岩魚のひとり言

不良中年の戯言ブログ
日々の暮らしで感じた事を自由に書いていきます。

突然のできごと

2004-10-26 09:47:31 | 日記
 ある日、岩魚は生まれた川に来ていた。
相変わらずの山の中だ。静か過ぎて退屈な場所だった。
でも、安心して眠れる場所だった。でもその日はなんだか落ち着かない。
「なんだか、おかしな気分だ!!まあ疲れているのだろう!」
不安な気持ちを落ち着かせるかのように捕食する。がつがつ食らう。
「さあ、ゆっくり休むか」
10月23日午後5時56分、下から突き上げる揺れトランポリンの上にいるようだ。
「何だ!こりゃ。」間髪いれずに今度はゆさゆさ横にゆれ始める。
実際は、縦揺れだか横揺れだか良くわからないトランポリンの上にいる感じだ。
「こんな感覚は経験したことないぞ!」
水が濁る、木が川をふさぐ、ごつごつと恐ろしい音を立てながら岩が川に入ってくる。
岩魚は逃げる何が起こっているのか?わからないまま逃げる。雪の季節がもう直ぐなので
暗い、暗い月明かりも微塵に感じない。そのうち揺れが治まる。
何が起きたのか?暗くてわからない。
とにかく、本能のままに安全なところに行こう!
「あの、滝壷なら・・・。」
ところが滝壷が無い!それに見たことのある尾ビレが石の下から飛び出している。
とても逃げ込んでいるような尾ビレではない!はらわたが飛び出しているのがわかった。
岩魚のおじさんだった。とても大きく今まで人間には釣りあげられたことなく、以前イタチに
やられた左眼を失っていた。勇敢な岩魚だ!こんなことであっさりと命の火が消えるなんて・・・。
はかないものである。どんなに勇敢でも強くても敵わないものが世の中にある。

「ああ!ここも安全じゃない!」岩魚はその場所から離れた。
泣いている暇はない。生きなければ次の瞬間がやってこない!
「そうだ!堰堤に行こう!あそこなら何とかなるに違いない」
渓流を下る、しかし下るすべが無い、続いていない!崩れ落ちた岩で川がふさがれていた。
「ああ・・・。」
 また突き上げるような揺れ・・・。怖い!死ぬのはやだ!まだまだやりたいことがある。
世界に行きたい。こんなところで終わりたくない。
真っ暗の闇、その後、何回も恐ろしい目に遭遇した。
岩魚の人生で恐ろしい災害に遭うのは後にも先にもこのときだけだった。

夜が明けた、明かりが景色を浮かびあがらせた。
「なっ、なんなだ!何もかも変っている!」
「これが俺の生まれたふるさとなのか・・・。」
地震のせいでまったく違う世界が目の前を覆っていた。
夕べの岩魚のおじさんの屍ばかりではなく、ありとあらゆるものの生き物の屍が
目の前に広がっていた。
 自然の恐ろしさをこんなところで経験するなんて思っても見なかった。
命の儚さをここで知ることになろうとは・・・。
毛渡川はもう直ぐ雪が降る・・・。
寒い、寒い冬が直ぐそこまで来ている。そんな日のできごとだった。
 
 岩魚はまだ揺れの残る土地を離れることにした。
下流に住むヤマメの彼女のことが心配になった。
山を越え谷を渡り下流に向かった・・・。
2日後、ようやく彼女の元にたどり着く無事だ!よかった。
そこでようやく岩魚は泣いた。安心感から泣いた、泣くことができた。