1597 27年前の在宅介護 老人ケア最前線「ホームヘルパーからの報告」❷
事例ⅱ 夫 全盲、 妻 全盲・認知症疾患
二つ目のケースも介護と家事の援助を行っています。
老夫婦と息子さんという家族構成です。
老夫婦とも全盲という障害があります。
夫はマッサージ師として社会で活躍されてきました。
妻は脳梗塞、痴呆症となられ、家族のこともよくわからない、判断できないといった状態であります。
おむつをあて、部屋のなかでじっとしていることが多い彼女。
ヘルパーが話しかければ笑顔でこたえてくれます。
宇宙人と会話をしているような錯覚に陥ることもあります。
すべて会話が通じないわけではありません。
食事の後は「ごちそうさま」、仕事が終わり「さようなら」、と声をかける、
「どうもすいません」、と言葉が返ってきます。
食事を準備しているときのことです。
彼女のことが気になり、ちょっと振り返ってみると本人がおりません。
最初は、本当にびっくりしました。
家中探し回りました、最後にトイレのところに行ってみると鍵がかかっていました。
「オシッコですか?」
「は~い、おたかです」
「ちょっと、出てきてください」
「え~、何でしょうね」
なかなか出てきてくれません。
10分位過ぎ、やっと鍵があき、おむつもズボンもつけたまま、ジャ~、と水を流して出てきました。
「オシッコでましたか?」
「そうね、そんなこともありましたが、忘れました」
話しかけながらおむつを外そうとすると
「えなぁ~」、と嫌がります。
「オシッコをするときは、ズボンやパンツを脱ぐでしょう。ほら、私も同じものを穿いているよ」、と言いながら
彼女の手を私の腰に持っていきます。
彼女は手で擦りながら「えっ、そうなの」
ここで彼女との会話にピリオドが打たれます。
ひとつ一つの行動をさっさと進めてはいけないのです。
気配(間、ま)をつかみとりながらおつきあいをしています。
夫は、最近血圧が非常に高くなり、心配しています。
朝、4時 息子は老母をお風呂に入れます。
そして、朝食を食べさせ、おむつを交換をし出勤していきまでの時間は、
戦場のような忙しさです。
息子が安心して仕事に行かれるような在宅福祉のニーズは、
ここでも強く求められています。
私は、彼女を寝せつけ、鍵を締め、帰宅します。
息子が帰るまでの間、とても心配です。
こんなとき、近所のつながりがあったら、
もっと安心した在宅ケアに繋がるのではないかと思うものです。