ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

フランス人は、地震もマンガで知る。

2011-04-13 20:22:08 | 文化
“Manga”という日本語のままでフランスでも浸透している日本のマンガ。しかし日本では以前、巨匠・手塚治虫を除けば、なんとなく百害あって一利なし的に見られてきました。マンガなんか読んでいる暇があったら、勉強しろ!

その立場に大きな変化が生じたのは、欧米での評価でした。外圧に弱い日本は、欧米でのマンガ人気によって、ようやくマンガをサブカルチャーと見做すようになりました。サブがつくものの、一応カルチャーの仲間入り。そして今日では、ポップカルチャーとして認識されるようになりました。サブからポップへ格上げされたわけです。そして、輸出できる文化のひとつとしてスポットを浴びる存在に。利益を生み出すものは、何であれ、素晴らしい! マンガはようやく、裏通りから表通りへ歩む道を替えたようです。

そうしたマンガの素晴らしさをすぐに認めた欧米、特にフランスでは多くの日本マンガが出版されています。フランス滞在中にモデムの修理を依頼したのですが、その際やって来たプロバイダーの技術者も、日本のマンガに非常に詳しかったのを思い出します。また、マンガを原作で読みたくて日本語の勉強を始めたという学生も多くいます。パリ第7大学の日本語学科にお邪魔したことがありますが、学生の大半が日本語に興味を持ったきっかけはマンガだったと言っていました。

さらには、マンガを通して日本の社会や日本人の生活ぶりを知ったというフランス人も多くいます。そうしたマンガ通のフランス人に大きな衝撃を与えたのが、東日本大震災。マンガには、地震や津波がしばしば描かれていますが、フランスではめったに起きない災害です。それを映像で目の当たりに。そこで調べたのが、大震災とマンガの関係・・・大震災発生直後の3月15日に、『ル・モンド』(電子版)が伝えていました(大震災発生から1カ月が過ぎましたので、まとめてみます)。

『北斗の拳』(作・武論尊、画・原哲夫:仏語タイトル・Ken le survivant)、『AKIRA』(作画・大友克彦:仏語タイトル・Akira)、『新世紀エヴァンゲリオン』(マンガ・貞本義行、アニメ・GAINAX&庵野秀明:仏語タイトル・Neon Genesis Evangelion)・・・大惨事はその様相がどうであれ、マンガの主要テーマのひとつになっている。日本のマンガはいつも人気があり、驚くほどにダイナミックだ。そして津波や地震のシーンは多くの作品に登場している。そうした惨事は話の筋立ての道具であったり、おセンチなストーリーの背景になったり、戦いの場であったり、大惨事の後にも世界が存在することを確かめるために旅立つ背景になっている。

『東京ミュウミュウ』(作・吉田玲子:Tokyo Mew Mew)では、大地震に遇った後、主人公は超能力と猫のような外見を身にまとってしまったことに気づく。『東京マグニチュード8.0』(作・橘正紀:Tokyo magnitude 8)は、日本列島を破壊する巨大地震の影響をしっかり調べたうえで真に迫る描写を行っている。この作品では、地震に襲われた人工島の廃墟に残された二人の生存者(姉・弟)の我が家への帰還が描かれているが、救援体制についても詳細に描写している。

大惨事を描いた多くの作品の中で、ひときわ異彩を放っているのが、かわぐちかいじ作の『太陽の黙示録』(Spirit of the Sun)だ。物語は、本州を二分してしまうほどの巨大な地震の発生から始まる。地震の後に大津波が襲い、国土の多くが破壊され、水没する。中国軍が人道救助を口実に北日本を占領し、南日本はアメリカ軍が支配下に置く・・・

悲劇的な大惨事の後(post-apocalyptique)の世界を描くマンガの例にもれず、『太陽の黙示録』も2000年代の日本の姿を批判的に、そして詳細に描いている。例えば台湾へ流れ着いた日本人難民の困難な状況が、現在日本政府が採っている厳しい移民政策を反映して描かれている。

地震と津波は、しばしば採り上げられるテーマだが、しかし影響のない無難なテーマという訳ではない。『X』(作・CLAMP;大川七瀬、いがらし寒月、猫井椿、もこな、という4人の女性漫画家集団)は、『聖書』、特に「黙示録」に着想を得たファンタスティックな作品だが、1995年、数カ月にわたって出版が延期された。この作品は多くの地震を描いているが、そのことから世界の終末が近いというメッセージと捉えられ、特に6,500人もの被害者を出した阪神淡路大震災の後だけに、読者の神経を逆なでしてしまったようだ。

東日本大震災直後の今日、同じように、多くのマンガの出版がしばらく延期されるに違いない。アニメ化された『東京マグニチュード8.0』の再放送はすでに延期が決定されている。また津波の場面が登場するアニメも放送が延期されたり、そのシーンが修正されたりしている。

・・・ということで、『ル・モンド』の記者の中にもマンガ通はいるようです(上記の記事を執筆したのは、Damien Leloup氏)。

「序破急」とか「起承転結」とか言われますが、その「序」や「起」の部分に大地震や大津波を持ってくるマンガ作品が多くあります。地震列島と言われるくらい地震の多く国ですから、誰にとっても身につまされる自然災害であり、それだけ、ストーリーに惹き込むにはもってこいの題材なのかもしれません。

しかし、震災の先にどんなに明るい未来を描こうと、やはり現実に大震災が起きた直後では放送や出版を延期せざるを得ない、ということですね。

フランスのメディア、日本の大震災をさまざまな視点から伝えています。

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