1gの勇気

奥手な人の思考と試行

心の鏡(仮名)4

2006-10-29 12:32:42 | 1gのおときばなし
「だめなの。」
ベットの端を背に、両膝を抱え、ようやくでた言葉。
深夜と呼べる時間。

明かりもつけず。(自動的に付く機能はさっき叩いた。まだちょっと手が痛い。)
唯一人。
この世にいるのは、自分だけ。

そんな感覚。
いや、事実そうだと感じてる。思いこんでる、思いこみたい。
言い換えれば、ひとりでいたい。そしてこのまま消え入りたい。

言語化せぬとも、背中が語る。
冷たい言葉。
放っておけば凍死しそうなほどの。

それでも、望むのは、誰かの温もり。
無条件の。
そして、

「誰か、いないの?」
分かってる。
虚しく響く、そしてその返事さえも拒絶している自分の内も。

別に解決して欲しいわけではない。
この気持ちを理解して欲しいわけでもない。
そして、まだ心は開けない。

友達と呼べるひともいる。
たぶん、話せば同情してくれる。
でも、今は。

そんなものが欲しいわけではない。
いや。
話したくないのだ。

知られたくない。のかもしれない。
あまりにも、不確定で、惨めで、哀れで。
そして、分からない。

そこにあるのは、感情だから。
理屈ではない。
言葉を使って説明できる自信もない。

テレビをつければ、"heav"がいる。...たぶん。
でも。できない。説明。
なのに。時間を取らせるのも...

"heav"に気を遣っていることに気づく。
ようやく。
さっきから頭の片隅にはあった。でも否定(本当は拒否)してきた。

えい!
思い切って腕時計に仕込んである片手用キーボード(ホログラム)を起動する。
そして、キーを二つ叩いてテレビをつける。

heav>> ん?のぞきか?
ryo>> はぁ?
heav>> ひとの入浴を覗くってのはあまりいい趣味とは言えんな。
ryo>> なに言ってんの、わけわかんない、
heav>> 俺も風呂ぐらい入るってことだ。
ryo>> ...お風呂にまで持ち込んでんの、それ、
heav>> お前みたいに、気遣いが足りないのがいるからな。
ryo>> わ、悪かったわね、いいわよ後で、
heav>> いや、聞いとくよ。今は風呂に入っていたい気分だ。急がせるな。

...意味が分からん。
けど、分かる気もする。
のんびり風呂に浸かっているようだ。人の気も知らずに。

ryo>> わからないの、
heav>> そらそうだろうな。
ryo>> なんでわかるのよ、
heav>> 分かってたら、悩むまい?
ryo>> ま、まあ、
heav>> 何があった?
ryo>> ...言いたくない、
heav>> ふむ。なら、どんな気分だ?
ryo>> もういや、
heav>> って気分としておこう。
ryo>>

何か言おうとしたが、黙ってEnterを押す。

heav>> 死んでもいいことないぞ。
ryo>> 生きてるよりましよ、
heav>> また、随分深刻だな。今日は。
ryo>> あなたに何が分かるって言うの、
heav>> いや。わからん。
ryo>> ...聞く気ある?

かなりの勢いでキーを叩く。
が、相手はフォログラム。
叩いた分の反作用(衝撃とか、硬さとか、痛さなど)はない。のが、また気に入らない。
身を乗り出して、テレビの下のキーボードを引っ張り出す。

heav>> ああ。もちろん。準備万端。

ごもっともで。
拒否してたのは自分だった。
のを、認めるのも大きな抵抗。

ryo>> いやなの、
heav>> ほう。それは、どの辺りが?
ryo>> 全部、もう、いや、
heav>> ならどうしたい?
ryo>> なにが、
heav>> 現状がいやなのだろう。なら、こうしたい。というのがあるはずだ。
ryo>> ...わかんない。
heav>> 隠してるだろ。
ryo>> 何も隠してなんてないわよ、大体、何を言おうと何を言うのやめようと私の勝手でしょ、
heav>> ああ。そうだ。俺に対してはな。
ryo>> そうよ、...どういう意味よ、
heav>> 自分に。だ。自分に何か隠していることはないか?
ryo>> あるわけないじゃない、私が私に何を隠すって、隠せるって言うの、
heav>> 意識的に、あるいは無意識のうちに、考えないようにしているものはないか?
ryo>> ないわよ、あるわけないじゃない、そんな

