ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

「黒人売買と奴隷制の廃止記念日」に見え隠れする思惑は・・・

2011-05-12 21:14:58 | 政治
花の都、パリ。文化とグルメの国、フランス・・・しかし、同時に、武器輸出大国であり、原発輸出大国でもあります。そして、かつては、奴隷貿易で栄えた時期もありました。

例えば、ボルドー。17世紀後半からの約1世紀半の間に、13万人もの黒人がアフリカからボルドーを経由して、カリブ海などにあるフランス植民地に船で送られたそうです。

植民地経営をし、奴隷貿易を行っていた「過去」。その事実とどう向き合うべきなのか。口実を作っては、背を向けてしまうのか、それとも、真摯に向き合うのか・・・

「国の偉大さとは、過去をすべて受け止めることにある。輝かしいページだけではなく、影の部分も含めて、ありのままの過去を見つめよう」・・・5月10日を「黒人売買と奴隷制の廃止記念日」に制定しようと語りかけたシラク大統領のメッセージです。この記念日は、2006年に制定されました。

そして、今年で6回目の「黒人売買と奴隷制の廃止記念日」。式典にはサルコジ大統領が出席し、スピーチを行いましたが、そこにはそれなりの思惑が透けて見えるようです。誰が、どのように、見ているのでしょうか。10日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

「黒人売買と奴隷制の廃止記念日」(la Journée nationale de la traite, de l’esclavage et de leurs abolitions)にあたる5月10日、サルコジ大統領は、海外領土でかつてフランスが行った黒人売買と奴隷制度を忘れてはいけないと訴え、黒人売買と奴隷制度を人道に反する第一級の犯罪だと断罪した。人道に反する犯罪としてショア(la Shoah:ホロコースト)を忘れてはいけないように、奴隷制度も忘れてはいけない過去だ。どちらも普遍的な教訓を含んでいる。

黒人売買と奴隷制度は民族の皆殺しにも匹敵するものであり、黒人は劣った人種であるという考えによって、人びとは知的・道義的に自らを正当化した。しかし、こうした過去を決して忘れ去ってはいけない。我々の祖先が犯した間違いに責任を感じなければ、卑劣な言い訳とともに我々自身が過ちを繰り返してしまうかもしれないからだ。「自分は知らなかった」という卑怯な言い訳だ。パリのリュクサンブール公園で行われた式典で、サルコジ大統領はこのように語った。

以前、サルコジ大統領は、黒人奴隷を乗せた船の航海日誌や奴隷売買の三行広告など黒人売買や奴隷制に関する歴史的文書を公開させたことがある。しかし、大統領は過去2年、この記念日の式典に出席しなかった。それが大統領選挙まで1年になった今年は、先月のマルチニークの詩人、エメ・セゼール(Aimé Césaire:ネグリチュード文学運動の創始者、『帰郷ノート 植民地主義論』など著書多数、反植民地主義を牽引、共産党の国会議員・市長、2008年4月9日没、国葬に付されました)へ敬意を捧げる式典(4月6日、エメ・セゼールへの賛辞を記したプレートがパンテオンに取り付けられました)に続いて、この日の式典にも出席した。

黒人売買と奴隷制度は人道に反する犯罪であることを認める法律を提案し、2001年5月10日の成立へと導いた、左翼急進党(Partie radical de gauche:RPG:中道左派)所属でギアナ選出の国会議員、クリスチアーヌ・トビラ(Christiane Taubira:この法律は彼女に因んでトビラ法と呼ばれています)は、サルコジ大統領の全てにおいて政治的に計算高いことを警戒して次のように語っている。人はさまざまなことを考慮に入れている。しかしあからさまに政治的に利用しようとすれば、その反動が必ずやブーメランのように本人に帰ってくるものだ。

クリスチアーヌ・トビラは、一方で、さまざまな抑止力が低下していることに懸念を示している。警戒することが疎かになり、数年前では敢えて口にしなかったことが今では堂々と言葉として発せられていると語り、フランス・サッカー連盟の会議で代表チームのローラン・ブラン監督(Laurent Blanc)も同席のうえ、若手有望選手のトレーニング施設への入校に人種的割り当てを導入しようと話し合われたとされる問題を引き合いに次のように述べている。ローラン・ブランが人種差別主義者だと言うつもりはないが、しっかり聴取されるべきであり、人種差別的表現に関わったのであれば、その点で人種差別的であったと認めるべきだ。人種差別主義者でないならば、そのことを明確にするべきであり、そうしようと考え、実際に行うことができたことを反省すべきだ。

・・・ということで、南米・ギアナ(地方圏)出身のトビラ議員は、フランス社会で高揚しつつある人種差別に警鐘を鳴らすとともに、すべてが政治的打算であることが見えてしまうサルコジ大統領の政治手法へも批判の矛先を向けています。

上流階級出身で、ENAを卒業した一握りに人たちが、表向きはにこやかだが、裏では利害関係で結ばれ、国民からは見えないように自分たちに都合の良い国家運営を行ってきた従前のスタイルよりも、国民に分かりやすいサルコジ大統領の手法を評価するフランス人も、それなりにいるようですが、やはり、成金的派手さ、すべてが計算づくのうえ、その計算高さが丸見えな手法を批判する人も多いようです。

ところで、フランス領ギアナと言えば、流刑地として有名です。特に沖合の浮かぶデビルズ島は、「悪魔の島」とも呼ばれ、政治犯などから恐れられた島です。サンフランシスコ沖のアルカトラズ島のようなものだったのかもしれません。

スティーブ・マックイーン主演の映画、『パピヨン』の舞台にもなった島です。このデビルズ島に送られた囚人の中に、ドレフュス事件で有名なアルフレッド・ドレフュス大尉がいます。1895年から99年まで、この島に幽閉されていました。ユダヤ人であるがゆえの冤罪。

エメ・セゼール、クリスチアーヌ・トビラ・・・海外県・海外領土から発せられた声をフランス本土はいつまで真摯に受け止めることができるのでしょうか。

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