老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

こぼれ落ちる砂

2020-07-08 06:20:50 | 空蝉
1591 こぼれ落ちる砂

農村で生まれた自分は
海は遠い存在にあった
ニセコの山々の向うを越えると
日本海だった

知らない海の砂浜で
両手ですくった砂は
指のすきまからこぼれ落ちてゆく

自分の記憶もすきまこぼれ落ちてゆく
あなたの名前も顔も誰だかわからなくなり
こころも自分も壊れていく
いっそう記憶が失せないうちに死にたい

こぼれ落ちゆく砂は時間のようでもある
両手ですくった砂は
指のすきまから時間がこぼれ落ちてゆく

松本清張の小説を想い出した
砂の器は脆く壊れやすい

砂浜に押し寄せた波で
「砂の器」は脆くも壊れてしまった

知らない海辺で
時間を忘れ 
老いであることを忘れ
皴くれた両手で砂をすくい
指のすきまから落ちる砂を
眺めてみたい

コメント
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