白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

コンピュータ囲碁について・その12「アルファ碁に勝つためには?」

2016年04月02日 23時53分03秒 | AI囲碁全般
彗星の如く現れたアルファ碁は、人間のトッププロ棋士を破ってしまいました。
開発者のデミス・ハサビス氏は間違いなく歴史に残る天才でしょう。
しかし、囲碁は数千年の歴史があります。
いずれ完全に上を行かれるにしても、今はまだ人間が頑張れる、一度は人間が勝たねばならないと考えています。
そのためにはどうすれば良いでしょうか?

1、隙を見せない
アルファ碁は、有利な状況を作ると決してそれを手放しません。
心理的な迷いなど一切なく、正確に追い詰めてきます。
そのような状況に追い込まれないよう、気を付ける必要があります。

2、布石は中央重視
これは1と関連します。
力関係で不利になると、必然的に弱点が浮かび上がってきます。
そうならないために、隅に潜るよりも中央重視で、戦闘の石数で不利にならないことが必要になってきます。

3、ヨセでミスをしない
ヨセでのミスは勝敗に直結します。
体力、精神力の問題で人間には厳しい部分ですが、ここを乗り切らねば勝利はありません。

今回、1、2の点で李九段は不利でした。
1に関しては、李九段の棋風が裏目に出ていました。
李九段は自分から仕掛ける棋風ですが、無理をした所を的確に咎められた印象でした。
2、に関しては、李九段はツケ引き定石など、隅の地を稼ぐ展開を選ぶことが多かったです。
しかしそれがアルファ碁の強さを引き出してしまった感は否めません。
3に関しては、これはもう頑張ってくださいと言うよりありません。
しかし、人類対コンピュータという観点からすれば、別の方法も考えられます。
アドバイザーとして他のトップ棋士が控えておくのです。
これによって所謂ポカ、うっかりミスを無くすことができます。
(対局者が着手を仮決定後、アドバイザーがそれにコメントするイメージです)
第1局井山裕太九段+アドバイザーに柯潔九段+朴廷桓九段
第2局柯潔九段+アドバイザーに井山裕太九段+朴廷桓九段
第3局朴廷桓九段+アドバイザーに井山裕太九段+柯潔九段

日中韓のランキング1位を集めた、このような3番勝負は如何でしょうか?
私は、これなら人間が勝てると考えています。

コンピュータ囲碁について・その11「アルファ碁対李世ドル九段・総評」

2016年04月02日 23時50分02秒 | AI囲碁全般
第1局から第5局まで、アルファ碁の戦力分析は1局ごとに大きく変わりました。
全部見た結論としましては、アルファ碁は長距離ランナーであるということです。
序盤は勢力志向、それを生かして中盤では決して致命傷を負わず、終盤は安定したペースでゴールに辿り着く。
これがアルファ碁の勝利パターンだと思いました。
石を取るか取られるかのような局面では意外にも完璧ではなく、むしろ李九段が自ら体勢を崩したところで止めを刺している印象がありました。
強引とも思われる仕掛けからリードを奪っていく李九段としては、相性が悪かったかもしれません。

コンピュータ囲碁について・その10「第5局、アルファ碁勝利」

2016年04月02日 23時44分55秒 | AI囲碁全般
最終局、李九段はなんとしても勝ちたかったはず。
とにかく大きなミスを出さないように心がけていたように見えました。
ただ、堅くなりすぎてしまったでしょうか。

http://gokifu.net/t.php?s=8191459001942438
毎日3万局の模擬対局を行っているアルファ碁に流行り廃りは関係ないように思えますが、白12のような最新の手を打っているのが面白いです。
ただ、白16の手によって全く違った意味を持ってきます。
人間のプロは右下に余裕を持たせるために白12を打ちましたが、アルファ碁は碁盤を大きく使うために打っている、と考えられます。
黒17からの仕掛けへの一連の対応からも同様の思想(?)が読み取れます。
黒25までの分かれは互角のように見えます。
右下の地は確かに大きいですが、白も良い姿です。
アルファ碁得意の碁形であろうことを考えると、むしろ李九段としては勝ちにくくなったようにも見えます。
しかし、右下白48からの折衝は明らかに失敗でした。
他の利き筋やコウ材をすべて消してしまいました。
ややこしい攻め合いの読みは苦手なのでしょうか?ここで黒優勢になりました。
しかし黒69はどうだったか?結果的にはこの手が敗因かもしれません。
白70とボウシされると白80までほぼ一本道、ここで黒に迷いが生じました。
黒81では膨らみで問題なかったと言われていますが、対局者としては警戒するのもやむを得なかったかもしれません。
実際に第1局、第3局と予想外の強烈なパンチを貰っているのですから・・・。
ともあれ黒99まで凹まされては白のペースになりました。
そして黒107への対応は流石のものです。
白112の剛手など思い付いても相当打ちづらい手ですが、躊躇なくやっていきます。
かと思えば白124であっさり攻めを放棄してしまう・・・。
このあたりは流れを重視する人間とは根本的に違うところです。
アルファ碁最大の強みかもしれません。
白166までと進み、どうやら白勝ちが確定したようです。
ここからアルファ碁にはミスがありませんでした(白からコウを仕掛けるチャンスなどありましたが、危ない橋を渡ろうとしませんでした)。
李九段としても最善を尽くしたと思いますが、もはやチャンスはありませんでした。

