ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

波紋広がる、DSKの逮捕劇。

2011-05-17 22:36:29 | 政治
ドミニク・ストロス=カン(Dominique Strauss-Kahn)の逮捕に関しては、昨日もご紹介したように、フランス、特にネット上では、「陰謀説」がかなり広まっているようですが、現実空間でも様々な波紋が広がっています。アメリカでの取り調べの進捗状況、IMFの対応、EUの動き、フランス政界からの声・・・フランス時間16日23時51分に公開された『ル・モンド』の電子版が、次のように伝えています。

アメリカの司法当局は、16日、DSKの勾留を命じ、100万ドルの保釈金による釈放を認めなかった。DSKはこの日、マンハッタンのホテルで客室係に対して性的犯罪を起こしたとされる件でニューヨーク地裁に出頭した。

ジャクソン裁判官(Melissa Jackson)は、条件付きとはいえ保釈した場合、DSKが逃亡するのではないかと危惧する検察側の主張に沿った判断を下した。彼女は、「容疑者が逮捕時に空港にいて、出国しようとしていたという状況は、いくつかの疑問を生じさせる」と、DSKの弁護を引き受けたブラフマン弁護士(Benjamin Brafman)に向かって述べた。

検察側は、専門家による予備的調査により原告の訴えは裏が取れていること、またもし容疑者がフランスに戻ってしまえば、再びアメリカに召還することが不可能になるだろうということを主張した。また、DSKが関わったとみられるもう1件の性犯罪についても調査が開始されたとも述べている。

DSKに対する起訴は7つの罪状で、強姦未遂および性的暴行にまたがっており、フランスでは犯罪(des crimes)と軽罪(des délits)にあたるが、アメリカではそれぞれの刑が加算され、最大74年の禁固刑になる。DSKはすべての起訴内容を否認し、無罪を主張している。

被害者の供述に基づく調書によれば、容疑者、つまりDSKは、①部屋のドアに鍵をかけ、被害者が退室できなくした上で、②同意なしに被害者の胸を触り、③ストッキングを無理やり脱がそうとし、手で女性器の周辺を触り、④被害者の口を二度も無理やりペニスに触れさせたが、⑤これらの行為は身体的暴力をもって無理やり行われたものだ。

審問の間、DSKの弁護士は、容疑者は警察から逃げようとしてJFK空港に向かっていたのではないことを明らかにしようとした。「容疑者のフライトスケジュールは数日前に決まっていたのであり、そのことを証明するデジタル文書をもっている。容疑者が機内にいたことは何ら矛盾することではない。逃亡するような人間ではなく、事前にスケジュールを決めていて、それに従ったまでだ」と力説した。

ブラフマン弁護士はまた、GPS機能付きのブレスレットを装着することを条件に保釈を勝ち取ろうと交渉したが、それも受け入れられなかった。

退廷する際、弁護士は、保釈金を積んでの釈放が認められなかったことにがっかりしていることを認めつつ、戦いはまだ始まったばかりであり、ストロス=カン氏の願いはその名声を回復することなのだ、と語った。

次回の出廷は、20日に予定されている。

DSKが今できることは、大陪審の決定を待つことだ。ニューヨーク州の有権者から選ばれた、16人から23人の陪審員で構成される大陪審は、証拠をひとつずつ検証することになっている。証拠が十分であると見做すと、被疑者の容疑を正式に認める決定を下すことになる。

その場合、DSKはニューヨーク州の最高裁に出廷し、正式な容疑を知らされることになり、また裁判を担当する判事が任命される。並行して、検事による証拠集めが警察の協力の下、行われることになる。

IMFでは、DSK不在の間、ナンバー2のリプスキー筆頭副専務理事(John Lipsky)が一時的に専務理事の職責を引き受けることになった。IMFは大きな機関で、常に機能していると、ドイツのショイブレ財務相(Wolfgang Schäuble)は日曜日に強調していた。

非公式な理事会の後で、IMFは事件の推移を見守ることとし、目下のところ何ら決定を下していないと発表した。

一方、ユーロ圏の財務相たちは月曜日に会合をもった。ユーログループは、今回の事件がユーロの危機管理に及ぼす影響を最小限に食い止めるよう努めると発表したが、舞台裏ではDSKの後任人事が話し合われた。

