(2011年10月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
中国は史上最も野心的な鉄道建設計画を推し進めたのと同じ勢いで、高速鉄道への投資に急ブレーキをかけた。急停止を受けてシステム全体がむち打ち状態に陥り、作業員は賃金をもらえず、大量の重機が放置され、中国の未来を背負うはずだった新幹線の建設計画が遅れる事態になっている。
■600人いた作業員が20人に
中国の高速鉄道への投資に急ブレーキがかかった(10月18日、武漢の整備場で高速列車の車輪を検査する作業員)=ロイター
農地が広がる覇州では、砂利道沿いに未完成の柱や止まったままのセメントミキサーが並んでいる。ここは天津と保定を結ぶ高速鉄道網の主要路線となるはずだったが、7月に中国東部の温州市近郊で起きた衝突事故の後、幾多の大型鉄道計画とともに中断されてしまった。40人の死者を出した衝突事故は、世界最大の高速鉄道網の建設を急ぐあまり、中国がいかに手抜きをしたかを明らかにした。
「すべてが以前よりずっと厳しくなっている。お金がないから、作業員に賃金も払えない。それに品質検査が極めて厳格だ」。中国の線路の大半を敷設してきた国営企業、中国鉄路工程の現場監督はこう話す。
経済が全般的に減速する中で、中国政府は成長を刺激する手段として、棚上げされた投資の一部を再開する可能性があることを示唆した。だが今のところ覇州の現場では、ピーク時に約600人いた作業員のうち、残っているのは20人で、完成がいつにせよ、線路沿いを走ることになる側道を舗装するために砂利の入った袋を運んでいる。現場監督によると、建設計画のうち承認されたのが側道部分だけだったという。
■国家威信の源が失墜
中国中鉄の幹部ワン・メンシュー氏は先日、国営メディアに対し、資金不足のために中国全土で1万キロ以上に及ぶ線路の建設が停止されたと述べ、再開されなければ、鉄道産業の600万人の労働者が苦しむことになると付け加えた。
結束の固い中国鉄道産業は長年、政府の資金を大量に受け取ってきただけに、突然の資金不足は初めて経験する厄介な事態だ。
温州の事故の前、高速鉄道は絶大な国家威信の源だった。中国初の新幹線が運転を開始したのは2007年のことだが、同国はそれから4年もせずに世界最大の高速鉄道網を築き上げた。計画では、2020年までに高速鉄道網の総延長を2倍にする予定になっていた。だが、信頼が失われてしまった。
「我々は真剣に基礎から設計を検査し、欠陥を特定しなければならない。結局のところ、高速鉄道は始まったばかりだ」。中国鉄道産業の主要研究開発拠点である浙江大学交通科学研究所のホアン・ジーイ氏はこう話す。
北京市内を通過する高速列車(9月16日)=AP
鉄道投資は2009年の景気刺激策で急増した後に鈍り始めていたが、7月の温州の衝突事故以降の落ち込みは急激だった。年初からの統計値を見ると、鉄道と輸送に対する投資は2011年1~6月期に7%増加した。それが9月末には19%減となっている。
■徐々に計画を再開する政府
過去5年間の建設ラッシュに戻る可能性はほとんどないが、政府は徐々に高速鉄道計画を再開しようとしているようだ。計画を再開すれば、減速している経済をすぐに押し上げるだろう。また、長期的には、大きな構造的変化を促すと見られる。中国内陸部が開放され、国内の経済成長がより自律的になるだろう。
中国政府の最初の課題は、投資家をなだめることだ。急増する鉄道省の債務(2兆1000億元=3300億ドル=を超える)への懸念と金融引き締めが衝突事故と重なって市場心理が損なわれ、鉄道省は資金調達計画の延期を余儀なくされていた。
行き詰まりを打破するために、財政省は今月、2013年までに発行される鉄道省債から得られる金利収入への課税を半分にすると発表した。この措置は200億元の債券発行への地ならしとなり、その後も起債が続く見通しになった。国務院も銀行に対し、鉄道省への融資を増やすよう命じている。
■根本的な改革は置き去りに
だが、中国政府は国民の懸念にも対処しなければならない。温州の事故以来、乗客数は急減している。鉄道省の統計によると、中国の9月の鉄道旅客数は1億5100万人で、7月実績より3000万人近く減った。
それでも中国政府は、徹底した安全点検を命じたほかは、根本的な改革にはほとんど意欲を見せていない。覇州の線路脇のコンクリート工場は取り壊されていない。ドアに南京錠がかけられているだけで、再開を待っている状態だ。
