米国生まれの「コストコ・ホールセール」。幕張や川崎、多摩境、新三郷、座間、千葉ニュータウンなどの関東11店をはじめとして、日本国内で現在約20店舗を構える会員制の小売りチェーンだ。10カ国約650店で展開するグローバル企業でもある。
日本では1999年の初進出から15年余りで徐々に店舗網を広げてきた。2015年夏には東北で初の店舗を山形県上山市にオープンする予定だ。
コストコは年間4000円の会費(法人は3500円、いずれも税別)を支払えば会員になれ、割安な価格で店舗の商品が買える。生鮮・加工食品から飲料、日用雑貨、家電製品、事務用品、衣料、カー用品など幅広い商材を取りそろえ、業務用サイズを中心としたボリュームのある商品が広い店内に並んでいる。休日は家族連れでにぎわう人気店である。
「会員制」「ダース販売」「大きなカートに広い通路」。これらはもともと日本の消費者にはあまりなじまないとされてきたモデルながら、コストコは日本市場でも成功を収めていると言っていいだろう。グローバルに見ても快進撃を続けている。コストコ・ホールセールの直近決算となる2014年9~11月期(第1四半期)の売上高は前年同期比7%増、利益は17%も増加した。
ただ、コストコがどうやって儲けているのか、経営上の強みが何なのかは意外と知られていない。そこで財務上の側面から3つのポイントに絞って、儲けのカラクリを説明しよう。
【 カラクリ 1 】 年間会員収入こそすべて
意外に知られていないのは、コストコの利益は会員収入あってこそ成り立っているという事実だ。コストコ(Costco Wholesale Corporation)の2014年度報告書(「FY 2014 Annual Report)を見ると、2014年8月期の主な業績指標は以下のとおりだ(1ドル=118円で計算)。
売上高 1102億ドル(約13兆円)
会員収入 24億2800万ドル(約2900億円)
仕入原価 984億5800万ドル(約11兆6000億円)
販管費 117億5400万ドル(約1兆3800億円)
実際には、上記の仕入原価と販管費(販売費および一般管理費)に加えて、6300万ドル(約7400億円)の経費が加算される。いわゆる日本で営業利益とされている金額を出すと、32億2000万ドル(約3800億円)だ。
売り上げに対して利益率は高くないが驚くのは、この利益と会員収入の関係だ。もし、会員収入がなかったとすれば、営業利益は1000億円ぐらいしか残らない。
小売業界ではコストコが販売している商品は「原価ギリギリ」と指摘される。数字を分析すればそれは確かに正しい。原価率は約9割にも上っている。ある意味では危険な、違う言葉で言えば「徹底した顧客志向」を可能にするのが、会員収入にあるといえる。
日本のコストコをめぐっては年会費4000円が「お得か、そうではないか」という議論がよくなされる。コストコからすると4000円の会費を顧客からもらうことでビジネスを成り立たせているのである。会員を多く獲得してそれを次年度も継続させられるかが経営のキモになる。
事実、コストコは米国とカナダでは91%もの顧客が会費を続けて払っており、グローバルな視点で見てもその割合は87%に至る。コストコの正体は会員収入を主な利益源とする囲い込みビジネスなのだ。
【 カラクリ 2 】 「安くても高品質」を支える商品群
一度来店した顧客をリピーターにさせるためには、粗利益を削るだけではなく、やはり商品そのものの良さが必要だ。そこでコストコが採っている戦略が商品点数の絞り込み。あれほど大きな店舗でありながら、きわめて少ない商品で勝負している。
年度によってバラツキはあるものの、最新の年度報告書を見ると、コストコの商品数は実は4000程度しかない。これによって、メーカーやブランドとの結びつきが強化されている。バイヤーがしっかりと確認した品質の良い商品を陳列でき、一品あたりの取引額が多くなるため、安価に仕入れることができる。つまり、バイイングパワーが強くなる。サプライヤーとの結びつきも強くなり、商品開発や納期調整などに強い影響力を発揮できる。
コストコと対照的なのは、日本の3万点の品揃えを自慢にする日本の某大型スーパー。また、某家電量販店では150万点の取り扱いをうたっている。本当なのかと疑ってしまうぐらいだ。コストコと比べてわかりやすいのは、コンビニエンスストア。だいたい商品数は3000~3500点ぐらいと言われる。店舗の大きさはまったく違うのにコストコとコンビニの商品点数には大差がない。
流通業界では「品ぞろえの多さは、お客へのアピールになり、売り上げ増につながる」といわれる。筆者もその考えを完全に否定しないが、コストコが商品点数を絞り、お客に選択肢を与えないことで成功したモデルを確立しているのは事実だ。
