米グーグルと韓国サムスン電子は19日、グーグルの最新OS(基本ソフト)を搭載したスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)「GALAXY NEXUS(ギャラクシー・ネクサス)」を発表した。日本ではNTTドコモが同端末を11月に投入する予定。これまで対応が遅れていたグローバルモデルを世界の主要市場とほぼ同時に発売できることになった。グーグルなどは、米アップルが14日に発売した「iPhone4S」に対抗するための戦略機種と位置づけており、使い勝手やデザイン、アプリの開発環境を大幅に高めた。日米韓3社がスマホ市場での主導権を握ろうと関係を強化している構図が鮮明になり、年末商戦に向けて出足好調な新型iPhoneとの競り合いが注目される。
■3台目のレファレンスモデルが日本でも発売に
香港でアイスクリームサンドウィッチ搭載の「GALAXY NEXUS」を発表する米グーグルのアンディー・ルービン上級副社長(左)と韓国サムスン電子の申宗均無線事業部長=AP
新端末にはグーグルの最新OS「Android(アンドロイド)4.0」(開発コード名、Ice Cream Sandwich=アイスクリームサンドウィッチ)を搭載した。1.2GHzのデュアルコアプロセッサーを内蔵し、画面サイズは4.65インチで、1280×720ピクセルの「HD Super AMOLED」ディスプレーを搭載する。
これまでグーグルはアプリ開発者向け(レファレンス)モデルのアンドロイドスマホとして「NexusOne」(台湾HTC製)、「NexusS」(サムスン製)を市場に投入してきた。今回はサムスンが世界で出荷を伸ばしている人気ブランド「GALAXY」を使い、世界でのシェア拡大を目指す。日本のアプリ開発者はこれまで個人輸入などでレファレンスモデルを入手する必要があったが、今回からはドコモが正式に発売する端末を使えるようになる。
グーグルの新OSを搭載したサムスン電子の「GALAXY NEXUS」
「4.0」には、従来のスマホ向けプラットフォーム「GingerBread(ジンジャーブレッド)」と、タブレット向けの「Honeycomb(ハニカム)」を融合させたような操作性を実現した。指先で画面のソフトウエアボタンを軽く触ればすべての操作ができる仕様で、本体正面にはハードウエアのボタンは一切配置していない。側面に音量や電源ボタンがあるだけだ。
ハニカム搭載のタブレット端末は操作が直感的ではなく、やや難しいところもあったが、「4.0」は従来のアンドロイドスマホから乗り換えても違和感のないほど容易に扱える。アプリの画面を切り替える時も、スムーズでとても使いやすい。
「NEXUS」は近距離無線通信の国際標準規格NFC(Near Field Communication)にも対応。端末を2台重ね合わせることで、電話帳や画像、アプリなどのデータを交換・共有できるようにもなった。
■プラットフォーム進化でメーカーの差異化が困難に
「4.0」は操作のしやすさと洗練されたハードウエアによってアップルのiPhoneに真正面から対抗しうる機種といえる。今後のアンドロイドスマホが進む方向性を予見させる仕上がりといってもいい。
一方、OSを含むプラットフォームの進化によって、メーカー間での端末の差異化競争が一段と厳しくなることも予想される。「NEXUS」はカメラ機能を強化し、連続撮影やパノラマ撮影などができる。連続撮影は日本の携帯電話メーカーが得意としてきた技術だが、これが標準搭載されることで日本勢の優位性が揺らぐ恐れもある。ソーシャルメディアとの連携も端末各社が進めているが、「4.0」が実装する「ピープルアプリ」は、「Google+」やTwitter、Linkedinとの融合も実現した。
グーグルのOSであるため、「Google+」との連携強化は当然としても、それ以外のソーシャルも垣根なく使えるようになると、メーカー各社がソフト面で突出した機能を持たせることが難しくなってくる。ソフトで個性を発揮できなければ、メーカーはおのずとハード面のコストや機能競争に軸足を移さざるを得ず、差異化が一段と難しくなりそうだ。
