念される場合には、嚥下機能を悪化させる薬剤を避けることが勧められ、そのようなものとして鎮静薬や睡眠薬、また抗コリン薬など口内乾燥をきたす薬剤が挙げられる(医療・介護関連肺炎診療ガイドライン、日本呼吸器学会、2011年)。同様の理由でドーパミン抑制作用をもつ抗精神病薬もここに含められることが多い(老年医学Geriat Med 2007; 45: 1313-1316)。

ただし、これらは薬理作用から問題視されているとはいえ、臨床的に意味のある影響があるのか否かについて十分なエビデンスがあるというものではなさそうだ。たとえば、65歳~94歳の地域住民の免疫能に問題のない成人を対象としたケースコントロール研究において、肺炎1039例と年齢、性、暦年を一致させたコントロール2022例が同定され、オピオイド使用例の非使用例に対する補正されたオッズ比は1.38(95%CI 1.08-1.76)で、とくに免疫抑制作用を有するものや長時間作用型のオピオイドでオッズ比が高かったものの、ベンゾジアゼピンについてはリスクの上昇はみられなかった(J Am Geriatr Soc 2011; 59: 1899-1907)。胃食道逆流(GER)も肺炎のリスク因子になりうるとされてはいるけれども(Dysphagia 1996; 11: 87-89)、下部食道括約筋を弛緩させるというカルシウム拮抗薬、テオフィリン、β刺激薬の関連について述べるにはデータが不足している。

一方で、肺炎リスクを低減させるものとしてほぼ確立された地位にあるのがACE阻害薬(ACE-I)である。Substance PやBradykininを介して気道の感覚神経の感受性を高め、咳嗽反射を促進し嚥下を改善するというのはすでに周知のことだろう。とくに嚥下障害が問題となることの多い脳血管障害の既往を有する患者でその有効率が高いのに加え(Br Med J 2012; 345: e4260)、アジア人種がその利益を享受しやすいことも見いだされた(Am J Respir Crit Care Med 2004; 169: 1041-1045)。さらに、すべてのACE-Iが有効であるわけではないのかもしれない。Hydrophilic ACE-Iはリスクを低下させたのに対し、Lipophilic ACE-Iではむしろ肺炎を増加させていたとする報告がある(J Hypertens 2010; 28: 401-405)。なお、この研究ではカルシウム拮抗薬やβ遮断薬も肺炎リスクの増大と関連していた。探索的な結果にすぎないけれども、注目しておくべきだろう。

このACE-Iと同様に肺炎発症リスクを低減させ、死亡率をも低下させうると期待されているのがスタチンである。データベースレベルの後ろ向きコホート研究において、市中肺炎で入院した65歳以上の患者8652名(平均75歳、男性が98.6%)が同定され、その9.9%が30日以内に死亡していたが、可能性のある交絡因子を補正したところ、スタチンの現使用は30日死亡率の有意な低下(OR 0.54、95%CI 0.42-0.70)と関連していた(Eur Respir J 2008; 31: 611-617)。同様の結果は複数の研究で得られており、市中肺炎の予防ないし治療に関するメタアナリシスの結果によれば、スタチンは市中肺炎のリスクが低く(0.84、95%CI 0.74-0.95)、市中肺炎による短期死亡率も低下(0.68、0.59-0.78)していたという(PLoS One 2013; 8: e52929)。しかも、この効果は肺炎のみならず菌血症・敗血症でも観察されている(Arch Intern Med 2009; 169: 1658-1667)。その正確な機序は不明であるとはいえ、スタチンによる免疫調節ないし抗炎症作用や、内皮機能への影響、さらに直接的な抗微生物効果も寄与している可能性が考えられている。スタチンの有する多面的効果に改めて注目せざるを得ないのだ。

