ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

フランスの政治家、それぞれの抱負、それぞれのスタイル。その先にあるのは・・・

2012-01-02 21:04:12 | 政治
その先にあるのは・・・言うまでもなく、大統領選挙。そうです、大統領選候補者たちの新年へ向けたメッセージのご紹介です。昨日は、現職、サルコジ大統領のメッセージをご紹介しましたので、他の候補者の抱負もご紹介しないと、片手落ち。

「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり」(『土佐日記』:紀貫之)を借りれば、「現職大統領もするという新年の抱負を、野党の候補者もしてみようとやってみる」といったところでしょうか。現職の大統領が12月31日の夜のニュースで、エリゼ宮で撮影したビデオを放送するのに対し、他の候補者たちは、それより早く30日、あるいは31日の昼、それぞれのスタイルで、抱負や意気ごみ、あるいは与党批判を行っています。

どのようなスタイルで、どのようはメッセージを届けたのでしょうか。31日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

新年の抱負を述べることは、政治家にとって必須の行為となっている。サルコジ大統領が大統領府で自らの抱負を述べるのに対し、大統領選挙で競う他党の候補者たちは、一足先にメッセージを公開している。彼らの良く練られたコミュニケーション活動の一環を概観してみよう。

●フランソワ・オランド(François Hollande)
社会党(PS)の公認候補者は、今年、電話をコミュニケーション手段に選んだ。フランソワ・オランドは31日、社会党の予備選挙の際に投票し、電話番号を残した25万人に、新年の抱負を電話で伝えた。そのメッセージは、今こそ変革の時であり、もう一度、彼らの支援が必要だ、というもの。

電話に続き、オランドは自らのサイト上でビデオ・メッセージを発表した。「皆さんが私に信任を与えてくれるなら、2012年は、財政、そして年金や健康保険などの社会保障、また社会正義を改革する年となるでしょう。正義と平等こそは、政府として努力すべきことが国民の皆さんの同意を得るための条件なのですから。私たちの子ども世代は今よりも豊かな人生を送るべきなのです」と述べるオランドの抱負は、いかにも社会党の候補者らしいものであり、若者を選挙キャンペーンの主要テーマの一つにしていることを反映するものとなっている。

社会党も党としてのメッセージを、サルコジ大統領の演説を先回りする形で、ビデオでネット上に公開している。

●エヴァ・ジョリー(Eva Joly)
赤ずくめの服をまっとった環境党(Europe-Ecologie-Les Verts)の候補者、元司法官のエヴァ・ジョリーは、「公共生活の中心に正義を置きたいと思っています。現実には、平等と公正がなおざりにされていますが、国民一人一人が職業や住まいを確保するには正義が必要なのです」と述べている。

「私が愛するフランスは、50年前に私が選んだフランスなのです」と、もともとノルウェー人であることへの非難を排除しようと、彼女は付け加えている。「EU万歳、共和国万歳、そしてフランス万歳」と締めくくったエヴァ・ジョリーは、国民に正しい選択をするよう訴えかけた。

●ジャン=リュック・メランション(Jean-Luc Mélenchon)
現代性と人間性を高々と掲げる左翼戦線(Front de Gauche)の候補者、ジャン=リュック・メランションは、タブレット型端末に没頭しているシーンからそのメッセージ・ビデオを始めた。その端末上には、支援者たちからの新年の挨拶が並んでいる。

次いで、カメラに向かってメランションは語り始める。「ご存知のように、幸福とはそれほど厄介なものではないのですが、政治の政界では新しいアイディアなのです。」手を胸の上において、国民に「もう一度、諦めない力を、富裕層や権力者に立ち向かう力を取り戻そうではありませんか。2012年はすべてが変化する年です。立ち上がるのは、今度は、皆さんの番です」と、訴えかけた。

●フランソワ・バイルー(François Bayrou)
中道政党、MoDem(民主運動)の党首は、「真実」をコミュニケーション戦略の切り札としたようだ。「実際のところ、伝統的な新年の抱負を用意していました。2011年の状況を分析し、次いで新年を予測するというものです。しかし、あまりに悲惨な現状に直面し、陰鬱で暗い2011年の状況を次々と概観した上で、現実的で明快な抱負を語ることにしました。」

メッセージをはっきりと伝えるために、フランソワ・バイルーが採用したのは、暗示的な述べ方だ。「国民は騙されやすいお人好しではありません」と述べ、国民と向き合うのに、正直さと透明さを持つべきことを表明した。そして、フランスを活況化させる二つの方策を述べた。「フランス国内での製造」と「世界で最も優れた教育の復活」だ。「国民が一つにまとまった国には、何も抵抗することはできないのです」と語り、2012年が「より良い年」となることを約束した。