■発表延期で割を食ったNTTドコモ
NTTドコモは10月18日の発表会では、GALAXY NEXUSの具体的な発表をできず予告にとどまっていた
「NEXUS」の登場は、iPhoneとのシェア争いとともに、日本の携帯業界がグローバル市場に追いつけるかどうかという観点でも注目される。
実はNTTドコモは18日に行った新製品発表会の最大の目玉として、「NEXUS」を準備していた。本来なら11日に米サンディエゴで開催した通信関連のイベント「CTIA」でサムスンが製品発表をする予定だったが、アップルの元最高経営責任者(CEO)、スティーブ・ジョブズ氏が5日に亡くなったことを受けて、追悼の意味を込めて延期となっていたのだ。
ここで困ったのがドコモだ。11日の米国での発表を受けて18日に大々的に新製品を紹介するというシナリオがご破算になってしまったからだ。ドコモはなんとしても18日までに発表してもらいたいと訴えていたが、サムスン電子とグーグルは難色を示した。調整の過程で「18日のドコモの発表会前に東京でサムスンとグーグルが記者会見する」という案も出たが「東京は『4.0(アイスクリームサンドウィッチ)』を披露する場としてはふさわしくない」という理由で却下された。
結局、19日から香港で開催されるイベントにグーグルのアンディー・ルービン上級副社長が登壇する予定があったため、19日午前に香港で記者会見を行うという話にまとまった模様だ。19日午前、ドコモの取扱店に新製品が載ったカタログが配布されたが、そのカタログにはGALAXY NEXUSが印刷されていた。まさに19日午前が発表のタイムリミットだったのだ。
ドコモがどうしても「NEXUS」を世界と同じタイミングで取り扱いたかった理由は明快だ。これまで日本市場向けにはソフトなどに日本独自の仕様を取り込んできたため、グローバルモデルのスマホでは数カ月程度、世界から遅れて発売することが多かった。香港での発表に参加したドコモのプロダクト部第一商品企画担当部長の板倉仁嗣氏は「最新バージョンを導入することで、ユーザーにワクワク感を提供できる」と語った。日本が世界市場から隔絶された“ガラパゴス”であるという印象をぬぐう好機とにらんだ訳だ。
従来はグローバルモデルを導入する際、ユーザーへのサポートの準備をした上でコンテンツも用意するなど、相当な時間をかけていた。このため世界市場からどうしても発売のタイミングが遅れていたが、今回はかろうじてほぼ同時期に投入できる。
GALAXY NEXUSは画面サイズが4.65インチで1280×720ピクセルのHD Super AMOLEDディスプレーを持つ
「NEXUS」はアンドロイドに精通した“とんがった”ユーザーがターゲットとなる。ドコモは端末発売後に追いかける形でサービスやコンテンツ提供の体制整備を進めることになる。ドコモ社内でもスマートフォンの扱いにかかわるノウハウや体制が整備されてきたことから、最先端の「NEXUS」を扱えるようになったという。
■ドコモの対アップルの距離感にも影響
ただしユーザーの立場からみると、11月という発売のタイミングは、「どの通信会社の、どの機種を選べばよいのか」という点でかなり悩ましいものになりそうだ。
「NEXUS」とほぼ同時期にLTEに対応したGALAXYや韓国LG電子製、富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製のスマホが次々と発売される。LTEを選択すれば、スマホを介してパソコンなどをネットに接続する「テザリング」も快適にでき、料金面でもかなり優遇されている。「NEXUS」は日本ではLTEに対応しないことから、ネットを駆使するハイエンドユーザーがほかのLTEスマホに流れる可能性もある。
今回、ドコモが積極的にグーグルのレファレンスモデルの採用を決めたことは、グーグルやサムスンとの協力関係が着実に強まっている表れだろう。記者会見の席上でサムスンの登壇者が「日本ではドコモが取り扱う」と明確に宣言したことから、3社による強固なスクラムが組まれたとも解釈できる。
ドコモがアップルのiPhoneに乗り気な姿勢をあまり示さないのも、「対アップル」で一致しているグーグルとサムスンとの友好関係があるからかもしれない。