高齢者で処方されることの多いビタミンD製剤についての報告もある(Am J Clin Nutr 2014; 99: 156-161)。それによれば高用量ビタミンD投与群はプラセボ群に比べ抗菌薬の処方率が28%低く(相対リスク(RR)0.72、95%CI 0.48~1.07)、とくに70歳以上の高齢者では有意であったという(RR 0.53、95%CI 0.32~0.90)。逆に鉄剤については感染症の悪化に関与しうることが示唆されているようだ(J Nutr 2001; 131: 616S-635S、Nephrol Dial Transplant 1990; 5: 130-134)。

さらに、エビデンスが蓄積されつつあるのがH2ブロッカーやプロトンポンプインヒビター(PPI)である。これら酸抑制薬の使用と肺炎リスクに関するシステマティックレビューによれば、ケースコントロール研究(5研究)とコホート研究(3研究)の8つの観察研究からのメタアナリシスでは、PPI使用者における肺炎リスクの補正オッズ比は1.27(95%CI 1.11-1.46)、H2ブロッカーでのそれは1.22(95%CI 1.09-1.36)であった(CMAJ 2011; 183: 310-319)。ランダム化比較試験(23研究)を対象としてもH2ブロッカーの使用は院内肺炎のリスクを上昇させていたという(relative risk 1.22、95%CI 1.01-1.48)。胃酸分泌を抑えることにより、上部消化管における細菌の過剰増殖と定着、そしてそれらの誤嚥による肺への移動を誘発すると推測されている。また、In vitroの研究において、酸抑制薬が好中球やnatural killer cellの機能を障害することも示されているらしい。しかもプロトンポンプは胃壁細胞のみならず気道にも存在するという。つまり想像以上に悪影響があるのかもしれないのだ。しかも、PPIを併用することの多い抗血小板薬についても、日本ではシロスタゾールが誤嚥性肺炎予防に有用であるとして紹介されることが多いのだが、出血リスクが増すので使用すべきではないと結論しているシステマティックレビューもあることに注意を促しておきたい(Am J Geriatr Pharmacother 2007; 5: 352-362)。一方、腸管蠕動を促進するモサプリドが胃瘻患者における生存を延長させるとの報告があり、注目される(J Am Geriatr Soc 2007; 55: 142-144)。

以上、肺炎リスクを左右する薬剤についてまとめてみた。ただし、残念なことに薬に関する臨床試験の結果をそのまま鵜呑みにできないことが多いのも事実である。かつてGabapentinの臨床試験の結果をファイザー社が恣意的に操作していたとして指弾されたけれども(N Engl J Med 2009; 361: 1963-1971)、その後も同様の例が後をたたない。そうでなくとも、実はまったく薬効のないものでさえ試験を数多く行えば行うほど(20のうち1つの割合、それぞれの試験でアウトカムを複数設定していればより高い確率で)どこかで有意差がつき、何らかの適応症で承認されてしまうことになる。あらゆるタイプの癌種に対して1000もの臨床試験を行ったBevacizumabなど、そのようにして臨床現場に提供されているものもないとは言えず、しかもそれらのうち論文化され結果が公表されているものはごく一部にすぎないとすればなおさらだ(Br Med J 2010; 341: c4875)。トップジャーナルに掲載されたランダム化比較試験であったとしても、後追い研究で結果が再現されるものは驚くほど少ない(JAMA 2005; 294: 218-228)。とくに中間解析などで予定よりも早く終了した試験においては、薬の有効性がしばしば過大に報告されている。いったん承認された場合、取り消されるものは稀であるのが現実である以上、臨床医に求められる役割は決して小さなものではないと思うのだ。(2014.3.31)

クレビシエラ肺炎

2012年12月31日 07時27分56秒 | 感染症
患者の身にしてみれば、目の前に座っている医師が自分の抱える病気に精通していてほしいと思うのは当然だ。しかしながら、そのような僥倖にいつも巡り会えるとは限らない。救急・時間外ならなおのこと内科疾患を診ているのが外科医である、などというのはよくあることだろう。決して理想的とはいえないけれども、それが現実なのだ。

