猟盤の日々改めDEADMAN IS ALIVE!

ヴィニル・ジャンキーの猟盤話から死んだ人の話を経て、呑み屋の話になったり、ギターの話になったり。。。

戦後日本の独自の音楽って?

2008-10-22 | 音楽
JAPROCKSAMPLER ジャップ・ロック・サンプラー -戦後、日本人がどのようにして独自の音楽を模索してきたか-
ジュリアン・コープ
白夜書房

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原書に興味はあったんだけど、まさか翻訳本が出版されるとは思わなかった。執筆者のジュリアン・コープは英国生まれのミュージシャン、なぜか日本のロック史にやたら詳しい人。さまざまな当時の関係者のインタビューから引用しているのだが、まさに「見てきたように嘘をいい」的描写が面白い。全体の1960年から70年前半の日本のロックの捉え方は概ね正しいのだが、ディテールに誤解があり、それを訳者が注をつけて訂正する、という構造が不思議な効果を産んでいる。注がこんなに面白かったのは1980年の田中康夫の「なんとなくクリスタル」(古い!)以来。
なんとなく、クリスタル (新潮文庫)
田中 康夫
新潮社

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誤解の例としては、
「加山(雄三)は1961年に、大ヒットを記録したティーン映画シリーズの第一作『ワカダイショウ』(ヤング・ジェエラル)の主役を演じてスターの座についた。(中略)ロックンロールと歴史上のヒーローを合体させることにした『エレキの若大将』(若き将軍のエレクトリック・ギター)と題され加山とその好敵手、テリー寺内のギター・バトルをフューチャーした映画は恐ろしいほどのヒットを飛ばし(後略)」
それに付記された訳注は
「コープは『エレキの若大将』をチョンマゲ姿の加山雄三がエレキ・ギターを弾きまくる時代劇と勘違いしているのかもしれない。」と書いている。
エレキの若大将

東宝

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「見てきたような」描写と誤解が絡まっているのは
「以後数ヶ月、音楽業界の昔なじみたちと友情を新たにした内田(裕也)の姿が、渋谷の劇場街にある東横劇場でしきりに目撃されるようになった。30歳になり自分が商業的成功と無縁なことにますます焦りを感じていた内田は、旧友であるポリドール・レコードのボス、折田育造といっしょにお茶をのみながら、若いヒッピーのキャストをチェックした。折田は日本独自のヘヴィ・ロックをシリーズ的にリリースして、売れることしか頭にないこのシーンを覆してやる、と宣言した。」

訳注「当時、折田は内田の旧友ではなかったし、ポリドールのボスでもなかった。そしてヘアーの若いキャストをチェックしたこともなかった。」といった具合である。なかには「このアルバムについての記述はすべて創作&妄想と言えるだろう」なんていうものまで出てくる。

僕は1980年代に雑誌「ブルータス」に掲載されたW・C・フラナガンの「素晴らしい日本野球」を思い出してしまった。実は作家小林信彦がフラナガンなのだが掲載では著者はウィリアム・C・フラナガン William C. Flanagan。訳者の小林信彦によれば、1954年ブルックリン生まれのアメリカ人で、ニューヨーク大学で日本映画史を専攻した後、地元で日本関係の仕事に就き、同書執筆当時は若手ナンバーワンの日本文化研究家を自認」ということになっていた。中身はガイジンの誤解だらけで
「日本野球のルーツはヤキュウにあり、ヤキュウとは陰謀を得意とした柳生一族のジュウベエが創始者である」
「同じ名前の選手が異なったチームにいると、それは日本伝統のカゲムシャである」
などデタラメだらけなのだが、それに当時メジャーリーグ通で有名だった慶應大学の池井優教授が真剣に指摘、反論をしてしまってちょっとかっこわるかった記憶がある。
素晴らしい日本野球 (新潮文庫)
小林 信彦
新潮社

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それにしてもコープの日本のアート・音楽に対する熱意は、赤瀬川原平らが1963年に始めたパフォーマンス・アート・トリオ「ハイレッド・センター」、一柳慧と前妻オノ・ヨーコからミュージカル「ヘアー」など日本人の知らないことにまで及んでいる。以下のコンテンツを見てもらえればそれがわかるのではないかと思う。10月5日の日比谷野音のFLOWER TRAVLLIN'BANDの30数年ぶりのライブに行ったんだけど、冒頭で内田裕也が本書をかかげながら「FTBが日本一のロックバンドだとこの本にあります!」と叫んでいた。内容の誤解はともあれ、内田裕也について詳細に書いたジャーナリズムが日本に無かったのも事実なのだ。