27カ国は、DSKが辞任した場合、後任にEU出身者を共同で推すことを目指すことにしている。もし後任が必要な場合は、EUとして候補者を担ぐことになると、バローゾ委員長も語っている。

IMFにとって緊急の案件は、ギリシャ経済の救済であり、DSKの逮捕は関係国を当惑させている。ギリシャ政府の報道官は、IMFとの関係は組織的なものだと述べているが、同じ社会党員同士であるDSKとギリシャのパパンドレウ首相(Georges Papandréou)の個人的関係が昨年5月のギリシャ救済策の実現に決定的な役割を演じたことも認めている。

フランス国内では、DSK逮捕の衝撃にも関わらず、社会党は大統領選の公認候補を決める予備選のスケジュールを変更する予定はないそうだ。この事件は、まずDSK個人に関わることであり、我々は党として対応すると、社会党のアモン報道官(Benoît Hamon)は語った。

社会党ナンバー2のデジール欧州議会議員(Harlem Désir)は、来年の大統領選へ向けて突き進むよう党員に呼び掛け、立候補の受け付けが6月28日から7月13日まで、第1回投票が10月9日に行われるというスケジュールに変更はないと語った。そして、来年、社会党は政権交代を行うことになる、と付け加えた。

社会党は、しかしながら、今後の計画について取り決めるため、全国委員会を17日に行うことを決めた。

・・・ということで、原告の言い分に従って事件の具体的な内容が明らかになって来ています。しかし、あくまで原告側の主張であり、DSKは真っ向から否定しています。真相はどのように明かされていくのでしょうか。

ニューヨークでは、DSKが関わったとみられる別の性犯罪の調査も開始されたようですが、一方フランスでも、昨日ご紹介した、インタビューの際に性的暴行を受けそうになったというジャーナリスト兼作家の女性が、DSKを告訴するようですし、イメージだけは間違いなく不利な方向へと動いているようです。

しかし、「陰謀説」を裏付ける、次のようなニュースも飛び込んできました。

 仏紙リベラシオン(電子版)は16日、性的暴行容疑で訴追された国際通貨基金(IMF)専務理事のストロスカーン容疑者が先月、政治的思惑から女性関係の醜聞をでっち上げられる可能性に言及していたと報じた。仏各メディアは今回の事件で、来年の仏大統領選で最大野党・社会党の本命候補と目されていた専務理事の政治生命は事実上ついえたと伝えている。
 リベラシオン紙によれば、専務理事は4月下旬に同紙記者と会った際、自身の行動が政界のライバルに監視されていると警戒感を示した。その上で「50万~100万ユーロ(約5700万~1億1400万円)の報酬を約束され、駐車場で私に性的暴行を受けたと作り話をする女性」がいても不思議ではないと話したという。 
(5月16日:ロイター)

陰謀はあったのかどうか。真実は一つです。ただ、どうやって真実までたどり着くことができるのでしょうか。

ところで、IMF専務理事の後任選び。DSKの大統領選出馬のための辞任を想定して、IMF内では検討されてきたようですが、どうなるのでしょうか。IMFは欧州から、世界銀行はアメリカから、という慣例があり、EUは独自候補を共同で推すことにしたいようですが、フランス、ドイツなどは自国の候補を擁立しようと動いているようです。調整は簡単に付くのでしょうか。因みにフランスでは、ラガルド財務相(Christine Lagarde)を推す声が上がっているようです。後任が同じフランス人でも、今度は女性だから、女性問題は心配ない、というところでしょうか。

IMF加盟国、特にアジアやアフリカの加盟国からは、ヨーロッパ人ではなく、新興国から後任を選ぶべきだという声も聞こえているようですが、政治家とも駆け引きができるだけの人物が求められるそうで、今回すぐにというのは難しそうです。現在のIMFナンバー3は日本人なのですが、国際舞台での政治的駆け引きや押しの強さなどの点で引っ掛かるのでしょうか、後任として名前は上がっていないようです。これは個人の問題ではなく、日本人共通の課題のような気がします。

さて、弁護士の言うように、DSKの戦いは始まったばかり。どう進展していくのでしょうか。そして、DSKの消えた大統領選は、どう展開するのでしょうか。目が離せません。

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