ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

右も左も一刀両断・・・マリーヌ・ルペンの舌鋒、どこへ向かう?

2011-12-18 22:00:42 | 政治
閉塞感に覆われる時代には、極右や極左、あるいはアナーキズムに対して追い風が吹くことがよくありますが、今日も世界的に閉塞感が広がっています。グローバル化の影響か、世界同時株安と同じように、世界同時閉塞感。しかも、来年には多くの国々で、大統領選挙や首相選挙、総統選挙、国家主席の交代などが行われます。争乱、動乱の一年になるのでしょうか・・・

フランスでも大統領選挙が行われます。現状は、ご存知のように、社会党(PS)のフランソワ・オランド(François Hollande)がリードし、与党・UMP(国民運動連合)の現職・ニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)が追い、さらに極右・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)が追いかける状況になっています。しかも、中道からはMoDemのフランソワ・バイルー(François Bayrou)、ゴーリズムの元首相・ドミニク・ド・ヴィルパン(Dominique de Villepin)など多士済々の候補者が名を連ね、いつも以上の混戦になるかもしれません。

ユーロ圏の債務危機・信用不安や高止まりする失業率、企業の海外移転、増える移民・・・国民の苛立ちが昂じる状況にありますが、その受け皿となっているのが、やはり、FNのマリーヌ・ルペン党首。右派からも左派からも支持者を増やしつつあります。右派のUMPには騙されたと思う有権者、左派はもう時代遅れだ、頼りにならないと思う有権者。左右いずれもダメだという出口の見えない状況下、もともと愛国心の強いフランス国民の心の琴線に触れているのが極右の国民戦線、ということのようです。

世論調査ではまだPSのオランド候補が優勢を保ってはいますが、テレビのインタビューなどでは、長年左派を支持者してきた労働者の中から、かなりの人々がFNに流れているようです。もちろん、右派支持者からもサルコジ政治に失望して極右へ走る人々も多いようです。

こうした情勢の中で、マリーヌ・ルペン候補が、正式立候補後、初めての大規模集会を行いました。どんなことを語って、いや、叫んでいたのでしょうか・・・11日の『ル・モンド』(電子版)です。

マリーヌ・ルペンは「忘れ去られた人々の候補者」(la candidate des oubliés)になろうとしている。「忘れ去られた人々、苦情を訴えるすべのない人々、その存在が顧みられない人々、その声に聴き耳を傾けてもらえない人々」の候補者だ。11日にメッツで行った初めての大規模集会で国民戦線の候補者であるマリーヌ・ルペンは左派右派どちらにも背を向け、そして、左右両陣営に失望した人々に自分の周りに集まるよう訴えかけた。

「目を見開いてください。数十年にわたって覆っていた嘘のベールがはがれようとしています。目の前の真実を直視してください、たとえ好ましいものでなくとも、傷つくことがあろうとも。拝金主義でモラルを失った右派と堕落して自由奔放なブルジョワと化した左派が手を組んで、皆さんを道の端に置き去りにしようとしているのです」と、800人分の席が用意された会場に、平均5ユーロの会費を払って入場した1,000人以上の聴衆へ向けて、マリーヌ・ルペンは語りかけた。

マリーヌ・ルペンはまた、「現実回帰の候補者」(la candidate du retour au réel)になろうともしている。「あまりしゃべらず、多くのことを実行していきたい。フランス国民は、国の最も高い所に愛国心を置こうとしている。フランスを心底愛している大統領、政治に忘れ去られた人々が生きているその現実へ立ち戻ろうとする大統領を、選ぼうとしているのです」と、語った。

保守派が主流のロレーヌ地方では、サルコジ政治に失望した多くの人々が極右に馳せ参じており、極右・国民戦線の党首は、まずは右派の人々に語りかけた。「皆さんに対してなされた公約は守られませんでした。大統領選を数カ月後に控え、再び語られる約束は、子守唄に過ぎないのです。」

しかし、彼女がさらに激しく攻撃したのは、左派陣営だった。しかも、現実は彼女の左派批判を後押しするものだ。特に、自ら立候補してきたエナン・ボモン(Henin-Beaumont)市のあるパ・ド・カレ(pas-de-Calais)県の社会党支部に対してかけられた買収賄疑惑は、彼女自身数年前から糾弾してきたことでもあり、かなりの票田を彼女のものとするのに好都合となった。

「左派支持者の皆さん、社会党が皆さんの夢をどうしたのか、よくご覧ください。左派は今やどうなっているのか、進歩をもたらし、弱者を支援し、働き、苦しむ人々を守り、楽しい明日をもたらすべき左派がどうなっているのかをしっかりと見つめてください。左派はすべてを投げ出してしまいました。すべてを裏切り、今やカネと権力に骨の髄まで蝕まれているのです」と訴え、左派は大量でコントロールの効かない移民、犯罪者、つまり治安悪化の共犯者なのだと決めつけた。

左派への投票が期待できる外国人への参政権を例に、マリーヌ・ルペンは辛辣な批判の矛先を社会党へ向けた、その堕落ぶりは、贅沢な人生を送るゴロツキのようだ、と。そして彼女は次のように声を大にした。「左派は至る所でモラルを失い、闇世界の前で目をそらし、鼻をつまんでいるだけで、昔から汚職、汚いカネ、贈収賄に関わってきたのです。左派を支持してきた皆さん、権力とカネのために、左派は皆さんの夢を葬り去ったのです。右派の下品な拝金主義者と同じように、左派は金融市場、ウルトラ自由主義のヨーロッパ、野蛮な競争に屈し、銀行と銀行のカネ、ユーロを守っているのです。」

工場の海外移転や閉鎖に言及し、彼女は特権階級のグローバリスト(UMPとPS)とナショナリスト(FN)の間に広がる差を強調した。そして、愛国心は、グローバル化とそのお先棒担ぎ、反フランス・汎欧州主義に対する砦であると、父のジャン=マリー・ルペン前党首を彷彿とさせる口調で訴えた。また、ベルナール=アンリ・レヴィ(Bernard-Henri Lévy)とジョルジュ=マルク・ブナムー(Geotges-Marc Benamou)という左派に属しながらサルコジ大統領との関係を維持している二人の編集者・作家を名指しして揶揄した。雑誌“Globe”の記事に基づいて、彼女は二人を愛国的でないと批判したが、その記事が出たのは1985年のことだった・・・

・・・ということで、右派にも、左派にもがっかりした人々が、第三の道として極右の国民戦線に歩み寄っているようです。その数をさらに増やそうと、党首のマリーヌ・ルペンが有権者に必死に訴えかける。第1回投票まで4カ月と少々、実質上の選挙戦は一気にピートアップしそうです。

そして、我らが祖国は・・・自民、民主に失望した有権者は、はたして橋本新党へ雪崩を打つのでしょうか、それとも、不信感から政治にいっそう背を向けるのか、何か大きな力によりかかるのか、あるいは「怒れる人々」の列に加わるのか。閉塞感の向こうに、何が待っているのでしょうか。「アラブの春」から始まった2011年、そして2012年は、未来から振り返ると、歴史のひとつの大きな転換点となるかもしれません。角を一つまがった先に、より良い社会が待っていることを願うばかりです。
コメント (1)
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