筆者は調達コンサルタントをしている経験から、商品数が増えると在庫管理が煩雑になったり、廃棄のコストもかかったりすることを指摘したい。お客の声を聞くだけでは点数は膨らむいっぽうだ。もちろん品揃えが少なすぎてもダメ。そのバランスをうまく取れば、売り上げと顧客満足度を最大化できる。コストコの大胆な商品点数の圧縮には学ぶところがある。
【 カラクリ 3 】 現金回収が圧倒的に速い
広告宣伝におカネをほとんど使わないのもコストコのビジネスモデルの特徴だ。口コミやメディアからの評価などで新規客やリピーターを獲得していっている。
当たり前の話ながら広告宣伝は先におカネを払い、後で売り上げとしての効果を刈り取る。ただ、その効果がすぐに出ればいいが、最悪は出ないかもしれず、また回収までに時間がかかるかもしれない。もちろんイメージ広告は、中長期的に効果を狙うものだが、たとえば商品の仕入れを考えてみるとおカネを払ったあとは、なるべく早く代金を回収できるにこしたことはない。
つまり、商品が売れるスピードが早いほど企業経営はラクになる。これを、経営用語ではキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)と呼ぶ。ここでは簡易的な説明に留めるものの、このキャッシュコンバージョンサイクルが長いほど企業が現金回収に時間がかかっていることを指す。少なければ現金回収に時間はかかっていないし、マイナスならば売る前に現金を得ていることになる。
このコストコのキャッシュコンバージョンサイクルは4日。小売業の平均は30日と言われるので、コストコはズバ抜けて早い。ウォルマートも早いほうだと言われるがそれでも2週間だ。
コストコの在庫回転率は11.64。棚卸資産(在庫)と販売された商品の原価を比べて、在庫商品が年間に何回転したかを示す指標だ。つまり、コストコの場合は仕入れた商品が1カ月くらいで売れることを指す。アイテム数を減らし、集約したうえで販売するため、現金回収を迅速にすることで経営基盤を固めている。
これら3つの利点は、うまくいっている現状を評価したにすぎない。しかし、コストコのビジネスモデルに学ぶことは多い。少なくとも安い商品やサービスを売りっぱなしにせず、商品やサービスのラインナップをいたずらに増やさないことで、企業が得られることは少なくない。
東洋経済オンライン
日本では1999年の初進出から15年余りで徐々に店舗網を広げてきた。2015年夏には東北で初の店舗を山形県上山市にオープンする予定だ。
コストコは年間4000円の会費(法人は3500円、いずれも税別)を支払えば会員になれ、割安な価格で店舗の商品が買える。生鮮・加工食品から飲料、日用雑貨、家電製品、事務用品、衣料、カー用品など幅広い商材を取りそろえ、業務用サイズを中心としたボリュームのある商品が広い店内に並んでいる。休日は家族連れでにぎわう人気店である。
「会員制」「ダース販売」「大きなカートに広い通路」。これらはもともと日本の消費者にはあまりなじまないとされてきたモデルながら、コストコは日本市場でも成功を収めていると言っていいだろう。グローバルに見ても快進撃を続けている。コストコ・ホールセールの直近決算となる2014年9~11月期(第1四半期)の売上高は前年同期比7%増、利益は17%も増加した。
ただ、コストコがどうやって儲けているのか、経営上の強みが何なのかは意外と知られていない。そこで財務上の側面から3つのポイントに絞って、儲けのカラクリを説明しよう。
【 カラクリ 1 】 年間会員収入こそすべて
意外に知られていないのは、コストコの利益は会員収入あってこそ成り立っているという事実だ。コストコ(Costco Wholesale Corporation)の2014年度報告書(「FY 2014 Annual Report)を見ると、2014年8月期の主な業績指標は以下のとおりだ(1ドル=118円で計算)。
売上高 1102億ドル(約13兆円)
会員収入 24億2800万ドル(約2900億円)
仕入原価 984億5800万ドル(約11兆6000億円)
販管費 117億5400万ドル(約1兆3800億円)
実際には、上記の仕入原価と販管費(販売費および一般管理費)に加えて、6300万ドル(約7400億円)の経費が加算される。いわゆる日本で営業利益とされている金額を出すと、32億2000万ドル(約3800億円)だ。
売り上げに対して利益率は高くないが驚くのは、この利益と会員収入の関係だ。もし、会員収入がなかったとすれば、営業利益は1000億円ぐらいしか残らない。
