21日の欧米外国為替市場で円相場が一時1ドル=75円78銭まで急騰し、8月19日に付けた史上最高値(75円95銭)を約2カ月ぶりに更新した。欧州債務問題が大詰めを迎えて市場の思惑が交錯し、投機筋の円買い・ドル売りに加え、リスクを回避しようとする資金が円に集中した。市場では、欧米経済の減速懸念や米国の追加緩和観測などから、歴史的な円高水準が長期化するとの見方が出ている。
東京市場では1ドル=76円台後半で推移していたが、日本時間午後9時すぎから一本調子の円高が進行。午後10時すぎに最高値を更新した。75円台に上昇したのは短時間で、投機筋の円買いが引き金とみられている。背景として、政府が21日決めた円高対策への失望や欧州債務問題の先行き不安、米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和第3弾(QE3)に動くといった思惑もある。
円が最高値を更新したのは今年3回目。歴史的な円高水準は、東日本大震災の後、半年以上続いている。特段の材料がない中で最高値を更新したのは、円高・ドル安に振れやすい構造的な理由があるからだ。
市場関係者の今後3カ月の予想 みずほコーポレート銀行 マーケット・エコノミスト
唐鎌 大輔氏
1ドル=75~79円
米経済は今夏が底で、11月以降年内は悪化するとは考えにくい。下がりすぎた米金利は上昇し、日米金利差が広がり緩やかに円安へ
シティバンク銀行チーフFXストラテジスト
高島 修氏
1ドル=75~78円
欧州問題への懸念などを背景に円高圧力が続く。ただし、米景気にも明るさが見えており、1ドル=75円を超える円高が加速するリスクは低い
三菱東京UFJ銀行シニアアナリスト
内田 稔氏
1ドル=76~78円
経常黒字国の通貨の日本円はリスク回避姿勢が強まると買われる。ただ、貿易収支の赤字化や、企業のM&Aなど対外投資の増加を背景に円売り需要も増えていることから、円高がこれ以上進むとは考えにくい。
ひとつは世界的なリスク回避の動きだ。欧州債務危機で新興国から投資資金を引き揚げる動きが加速。相対的に安全とみられやすい円が逃避通貨として買われている。
日米欧の景況感格差も潜在的な円高要因だ。日本経済は東日本大震災の復興需要がけん引して回復途上にあるが、欧米では減速懸念が台頭している。米金融コンサルタント会社MFRのエリック・ニッカーソン氏は「欧州情勢が依然として不透明なことを背景にリスク回避の円買いが出た」と指摘する。
先行き日米の金利差が縮小するとの思惑も円買いを促している面がある。英ロイズ・バンキングのエイドリアン・シュミット氏は「FRBが追加緩和に乗り出す可能性が改めて意識された」と語る。
円相場は震災直後の今年3月中旬、76円25銭まで上昇し、約16年ぶりに戦後最高値を更新した。日米欧の通貨当局が協調介入に踏み切ったものの、円買いの流れが止まらず、政府・日銀は8月4日に単独で過去最大規模の円売り介入を実施した。円相場は一時80円台に急落したが、欧州債務問題などで再び円高に振れ、8月19日に75円95銭の最高値を更新。以来、76~77円台の高値圏で推移していた。
円相場が最高値を更新したことで、市場では介入への警戒感が出てきた。安住淳財務相は「必要な場合には断固たる措置をとる」と強調している。ただ、単独介入で円高の流れに歯止めをかけられるかどうか疑問視する声もある。