肺炎などそのように診療されている代表かもしれない。非専門医であってもストレスなく対応可能な症例が多いとはいえ、重症例に苦慮することも少なくないと思う。そのような場合の起炎菌としては肺炎球菌、レジオネラがよく知られているけれども、今回取り上げるクレブシエラも市中肺炎一般の起炎菌としてはむしろまれであるかもしれないが(J Infect Chemother 2004; 10: 359-363)、考慮しておくべきもののひとつである。ついでながら、成人市中肺炎診療ガイドライン(日本呼吸器学会編、2007年)にはこれらに加えて、緑膿菌、マイコプラズマ、オウム病が挙げられていることを確認しておかなければならない。

クレブシエラは古くよりFriedlander’s bacillusとして知られ、とりわけ大酒家との関連が強調されてきた(J Crit Care 2000; 15: 85-90)。多数例の報告によれば市中肺炎(CAP)患者の4~15%に菌血症を伴い、これは主にS. pneumoniaeによるもので、グラム陰性菌による菌血症は1~2%と少ないけれども(Am J Respir Crit Care Med 2004; 169: 342-347、Clin Infect Dis 2009; 49: 409-416、Infection 2010; 38: 453-458)、CAPで入院となったアルコール依存患者28例のうち11例(39.3%)が菌血症を伴うK. pneumoniae肺炎で、発症後ごく短時間のうちに重症化し、適切な抗菌薬投与にも関わらず入院後平均24.6±7.9時間で全例死亡したという報告がある(Chest 1995; 107: 214-217)。K. pneumoniaeが咽頭に定着している頻度は健常者より大酒家で高いとも言われ、宿主因子を無視できないのは間違いなさそうだ。これはクレブシエラに限った話ではなく、成人CAP症例についての文献122報をレビューし、127のコホートにおける33148例を検討した研究によれば、全体の死亡率は13.7%で、死亡と関連する背景因子として、男性(OR 1.3)、糖尿病(OR 1.3)、悪性腫瘍(OR 2.8)、神経疾患(OR 4.6)、などが抽出されているのである(JAMA 1996; 275: 134-141)。

一方で、特別リスクになるような既往のない健常者が激烈な経過をたどり死に至ったとの報告も注目される(J Microbiol Immunol Infect 2012; 45: 321-323)。すなわち、菌自体に備わる病原性を問題にすべきだというのだ。実際、K. pneumoniae自体を予後因子として抽出した研究もあり、免疫能に明らかな問題がなくICUに入院した市中肺炎112例において多変量解析した結果、敗血症性ショックなどとともに、K. pneumoniaeが死亡の独立した因子であったという(Eur Respir J 2004; 24: 779-785)。さらに、国際共同研究の結果からクレブシエラ肺炎と大酒家との関連には地域差があることが明らかにされた。要するに、菌血症を伴うK. pneumoniae市中肺炎のほとんどは東アジアと南アフリカにみられ、この臨床的差異は大酒家というより、菌のもつ病原因子に地域差があることで説明できるという(Emerg Infect Dis 2002; 8: 160-166、Emerg Infect Dis 2007; 13: 986-993)。従来から知られているように、K. pneumoniaeの病原因子としては莢膜が重要であり、数多くの血清型がある。フランスにおいて急速致死性の菌血症例を引き起こした5例はすべてSerotype K2であった(J Clin Microbiol 2011; 49: 3012-3014)。これに対する生体側の反応として、サイトカインの役割も指摘されており、たとえば、人工呼吸管理を要する重篤な市中肺炎症例で、最初のempiric treatmentに対する反応が不良であった連続47例を対象とした研究において、K. pneumoniaeが分離された患者(n=10)においては、他の起炎菌に比べBALF中のIL-1β、血清とBALF中のIL-10レベルが有意に高く、非生存者においては生存者に比べ血清IL-8、血清とBALFのIL-10値が有意に高かったと報告されている(J Formos Med Assoc 2006; 105: 49-55)。