そんな、で指が止まる。
湧き起こってくるこの感情の底にあるもの。
決して思い出したくない、数々の出来事。そしてその時の想い、感情。

もう涸(か)れたかと思っていた、涙がまた流れ出す。
止めどなく。
ただただ。

"heav"は黙って次のひと言を待つ。

ryo>> だから、なによ、

逆ギレされるのもいい加減慣れた。
問題はここから如何に言葉をつなげるかだ。

heav>> つらいのは、そのせいだ。というのは、気づいているな。
ryo>> うるさい、

この際これを肯定の返事と受け取る。
まるで子供を相手にしているようだが...
まあ、感情的になっている、そして否定を繰り返している人間なんてそんなもんだ。

heav>> くさいものにふたをしても、どんなまじないを掛けてもそれは、消えんぞ。
ryo>> なら、どうしろっていうの、忘れるなんて...無理、よ、
heav>> ああ、分かってる。忘れられるくらいのことなら、疾うに忘れてる。
ryo>> なら、どうしろと、わけわかんない、
heav>> 忘れられないのは、それを消化できてないからだ。
ryo>> 胃薬でも飲めと?ばか?あんた、

めちゃめちゃ攻撃的。
さすがに"heav"もちょっと怯む...かと思いきや。

heav>> ま、それもいいかもな。
ryo>> ...ばか、

早く、話を続けろと促す。(涼子は促しているつもり。この言葉で。)
...こんな時の、女の子の言葉を額面通りに受け取っても何の解決にもならない。

heav>> その、いやなこと、恐らく過去の出来事あるいは、後悔だと思うが、
ryo>> 、
heav>> それに対して、真剣に向き合ったことはあるか?
ryo>> 私に死ねと?
heav>> 安心しろ。そんなことくらいで死ぬんなら俺は100回は死んでる。
ryo>> できるわけないじゃない、そんなこと、
heav>> したことあるのか?
ryo>> ある...、

ないらしい。

heav>> 既に終わったことだ、いくら考えても事実は変わらない。
heav>> しかし、自分の中での、その出来事の意味はいくらでも変容できる。
ryo>> なんで、事実は変わらないのに、
heav>> 他人にとってのな。けれども、自分にとっての事実は如何様にもなる。
heav>> 例えば、失恋も、うじうじと、自分の何が悪かったのかと考えるのと、
heav>> あんな男、こっちの方から願い下げ、別れるきっかけをくれてありがとう。
heav>> ってのでは、違うだろ。その事実さえ。
ryo>> ...だって、つらいのよ、
heav>> 分かってる。
ryo>> なら、軽く言わないで、
heav>> つらいから、できないのか?つらいから、やらないんだろ。つまり逃げてる。

