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散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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ハーフ

2019-04-15 23:32:02 | 日記

2019年4月11日(木)

 最寄駅のホームで長身の白人男性が、前を通り過ぎる親子連れに声をかけた。

 「かわいいね、手に何もってるの?」

 "rice cracker" と即座に返した母なる女性の、反応の速さと発音が日本人離れしている。微笑の風を残し幼女の手を引いて歩み去るのへ、白人男性また間髪入れず「英語、上手ね!」

 この布置で、つり込まれるなというのが無理な話で、考えるより早く

 「そういうあなたは、日本語上手ね」

 声をかけていた。男性がふりむき、
 
 「わたし?日本語上手?だって、わたしハ―フよ。見えない?そう言われるね」
 
 ビジネススーツにアタッシュケース、50がらみの禿頭の紳士の、表情にも言葉にもいたずらな微笑が満ちている。医者と名のったら「何の医者?」ときた。「内科?外科?切る人、切らない人?精神科!おお、いちばんアブナい人ね」
 
 冗談ずくめかと思えば、
 
 「男性と女性、精神科の患者さんはきっと女性が多いでしょう?日本の女性は余裕がなくて、ヒステリーが多いからね」
 
 しっ、声が大きい。だいいち「ヒステリー」は業界的にはほぼアウトなんだから。それにしても、
 
 「ハーフってのは、お父さんとお母さんと、どっちが日本人なの?」
 
 「ああ、あれね、私ハーフっていったのは、お父さんとお母さんのハーフってことよ、あはは。気に入った?よかったら使ってね」
 
 はいはいやられました、アメリカではこういうひっかけが日常的にあったな。
 ニュージーランド生まれという彼は、名刺によると世田谷区内でコンサルタント会社を経営している。夫人が日本人なのだそうで、日本語の巧みさも女性評も、そういう背景があったのね。ヒステリー説はさておきストレス状況は見逃せない、現に日本の女性の自殺率は世界で3番目に高いが、余裕がないのは女性に限ったことではないなどと伝え、ついでに、二ュージーランドは住民の幸福度も世界屈指の高さ、日本よりよほど住みやすいでしょうとお世辞を使ったら、ここではウーンと考えこんだ。謙虚にものを考えるなら、自国には思い複雑、採点辛めになるとしたものである。しばらく言葉を選んだ末、
 
 「治安は日本の方がいいよ」
 
 と、そこに戻ってきた。折しもクライストチャーチでイスラム教徒に対する大量殺人があったばかりだが、
 
 「テロはね、今はどこでもある。日本でも地下鉄サリン、あったでしょ。それにNZのあの事件の主犯はオーストラリア人でね、ちょっと安心した」とまたイタズラ笑いして、「もっと日常の治安のこと、これは日本の方がいいね」と三度強調する。あの事件は移民に寛容な政策の必然的な結果だと評したオーストラリアの極右議員に、17歳の少年が生卵をぶつけて殴られたことを思い出したが、話題にする時間もない。10分程で目黒に着き、さっさかスタスタ振り返りもせずに降りていった。
 
 短い時間で伝えられなかったことが、実はもうひとつある。「お父さんとお母さんのハーフ」というナゾかけは初耳ではない、ずっと前に聞いて感心したことがあった。
 
 太田幸司である。
 
 昭和44年、夏の甲子園第51回大会決勝、三沢高校のエースとして松山商業相手に延長18回ひきわけ再試合の激闘を演じ、惜敗の準優勝に輝いたあの太田幸司。僕は豫州少年だったから打倒三沢を願ってTVにかじりつき、ひきわけとなった直後には熱まで出して寝込んだが、むろんアッパレな相手が憎くてではない。太田が近鉄バッファローズに鳴物入りで入団してからは、活躍・大成を期待したものだった。
 
 その太田の出自が少々複雑であることを、今ではインターネットであからさまに読まされてしまうが、当時そんなことは知りもせず興味もない。白皙の美男子ぶりと恵まれた体格が、どこか「大鵬に似てるな」と思ったぐらいである。ただ、少し後になって太田幸司の活躍を描いたマンガを少年誌で読んだ記憶がある。その中にある逸話が描かれていた。「アイノコ」とからかわれ、ふさいでいる幸司少年に、父親が「いいこと教えてあげよう」と耳打ちする。「人間は誰でも皆、お父さんとお母さんのアイノコなんだよ」と。
 
 紙面から伝わった温かい雰囲気を、剽軽たNZ人が半世紀ぶりに思い出させてくれた。
 
 入れかわりに乗ってきたのは白丈の若い女性で、立ったままイヤホンをつけてスマホを使っている。右前の座席が空いていることを伝えると、朗らかに礼を述べ、見えているかのようなムダのない身のこなしでスルリと腰をおろした。
 
 念の入った出不精で、とりわけ人混みは嫌いぬいているが、出れば出たでこんなことも起きるのである。
 

https://www.afpbb.com/articles/-/3220021

 

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201806/20180627_74053.html

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