ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

アジア、そして日本

2007年09月27日 | 日々の思い

 

  この見慣れない地図。どこの地域を示したものかパッと見て気付くでしょうか?ご自身の視線は地図上をどのように移動するでしょうか?

 僕の視線はまず地図の中央周辺をウロウロとし、その後左下の端のほうに移って、そこに見える馴染みある、しかし北海道が「南」に来ている日本地図の存在に注目し、そして初めて、この図がアジアの地図をひっくり返したものであることを認識します。そしてこれまで無意識のうちに自分の認識の中で省略されていた色々な事実を再認識している自分に気付かされます。

 例えば、まずアジアが巨大な大陸であるということ。そしてそんな大陸アジアの中で、地理的に日本が圧倒的に端っこに位置している事実を改めて強烈に認識させられます。さらに日本が何とも長細く、九州とアジア大陸、例えば韓国や中国との距離と、東北地方との間の距離をみると、明らかに前者のほうが近いことにも気が付きます。

 そして、最大の気付きは、どうにも落ち着かない自分がいること。なぜか?

 改めて、こちらの馴染みのある地図に目を移してみました。

    

 不思議とほっとするような違和感が薄らいでいく感覚を覚えるのは僕だけではないと思います。

 その理由は恐らく、この地球の一部を描いた図と対峙する際に、無意識のうちに「中心」を自分の中に持ち、その中心を軸として図に描かれたその他の部分を認識しているからではないでしょうか。

 地理的には明らかに中心でないにも関わらず、私たちがアジアの地図を見るときに常に意識の中心に据えている対象、それは日本列島にほかなりません。

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 先日開かれた今年度の第一回Harvard松下村塾。塾生一人一人からの自己紹介と「今後10年間で日本が直面する最大の課題」というテーマで問題意識を述べたのち、僕のほうから、今年の研究テーマの候補の一つとして挙がっている「アジアの更なる経済統合の可能性と日本の役割」について、問題提起を兼ねたプレゼンテーションをした際に、最初に用いた図がこの「上下あべこべのアジア地図」でした。

 というのも、この見慣れない、しかし厳然たる事実を示した図を見ることで、アジアと日本の関係を再認識する一つのきっかけとなるのでは、と考えたからです。

 プレゼンテーションに続くディスカッションではこの地図について様々な意見が出されました。例えば、「そもそもアジアとはどこからどこまでを指すのか?」という疑問。

 地理学的にはアジアとはヨーロッパ、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、オセアニアと並ぶ6大州の一つとして位置づけられ、西は中東アラブ地域(トルコまで)から東は日本までとされています。

 ここでまた興味深いのは、「西は中“東”」という説明。西なのに東?明らかに混乱の見られる記述ですが、地球上でどこが西でどこが東かはまさに自分がどこに立ってものを見るかによって異なります。日本列島を“中心”として世界地図を眺めることに慣れている僕にとって、トルコは西にほかなりませんが、近代の発祥の地であるヨーロッパからみると東であるという訳です。

 話がそれましたが、 地理学上はこのように広大な地域を指すアジアですが、「日本にとってのアジア」と考えてみると、中国・台湾・朝鮮半島そしてASEAN諸国で、インド以西の地域は含まないというのが一般的な見方でしょう。しかしそれは何故?「大東亜共栄圏」のなごりでしょうか? 

 また別の論点として、「この地図を見ると日本がヨーロッパにおけるイギリスのように、つまり大陸(アジア)と距離をおく(距離をおかれる)存在に見える」という見方も示されました。

 確かに、例えば「文明の衝突」で知られるハーバード大学の政治学教授、サミュエル・ハンチントン氏の理論では、冷戦の終焉以後、アジアは中国、イスラム、ヒンドゥー、仏教そして日本という4つの文明で彩られています。また独自の「文明の海洋史観」で知られる元早稲田大学教授の川勝平太氏は、「海洋アジアからの物産の流入というインパクトに対するリスポンスとして、近代文明がヨーロッパと日本に生まれた」というパラダイムを提示しており、そもそも日本がアジアに属しているのか、という点は論争的です。

 文明論はさておいて、果たして日本人の一般的な心理の中で、日本はアジアに帰属しているでしょうか?例えば、「アジアン・キッチン」と聞いてどのような印象を持つでしょう?殆どの人が「エキゾチックな(異国風な)」印象を持つのではないでしょうか?少なくとも「今日のディナーはアジアン・キッチンにしようか?」と聞いて、和食を想像する人は誰もいないでしょう。

 つまり、文明論的にも僕たちの意識の中でも、日本はアジアに帰属していない、いやもう少し正確にいえば、白人や黒人が登場しない限りにおいて、日本はアジアとして自己をIdentifyしていないように思うのです。

 一方で、先ほどの大東亜共栄圏ではないですが、「アジアの中の日本」「アジアの中で日本はどのようなリーダーシップを取るべきか?」というテーゼは常に日本の国の形を考える上でつきまとう問題であることも事実です。

 文化、宗教、政治システム、経済レベルなどあらゆる面において、欧州や他の大陸と比較して多様性に満ちたアジアとどのように対峙するのか、日本をアジアとの関係においてどのように位置づけるのか?

 「ソフトパワー」という切り口から日本に光を当てた昨年に続く、今年のHarvard松下村塾での研究テーマは、国際経済の切り口からアジアとの関係という文脈において自分の日本観を再構築するという、チャレジングでエキサイティングなものとなりそうです。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
見方次第なのね (けいくん)
2007-10-11 10:48:03
ご無沙汰です!

アメリカでも大活躍だね。

この地図のひっくり返し、昔

なんだったかなぁ。アンソロポロジーか

何かの授業で、同じようなアプローチしている

先生いたよ。なつかしい。

アジアと日本の関係は、考えることから

始めないといかんね。アジアの友人と話を

しているといつも思いますわ。
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>けいくん (ikeike)
2007-10-24 07:24:26
久し振り。コメント有り難う。お返事が遅くなってしまってごめんなさい。
相変わらず元気そうで何より。こちらは活躍中というか右往左往、悪戦苦闘中と言ったほうが正確です(苦笑)。でもだからこそ学ぶものも多いのだけれどね。来年6月には帰国するから、また色々議論したり遊んだりできるのが楽しみです。皆にもよろしく!
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