起炎菌そのものが予後因子になりうるとすれば、微生物学的検索を欠かすことができないはずだ。画像の特徴として、K. pneumoniae肺炎は大葉性で浸出液により葉間が圧排された“bulging fissure sign”が有名であり、膿瘍・空洞形成もしばしばみられるとされる。しかしながら、典型的所見を示すものはそれほど多いわけでない以上、喀痰や血液などの検体を提出する努力を惜しむべきではないだろう。

市中の多くの病院・診療所はもちろんのこと、ともすれば大学病院でさえ専門外の医師による診療が行われる。さらに連携を強化する方策がなければ、いくら専門医制度を充実させたとしても、コストがかかるばかりで、現場の医療レベルの向上に寄与するところが少ないものにならざるを得ない。コストばかりかかるシステムを、今後の経済状況がはたして維持できるのか不安を感じずにいられないのである。

そして実際、“専門医”にどれほどの権威があるのかわからないが、職を得るのには有利な場合もあるらしい。かつて漱石は「おれは博士なんかにはけっしてならない。博士だからえらいなんて思うのはたいへんなまちがいだ。博士なんていうものは、やってることはいくらか知ってるでもあろうが、そのほかのことはいっさい知りませんというはなはだ不名誉千万な肩書きだ」といった(阿部謹也:「世間」とは何か 講談社現代新書 1995年)。自己は一人自己によって立つと考えていた漱石の心情に近しいものを感じるのである。 (2012.12.31)

ニューモシスティス肺炎

2012年07月17日 05時53分51秒 | 感染症
春にひばりが空高く舞い、秋は紅く染まった山のあたりまで黄金色に埋まる小さな町では日和見感染症の可能性を想定して診療することなどまれだろう。実際、10年ほど前まではそれで大きな問題はなかった。しかしながら、今や患者もインターネットにより専門的な医学知識を獲得し、病院の評判を確認してから外来を訪れる時代である。遠くの専門病院に通う人びとも少なくないようだ。急患として受け入れた患者が免疫抑制薬や抗腫瘍薬、さらには聞いたこともない新薬などを服用しているのを後から知って驚くこともしばしばである。地域の医療機関においても遭遇しうる疾患の範囲は広がりつつあるように思う。

ニューモシスティス肺炎(PCP)は定期的にフォローしている患者であればたやすく疑うことのできる疾患だ。けれども、突然飛び込んでくる多くの肺炎患者を診療する中で、しかも基礎疾患や治療内容などの情報を充分得ることができないとすれば、想起することさえ容易ではない。とはいうものの、HIV感染者は今も増え続けている。都会とは隔絶した片田舎であったとしても存在して何ら不思議ではなく、また、PCPを発症するのはHIV感染者に限らない。血液悪性腫瘍や臓器移植、膠原病関連疾患、原発性免疫不全症、ステロイドや化学療法を受けている患者にもみられるのは周知のところだ(Chest 1984; 84: 81-83)。これらHIV陰性のPCP症例はHIV陽性例に比べさらに悪条件が重なってくる。突然の呼吸不全で発症し検査に制約を受けることが多いうえに、診断でもっとも重視されるのが病原体の確認であるにも関わらず、肺内の病原体数は有意に少なく、それを反映して喀痰などでの陽性率は低いのだ。死亡率もAIDS症例が10~20%であるのに対し、非AIDS症例は30~60%と高いことが知られている(N Engl J Med 2004; 350: 2487-2498)。

さらに驚くべきことに、一見、何らの基礎疾患も有していない例さえあるという(N Engl J Med 1991; 324: 246-250)。臨床的に免疫抑制を示唆する背景要因や所見は明らかでなかったというのだが、それでも詳細に検討してみるとTリンパ球機能の顕著な低下があったようだ。一方で、不顕性ながら正常な免疫能をもつ成人の半数以上にP. jiroveciiが感染しているという報告もあり(Clin Infect Dis 2010; 50: 347-353)、極めてまれではあるだろうが、免疫能に問題がない人でのPCPもありえない話ではないのかもしれない。

