∞ヘロン「水野氏ルーツ採訪記」

  ―― 水野氏史研究ノート ――

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E-1>小倉藩士 水野万空(まんくう)

2009-09-06 19:04:36 | E-1 >系統不確定水野氏
    花に寝て十年(ととせ)は夢か秋の蝶   万空



 先般「水野氏関連専門年表」の増補にあたり、『三百藩家臣人名事典』第三巻 を閲覧していて、豊前小倉藩の水野氏の中に、藩士で家禄百五十石の「水野万空」(まんくう、諱は貞胤、通称源六)(*1)が、詠んだ俳句を見いだした。水野家は、藩主小笠原氏が播州明石藩から小倉に入封後に召し抱えられた家柄であるが、残念ながらその出自は判然としない。

 万空は、明和元年(1764)から安永三年(1774)までの十年間、京都留守居役として京都の小倉屋敷に居住した。この京都留守居役は、学者、芸術家、堂上人(公家)や、小倉藩の銀主(大名などへの融資者)達との交際が多いことから、文武両道に通じた者でないと中々勤まらない役目であった。このことから、小倉藩でも、京都では堂上派歌人賀茂季鷹と併称された秋山光彪や、その弟子西田直養など、全国的な水準に達した国学・漢学者・歌人たちを京都留守居役にしており、万空もまた同様の資格があると認められ任命されたのであろう。
 万空は漢籍に通じ、また俳諧をよくし、風流を楽しみ夢想庵と号しており、京都留守居役の任を終え小倉に帰るとき、前掲の句を詠んだ。この句は、京都で評判となり「西陣ではその雰囲気を盛り込んだ錦の西陣織が出回った」といわれるほどにもてはやされた。

 句の「花に寝て十年(ととせ)は夢か」は、在京中の夢のような華やかな十年間のことであり、国に帰れば、槍奉行という風雅とは全く縁のない任務に付かなければならず、京を去りゆく己が姿を、秋に見かける儚げな「秋の蝶(シジミチョウ)」に例えたのであろうか。

良寛の詩句に――
 花無心招蝶、蝶無心尋花。 [花心なくして蝶を招き、蝶心なくして花を尋ぬ。]
 花開時蝶来、蝶来時花開。 [花開く時蝶来り、蝶来る時花開く。]
――という文句があるが、万空はこの詩になぞらえてこの句を詠んだのではなかろうかと、あさはかな考えをめぐらす。



 この句の外、万空の作で特筆すべきものとして、その後長い間人々に親しまれてきた、京都東山の風情を織り込んだ歌を、万空を偲びつつ最後に記したい。

「京の四季」
 春は花、いざ見にごんせ東山、色香争う夜桜や、粋も不粋(ぶすい)も物堅き、二本さしても柔らかう、祇園豆腐の二軒茶屋、御禊(みそぎ)ぞ夏は打連れて、河原に集う夕涼み、真葛(まくず)が原にそよそよと、秋の色増す華頂山[知恩院]、時雨を厭う傘(いとうからかさ)や、濡れて紅葉の長楽寺、思いぞ積もる丸山に、今朝も来て酌む雪見酒、そして矢倉[こたつ]と差し向い。


[註]
*1=「水野万空」の呼称は当初「ばんくう」としていたが、ご子孫から「まんくう」が正しいとのご教示をいただいたことから改正する。(2014.07.19)

 


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2 コメント

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水野万空につきまして (私は万空の子孫です)
2014-07-19 17:12:01
突然で失礼致します。
万空をお調べいただき感謝しております。万空は享保5年(1720年)に生まれ安永9年(1790年)に亡くなっております。
「京の四季」は戦前に京都市から記念碑を建てたいとの打診があったらしいです(戦争のため建てられませんでしたが)。
万空は隠居したあと門司に大梅庵を作り俳諧を教えていたとのことです。
当家の系図では水野勝延、尾州小田家之臣より始まり、ほぼ系図通りに墓が存在しております。
ご参考になれば幸いでございます。
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水野万空のご子孫さま (∞ヘロン)
2014-07-19 19:07:24
 ご丁寧なコメントを頂戴しありがとうございました。
このブログを介し、水野氏関連のみなさまから多くのコメントや情報をお寄せいただき、感謝いたしております。
 本投稿内容は、不備な箇所も多々あり、充実を図りたいと思っていました。
お寄せいただいた資料から、生没年と、御租が解りましたが、もしお差し支えなければ、
メールでお許しいただける範囲で、次のことをご教示いただけたら幸いです。
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 尚 お差し支えがあれば、このコメントを無視くださってかまいません。よろしくお願い致します。

[質問]
1.水野勝延様のご出自と系図に記されたご当主のお名前を万空さままでお教えください。
2.尾州小田家を調べましたが、確かな情報が判明しません。小田家についてお教えください。
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