石川温(いしかわ・つつむ)
月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著に「グーグルvsアップル ケータイ世界大戦」(技術評論社)など。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226
■3台目のレファレンスモデルが日本でも発売に
香港でアイスクリームサンドウィッチ搭載の「GALAXY NEXUS」を発表する米グーグルのアンディー・ルービン上級副社長(左)と韓国サムスン電子の申宗均無線事業部長=AP
新端末にはグーグルの最新OS「Android(アンドロイド)4.0」(開発コード名、Ice Cream Sandwich=アイスクリームサンドウィッチ)を搭載した。1.2GHzのデュアルコアプロセッサーを内蔵し、画面サイズは4.65インチで、1280×720ピクセルの「HD Super AMOLED」ディスプレーを搭載する。
これまでグーグルはアプリ開発者向け(レファレンス)モデルのアンドロイドスマホとして「NexusOne」(台湾HTC製)、「NexusS」(サムスン製)を市場に投入してきた。今回はサムスンが世界で出荷を伸ばしている人気ブランド「GALAXY」を使い、世界でのシェア拡大を目指す。日本のアプリ開発者はこれまで個人輸入などでレファレンスモデルを入手する必要があったが、今回からはドコモが正式に発売する端末を使えるようになる。
グーグルの新OSを搭載したサムスン電子の「GALAXY NEXUS」
「4.0」には、従来のスマホ向けプラットフォーム「GingerBread(ジンジャーブレッド)」と、タブレット向けの「Honeycomb(ハニカム)」を融合させたような操作性を実現した。指先で画面のソフトウエアボタンを軽く触ればすべての操作ができる仕様で、本体正面にはハードウエアのボタンは一切配置していない。側面に音量や電源ボタンがあるだけだ。
ハニカム搭載のタブレット端末は操作が直感的ではなく、やや難しいところもあったが、「4.0」は従来のアンドロイドスマホから乗り換えても違和感のないほど容易に扱える。アプリの画面を切り替える時も、スムーズでとても使いやすい。
「NEXUS」は近距離無線通信の国際標準規格NFC(Near Field Communication)にも対応。端末を2台重ね合わせることで、電話帳や画像、アプリなどのデータを交換・共有できるようにもなった。
■プラットフォーム進化でメーカーの差異化が困難に
「4.0」は操作のしやすさと洗練されたハードウエアによってアップルのiPhoneに真正面から対抗しうる機種といえる。今後のアンドロイドスマホが進む方向性を予見させる仕上がりといってもいい。
一方、OSを含むプラットフォームの進化によって、メーカー間での端末の差異化競争が一段と厳しくなることも予想される。「NEXUS」はカメラ機能を強化し、連続撮影やパノラマ撮影などができる。連続撮影は日本の携帯電話メーカーが得意としてきた技術だが、これが標準搭載されることで日本勢の優位性が揺らぐ恐れもある。ソーシャルメディアとの連携も端末各社が進めているが、「4.0」が実装する「ピープルアプリ」は、「Google+」やTwitter、Linkedinとの融合も実現した。
グーグルのOSであるため、「Google+」との連携強化は当然としても、それ以外のソーシャルも垣根なく使えるようになると、メーカー各社がソフト面で突出した機能を持たせることが難しくなってくる。ソフトで個性を発揮できなければ、メーカーはおのずとハード面のコストや機能競争に軸足を移さざるを得ず、差異化が一段と難しくなりそうだ。
■発表延期で割を食ったNTTドコモ
NTTドコモは10月18日の発表会では、GALAXY NEXUSの具体的な発表をできず予告にとどまっていた
「NEXUS」の登場は、iPhoneとのシェア争いとともに、日本の携帯業界がグローバル市場に追いつけるかどうかという観点でも注目される。
