ジャズの創始者と言えば…?
誰をさせばよいのだろうか。
自ら創始者を名乗ったのは、ジェリー・ロール・モートンというピアニストである。今では、映画「海の上のピアニスト」で主人公1900とピアノ決闘をした男としてよく知られているであろう。日本ではジャズ通でこそ「知る人ぞ知る」であるが、映画で初めて知ったという向きが圧倒的に多いであろう。しかし、本場米国においては、ルイ・アームストロング、デューク・エリントンなどと並んでジャズの創始者として高い評価を得ている。
森の石松ではないが、誰か忘れちゃいませんか
と言いたくなる存在の人物がいる。
その人の名は、バディ・ボールデン。ニューオリンズでひときわ大きいコルネットを吹き鳴らし、多くの女性を魅了したらしい。あのサッチモ(ルイ・アームストロング)が幼少の頃ホールデンのラッパを聴き、それがラッパ吹きになる契機となったといえば話としてでき過ぎだろうか。サッチモ自身、彼のコルネットを聴いたことがあると回想している。
天才の宿命というべきか、奇矯な振る舞いの多い御仁で、良識派といわれる人々のひんしゅくを随分買ったという。事実、最盛期、パレードの最中に発狂し、以後亡くなるまでの約24年あまり、精神病院で過ごしたという。
このバディ・ボールデン、 ジェリー・ロール・モートン、サッチモが登場するミステリ小説があり、今日読破した。タイトルが何とも言いづらいのであるが思い切って書いてしまう。ディヴィッド・フルマー作「快楽通りの悪魔」である。ジャケットを見て欲しい。レジーまで持っていくには勇気を要する。
人種の坩堝、ニューオリンズの歓楽街で娼婦殺しが連続して起きるのだが、町の支配者(実在の人物である)の依頼を受け、クレオールの私立探偵が犯人探しに翻弄される。この探偵と幼なじみで、親友でもあるバディ・ボールデンが容疑者にされ、処刑の危機に瀕する…。
クレオールといえば、白人と黒人の混血児または子孫をさす言葉である。主人公は白子(ピート・ハミルの「愛しい女」で強烈な印象を受けた)と呼ばれるほど皮膚の色は白く、頭髪の縮れでそれと分かるほどなのだが、当時の差別構造はねじれていてかなり複雑な様相を呈する。過酷な試練に立ち向かう主人公のひた向きな姿に打たれ、夢中になってしまった。場所柄と時代考証がぴったりハマり、印象深い。連続殺人の動機にはたまげるぞ。
で、サッチモのラッパが今日のBGMであるべきところなのだが、不思議なことにそれがエンヤである。I夫人からお借りしたばかりである。タイトルと同名曲、「Amarantine [from US] [Import]」が素晴らしい。