ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

Harvard 松下村塾

2006年12月03日 | ケネディスクールのイベント

 ケネディスクールで学ぶ意義のひとつに、ここCambridgeの「地の利」を挙げる人は多いと思います。

 Cambridgeには、政治・行政大学院であるケネディスクールのほかにも、ハーバードのプロフェッショナル・スクールとして、Medical School、Business School、Law School、Design School、Public Health、Educationといった様々な分野の大学院が軒を並べるほか、少し足を伸ばせば、外交・安全保障分野の名門校であるTufts大学のFletcher School、僕がサマースクールでお世話になったBoston University、そして理系の最高峰であるMassachusetts Institute of Technology(MIT:マサチューセッツ工科大学)など、様々な分野で世界トップクラスの大学院がひしめいており、町全体がさながら「巨大な知の集積地帯」の様相を呈しています。

 つまり、刺激的や議論や自己研鑽の場はケネディスクールを超えて、町全体に広がっており、ともに切磋琢磨する学生は、政治・行政関係者だけでなく、医師、弁護士、ビジネスマン、教師、デザイナー、研究者などなど、様々な分野で活躍するプロフェッショナルなのです。

 今日ご紹介する「ハーバード松下村塾」も、そんな「知の集積体」から生まれた刺激的な学びの場のひとつ。

 1979年に出版されベストセラーとなった「Japan as Number One -Lessons for America- 」の著者であるハーバード大学教授のエズラ・ボーゲル先生の私塾として、ハーバードの各プロフェッショナル・スクール、タフツ大学、MIT等で学ぶ日本人留学生・研究者をメンバーに毎年開催される「ハーバード松下村塾」に、今年も約40名の有志が集い、月一回の全体会合やテーマごとの分科会で、活発な議論が交わされています。

 塾生は各自の希望沿って「政治班」「経済班」の二つに分かれた上で、さらに個別のテーマに分かれ、10名前後のメンバーで来春までにレポートなどのアウトプットを出すべく、勉強会を重ねていくことになります。今年のテーマは塾生からの様々な発案を絞った結果、以下の4つとなりました。

【政治班】 「対中国戦略」・「日本のソフトパワー」

【経済班】 「日本産業の国際競争力の強化」・「格差社会や人口減少などの社会問題を乗り越えられる日本型社会システムの構築策」

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 僕が所属する「日本のソフトパワー」グループでは、8名のメンバーで議論を続けています。「ソフトパワー」については、このブログの中でも、ジョセフ・ナイ教授の特別講義の模様を紹介した「ソフトパワーとリーダーシップ」で触れましたが、簡単に言うと、

 「武力や経済力ではなく、文化や政治思想に裏打ちされた「国の魅力(=ソフト)」で持って、他国の行動を自国に望ましいように変える力」

と定義されるようです。

 日本を離れてこの5ヶ月間、様々なシーンで日本のソフト(=魅力)を再認識させられる機会は多くありました。例えば、マジンガーZで日本語を覚えた韓国人の友人の話は前回触れましたが、その他にも

AZUMIって全巻読んだのだけれど、そもそもどういう意味?忍者の一族?」って聞いてくるシリア人の友人、あるいは、ベッドルームがハローキティ一色で埋め尽くされているペルー人の友人・・・

      

さらには、「魔女っこメグちゃん」から「エスパー魔美」まで日本の“魔女アニメ”の変遷を真剣に研究しているアメリカ人、日本の五輪真弓の「心の友」の歌詞の素晴らしさを力説するインドネシア人の友人などなど・・・日本のソフト(=ポップカルチャー)に“魅了”されている友人たちとの出会いは枚挙に暇がありません。

           

 また、環境保護のキーワードである3R(Reduce, Reuse, Recycle)を一言で表現できる単語として、アフリカ初の女性ノーベル平和賞受賞者であるケニアの環境副大臣ワンガリ・マータイさんがキャンペーン中の「もったいない」の精神、唯一の被爆国として世界に発信し続けている「核廃絶のメッセージ」「非核三原則」など、日本独自の、しかし世界で普遍的な価値を持ち得る「ソフト」は、実は数多くあるように思います。

 一方で、こうした日本の数ある「ソフト」が、国の目標を達成するための「パワー」として力を発揮し得るか、という視点で見るとどうでしょう?ポケモンが如何に人気があっても、寿司ファンが如何に多くても、それが、日本の目標達成にどのように貢献し得るでしょうか?また、過去にそういう事例はあったのでしょうか?この問いかけが勉強会のテーマです。

 問題提起に答えるべく、ケースの一つとして取り上げるのが、「不平等条約改正と武士道精神」の関係です。

 日本史の授業で習ったとおり、関税自主権の喪失、領事裁判権の承認を主内容とした列強との不平等条約の改正は、明治日本の最大の国家目標でした、この目標達成のために、国を挙げて、例えば、富国強兵による軍事力強化、殖産興業による経済力強化といったハード・パワーの増大に努めた結果、日本は日清・日露戦争に勝利し、1911年に日米通商航海条約の改訂調印という形で、目標を達成した訳ですが、この目標達成は本当にハード・パワーだけに依るものなのでしょうか?