実はNTTドコモは18日に行った新製品発表会の最大の目玉として、「NEXUS」を準備していた。本来なら11日に米サンディエゴで開催した通信関連のイベント「CTIA」でサムスンが製品発表をする予定だったが、アップルの元最高経営責任者(CEO)、スティーブ・ジョブズ氏が5日に亡くなったことを受けて、追悼の意味を込めて延期となっていたのだ。
ここで困ったのがドコモだ。11日の米国での発表を受けて18日に大々的に新製品を紹介するというシナリオがご破算になってしまったからだ。ドコモはなんとしても18日までに発表してもらいたいと訴えていたが、サムスン電子とグーグルは難色を示した。調整の過程で「18日のドコモの発表会前に東京でサムスンとグーグルが記者会見する」という案も出たが「東京は『4.0(アイスクリームサンドウィッチ)』を披露する場としてはふさわしくない」という理由で却下された。
結局、19日から香港で開催されるイベントにグーグルのアンディー・ルービン上級副社長が登壇する予定があったため、19日午前に香港で記者会見を行うという話にまとまった模様だ。19日午前、ドコモの取扱店に新製品が載ったカタログが配布されたが、そのカタログにはGALAXY NEXUSが印刷されていた。まさに19日午前が発表のタイムリミットだったのだ。
ドコモがどうしても「NEXUS」を世界と同じタイミングで取り扱いたかった理由は明快だ。これまで日本市場向けにはソフトなどに日本独自の仕様を取り込んできたため、グローバルモデルのスマホでは数カ月程度、世界から遅れて発売することが多かった。香港での発表に参加したドコモのプロダクト部第一商品企画担当部長の板倉仁嗣氏は「最新バージョンを導入することで、ユーザーにワクワク感を提供できる」と語った。日本が世界市場から隔絶された“ガラパゴス”であるという印象をぬぐう好機とにらんだ訳だ。
従来はグローバルモデルを導入する際、ユーザーへのサポートの準備をした上でコンテンツも用意するなど、相当な時間をかけていた。このため世界市場からどうしても発売のタイミングが遅れていたが、今回はかろうじてほぼ同時期に投入できる。
GALAXY NEXUSは画面サイズが4.65インチで1280×720ピクセルのHD Super AMOLEDディスプレーを持つ
「NEXUS」はアンドロイドに精通した“とんがった”ユーザーがターゲットとなる。ドコモは端末発売後に追いかける形でサービスやコンテンツ提供の体制整備を進めることになる。ドコモ社内でもスマートフォンの扱いにかかわるノウハウや体制が整備されてきたことから、最先端の「NEXUS」を扱えるようになったという。
■ドコモの対アップルの距離感にも影響
ただしユーザーの立場からみると、11月という発売のタイミングは、「どの通信会社の、どの機種を選べばよいのか」という点でかなり悩ましいものになりそうだ。
「NEXUS」とほぼ同時期にLTEに対応したGALAXYや韓国LG電子製、富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製のスマホが次々と発売される。LTEを選択すれば、スマホを介してパソコンなどをネットに接続する「テザリング」も快適にでき、料金面でもかなり優遇されている。「NEXUS」は日本ではLTEに対応しないことから、ネットを駆使するハイエンドユーザーがほかのLTEスマホに流れる可能性もある。
今回、ドコモが積極的にグーグルのレファレンスモデルの採用を決めたことは、グーグルやサムスンとの協力関係が着実に強まっている表れだろう。記者会見の席上でサムスンの登壇者が「日本ではドコモが取り扱う」と明確に宣言したことから、3社による強固なスクラムが組まれたとも解釈できる。
ドコモがアップルのiPhoneに乗り気な姿勢をあまり示さないのも、「対アップル」で一致しているグーグルとサムスンとの友好関係があるからかもしれない。
石川温(いしかわ・つつむ)
月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著に「グーグルvsアップル ケータイ世界大戦」(技術評論社)など。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226