ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

EU内で台頭する、反ヨーロッパ主義。

2010-11-22 21:04:49 | 政治
21日、財政危機に瀕しているアイルランドのカウエン首相は、EU、IMFからの説得を受け入れ、900億ユーロ(約10兆3,000億円)の財政支援を要請する決定をしました。5月にギリシャが1,100億ユーロの財政支援を求めたのに続くユーロ危機第2弾。EUはここで何とか食い止めようとしていますが、後にポルトガルやスペインが続くのではないかという憶測もあり、予断を許さない状況にあるようです。

EUが経済危機から崩れ去っていく・・・こういう見方ができるのではないかと思いますが、否、実は政治から崩れていく危険性をはらんでいるという声が上がっています。18日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

『ル・モンド』のインタビューに答えるのは、国際関係戦略研究所(l’Institut de recherches internationales et stratégiques:IRIS)ヨーロッパ問題担当ディレクターのリベルティ(Fabio Liberti)氏です。

氏曰く・・・ユーロ圏の危機は、EU内に反ヨーロッパ主義を顕在化させるとともに、国際舞台でのEUの存在感を希薄にする。ヨーロッパの国々は、経済危機を何とか乗り越えようとしているが、同時に国内の政治問題を考慮に入れねばならず、状況は一層困難だ。例えば、ドイツ。ユーロ圏の危機を解決するために主要な役割を演じているが、経済問題と政治的圧力のはざまで引き裂かれんばかりだ。

まず、ドイツがアイルランドをどうしても救おうとしているのは、自国の銀行のアイルランドへのエクスポージャーが非常に大きいためだ。またドイツ経済の好調さはEU域内の経済成長とユーロ高に負うところが大であり、ドイツと他のEU諸国は切っても切れない関係となっている。一方で、ドイツ国民は、反ヨーロッパ的になってきている。自らが支払った税金が、いい加減な国家運営を行い、金融財政を放任してきた他国の救済に使われることに反対している。ギリシャ支援を遅らせたのも、こうしたドイツ国民の感情だった。しかし、金融市場を安心させるためには、スピーディな金融支援が当初思われていた以上に大切なことがはっきりしている。

一方、アイルランド経済は外国資本を呼び込みやすい法人税率の低さ(12.5%)に頼っている。しかし、EUやIMFからの支援を受け入れれば、他の国々との協調の意味からも税率を上げざるを得なくなるため、アイルランドは支援要請を拒んできた。しかし、ようやく支援を受け入れることになった。

ところで、経済危機がEU内の力関係にどのような影響を及ぼしているかだが、今までEUはフランスとドイツという二つのエンジンで前へ進んできた。それが今回の危機により、ドイツの力が突出してきた。緊縮財政を受け入れるよう他の国々に圧力をかけたのもドイツであり、先のG20で、アメリカがアイルランド危機を解決するよう呼びかけたのもドイツに対してだった。

しかし、ドイツはこうしたヨーロッパのリーダーとしての地位に居心地の悪さを感じているようだ。ひとつには第二次大戦という過去の問題のためであり、ドイツが指導的地位にいるヨーロッパという考えを受け入れたくないようだ。

経済問題によるEUの瓦解が現実的ではないとしても、逆に中期的には政治問題による崩壊の危機が考えられる。ユーロ危機は反ヨーロッパ的感情を広め、結果としてポピュリズムや衆愚政治を生み出している。オランダや、ハンガリー、スウェーデン、イタリアなどで見られるように、国内問題をEUのせいにする保守派や極右が台頭している。また短期的には、国際政治の場面で、EUの存在を希薄化し、EUへの信頼を損なうことになる。その結果、アメリカと中国による二極化が一層鮮明になるだろう。

EU加盟各国の利害を一致させるためには、例えばEU経済相の創設などにより、各国の国内予算へのEUの介入を容易にすることが必要だ。今日、共通の単一通貨を持っていながら、経済政策は一様ではない。ユーロ圏として、各国の国内経済の成長を促す方法を講じなければならない。またアメリカや中国と対等の立場に立てるよう、EUとしての統一された意見を発信すべきだ。

そのためには、各国の指導者たちが勇気を持って自国の国民にヨーロッパ各国同士の助け合いがいかに大切かを説明することが必要だ。ユーロ防衛基金の創設はその第一歩となる。各国の負債の一部をEUの負債とすることもできるかもしれない・・・

共産主義が20世紀の大いなる実験だったとすれば、地域統合・単一市場の形成・共通通貨の創設が21世紀の壮大な実験になるのではと思っていたのですが、その先駆的存在であるEUとユーロが大きな困難に直面している。それもグローバル化というアメリカ発の波に翻弄されて、難破しそうになっている。何とか持ちこたえてほしいものです。EUとユーロをいかに維持するのか・・・ヨーロッパの知恵、伝統の知恵が試されているのではないでしょうか。アメリカと中国、いずれとも異なるアイデアが、世界をより豊かにするのではないかと思います。頑張れ、ヨーロッパ!

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