いずれにせよ、警戒すべきは基礎疾患を有する患者であるのは間違いない。ただし、ST合剤を予防内服させようとすれば、とくにリスクの高い患者群を抽出する必要がある。HIV感染者におけるPCPはCD4陽性T細胞が200個/μL以下で発生しやすくなるのはよく知られるところだろう。非HIV患者においても免疫抑制療法中にPCPを発症した7例全例で末梢血CD4が200/μL以下 (20~182/μL)であったとの報告があり、HIV感染者同様、末梢血CD4による管理が有用でありうるのかもしれない(Infection 2000; 28: 227-230)。しかしながら、たとえば低用量Methotrexate(MTX)療法中に発生したPCPの過去の研究ではCD4陽性細胞の減少はみられておらず、その有用性は限られる(Thorax 1992; 47: 628-633)。日本リウマチ学会による生物学的製剤の使用ガイドラインにはリスク因子として高齢、既存の肺疾患、ステロイド併用が挙げられているようだ(日本リウマチ学会ホームページ)。また、PCPを発症した癌患者26名(21名は固形癌、5名はリンパ腫)の検討によれば、遷延する高度のリンパ球減少、長期入院、放射線療法、強力な化学療法(とくにタキサン系を含む)が発症の危険因子であったという(Anticancer Res 2005; 25: 651-656)。

ところで、MTX治療中の患者ではPCP予防にST合剤を使用すべきでないといわれることがある。これは、MTXと同様、ST合剤の成分であるtrimethoprim も葉酸代謝を阻害する一方で、sulphamethoxazole がMTXの排泄を障害するため、骨髄抑制の危険性が増大するとされることによる。けれども、MTXが週25mg未満の量であれば重篤な骨髄抑制は発現しないと述べる総説もあるようだ(N Engl J Med 2004; 350: 2487-2498)。よって、禁忌であるとみなす必要はないのかもしれないが、他の薬剤を用いることも含めて慎重な態度が要求されると思う。

診断に際してまず最初に行われるべきは誘発喀痰であるとされ、その診断率は一般に50~90%と記載されている。この誘発喀痰は専門病院でなければあまり行われていないけれども、3%ほどの高張食塩水(10%食塩水15mLに35mLの蒸留水を加えれば作成できる)をネブライザーで吸入させて採取する方法が一般的だろう。陰性であれば次にBALが検討されることになるものの、侵襲的であることから行えないケースも多い。必然的にempiric therapyを開始せざるを得ないことになる。

その際、参考になるのがβ-D-glucanとKL-6である。BALFから診断されたPCP群57名と非PCP群238名を比較し、細胞数や分画は両群間で有意差はなかったが、血清LDH、β-D-glucanとKL-6はPCP群で有意に高く、ROC曲線からはβ-D-glucanがもっとも信頼できる指標であったと報告されている(Chest 2007; 131: 1173-1180)。β-D-glucan は菌体の構成成分そのものであることに加え、KL-6は好中球数が減少している症例では上昇しないことがあるというのもその理由かもしれない(Intern Med 2000; 39: 659-662)。

時代は目まぐるしく変化し、過去の成功体験はむしろ過ちのもとになりかねない。あちらこちらでつぶやかれているに違いないけれども、医療の分野も例外ではなさそうである。かつての常識が通用しなければ虚心坦懐に教えを乞うのみだ。そして最善を尽くすべく、今日も地域のなかで多くの関係者が奮闘しているに違いない。それでも想定されるすべての疾患について適切に対応するのは困難だという医療機関も少なくないはずである。検査を行うことができない、経験あるスタッフがいない、などというのはやむを得ないとしても、もし、経営上の観点から患者を抱え込み、しかるべき施設に紹介しないことがあるとすれば、そのことこそ責められるべきだろうと思う。 (2012.7.17)