∞ヘロン「水野氏ルーツ採訪記」

  ―― 水野氏史研究ノート ――

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C-1 >戸部城址(松本城/笠寺城)

2005-07-28 20:22:10 | C-1 >小河氏系水野



戸部城址(松本城/笠寺城)
    愛知県愛知県名古屋市南区戸部町3丁目73  Visit :2005-05-30 10:30


 戸部城の築城年は明かではないが、戸部新左衛門政直が築いたといわれ、今川勢力圏の最西端にあった。今川家はもともと駿河(静岡県東部)を領地としていたが、今川義元の父氏親が、関東を支配していた北条早雲と同盟を結ぶことにより、遠江(静岡県中・西部)に進攻し支配下に置いた。さらには三河や尾張の一部にも勢力を伸ばしてきたことで、戸部城は大高城ともども、尾張の織田勢に対する今川の最前基地となっていた。このことから、政直は今川義元の妹を妻としていたが、弘治二年(1556)、義元に信長との内通を疑われ吉田(豊橋市)で殺害された。この四年後の永禄三年(1560)、今川義元の大群が織田信長に打ち破られるという、有名な桶狭間合戦がおこった。
戸部城郭は、東西二十七メートル、南北百八十メートルと細長い領域であったが、四方は崖となり、また東は新池を要害とする所謂砦であったが、昭和四年(1929)の区画整理事業に伴い、現在は城址としての面影はなく、住宅街の三角地に「戸部城跡」「戸部新左衛門政直霊碑」「句碑」と三つの石碑が立つのみで、その痕跡は留めていない。句碑には「ほととぎす 鳴いて過ぐるや 戸部の城 小林橘川(元名古屋市長)」と陰刻されている。(戸部城址は、実際には当石碑の場所からさらに西三百メートル辺りにあったとされている)

 この戸部という地名の由来は、当地が西を流れる山崎川の左岸にあり、かつては台地沿いに北から曽池、新地、松本池など沼地帯が続いており、「トベ」は「沼地」を意味することから、これが戸部の地名のおこりといわれている。戸部村は鎌倉時代に熱田社領としてその名が見え、中世から近世にかけて山崎、戸部、笠寺などの星崎七か村(名古屋市南区)には、堤防で囲まれた百町歩余(約百ヘクタール)の曲輪(くるわ=入浜式塩田)があった。戸部町の南西にある南区立脇町も水野帯刀(たてわき *2)の帯刀曲輪の名残である。現在は、曲輪の地名は廓(くるわ)を連想させることから使われなくなったようだ。当城址北にある長楽寺(南区呼続4)には、戸部村塩田で使われた汐汲桶が保存されている。


『尾張國愛知郡誌』に、戸部村に関する記述がある――

水野光直 三右エ門
 戸部村(今千竈村ニ合ス)[名古屋市南区呼続4]ノ人ナリ同村ニ住ス水野貞守(蔵人)ノ後ナリ(水野系圖)
 按スルニ尾張志、尾陽雑記ニ光直ヲ山崎村ノ人トシ同村ニ住ストシタルハ誤リナリ
張州雑志載スル所ノ水野系圖ニ云 小川村(知多郡)城主水野雅經七世孫 駿河守爲妙二子
其(喜三朗 後監物丞(*1))常滑(同郡)住 其ニ子某(彌三郎或彌七郎後 帯刀(*2)) 屬信長 尾州愛知郡戸部村居城 此連枝(*3)多 而荒尾大高山崎充満 其子光直(三右エ門尉)戸部村住 其子光種(彌左エ門)同村住 此時始而 尾州熱田誓願寺後見 尼上依爲妹[アマウエ エイノ イモウト]而也 二世上人照山慶光尼也 云々ト
其連枝ノ人一々記スルニ暇アラス 暫クコヽニ附録ス

 この記述は、戸部村に居城していた水野光直という人物について書かれたものである。水野貞守の末裔である。小川城主水野雅經の七世の孫(九世)である水野爲妙(ゐめう)の二男喜三朗、後の監物丞(けんもつのじょう)[政租か]は、常滑(常滑市)に住み、喜三朗の二男彌三郎あるいは彌七郎、後の帯刀は、織田信長に属し、戸部に居城する。その兄弟姉妹は多く、荒尾、大高、山崎に居住する。帯刀の子光直は、戸部村に住む。またその子光種も戸部村に住む。これを始め、熱田誓願寺の後見人である尼上依爲妹[アマウエ エイノ イモウト]や、二世上人である照山慶光尼などなど。その兄弟姉妹のことを記すには、枚挙に遑がない。

この記述を元に考察すると、弘治二年(1556)、戸部新左衛門政直が、今川義元に織田信長との内通を疑われ吉田(豊橋市)で殺害された後に、信長に属していた水野帯刀が戸部城主となったと考えられる。そしてその子光直、孫の光種もまた戸部村に住んだことになる。つまり戸田城主(砦の主)であろう。

水野家の戸部城主
初代 水野帯刀
二代 水野光直
三代 水野光種

[註]
*1=監物(けんもつ)=律令制において、太政官八省の一つで、職務は蔵人所の中務省(な かづかさしょう)に属し、大蔵・内蔵(うちくら)などの諸庫の出納の監察をつかさ どる官職。
*2=帯刀(たてわき、たてはき、たちはき)= 古代、春宮坊(とうぐうぼう)に属し、帯刀して皇太子を護衛した武官。舎人(とねり)の中から武芸に優れた者を選んだ。たてわき。 たちはきのとねり。
*3=連枝=身分の高い人の兄弟姉妹。類葉=同じ一族。一族の末葉。
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[ ]内=∞ヘロンの[註釈]


小河水野系図
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