ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

フランスが、ねじれてしまった・・・上院議員選挙。

2011-09-27 21:07:17 | 政治
別に、性格がねじれてしまったというわけではありません。ジャパングリッシュではない、本来の意味でのナイーブ(naive、仏語ではnaïf)、つまり「世間知らずな、うぶな」と海外で言われる日本人から見ると、ちょっとねじれている、屈折しているのではないかと思えることもあるフランス人ですが、今日の話題はそうした性格、国民性ではなく、政治。二院制議会において、それぞれの多数派が異なる、いわゆる「ねじれ国会」、日本では毎日のように耳にするコトバですが、この政界のねじれ現象が、フランスにも現れたという話です。

大統領と首相が左右の対立政党から出ていることは、今までもありました。“cohabitation”(コアビタシオン)・・・第五共和制下で、三度ありました。

① 1986-1988 社会党のミッテラン大統領(Francois Mitterrand)と右派(RPR)のシラク首相(Jacques Chirac)
② 1993-1995 社会党のミッテラン大統領と右派(UDF)のバラデュール首相(Edouard Balladur)
③ 1997-2002 右派のシラク大統領と社会党のリオネル・ジョスパン首相(Lionel Jospin)

しかし、25日に投開票が行われた上院議員選挙の結果、1958年からの第五共和制下で初めて左派が上院の過半数を占めることになりました。下院(国民議会)は大統領と同じで右派が多数派ですので、下院が右派、上院が左派というカタチでは、初めてのねじれ国会になります。

定数348議席、任期6年のフランス上院。3年ごとに選挙が行われ、今回は170が改選議席数。ちょうど半数でないあたりが、いかにもフランスらしいのですが、その上院議員選挙は、国民の直接選挙ではなく、下院議員や地方議員が投票権を持つ間接選挙。従って、民意が明確に示されたとは言えませんが、地方議員には無所属も多く、かなり国民の声が反映されていると言えるのではないでしょうか。大統領選を来春に控えた、この時期での選挙で左派が勝利した。その意味するところは、また、各党の反応は・・・25日の『ル・モンド』(電子版)が速報として伝えています。

9月25日の上院選挙での左派の勝利は、政治情勢を一変させてしまうことになる。実際の影響は、まだ具体的には見えてこないが、左派は多数を占める上院を利用して、サルコジ政権に対する反対姿勢を鮮明にし、自ら法案を提出することもでき、また、最終的には下院の決定が優先されるにせよ、政府提出の法案を修正させたりすることも、やろうと思えばできるようになる。しかも、上院議長は司法官最高評議会(Conseil supérieur de la magistrature:CSM)や憲法評議会(Conseil constitutionnel)の人事権を持ち、また、大統領に次ぐ第二位の序列で公式行事に出席することになる。

社会党のフランソワ・オランド(François Hollande:元第一書記)と緑の党のジャン=ヴァンサン・プラッセ(Jean-Vincent Placé)は、さっそく、「今夜、すでに選挙結果に基づく犠牲が出た。黄金律がそれだ」と述べている(黄金律:la règle d’or、つまり、財政赤字の解消へ向け、予算案に財政均衡化目標を盛り込むべきことを憲法に明文化すること)。この黄金律は、サルコジ大統領が議会で採決しようとしていたものだが、可決するには五分の三の賛成票が必要であり、上院で可決することはもはや手の届かないところへ行ってしまった。

社会党はまた、多数を占める上院の力を用いることにより、今話題の「カラチ事件」のような行政側に打撃となる事件の調査委員会活動を有利に運び、行政への影響力を強めることもできる。社会党の上院議員団長、ジャン=ピエール・ベル(Jean-Pierre Bel)は、「政治に停滞を及ぼそうとは思わないが、我々は、上院にその政治的役割のすべてを取り戻したいと願っている」と述べている。現在、政権与党・UMPの上院議員であるジャン=ピエール・ラファラン(Jean-Pierre Raffarin)元首相(在任期間は2002-2005)は、選挙の前に次のように語っていた。「上院で左派が多数派を占めることは、来年の大統領選へ向けて危険要因となる。来春の選挙までの政権運営を容易ならざるものにするからだ」。

海外県などの開票が終わらず、まだ最終的な開票状況にはなっていないが、AFP通信によると、議席数は非改選部分も含め、UMP(国民運動連合)が127議席、社会党(PS)122議席、右翼諸派が17議席、左翼諸派が8議席、エコロジーが10議席、フランス共産党(PCF)が21議席、MRC(共和国市民運動)が1議席、新中道(Nouveau Centre)が9議席、左翼急進党(Parti radical de gauche)10議席、MoDem(民主運動)が4議席、ヴァロワ急進党(Parti radical)が4議席、中道連盟7議席、MPF(フランス運動)1議席、現代左翼(Gauche moderne)1議席となっている。左右それぞれの陣営の議席数は、中立のMoDemを除いて、左派172議席、右派166議席となっている(338議席確定時点です)。

まだ最終議席数は確定していないが、「初めて上院で多数派が交代した。左派は175議席を獲得し、過半数を占めたことになる。変化が起きている」と、ジャン=ピエール・ベルは宣言している。

