ヒトの体を構成する約200種類の細胞のなかでも、とりわけ鮮やかに染色され、レンズを覗く者の目を惹きつけるのが好酸球だ。これが病態の核に位置する疾患は多岐にわたり、呼吸器の領域に限っても気管支と肺を舞台として数多くの疾患群が錯綜している。ここでは好酸球性肺疾患、とくにHypereosinophilic syndrome(HES)に焦点をあててみようと思う。
末梢血中の好酸球増加を伴う肺疾患群としてReederらがPIE(Pulmonary infiltration with eosinophilia)症候群を提唱したのは1952年だった。単純明快かつ臨床的にも便利なこの概念は、半世紀以上を経たいま、その意義をすっかり失ってしまったというわけではないけれども、組織学的に肺の著明な好酸球浸潤を認めるものがすべて末梢血の好酸球増多を伴うとは限らない。そこで、末梢血好酸球増加の有無を問わず、肺組織における好酸球浸潤こそが本質的事象であるとしてLiebowらによって提唱されたEosinophilic pneumonia(EP)がPIEにとって代わることとなった(分子呼吸器病 2000; 4: 497-504)。実際上は病理組織の代わりにBAL(気管支肺胞洗浄)がおこなわれ、マクロファージを除くBALF細胞のなかで好酸球がもっとも優勢であることをもってEPの診断根拠とすることが多い(Allergy 2005; 60: 841-857)。具体的には、BALFにおける好酸球分画は健常人で2%を超えることはなく、ただし2%~25%では非特異的所見とされることから、急性好酸球性肺炎(AEP)の診断においてはcut-off値は25%以上とされ、慢性好酸球性肺炎(CEP)においても40%以上とすることが推奨されている。とはいえ、BALF細胞分画中の好酸球増加が肺組織でのEP所見をいかに反映するかを厳密に示した研究はないようだ。
このように、EPは基本的に肺組織内に第一義的な病変があることを想定し、実際、ABPA(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)や寄生虫症などはもちろん、EP症例のほとんどにおいてBALF中の好酸球比率は末梢血におけるそれよりも高いことから、そこに浸潤している好酸球すべてが肺の傷害に寄与していると想像しがちであるけれども、必ずしもそうではない。単なる傍観者としてそこに存在するにすぎない場合や、むしろ、寄生虫に対する生体防御に積極的役割を担うものもある。一方、末梢血好酸球増加に臨床的意義がないわけではもちろんなく、その存在がEPを疑う重要な所見であることは間違いない。しかしながら、たとえばPneumocystis jiroveciiなどの肺感染症、非小細胞肺癌やリンパ性白血病などの腫瘍性疾患、さらには関節リウマチやWegener肉芽腫症などの膠原病関連疾患、特発性間質性肺炎やサルコイドーシスなど、一般にEPとはみなされない疾患でも軽度の末梢血好酸球増加をきたしうることは充分に認識しておく必要がある。以上を踏まえ、EPは研究者によって様々に分類されているけれども、臨床的な観点から、特発性のものと原因が明らかな続発性のものに大別し、さらに前者を肺に病変が限局するものと他臓器に及ぶものとに分けるのがわかりやすいように思う(Interstitial Lung Disease 4th ed. BC Decker Inc 2003年)。
この特発性のEPのなかで、HESはChurg-Strauss症候群とともに多臓器を侵す代表である。もともと、1968年にHardyらが原因不明の好酸球増加に心・肺・腎・消化管・皮膚・中枢神経系などの臓器障害を伴うものとして名づけたもので、個々の臓器というよりむしろ末梢血を含む全身性の病態として捉えようとするものだ。その後、Chusidらによる、①6か月以上持続する末梢血好酸球増加(1500/μL以上)、もしくはHESに関連する徴候を伴って6か月未満で死に至る、②アレルギー疾患や寄生虫疾患など好酸球増加をきたす疾患を認めない、③好酸球浸潤によると考えられる臓器障害(心不全、消化器機能障害、中枢神経異常、発熱、体重減少、など)がみられるもの、との診断基準が広く用いられてきた。男女比は9:1で、年齢は20~50代を中心に分布しているという。HESにおける肺病変は心、皮膚、神経系障害に次いで多く、40%~60%にみられ、夜間の咳や喀痰、喘鳴、呼吸困難などの症状を呈する(Blood 1994; 83: 2759-2779)。