 ここで、僕たちの研究グループでは、当時日本が世界に誇ったソフト・パワー、即ち「武士道の精神」に注目します。

 具体的には、日露戦争における国際法の徹底的な遵守や、捕虜や敗戦の将に対する敬意。さらには、内村鑑三による“Japan and the Japanese(代表的な日本人)”、新渡戸稲造による“Bushido(武士道)”、岡倉天心による “The Book of Tea”など、当時、欧米でベストセラーとなった英文の日本文化論など・・・こうした「武士道精神」の存在・発揮とその効果的な発信なくしては、「不平等条約解消」という目的達成は覚束なかったのではないか?これが、研究グループの仮説です。

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 今後、年明けにはボーゲル先生に中間報告をするとともに、「ソフト・パワー論」の生みの親であるジョセフ・ナイ教授に対してプレゼンテーションをし、示唆を頂くことも考えています。

 現在、ボーゲル先生は中国の北京で研究活動中。“中国色”に染まっているかもしれないボーゲル先生に、"Japan as number one" ならぬ“Only one”の日本のソフト・パワーを再認識して頂くきっかけを創るとともに、この勉強会を通じて、一日本人として僕たち一人ひとりが、日本の魅力について理解を深めることができればと思っています。


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6 コメント

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おや、 (konpe)
2006-12-06 13:39:12
こんな所で。(ごっしー風 笑)

最近のボーゲル塾になかなか出席できず、歯がゆい思いをしてますが、Cambridgeの地の利は私も常々思っているところです。ぜひ学内外で、いろんな学びの場を盛り上げていきましょう。今後とも何卒よろしくお願いします。
>Konpe さん (ikeike)
2006-12-06 14:34:29
 コメント有難うございます。Konpeさんもブログを開設しているんですね。早速拝見させていただきましたが、「ジャンケンの国際比較」には思わずラモント図書館で一人で「クククッ」と笑ってしまいましたよ~。

 こちらも、本業とジャパンコーカス・ボーゲル塾・ボストン日本人会などの貴重な課外活動の機会を両立するのが難しく、日々フラストレーションをためてます(苦笑)。アメリカに来て早5ヶ月、言語も含め次第に慣れつつあるので、これから一層貢献していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
Unknown (Kohei)
2006-12-07 11:42:08
Gobusata.
Kinou HP mituketa.

Kotti ni kitemo ganbatterune.

Nitobe no busido- to mitanode, jibun ga omosiroito omotta busidou no naiyou wo syoukai simasu.

Nihon jin ha seizensetu dato iumonode, (Nitobe tekiniha tetugaku mo sikkarisiteiru toiitainodarouga),
Sono riyuuzukega omosiroku, jinjyade nihon jin ha sansyu no jingi ni mukatte ogamu, sono jingi no hitotu ga kagami dearu. Nihon jin ha kagamiwo toosite, onorewo nagameru (= utini sin narumonoga aru, =seizensetu)

Sore ni taisiteha Cristian ha syokuzai no sekaidakara, seiakusetu da,nadonado.

maxa kottini kite, mukasino nihon jin mo omosiroi kotowo kangaetanato kyoumi bukakatta.


>Kohei (ikeike)
2006-12-08 02:57:06
 こちらこそ久しぶり。コメントに加え、勉強会にも役立つ情報有難う。
 こちらは、おかげさまで、相変わらず不器用に右往左往していますが、次第になれつつあります。
 「武士道」については祖父にもらった大切な本なため、日本語版・英語版ともにアメリカまで持ち込んでいます。期末試験が終わったらもう一回熟読する予定。時に、なぜローマ字!?(笑)また日本を脱出してしまったとか?
 
NHKからの質問 (寺西)
2008-03-14 17:50:46
NHKではブログを拝見して、初めて連絡させて頂きますNHKの寺西と申します。
今年9月の放送予定で日米の経済関係をテーマにしたシリーズの特集番組、NHKスペシャルの制作を進めております。このシリーズの1本として、日米交流をテーマに出来ないかと思い、取材を進めていたところ、アメリカにおいて日米交流を担っている中心人物のひとりにハーバード大名誉教授のエズラ・ボーゲル氏の存在が浮かび上がってきました。そこで、ボーゲル氏のことをネットでいろいろ調べていると、「ハーバード松下村塾」という取り組みがあると知り、そちらのブログを見付けた次第です。

そこで、今年度の松下村塾のテーマとスケジュール(いつ頃、作成が終わるか)、メンバーのこと、そして、現在のボーゲル氏の活動などについて知りたく思い、連絡させて頂きました。

一度、お電話ででもお話しを伺うことは可能でしょうか?

あるいはネット情報によると、今年度の松下村塾の幹事は山崎さんという方のようですが、山崎さんをご存知であれば、ご紹介して頂くことは可能でしょうか?



突然のお願いでお手数をお掛けしますが、このメールをご覧になりましたら、ご返答願えれば幸いです。

また、あくまでもリサーチ段階ですので、現時点で教えて頂いたことが放送に出ることはありませんので、ご安心くださいませ。

よろしくお願いいたします。



NHKスペシャル・ディレクター

寺西 浩太郎

携帯:+81-90-1046-8092
>寺西さん (ikeike)
2008-03-20 11:14:50
コメント・ご連絡有難うございました。少しでもお役に立てたなら何よりです。
25日のパーティの場でまたお会いできるのを楽しみにしております。今後とも宜しくお願いいたします。

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