小売業界ではコストコが販売している商品は「原価ギリギリ」と指摘される。数字を分析すればそれは確かに正しい。原価率は約9割にも上っている。ある意味では危険な、違う言葉で言えば「徹底した顧客志向」を可能にするのが、会員収入にあるといえる。
日本のコストコをめぐっては年会費4000円が「お得か、そうではないか」という議論がよくなされる。コストコからすると4000円の会費を顧客からもらうことでビジネスを成り立たせているのである。会員を多く獲得してそれを次年度も継続させられるかが経営のキモになる。
事実、コストコは米国とカナダでは91%もの顧客が会費を続けて払っており、グローバルな視点で見てもその割合は87%に至る。コストコの正体は会員収入を主な利益源とする囲い込みビジネスなのだ。
【 カラクリ 2 】 「安くても高品質」を支える商品群
一度来店した顧客をリピーターにさせるためには、粗利益を削るだけではなく、やはり商品そのものの良さが必要だ。そこでコストコが採っている戦略が商品点数の絞り込み。あれほど大きな店舗でありながら、きわめて少ない商品で勝負している。
年度によってバラツキはあるものの、最新の年度報告書を見ると、コストコの商品数は実は4000程度しかない。これによって、メーカーやブランドとの結びつきが強化されている。バイヤーがしっかりと確認した品質の良い商品を陳列でき、一品あたりの取引額が多くなるため、安価に仕入れることができる。つまり、バイイングパワーが強くなる。サプライヤーとの結びつきも強くなり、商品開発や納期調整などに強い影響力を発揮できる。
コストコと対照的なのは、日本の3万点の品揃えを自慢にする日本の某大型スーパー。また、某家電量販店では150万点の取り扱いをうたっている。本当なのかと疑ってしまうぐらいだ。コストコと比べてわかりやすいのは、コンビニエンスストア。だいたい商品数は3000~3500点ぐらいと言われる。店舗の大きさはまったく違うのにコストコとコンビニの商品点数には大差がない。
流通業界では「品ぞろえの多さは、お客へのアピールになり、売り上げ増につながる」といわれる。筆者もその考えを完全に否定しないが、コストコが商品点数を絞り、お客に選択肢を与えないことで成功したモデルを確立しているのは事実だ。
筆者は調達コンサルタントをしている経験から、商品数が増えると在庫管理が煩雑になったり、廃棄のコストもかかったりすることを指摘したい。お客の声を聞くだけでは点数は膨らむいっぽうだ。もちろん品揃えが少なすぎてもダメ。そのバランスをうまく取れば、売り上げと顧客満足度を最大化できる。コストコの大胆な商品点数の圧縮には学ぶところがある。
【 カラクリ 3 】 現金回収が圧倒的に速い
広告宣伝におカネをほとんど使わないのもコストコのビジネスモデルの特徴だ。口コミやメディアからの評価などで新規客やリピーターを獲得していっている。
当たり前の話ながら広告宣伝は先におカネを払い、後で売り上げとしての効果を刈り取る。ただ、その効果がすぐに出ればいいが、最悪は出ないかもしれず、また回収までに時間がかかるかもしれない。もちろんイメージ広告は、中長期的に効果を狙うものだが、たとえば商品の仕入れを考えてみるとおカネを払ったあとは、なるべく早く代金を回収できるにこしたことはない。
つまり、商品が売れるスピードが早いほど企業経営はラクになる。これを、経営用語ではキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)と呼ぶ。ここでは簡易的な説明に留めるものの、このキャッシュコンバージョンサイクルが長いほど企業が現金回収に時間がかかっていることを指す。少なければ現金回収に時間はかかっていないし、マイナスならば売る前に現金を得ていることになる。
このコストコのキャッシュコンバージョンサイクルは4日。小売業の平均は30日と言われるので、コストコはズバ抜けて早い。ウォルマートも早いほうだと言われるがそれでも2週間だ。
コストコの在庫回転率は11.64。棚卸資産(在庫)と販売された商品の原価を比べて、在庫商品が年間に何回転したかを示す指標だ。つまり、コストコの場合は仕入れた商品が1カ月くらいで売れることを指す。アイテム数を減らし、集約したうえで販売するため、現金回収を迅速にすることで経営基盤を固めている。
これら3つの利点は、うまくいっている現状を評価したにすぎない。しかし、コストコのビジネスモデルに学ぶことは多い。少なくとも安い商品やサービスを売りっぱなしにせず、商品やサービスのラインナップをいたずらに増やさないことで、企業が得られることは少なくない。
東洋経済オンライン