まれながらARDS様の所見を示した症例の報告もあるようだ(Chest 1994; 105: 656-660)。画像では特異的所見に乏しく、CTにて時に周囲にすりガラスを伴う結節影や巣状ないしびまん性のすりガラス影がみられる(Radiographics 2007; 27: 617-639)。剖検で好酸球の浸潤にくわえて浮腫やうっ血、血栓、梗塞をみたとの報告があり(Chest 1994; 105: 656-660)、実際、肺の浸潤影を認めてもそれが必ずしも好酸球による肺傷害とは限らない。むしろ、そのほとんどは心不全に伴う肺水腫によるともいわれ、その他、過凝固状態に起因する肺梗塞、さらには感染症の合併によるものもありえる。慎重な評価が欠かせないのはいうまでもないが、BALFでの好酸球増加はHESそのものによる肺病変を示唆する所見だ。同様に、胸水もHESの約半数にみられる頻度の高い異常であるけれども、しばしば随伴する心不全や肺塞栓によるもので、その性状は漏出性であることが多いとされる。それでもまれに滲出性で、好酸球優位の例も報告されているようだ(日呼吸会誌 2001; 39: 862-867)。
上に示した従来のHESの診断基準は好酸球増加を続発する疾患を注意深く除外し、そこから混じりけのない純粋な一群を抽出しようと企てたのかもしれないが、結果的にはあくまでも一部の表現型を共有するにすぎないものだった。そこには予想以上に多様な疾患群が紛れ込み、治療反応性や予後も一様でないことが明らかにされつつあるのだ。たとえば、主たる病変が肺にあるものではステロイドによく反応し予後も良いのに対し、心臓や中枢神経を侵すものは予後不良であることは比較的早く気付かれていた(Allergy 1982; 37: 539-551)。最近では分子レベルの解析も進められ、クローナルに増殖したTh2リンパ球がサイトカイン(主にIL-5)を産生するLymphocytic variantと、肝脾腫や貧血、血小板減少、血清ビタミンB12増加など骨髄増殖症候群の特徴を有するMyeloproliferative variantの存在が認識されるに至っている。とくに後者は細胞遺伝学的異常を伴い、時にEosinophilic leukemiaを発症するものがあるとされ(Allergy 2005; 60: 841-857)、さらに重要なことに、遺伝子異常をもつ一部の群ではimatinibが有効であることが示されたのである(Curr Opin Pulm Med 2007; 13: 422-427)。
上述のように、HESがそもそも既知の疾患・病態に続発したものでない、特発性のものと規定されていたことを踏まえれば、遺伝子レベルであるにせよ何らかの原因が解明されたものはHESの要件から外れることになりかねない。それを避けようとするなら、“続発性”の含む範囲を限定しつつ境界を明確にすることが求められるはずだ。これに限らず診断基準を構成する項目の一つひとつに対して浴びせかけられている数々の指摘は必然的にHESの概念そのものにも反省を促す結果となり、今や再定義/分類の試みが進行している状況である(J Allergy Clin Immunol 2010; 126: 45-49)。たとえば、CEPは女性に多く、約半数で喘息を合併し(Curr Opin Pulm Med 2004; 10: 419-424)、治療を含めた臨床経過についてもしばしばアルキル化剤が用いられるHESとは同一視しがたいものというのが従来の理解だった。しかしながら、Chusidらによる古典的なHESの規準を満たす症例もありえるうえに、CEPにおいても肺外病変を伴う例がないわけではないことから(Medicine 1998; 77: 299-312)、広義のHESに含まれるとする見解も提出されているのだ。
ここに見てきたように、好酸球性疾患をめぐる概念は変わりつつあるけれども、それを単に研究が進化し、証拠が蓄積されてきたという理由だけで説明してしまってよいのか疑問である。花粉症や喘息などのアレルギー関連疾患と同様に、好酸球性疾患も増えているのではないかとの不安をぬぐえず、しかも、AEPのような新たな病態が認知されたのもごく最近のことであることを考えれば、質的にも変化を遂げつつあるのかもしれないと懸念せずにいられないのだ。原因がいまだ特定されていないとはいえ、何らかの人為的環境中の抗原への暴露がひとつの要因であることは確からしい(Am J Respir Crit Care Med 2002; 166: 797-800)。しかしながら、因果関係を最終的に証明するには少数例の検討のみでは限界があるのは明らかだ。とくに頻度の少ない疾患については全国規模で疫学的研究を進める必要があるけれども、はたして日本の医学会にその力量があるだろうか。 (2011.3.21)
