薫風に背中を押され軽やかにペダルを踏む。雨さえ降らねば、強風さえ吹かねば、自転車乗りはご機嫌である。ことのほかこの季節は嬉しい。
ただ、ひとつ悩ましいことがある。それは陽射し。照ってないからと安易に決めつけると大変である。曇り空でも日焼けする。また、熱中症や日射病の怖さも無視できない。
「帽子をかぶらんとぉ。それに水も持ってるの?」
と、立ち寄ったみっちゃんの嫁さんに諭された。子ども扱いである。でも、当たってる。
ぼくの中学時代、部活中水を飲んではいけなかった。うさぎ跳びに泣かされたとボヤけば、
「いつの時代の話よ」
と冷やかされる。だから、多少の無茶無謀に耐えられる自信はある。ところが、冷や水なんだそうだ。何の冷や水かは書きたくないが、
「だから言ったじゃないかぁ!」
と言われたくない自分がいる。己を知ることから、華麗な成熟が始まるかも知れない。
「そうだ、帽子を買おう!」
帰り道で決断した。量販店は好きでない。スポーツ店で買うべきだ。だが、時代の趨勢は哀しい。町から帽子屋さんが消えて久しい。悲しいかな、大手スーパーでしか買えない商品の一つだ。昔からお世話になっているスポーツ店、申し訳なさそうに奥から出してくれた。在庫量が極端に少ない。種類もない。熟考の末、ベーシックな純白の野球帽をレジに持って行ったら、五百円にしてくれた。嬉しいというよりかえって申し訳ない。窓ガラスに映るぼくは、心なしか頭部の白色が浮いている。すぐさま後ろ前にする。帰ってフィルタに残った珈琲で麻色に染めてみようと思う。純白が似合わない年齢だな。
シェフからデリシャスな差し入れをいただく。ご馳走の予感…?
帽子が笑う不気味に 価格:¥ 1,500(税込) 発売日:2006-09-29 |