ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

社会党左派を支持する極右政党・・・政治の世界も丸かった!?

2011-10-14 21:47:08 | 政治
中世ヨーロッパでは、地球は平らで、両端では海の水が滝のように流れ落ちている、という考えが一般的であったという説があり、そのようなイメージのイラストか版画を昔、世界史の教科書かどこかで見たという記憶のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし実際には、少なくとも知識階級の間では、中世と言えども地球球体説は伝承されていたようで、例えば、フィレンツェ生まれの地理学者、トスカネッリ(Paolo del Pozzo Toscanelli:1397-1482)も地球は丸いと語っています。このトスカネッリの説がコロンブスに影響を与えたそうで、しかも、トスカネッリが地球の直径を実際より短く計算してしまったため、コロンブスをしてアメリカ大陸をアジアと誤解させたという逸話になっているようです。

トスカネッリが地球は丸いと考える基になったのが古代ローマ時代のギリシア系地理学者、ストラボン(紀元前63頃―紀元後23頃)であったように、地球は丸いという考えの起源は古い。ヘレニズム時代、そして古代ギリシアにまで遡ると言われています。

そして、地球が丸いことを実証してみせたのが、ご存知、マゼランの艦隊。1519年にスペインのセビリアを200人以上の乗組員たち(270人説、237人説など)と共に出発し、マゼラン自身はフィリピンで戦死してしまいますが、悪戦苦闘の末、1522年に18人だけが世界一周の航海を成し遂げ、帰港しました。めでたし、めでたし、地球は丸い! 従って、西へ向った人と、東に向かった人が、地球の裏側で出会える。滝に落ちる心配はありません。

それと同じことが、実は、政治の世界にもあるのではないかと、実はひそかに想像しています。右へ向った人と、左へ向った人が、裏側で出会って握手をしてしまう・・・政治の世界は、丸い!

社会主義の国と軍事独裁政権の国が手を携えていたり、政治の世界は丸いとしか考えられないようなことがしばしば見受けられます。もちろん、現実の政治では、「敵の敵は友」などと、必ずしも政治思想だけで合従連衡が行われるわけではないのでしょうが、何となく、政治の世界も丸い、と思ってしまうわけです。

そのような思いに合致しそうな状況が今、フランス政界で起きている・・・12日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

与党・UMP(国民運動連合)の幹事長、ジャン=フランソワ・コペ(Jean-François Copé)は、12日、テレビ局・Canal+の番組で、「アルノー・モントゥブール(Arnaud Montebourg:社会党予備選の第1回投票で3位だった候補者)は銀行を接収しようと言っている、大雑把に言えば、納税者の負担にならないうちに銀行の監視を実施しようということだ。それは1917年にボリシェヴィキ(レーニンが率いたロシア社会民主労働党左派)が行ったことだ。フランス左翼の政党がどのような心理状態なのか分からない」と述べた。

さらに、「モントゥブールが、“démondialiser”という時、それは我らが小さなフランスは一人ぼっちで、国境を閉鎖して閉じこもろう、という意味だ」と皮肉り、「その彼が、オブリ(Martine Aubry)からもオランド(François Hollande)からも言い寄られている」と揶揄している。

ジャン=フランソワ・コペはまた、「皆さんが御覧のように、日曜の夜から社会党は大きな亀裂に直面している」と述べるとともに、「右翼であれば、論争は考慮に値する視点を提供するものだが、左翼の論争を聞いても、そのようなものは一つもない」と批判している。

コペは、予備選について、次のように語っている。「リーダーが出てくるのを期待できない場合に、予備選は行われるものだ。もし2012年以降、UMPに真のリーダーがおらず、予備選をやらざるを得ないということになれば、その時は予備選を行うことになるだろう。そうなったとしても驚くべきことではない」(今回の大統領選では、UMPにはニコラ・サルコジというリーダーがいるので、予備選は行わないのだ、と言っているようです)。

テレビ出演の数時間後、ジャン=フランソワ・コペは、週に一度の恒例の記者会見で、オブリとオランドに、テレビ放送される水曜夜の討論会では、極右政党、国民戦線(Front national:FN)のマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)党首が発したアルノー・モントゥブールを支持するという驚きのコメントについてどう考えるのか、意見を表明すべきだと、呼びかけた。

「我々UMPはかなり以前から、想定される国民戦線との対立に備えて用心深く対応を考えてきたが、決して連携しようなどとはこれっぽっちも考えなかった。それが左翼では、予備選で3位の得票を得たモントゥブールがマリーヌ・ルペンの一方的とはいえ、公式な支持を受けることがまったく問題にならないようだ」と、ジャン=フランソワ・コペは語っている。

「この特別な支持は、社会党にとって大きな良心の問題になるはずだ。オブリとオランドは今夜の討論で、この支援についてどう考えるのか、我々に正確に答えるべきだ。曖昧な、一貫性のない答えでは国民は満足しないだろう」と、コペは続けた。

アルノー・モントゥブールへの支持について、マリーヌ・ルペンはすでに月曜日、コミュニケを通して、「自分の経済政策とアルノー・モントゥブールの政策に見られる一致点をさらに前進させたい。共通点の中には、行き過ぎた自由貿易主義の抑制、銀行と金融市場をコントロールする必要性が含まれている」と、説明している。しかし、ルペンは、モントゥブールが一貫性に欠けることを残念がっている。

社会党予備選第1回投票の結果を聞いた後、ルペンはテレビ局・France2の番組で、モントゥブールの支持者たちへ秋波を送った。「企業や工場の国外移転、行き過ぎた自由主義、残酷な自由貿易、信頼のおけない競争、まとまらないEU救済策といったことを否定した左翼の皆さんは今、支持すべき候補者を失い、孤児になったようなものだ。」

・・・ということで、アルノー・モントゥブール支持者が今後支援していくのは、極右の国民戦線だと、マリーヌ・ルペンは呼びかけています。社会党左派と極右政党が、経済政策で一致をみる。左へ左へと向かった政治家と、右へ右へと向かった政治家が、行き過ぎたグローバル化と自由主義経済、金融機関の傍若無人振りに対し、銀行の国有化、市場のコントロールで対応しようと、意見を同じくしています。背中を向けて出発したのに、政界という球体の反対側で出会ってしまった。それも、同じような考えを持って・・・

ところで、最近、話題の少ない、オリヴィエ・ブザンスノ(Olivier Besancenot)はどうしているのでしょうか。2002年と2007年の大統領選に立候補し、左の左としてかなりの票を集めましたが、今年5月、2012年の大統領選には立候補しない旨を表明しました。その後、発言が聞こえてきませんが、モントゥブールよりも左ですから、経済政策については、それこそマリーヌ・ルペンと意見を同じくしているのでしょうか。そんなこと、あるはずがない。反資本主義新党(Nouveau parti anticapitaliste:NPA)をばかにするな、というお叱りを受けるかもしれません。

右へ寄るほど、また左へ寄るほど、アングロ=サクソン流の自由主義経済に反感を抱くのかもしれないですね。“démondialisation”とか言い方は異なっても、結局は、フランスが一番、フランス流でやりたい、従わなければ、国有化してしまえ、ということなのかもしれません。左翼の中でも左寄りの政治家や政党が、もし、極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン候補を支持したら、UMP対社会党という大統領選の構図が崩れるかもしれません。まあ、現実問題としては、ありえないことですが。でも、フランス政界が球体であることをぜひ、マゼランのごとく実証してほしいと、ひそかに願っていたりするわけです、あまりに無責任ですが(無責任は、いつものことだろうって・・・恐縮です)。

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