末梢血中の好酸球増加を伴う肺疾患群としてReederらがPIE(Pulmonary infiltration with eosinophilia)症候群を提唱したのは1952年だった。単純明快かつ臨床的にも便利なこの概念は、半世紀以上を経たいま、その意義をすっかり失ってしまったというわけではないけれども、組織学的に肺の著明な好酸球浸潤を認めるものがすべて末梢血の好酸球増多を伴うとは限らない。そこで、末梢血好酸球増加の有無を問わず、肺組織における好酸球浸潤こそが本質的事象であるとしてLiebowらによって提唱されたEosinophilic pneumonia(EP)がPIEにとって代わることとなった(分子呼吸器病 2000; 4: 497-504)。実際上は病理組織の代わりにBAL(気管支肺胞洗浄)がおこなわれ、マクロファージを除くBALF細胞のなかで好酸球がもっとも優勢であることをもってEPの診断根拠とすることが多い(Allergy 2005; 60: 841-857)。具体的には、BALFにおける好酸球分画は健常人で2%を超えることはなく、ただし2%~25%では非特異的所見とされることから、急性好酸球性肺炎(AEP)の診断においてはcut-off値は25%以上とされ、慢性好酸球性肺炎(CEP)においても40%以上とすることが推奨されている。とはいえ、BALF細胞分画中の好酸球増加が肺組織でのEP所見をいかに反映するかを厳密に示した研究はないようだ。
このように、EPは基本的に肺組織内に第一義的な病変があることを想定し、実際、ABPA(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)や寄生虫症などはもちろん、EP症例のほとんどにおいてBALF中の好酸球比率は末梢血におけるそれよりも高いことから、そこに浸潤している好酸球すべてが肺の傷害に寄与していると想像しがちであるけれども、必ずしもそうではない。単なる傍観者としてそこに存在するにすぎない場合や、むしろ、寄生虫に対する生体防御に積極的役割を担うものもある。一方、末梢血好酸球増加に臨床的意義がないわけではもちろんなく、その存在がEPを疑う重要な所見であることは間違いない。しかしながら、たとえばPneumocystis jiroveciiなどの肺感染症、非小細胞肺癌やリンパ性白血病などの腫瘍性疾患、さらには関節リウマチやWegener肉芽腫症などの膠原病関連疾患、特発性間質性肺炎やサルコイドーシスなど、一般にEPとはみなされない疾患でも軽度の末梢血好酸球増加をきたしうることは充分に認識しておく必要がある。以上を踏まえ、EPは研究者によって様々に分類されているけれども、臨床的な観点から、特発性のものと原因が明らかな続発性のものに大別し、さらに前者を肺に病変が限局するものと他臓器に及ぶものとに分けるのがわかりやすいように思う(Interstitial Lung Disease 4th ed. BC Decker Inc 2003年)。
この特発性のEPのなかで、HESはChurg-Strauss症候群とともに多臓器を侵す代表である。もともと、1968年にHardyらが原因不明の好酸球増加に心・肺・腎・消化管・皮膚・中枢神経系などの臓器障害を伴うものとして名づけたもので、個々の臓器というよりむしろ末梢血を含む全身性の病態として捉えようとするものだ。その後、Chusidらによる、①6か月以上持続する末梢血好酸球増加(1500/μL以上)、もしくはHESに関連する徴候を伴って6か月未満で死に至る、②アレルギー疾患や寄生虫疾患など好酸球増加をきたす疾患を認めない、③好酸球浸潤によると考えられる臓器障害(心不全、消化器機能障害、中枢神経異常、発熱、体重減少、など)がみられるもの、との診断基準が広く用いられてきた。男女比は9:1で、年齢は20~50代を中心に分布しているという。HESにおける肺病変は心、皮膚、神経系障害に次いで多く、40%~60%にみられ、夜間の咳や喀痰、喘鳴、呼吸困難などの症状を呈する(Blood 1994; 83: 2759-2779)。まれながらARDS様の所見を示した症例の報告もあるようだ(Chest 1994; 105: 656-660)。画像では特異的所見に乏しく、CTにて時に周囲にすりガラスを伴う結節影や巣状ないしびまん性のすりガラス影がみられる(Radiographics 2007; 27: 617-639)。