電話が携帯にかかってきた。
向こうで、4歳の長女が「フグ釣ってきたから焼いて食べよう」と突然叫んだ。
「えっ?フグ?」
娘の通う保育園は小さな保育園で、自然の中で遊び学ぶことをモットーとしている。
だから、山へ、川へ、海へと、子どもたちと先生が出かけていく。
みんなで魚釣りにいってきたんだなとすぐに理解できた。
とにかく自分たちが釣ってきた魚を料理して食べてみたいということらしい。
ちょっと面倒な予感がしたので、
「フグは毒があるから食べれないと思うよ」と適当に話をそらそうとしたが無駄だった。
「だってー、フグ焼いて、煮て、たべたいーー」
「おいしくないよ、たぶん」
「いや、食べたいーー」
と押し問答の末、
「うーん、じゃあお母さんに聞いてみて」と、逃げた。
「ねーねー、おかーさーん。フグ焼いてーー」
「だめー」とやりあう声が。
しめしめ、一件落着。と思ったら、すかさず、妻から
「ねえ、今日はいつ帰ってくるの?」
「それから、明日はKちゃんが登山だから朝早いし、弁当もいるし、お茶もいるし」
「あと、洗濯機の中のもの、どうなっているの?」
「洗濯セットしておくからちゃんと干しといてね、それから、ご飯も炊けるようにしとかないと…」
「Wちゃんが今日熱をだしたから、明日どうなるかということもあるし、明日はどうなの?」
帰宅してからの私のスケジュールは、この時点でほぼ決まった。
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フグは、ステンレスのボールの中で固くなっていた。体長7センチ、大人の小指ほどである。
料理のしようがないほどの小さなフグだった。
もしこれを食べるとなると、実際どうやって料理すればいいのだろうか?
結局このフグ様は、料理されることもなく、小さな容器にはいって、とりあえず冷蔵庫行きの運命となったのである。