痛い。
傷んだ心に塩を塗るようなことをする。
でも、事実。あまりにも、正しいから、だから、痛い。

ryo>> できない、
heav>> そう思いこんでるだけだ。ryoならできる。強い娘だろ。
ryo>> なんで、
heav>> そういってたじゃないか。私は強い女だって。
ryo>> ...そんなこと、...分かってるでしょ、ほんとのわたしを、
heav>> こんな言葉知ってるか。
ryo>>
heav>> できるかできないかではなく、やるかやらないか。
heav>> できないというのは、簡単だ。でもそれは単なる逃げ口上。
heav>> 本当にできるかどうかは、やってみなければ分からない。
ryo>> 今の私に、それをしろと?
heav>> できるだろ?本当は。
ryo>> したくない、
heav>> なぜ?
ryo>> だって、今までずっと、そんな私を、私の中の事実を前提に生きていたのよ、
ryo>> 今までの自分を否定しろと言うの?
heav>> それで、つらさを乗り越えられるなら、ひとつやってみてもよいとはおもわんか。
ryo>> 自分を否定するな、と言ってたのはあなたでしょう、
heav>> ふむ。確かに。ちょっと言葉が足りなかったか。
heav>> 自己否定ではない。本当の自分を見つける。ということだ。
ryo>> つまり、今までの自分はうそだったってこと?
heav>> 半分はな。でも、安心しろ、本当のryoはそこにいる。
ryo>> どこに、
heav>> 過去の自分と向き合った、その先だ。
ryo>>
heav>> もう気づいているはずだ、そのことに。
heav>> 今までも、幾度となく繰り返してきたことだ。例え無意識で、であっても。
ryo>> 大切な人なのよ、今でも、
heav>> ああ。
ryo>> なのに、どうして、そんなことができるって言うのよ、
heav>> 大切な人なら、なおさらだ。そのひともきっと、自分のせいで苦しむryoを見たくはないだろ。
ryo>> ...、
heav>> 今度会えた時、心の底からの笑顔で挨拶ができるように。
ryo>> どうすればいいの?
heav>> 徹底的に悩めばいい。
ryo>> 私に死ねと?
heav>> ああ、それで死ぬんなら死んでみるのもいいだろう。

若干投げやり。

ryo>> ちゃんと答えて、
heav>> 向き合うことだ。見たくないものを、見、訊きたくないことを訊き、
heav>> 考えたくないことを考えて、その全てを見ることだ。
heav>> そうしていく内に、本当の自分はそれをどう考えているのかが分かってくる。
ryo>> そんなことしたら死んじゃうわ、
heav>> ああ、そうして、生まれ変わる。
ryo>> ...屁理屈、
heav>> そうして、ひとは大きくなっていくものだ。
ryo>> ハードル、
heav>> そうだ。人生の中の、乗り越えなければならないハードル。
ryo>> ...百回は死ぬって言ったわよね、
heav>> ん?...ああ、悩んで死ぬんだったらな。
ryo>> 何を悩んだの?
heav>> さて、昔のことだ、忘れちまったな。
ryo>> に・げ・て・る、
heav>> ああ、さて、そろそろ風呂上がらんと。のぼせてきた。
ryo>> ...ありがと、
heav>> 大変なのはこれからだ。戦いに疲れたらまたこい。
ryo>> そ、ね。

珍しく向こうから切られる。
限界だったらしい。
フォーラムのトップページへ強制移動させられた。

「ふぅ。」
チャンネルを変える。
音が聞きたい。なんでもいい、人の声が。

「向き合う。か。」
これを片づけなきゃ、あのひとにも心を向けられない。
だから、悩んでた。

それが、怖いから、本当にそんなことをしていいのか分からなかったから、
感情だけが、あふれてた。
それを、してもいいと言うことが、わかっただけでも、なんか、心が軽くなった。

というか、もう、結論は出ていた。
自然と向き合っていたのだ。あのひと、あのことと。
でも、それを認めたくなかった。

「ふぅ。」
拒否していたのは、自分だったのだ。
大切な、あのひとを。あのひととの思い出を。

丸ごと受け入れてあげれば、それで済むのに。
愛していたなら、本当に愛していたなら、できるはずなのに。
拒否していた。

そうしたら、それをしたなら、終わってしまうから。
そしたら、もう考えることもなくなる。
それが怖かったのかも知れない。

"heav"の言うとおり、既にそれをしたことあったし、もうしていた。
結論も出ていた。ようだ。
無意識のうちに。

「ふぅ。」
何度目かのため息の後、んー、と伸びをして、顔を洗いに行く。
全ての、過去にこびりついた負の感情を洗い流しに。


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