<第1部>
1:マッカーサーの子供たち
2:日本のエクスペリメンタリズム(実験)の音楽(1961ー69)
3:エレキ・ブーム
4:グループ・サウンズの時代

<第2部>
5:カム・トゥゲザー1969 日本のアンダーグラウンドの誕生
6:フラワー・トラヴェリン・バンド
7:裸のラリーズ
8:スピード、グルー&シンキ
9:タージ・マハル旅行団と小杉武久
10:J・A・シーザーと日本の前衛劇団
11:佐藤允彦と限りない可能性を模索した時代
12:ファー・イースト・ファミリー・バンド

<日本版特別解説対談> 近田春夫 VS マーティ・フリードマン
<特別インタビュー> 折田育造 (レコードプロデューサー)

巻末の「著者の選ぶ日本ロックアルバム50選」には未聴のものも多いのだが、おすすめのものを選んでみた。

イヴ 前夜

ダブリューイーエー・ジャパン

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悪魔と11人の子供達
ブルース・クリエイション
コロムビアミュージックエンタテインメント

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身毒丸

インディペンデントレーベル

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VIVA ! 渋谷シネマヴェーラ!

2008-10-08 | 映画
渋谷区円山町の「Q-AXビル」はまるでシネマテーク・シネコンだ。ユーロスペース、渋谷シアターTSUTAYA、そしてシネマヴェーラ。そこに行けば普通のロードショー館とは異なる映画がいつも上映されている。ユーロスペースにはアキ・カウリスマキ監督「浮き雲」「過去のない男」フランソワ・オゾン監督「まぼろし」「ゆきゆきて、神軍」やレオス・カラックス作品等々ずいぶんお世話になっていたのを知った。今は亡き六本木WAVE地下「シネ・ヴィヴァン」でもずいぶんそんな映画を見た記憶がある(伝説の六本木WAVEのお話しはまた別の機会に)。

シネマヴェーラは邦画の旧作をあるテーマのもと、上映している映画館、料金は二本見ても1400円、受付の女性もキュート。最近そこで見たのは

『内田吐夢110年祭』 8/02 ~ 08/22  
「宮本武蔵 般若坂の決斗」「宮本武蔵 一乗寺の決斗」「たそがれ酒場(16mm)」
   
『妄執、異形の人々Ⅲ』 8/23 ~ 9/19 「とむらい師たち」「電送人間」
『浅丘ルリ子の映画たち』9/20 ~ 0/10 「私が棄てた女

といったところ。「とむらい師たち」は野坂昭如の小説を藤本義一が脚色し、三隅研次監督の1968年の映画。大阪万博の一年前の大阪が舞台の妙な葬式ビジネスの話なのだが「おくりびと」なんてもんじゃない死人のデスマスク作りから葬儀コマーシャル、葬儀博覧会ととんでもなく展開、勝"パンツ"新太郎、伊藤"ゴテ雄"雄之助、藤村"パンサ"有弘(インチキ外国語芸の元祖)、藤岡"サッポロ一番"琢也、財津"キビシッ~!"一郎らが最高に上手い。 財津以外はもはや皆鬼籍に入ってしまった。

私が棄てた女」は1969年、「女好き」浦山桐郎監督、原作は遠藤周作の女性が見たら噴飯ものの男を僕の大好きな河原崎長一郎が演じている。彼が主人公「シャカ」を演じた1971年の映画「やさしいにっぽん人」、緑魔子の主題歌とともにオススメ。浅丘ルリ子は当時28歳、日活アクション映画以外の彼女をスクリーンで初めてみたけど美しい!画像の三本、いまだ未DVD化。ろくでもない新作を製作する前に日本の映画会社は自社のアーカイブをもう少し大事にして欲しいもの。

1995年に出版された立川直樹森永博志の対談本「シャングリラの予言」は僕のバイブルみたいなもんなんだけど、その続編「続シャングリラの予言」(2002)を読んでいたら「真っ暗闇の中で観てこそ映画」という章があって、シネマテークの素晴らしさで盛り上がっていた。この本だって絶対に文庫化すべきだと思う。どこに行っても同じ映画のシネコンじゃなくて、時代、監督、国、俳優などテーマにした旧作をフィルムで観られるシネマテーク・シネコンこそ増えてほしいのだ。
続 シャングリラの予言
立川 直樹,森永 博志
東京書籍

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シネマヴェーラの話ばかりになってしまったけど、最近観た映画はこんなところ。
メイド・イン・ジャマイカ」 サードワールドのメンバーが金持ちなのびっくり。
ホットファズ」 英国っぽいくだらなさ、Monty Pisonを思い出した。
ダークナイト」 長い、だけど面白い。でも一番好きなのはティム・バートンの「リターン」。
レス・ポールの伝説」 冒頭のキースもいいが、やはり多重録音のくだりが面白い。
アクロス・ザ・ユニバース」 ファースト・シーンの「GIRL」のアレンジ、ブルコメのカバーみたい。
コッポラの胡蝶の夢」 原題「Youth without youth」「胡蝶の夢」というのはもちろん荘子の胡蝶の夢の話。テーマは「輪廻」、年寄りには面白い。
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