物価も税金も上がり生活はカツカツ……。こんな日本にいて大丈夫だろうか?と不安を抱かずにはいられない。そんな中、投資家・シンガポール大教授として世界中を飛び回る田村耕太郎氏は、「とにかく世界を見てきてほしいう」と語る。海外に行ったら、ファストフードに行くだけでも十分だという。その衝撃的な理由とは。著書累計90万部を突破した同氏による『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?』から、一部を抜粋・改編して紹介する。
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10年ひと昔というが、この10年で世界も日本も大きく変わった。私自身も東京からシンガポールに住まいを移している。シンガポールに住むきっかけになったのは、議員時代に国父・故リー・クワンユー氏の名前のついた大学から招聘を受けたことに始まる。
アジアのリーダーとして、シンガポール建国の父として、世界に名をはせる故リー・クワンユー氏に個人的にお目にかかる機会を、私は三度もいただいた。率直な物言いで有名な氏から多くの印象的な直言をいただいた。
「君はタムラって名字か。確か政治家に何人かいるね。世襲かい?」
「いえ。(胸を張って)政治家は家族に一人もいません」
「(やや残念そうな表情になり)そうか。じゃあ君は絶対首相にはなれないな。日本じゃそうだろ」
かなりムッとしたが完全な正解だった。
「日本人は優秀だ。多くを日本から学ばせてもらった。ただ、僕が若い日本人で英語を話せたら日本から出て行くよ」
ムッとして、なぜですか?と聞くと、
「日本は引っ越せないんだよ。中国の隣で小さく、貧しく、老いていたらまずいよ。世界の多くの国は、自国の課題を認識できず窮地に陥る。だが日本は違う。優秀だから政府も国民も課題も解決策も全部わかっている。なのに誰も行動を起こさない。それがとても残念だ」
今になってとても腑に落ちている。
小さく、貧しく、老いていく。
日本の人口はこの10年間で400万人近い減少となっている(国連統計)。高齢者の人口比率は24%から29%と上昇し、平均年齢は45.2歳から47.7歳と3歳近く年老いてきている。
今から思うと信じられないが、2012年には年平均で約80円だったアメリカドル。それから10年以上経つ2023年10月の段階で、150円まで下落している。8割以上の下落である。アメリカのGDPは2012年当時米ドルで日本のGDPの2.6倍だったが、今や5倍以上の開きがある。一人当たりで比較しても日米の差は2.25倍となっている。個人としての日本人の豊かさはアメリカの半分以下なのだ。
2010年に日本のGDPを追い抜いたお隣中国。2012年には徐々に差を広げ、日本より36%大きかったが、10年経って中国のGDPは日本の4倍以上と急拡大して大差をつけている。
長らく「世界第2位の経済大国」が日本の枕詞だったが、このところ「世界第3位」。それどころか、実質でインドに抜かれる日も近く、その後インドネシアやブラジルが日本を抜いていくだろう
私の住むシンガポールは一人当たりGDPではアメリカよりさらに豊かで、日本と比較すると日本の2.45倍の豊かさだ。経済だけではない。2012年当時の世界の軍事力はアメリカが圧倒的に1位で、アメリカは世界の警察官と言われ、国家単位の戦争はもはや起こらないとみられていた。ところが、2022年2月にはロシアがウクライナに戦争を仕掛け、これを書いている2023年10月時点ウクライナ戦争は出口が見えない状況に見える。国家同士の領土をめぐる総力戦が21世紀でも消えていないのだ。
それどころか日本のそばの東アジアでは台湾有事が危惧されている。米軍基地が集中する沖縄のすぐそばの台湾で武力衝突が起こることは、われわれ日本人にとってまったく他人事ではない。台湾をめぐって米中が衝突すれば米軍基地のある沖縄は戦地となり、日本への物流のチョークポイント(地政学的に重要な海上水路)である台湾海峡、バシー海峡が封鎖されてしまえば、食糧の62%やエネルギー輸入の88%をブロックされ干上がってしまう。食料自給率132%、エネルギー自給率104%のアメリカとは立場が違う。
日本を取り巻く世界の経済や国際関係が激変する中で、シンガポールからたまに日本を訪れる私の目には、残念ながら日本はますます鎖国的になっている感じがする。コロナ禍で物理的にも国を閉じ、外国人をウイルス扱いするような水際対策を長らく取り続けた我が国は、どこかで「国を閉じて皆で貧しくなれば大丈夫」との暗黙の了解を社会で交わしているようにも見える。私の想いが間違っていてほしいものだ。
江戸時代はほぼ国を閉じても存続できた日本だが、当時とは人口数も経済力も格段に違う。一見鎖国してもやっていけそうに思えるかもしれないが、実は日本は食料もエネルギーも自給できず、自国を自力で防衛する能力も持たない(持てない)。世界との関係がなければ存続できない国なのだ。
このまま、人口を減らし、年老いて貧しくなってはいけない。日本は西欧の端っこや北米にあれば、今の経済力でもまだのんきにできるだろう。しかし、われわれの置かれた環境ではこれ以上国力を落とすことは許されないと思う。
これからの日本で生き抜いていくからこそ、ぜひとも世界を見てきてほしい。よく「海外で何を見たらいいですか?」という質問を受けるが、スーパーに行ったり、外食に行ったり、マクドナルドやスターバックスに行くだけでいい。とにかく海外に行けば、今の日本人の購買力の低さがわかり、これはやばいなと実感できる。
日本は、例えば“ラグビー日本代表チーム”をイメージしたものをつくれば、最強になれる。今のラグビー日本代表は、チームの半分以上が日本で生まれていない選手で出来上がっている。日本で生まれていなくても、日本のために体を張れば強い。そんな代表を日本国民の多くが応援している状況は希望が持てる。
世界最強国家アメリカの強さはまさにそこにある。アメリカで生まれた人ばかりでやっていたらアメリカは強くなれない、と彼らはわかっている。大谷翔平選手のように、アメリカで生まれていない選手を受け入れて、世界最高のリーグを作り盛り上げていく。
シリコンバレーの成功者も大半はアメリカで生まれていない。日本の「1億総活躍」は選挙向け政治スローガンとして理解できるが、本当にやるべきは世界80億人を日本のために活用することだ。そのためにも多くの日本人が世界を見て世界を感じて世界に日本を開いてほしい。
逆説的だが、日本の良さを再発見するためにも海外に出てほしい。日本にいては「日本の素晴らしさ」は当たり前になっていて実感できない。日本を離れている身の方が、日本の素晴らしさを再認識できる。
いい例が私の娘である。私の娘は2歳でシンガポールに引っ越し、今はシンガポールのインターナショナルスクールに通っている。シンガポールに暮らす子供たちの間では日本は大人気だ。
まず、日本は、あらゆる国籍・文化の子供たちに大人気の“ポケモン”に代表されるアニメの発祥の地としてリスペクトされている。とんカツ、カレー、焼き鳥、寿司、うどんなどの和食も大人気で、娘の通う学校の学食でも巻き寿司が売られている。日本のスーパーも大人気。
常にクラスメイトから母国を絶賛される娘は鼻高々だ。私が食卓で日本の批判をしようものなら、「パパはいつも自分の国を悪く言って何がうれしいの?」とたしなめられる。
これからの日本は世界に開いて学んでいかないと生きてはいけない。同時に、日本の素晴らしさも世界にもっと売り込む必要がある。そういう意味でもこれからの日本を担う若い人たちを中心に世界に出て、世界を知り、日本を再発見してほしい。これから健康寿命も延びるので、もちろん中高年の方々にも継続して世界を見てきてほしい。