白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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鉄人・杉内雅男九段

2016年04月18日 23時59分59秒 | 対局
皆様こんばんは。
本日は私の過去の対局をご覧頂きます。
2009年11月26日名人戦予選
白石勇一二段(黒)対杉内雅男九段
当時25歳と89歳です。
杉内先生は普段は普通のお年寄りといった様子なのですが、碁盤の前に座った瞬間に背筋がピンと伸びて碁打ちの姿勢になります。
しかし、流石に89歳ですから当然私が勝つだろうと思っていました。



黒21と一杯に詰め、白22と反撃して戦いが始まりました。




黒1、3の攻めの常套手段に対し、白4、6も戦いの呼吸です。
強気に行くにしても足元はしっかり固めておかなければいけません。
黒13と飛び越して黒は安泰、ここで白がどう守るかという場面で白14が面白いタイミングでした。




白1と渡れば素直ですが、黒2の大場に先行されます。
後から三々に入っても、黒は地を重視した受け方でどうということはありません。




そこで先に三々に入り、黒2以下の受けなら白9の大場に先行してしまいます。
黒10以下と攻めようとしても、白の大石は予め強化されています。




実戦は黒2と攻めの姿勢を打ち出しましたが、そこで白3と渡ってかわします。
隅を大きく生きられてはたまらないので黒4ですが、白5の大場に回ることができました。
意欲的な打ち回しだったと思います。




黒も1の手筋から反撃して黒9までと突き抜いて一段落です。
足早に打ち回されましたが、黒も互角以上に戦える形勢でしょう。
ここまで白石二段も頑張っています。



しかし白1に対応を誤りました。
黒8、14などに問題があり、白17までと鮮やかにサバかれてしまいました。



当然黒1と裂いて行きますが、白2、4と平然と下辺を受けられています。




黒1で攻められると思っていましたが、甘い判断です。
白数子を処分して下辺で稼ぎ、白10。
これで攻めが利かない姿です。




黒1以下の侵略も、白を板の厚みにしては踏み込み不足でした。
もっと厳しく踏み込むか、あるいは広い下辺に入るなどしなければいけません。
白10となってはっきり白優勢です。
この後はチャンスらしいものもなく押し切られてしまいました。白3目半勝ちです。

負けて当然悔しいのですが、この時ばかりは畏敬の念が上回りました。
どれだけの努力を重ねれば、89歳でこれだけの碁が打てるのでしょうか。

あれから6年の歳月が流れ、杉内先生は現在95歳。
昨年の成績は8勝10敗でした。
まだまだご健在です。
杉内先生に対する畏敬の念は、日々上方修正されています。

なお、今月私は日本棋院情報会員用のページで昨年の杉内先生の対局を解説しています。
ご興味をお持ちになった方は、ぜひご覧ください。