コンピュータ囲碁について・その9「第4局、待望の初勝利!」

2016年04月02日 23時42分21秒 | AI囲碁全般
圧倒的な強さを見せ付けたアルファ碁。
しかし、弱点はありました。

http://gokifu.net/t.php?s=331458914962039
途中までは全く李九段らしからぬ碁でした。
白22まで十分の布石ですが、黒23への対応からおかしくなります。
黒39まで、すっかり押さえつけられてしまいました。
さらに右辺の白52も信じられない対応。
李九段ならずとも切りたいところなのですが・・・。
結果、中央を丸呑みされては敗色濃厚となりました。
しかしここから奇跡が起こります。
白72の味付けから白78の割り込み!
誰も気付かないような妙手でした。
この一手で急に難解な局面になりましたが、正しく対応していれば黒はリードを保てていたはずです。
しかし、ここからアルファ碁は信じられない乱れ方をします。
まず、大事な黒79の手を間違えてしまいました。
これで白は逆転に成功しました。
それだけならまだ勝負は決まっていないのですが、そこから悪手のオンパレード。
あっという間に白勝ちが決まりました。
まるで白78によって、動揺したかのようです。
他の対局の正確さから考えれば恐らく稀なケースだとは思いますが、大きな弱点であることは疑いのないところです。
意図的にそういう局面に導けるかどうかによって、今後の対アルファ碁での勝率が変わってくるでしょう。
ともあれ、1勝返したことで次もひょっとしたら、という期待が生まれました。

コンピュータ囲碁について・その8「第3局、アルファ碁は中盤も人間を超えている」

2016年04月02日 23時39分08秒 | AI囲碁全般
第3局は、アルファ碁の強さが最大限に発揮された碁でした。
http://gokifu.net/t.php?s=1641458826753109
黒15と序盤から仕掛けましたが、やや無理だったようです。
白28まで、難なく中央に脱出しました。
白30は、形が頼りないので一見悪そうな手です。
しかし次の手と関連していました。
白32!この手が凄い手です。
とても思いつかない手ですが、見れば見るほど急所に来ているのがわかります。
そしてきつい手を打ったかと思えば、白36とあっさり体をかわします。
しかし黒37の追及に対しては、一転白38の最強手で反撃しました。
変幻自在の打ち回しです。
白76となって、早くも黒絶望的な形勢になってしまいました。
ちなみに白50や白62といった手は明らかに悪手なのですが、その損失は無視できるレベルのものです。

この対局は、連敗して後のない李九段の必死の頑張りが印象的でした。
序盤はそれが裏目に出てしまいましたが、ここからも気力を振り絞って戦います。
黒77は、誰も気が付かないような手です。
ここから無理やり事件を起こして、上辺の白と刺し違えようという捨て身の作戦です。
白はここでも冷静で、90や112とがっちり生きました。
然らばと黒は113から策動し、125に勝負をかけました。
普通では手にならない所ですが、結果的にコウに持ち込んでは大成功といえます。
しかし、残念なことにコウ材が足りず、逆転には至りませんでした。

トップ棋士の中でも特に李九段は戦いを得意にしていますが、その李九段が戦いでコンピュータに遅れを取ってしまいました。
第1局に引き続いてのことですから、これはコンピュータは中盤戦も人間を上回っている、と考えざるを得ません。
コンピュータの戦力分析は更新され、中盤戦までにリードしていなければ人間は勝ち目がない・・・そう思われました。