By Simon Rabinovitch
(翻訳協力 JBpress)
中国は史上最も野心的な鉄道建設計画を推し進めたのと同じ勢いで、高速鉄道への投資に急ブレーキをかけた。急停止を受けてシステム全体がむち打ち状態に陥り、作業員は賃金をもらえず、大量の重機が放置され、中国の未来を背負うはずだった新幹線の建設計画が遅れる事態になっている。
■600人いた作業員が20人に
中国の高速鉄道への投資に急ブレーキがかかった(10月18日、武漢の整備場で高速列車の車輪を検査する作業員)=ロイター
農地が広がる覇州では、砂利道沿いに未完成の柱や止まったままのセメントミキサーが並んでいる。ここは天津と保定を結ぶ高速鉄道網の主要路線となるはずだったが、7月に中国東部の温州市近郊で起きた衝突事故の後、幾多の大型鉄道計画とともに中断されてしまった。40人の死者を出した衝突事故は、世界最大の高速鉄道網の建設を急ぐあまり、中国がいかに手抜きをしたかを明らかにした。
「すべてが以前よりずっと厳しくなっている。お金がないから、作業員に賃金も払えない。それに品質検査が極めて厳格だ」。中国の線路の大半を敷設してきた国営企業、中国鉄路工程の現場監督はこう話す。
経済が全般的に減速する中で、中国政府は成長を刺激する手段として、棚上げされた投資の一部を再開する可能性があることを示唆した。だが今のところ覇州の現場では、ピーク時に約600人いた作業員のうち、残っているのは20人で、完成がいつにせよ、線路沿いを走ることになる側道を舗装するために砂利の入った袋を運んでいる。現場監督によると、建設計画のうち承認されたのが側道部分だけだったという。
■国家威信の源が失墜
中国中鉄の幹部ワン・メンシュー氏は先日、国営メディアに対し、資金不足のために中国全土で1万キロ以上に及ぶ線路の建設が停止されたと述べ、再開されなければ、鉄道産業の600万人の労働者が苦しむことになると付け加えた。
結束の固い中国鉄道産業は長年、政府の資金を大量に受け取ってきただけに、突然の資金不足は初めて経験する厄介な事態だ。
温州の事故の前、高速鉄道は絶大な国家威信の源だった。中国初の新幹線が運転を開始したのは2007年のことだが、同国はそれから4年もせずに世界最大の高速鉄道網を築き上げた。計画では、2020年までに高速鉄道網の総延長を2倍にする予定になっていた。だが、信頼が失われてしまった。
「我々は真剣に基礎から設計を検査し、欠陥を特定しなければならない。結局のところ、高速鉄道は始まったばかりだ」。中国鉄道産業の主要研究開発拠点である浙江大学交通科学研究所のホアン・ジーイ氏はこう話す。
北京市内を通過する高速列車(9月16日)=AP
鉄道投資は2009年の景気刺激策で急増した後に鈍り始めていたが、7月の温州の衝突事故以降の落ち込みは急激だった。年初からの統計値を見ると、鉄道と輸送に対する投資は2011年1~6月期に7%増加した。それが9月末には19%減となっている。
■徐々に計画を再開する政府
過去5年間の建設ラッシュに戻る可能性はほとんどないが、政府は徐々に高速鉄道計画を再開しようとしているようだ。計画を再開すれば、減速している経済をすぐに押し上げるだろう。また、長期的には、大きな構造的変化を促すと見られる。中国内陸部が開放され、国内の経済成長がより自律的になるだろう。
中国政府の最初の課題は、投資家をなだめることだ。急増する鉄道省の債務(2兆1000億元=3300億ドル=を超える)への懸念と金融引き締めが衝突事故と重なって市場心理が損なわれ、鉄道省は資金調達計画の延期を余儀なくされていた。
行き詰まりを打破するために、財政省は今月、2013年までに発行される鉄道省債から得られる金利収入への課税を半分にすると発表した。この措置は200億元の債券発行への地ならしとなり、その後も起債が続く見通しになった。国務院も銀行に対し、鉄道省への融資を増やすよう命じている。
■根本的な改革は置き去りに
だが、中国政府は国民の懸念にも対処しなければならない。温州の事故以来、乗客数は急減している。鉄道省の統計によると、中国の9月の鉄道旅客数は1億5100万人で、7月実績より3000万人近く減った。
それでも中国政府は、徹底した安全点検を命じたほかは、根本的な改革にはほとんど意欲を見せていない。覇州の線路脇のコンクリート工場は取り壊されていない。ドアに南京錠がかけられているだけで、再開を待っている状態だ。
By Simon Rabinovitch
(翻訳協力 JBpress)