剖検で好酸球の浸潤にくわえて浮腫やうっ血、血栓、梗塞をみたとの報告があり(Chest 1994; 105: 656-660)、実際、肺の浸潤影を認めてもそれが必ずしも好酸球による肺傷害とは限らない。むしろ、そのほとんどは心不全に伴う肺水腫によるともいわれ、その他、過凝固状態に起因する肺梗塞、さらには感染症の合併によるものもありえる。慎重な評価が欠かせないのはいうまでもないが、BALFでの好酸球増加はHESそのものによる肺病変を示唆する所見だ。同様に、胸水もHESの約半数にみられる頻度の高い異常であるけれども、しばしば随伴する心不全や肺塞栓によるもので、その性状は漏出性であることが多いとされる。それでもまれに滲出性で、好酸球優位の例も報告されているようだ(日呼吸会誌 2001; 39: 862-867)。
上に示した従来のHESの診断基準は好酸球増加を続発する疾患を注意深く除外し、そこから混じりけのない純粋な一群を抽出しようと企てたのかもしれないが、結果的にはあくまでも一部の表現型を共有するにすぎないものだった。そこには予想以上に多様な疾患群が紛れ込み、治療反応性や予後も一様でないことが明らかにされつつあるのだ。たとえば、主たる病変が肺にあるものではステロイドによく反応し予後も良いのに対し、心臓や中枢神経を侵すものは予後不良であることは比較的早く気付かれていた(Allergy 1982; 37: 539-551)。最近では分子レベルの解析も進められ、クローナルに増殖したTh2リンパ球がサイトカイン(主にIL-5)を産生するLymphocytic variantと、肝脾腫や貧血、血小板減少、血清ビタミンB12増加など骨髄増殖症候群の特徴を有するMyeloproliferative variantの存在が認識されるに至っている。とくに後者は細胞遺伝学的異常を伴い、時にEosinophilic leukemiaを発症するものがあるとされ(Allergy 2005; 60: 841-857)、さらに重要なことに、遺伝子異常をもつ一部の群ではimatinibが有効であることが示されたのである(Curr Opin Pulm Med 2007; 13: 422-427)。
上述のように、HESがそもそも既知の疾患・病態に続発したものでない、特発性のものと規定されていたことを踏まえれば、遺伝子レベルであるにせよ何らかの原因が解明されたものはHESの要件から外れることになりかねない。それを避けようとするなら、“続発性”の含む範囲を限定しつつ境界を明確にすることが求められるはずだ。これに限らず診断基準を構成する項目の一つひとつに対して浴びせかけられている数々の指摘は必然的にHESの概念そのものにも反省を促す結果となり、今や再定義/分類の試みが進行している状況である(J Allergy Clin Immunol 2010; 126: 45-49)。たとえば、CEPは女性に多く、約半数で喘息を合併し(Curr Opin Pulm Med 2004; 10: 419-424)、治療を含めた臨床経過についてもしばしばアルキル化剤が用いられるHESとは同一視しがたいものというのが従来の理解だった。しかしながら、Chusidらによる古典的なHESの規準を満たす症例もありえるうえに、CEPにおいても肺外病変を伴う例がないわけではないことから(Medicine 1998; 77: 299-312)、広義のHESに含まれるとする見解も提出されているのだ。
ここに見てきたように、好酸球性疾患をめぐる概念は変わりつつあるけれども、それを単に研究が進化し、証拠が蓄積されてきたという理由だけで説明してしまってよいのか疑問である。花粉症や喘息などのアレルギー関連疾患と同様に、好酸球性疾患も増えているのではないかとの不安をぬぐえず、しかも、AEPのような新たな病態が認知されたのもごく最近のことであることを考えれば、質的にも変化を遂げつつあるのかもしれないと懸念せずにいられないのだ。原因がいまだ特定されていないとはいえ、何らかの人為的環境中の抗原への暴露がひとつの要因であることは確からしい(Am J Respir Crit Care Med 2002; 166: 797-800)。しかしながら、因果関係を最終的に証明するには少数例の検討のみでは限界があるのは明らかだ。とくに頻度の少ない疾患については全国規模で疫学的研究を進める必要があるけれども、はたして日本の医学会にその力量があるだろうか。 (2011.3.21)