●エルヴェ・モラン(Hervé Morin)
昨年、モランはキッチンから新年のメッセージを語りかけたが、今年は、同じく自宅ではあるが、キッチンではなく居間で語っている。彼の周りには、新中道(Nouveau Centre)の候補者に質問をしようと、7人のフランス人が集まっている。その中には、貝養殖業者(cochyliculteur)、レジ係の女性、女子学生、企業経営者が含まれている。

エルヴェ・モランは、「明日は今日よりもいっそう困難になる」という時期における新年の抱負を述べている。「チーム意識を取り戻すことが大切なのです」と語りかけ、フランスの偉大さを取り戻すには、共和国の価値観を尊重することが同じく必要だと述べている。そして、フランス国内での製造、教育、連帯を強化しようではないかと、訴えた。

●ドミニク・ド・ヴィルパン(Dominique de Villepin)
支持者たちに囲まれ、元首相は特に「孤独の中で、困難を抱えている人たちへ向けた」メッセージを中心に抱負を語った。「再びリセッションに入ろうとしている」ことの確認から始め、ド・ヴィルパンは攻撃的で政治的なメッセージを訴えかけた。「今や私たちは重大な局面に直面しています。そして国民の皆さんこそが、立ち上がり、世の中を変え、その結果を検証する術を持っているのです」と、ゴーリズム政党・共和国連帯(République solidaire)の創設者にして大統領選候補者は訴えている。

共和国の価値を再確認した後で、大統領職に関する自らの見解を述べた。「右派の大統領も、左派の大統領も、中道の大統領も必要ではありません。求められているのは、フランス国民すべての大統領であり、調停者としての大統領なのです。」そして、質問に答えて、「政党による共和国、それはフランスのあるべき姿ではありません」と述べた。

●マリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)
「ここフランスにいるのですが、ちょっとした理由により映像なしのメッセージを皆さんにお届けすることになりました」と、極右・国民戦線(FN)党首は説明している。新年の抱負が始まると、ネット上の彼女の写真の上に、きらきらと輝く雪が舞い落ちてくる。ホームページの機能は最先端ではないものの、演説はよく練られたものだ。「公約を多くは述べません。しかし、真実を語るつもりです」と、語っている。

彼女はまず、病気の人、孤独の中に暮らす人、そして2011年に多くの犠牲を払った軍人に連帯の意を表した。一方、グローバル化を一切制御しようとせず、結果としてフランスを大きな損害を抱える国にしてしまった「虚の経済をでっち上げた人々」(les affabulateurs)を糾弾した。さらには、忘れ去られた人々のフランス、見えない人々のフランス、彼女が心の奥底に抱き続けている人々のフランスに語りかけた。「2012年はフランス再建の第一歩となるでしょう。」そして最後に、フランス人作家、ジョルジュ・ベルナノス(Georges Bernanos:1888-1948、“Journal d’un cure de campagne”『田舎司祭の日記』、“Sous le soleil de satan”『悪魔の陽の下に』などの作品で有名)の文章を引用した。「希望とは、危険を覚悟で実現を目指すべきものである。」(l’espérance est un risque à courir)

・・・ということで、各人各様、さすがは個性の国のメッセージ発表です。ネット上での映像公開が多いとはいえ、電話作戦あり、静止画像と音声あり。撮影場所も、自宅あり、選挙事務所あり、ナポレオン関連施設あり(これは、ナポレオン1世を尊敬するドミニク・ド・ヴィルパン。“Les Cent-Jours ou l’esprit de sacrifice”『百日天下あるいは犠牲の精神』という大作もものしています)。いかに他の候補との違いを際立たせるかという競争のようでもあります。

しかし、残念ながら、テレビのニュースでも現職ほどには時間がもらえず、キー・メッセージの紹介だけで終わっていますが、それでも少なくともその個性はしっかり伝わっています。

我らが日本では、どうしても無地バックにスーツ姿、カメラ目線でまじめに語りかける映像になることが多いのではないでしょうか。個性が際立ち過ぎないように、枠からはみ出さないように、前例からずれないように・・・そうした気配りが先になってしまうのでしょうね。

個性の国と横並びの国。しかし、それぞれ違うのであって、どちらが良いとか悪いとか、甲乙が(古くて恐縮です)あるわけではありません。それぞれの国に、それぞれの価値、伝統があるわけですから。

ところで、マリーヌ・ルペンが引用したジョルジュ・ベルナノス。箴言の名手でもあり、いろいろ有名な文章が伝わっています。今日の最後に、二つ、紹介させていただきます。

・我々の心の中の悪魔には、「仕方がない」という名がついている。

・人は熱狂しない限り、偉大なる真実にまで到達できない。冷静さは議論はできても、何も生み出さないからだ。
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