時間が経つにつれ、与党にもたらされるのは厳しい結果ばかりだった。都市大臣のモーリス・ルロワ(Maurice Leroy)が落選。パリ選挙区8番目、最後の椅子も左派にとられてしまった。パリ選挙区では、UMPの公認を得られないまま立候補したピエール・シャロン(Pierre Charon)がUMPの公認候補に勝利してしまった影響が大きい。その後も、厳しい結果が次々ともたらされた。UMPの上院議員団長、ジェラール・ラルシェールのお膝元である、パリ近郊イヴリヌ(Yvelines)県では左派が1議席増やした。また、Loiret、Pas-de-Calais、Hauts-de-Seine、Val-de-Marne、Oise、Manche、Pyrénées-Orientalesなどの県では、左派が大きく議席数を伸ばした。

「左派にとっては歴史的勝利であり、UMPにとっては疑いのない制裁となった」。社会党の臨時第一書記(第一書記のマルチーヌ・オブリーが大統領選の予備選挙に立候補したことによる措置)、アルレム・デジール(Harlem Désir)は、予備選の候補者、マルチーヌ・オブリーとフランソワ・オランドに少し遅れて上院に到着し、上記のように述べている。

大統領府は、敗北を認めたが、UMPは上院議長のポストを諦めてはいない。ジェラール・ラルシェールは、引き続き上院議長のポストに就きたいと、次のように述べている。「昨日までの上院多数派は政権与党としての姿をしていなかった。今日からは、社会党の顔をするのだろうか。新たな上院を作らなければならない。上院議員は、二つのプロジェクト、二つのビジョン、二人の候補者から、どちらかを選択しなければならない」。つまり、ラルシェールは急進党や左翼諸派の議員を説得し、自分に投票させようとしているのだ。上院議長の選挙は、10月1日に予定されている。

リュクサンブール宮(上院)は、かつてない状況を呈するかもしれない。右派の議長と多数派を占める左派。社会党は、そうはさせじと、警戒を促した。「多数派は明確になった。我々の票をくすねるようなごまかしがあってはいけない。そんなことが起きたら、上院は収拾がつかなくなる」というメッセージを、社会党の選対委員、クリストフ・ボルゲル(Christophe Borgel)が発した。

UMP側からは、ジャン=フランソワ・コペ(Jean-François Copé)幹事長が、「今回の敗北にはがっかりしているが、驚きというわけではない。2004年以降、地方選で敗れてきたからだ(間接選挙である上院選の有権者、その95%が地方議員と言われています)。上院の多数派が明らかになるのは、議長選においてだ。そして、本当の戦いは、来年の大統領選と下院議員選挙だ」と語っている。フィヨン(François Fillon)首相は、野党が大きく票を伸ばしたことを認めた上で、「その一因は、与党側の分裂選挙にあり、真の国民の審判は来春下される。今夜、その戦いの火ぶたが切って落とされた」と、コミュニケを通して発表している。

ヨーロッパ・エコロジー緑の党は、4議席から10議席に大躍進した。書記長のセシル・デュフロ(Cécile Duflot)は、「第五共和制にとって歴史的瞬間だ。フランス議会において、環境党グループ(院内会派)が初めて形成される可能性がある。しかし、そのためには、上院規則を変更する必要があるが」と語っている。現行規則では、15名以上の議員がいないと、院内会派は作れない。ヨーロッパ・エコロジー緑の党は、その上限を10議席に引き下げようとしており、社会党との間では、すでに合意している。ヨーロッパ・エコロジー緑の党からの初選出組では、イル・ド・フランス地域圏議会副議長のジャン=ヴァンサン・プラッセがエソヌ(Essonne)県から当選している。

フランス共産党、共和国市民運動、左翼党が作る院内会派にとっては、選挙結果はある程度予想されたものだ。選挙前には3党合計で18議席だったが、3議席減らした。共産党はセーヌ・サン・ドニ県とエソヌ県で2議席失ったものの、モルビアン県で1議席獲得している。左翼党は現有議席を失ったが、社会党、左翼諸派と選挙協力を行った候補が当選している。

フランス共産党書記長のピエール・ロラン(Pierre Laurent)は、「右派の城塞は陥落した。現政権へ下された紛れもない制裁だ。選挙結果は、地方の民主主義へ繰り返し攻撃を行ってきた現政権に対する地方議員の怒りの表れだ」と語っている。しかし、ロラン自身は、パリ選挙区から立候補していたが、上院入りすることはできなかった。

・・・ということなのですが、日本時間27日、判明した最終結果は、『ル・モンド』によれば、左派178議席、右派170議席、テレビ局・France2によれば、左派177議席、右派148議席、中道23議席、というものでした。

少数政党が多く、しかも、中道的立場の政党も多い。左派に入れるのか、右派にカウントするのか、フランスのメディアも戸惑うようなケースがあるのでしょうね。そのため、上記2メディアの集計結果の違いになっているものと思われます。

そうした差はあるものの、左派が多数派となったことは確かなようです。しかし、議長選挙において、中間各党が左右のどちらに就くのか。それによっては、「第五共和制下、初めて左派が多数を占める上院」も、一瞬の夢で終わってしまうかもしれません。10月1日の投票結果が、待たれます。

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