1gの勇気

奥手な人の思考と試行

心の鏡(仮名)5

2006-11-05 22:56:32 | 1gのおときばなし
桐下涼子。
そろそろ結婚も意識する頃ではあるが、今のところそんな相手もいない。
という、ふつーのOLが、ふとしたことに悩んでおります。

おもむろに、テレビのスイッチを入れて、そのリモコンでそのまま打ち込む。

ryo>> ねえ、heav、
haev>> お。
ryo>> あなたは神の存在を信じる?
heav>> は?
ryo>> どうなの、
heav>> また、随分唐突だな。どっかの新興宗教にでも捕まったか?
ryo>> ちがうわよ、失礼な、
heav>> ...別に失礼ではないと思うが、
ryo>> 信じてるの?
heav>> ふむ。まあ、ふつーに神社に初詣くらいはいくな。
ryo>> ふーん、で、信じてるの?

しつこい。
とは思いつつ、何を疑問に思ってるのか、聞き出さんと話が進まない。

heav>> ryoはどうなんだ?信じてるのか?
ryo>> え?ああ、初詣くらいには行くわよ、

...同じじゃんか。

heav>> どうして急にそんなことを?
ryo>> いや、だって、最近宗教戦争してるじゃない、
ryo>> イラクへ攻め込んだ多国籍軍は十字軍だっていう、うわさだし、

いや、だれだ、そんな危険な噂流したの。

heav>> ああ、キリスト教とイスラム教の対立だな。
heav>> 古くて新しい問題だ。
ryo>> で、あなたはどう思ってんの?そのことに、
heav>> 対立か?
ryo>> 違うわよ、神の名において人殺しするような人たちのことよ、

ようやく本題らしい。

heav>> ふむ。ようわからんが、日本の神様は人殺しなんてさせなかったし、
heav>> 彼らのゆう神の意志というのは、理解に苦しむ。
ryo>> そう、そうよね。ね。
heav>> でも、それもまた、正しい。ということなんだろう。彼らにとっては。
ryo>> なんでよ、おかしいじゃない、人殺しよ、神はそんなに悪い人なの?

いや、神は人ではないし。
というか、大体、

heav>> 神の名を語る。が正しいのではないか。
heav>> 恐らく彼らは否定するだろうが。
heav>> 信ずるというのは、そのくらい心地いいものだ。
ryo>> 信じる?こと?
heav>> 疑わなくていい。それが唯一絶対の真理なら。な。
ryo>> 疑わない?なんで、それが気持ちいいのよ、
heav>> 楽だから。
ryo>> 楽って、そんな理由で人殺ししてんの?
heav>> 話がごっちゃになってるぞ。飛躍しすぎだ。
ryo>> だって、そうじゃない、
heav>> 人殺しの話はブッシュにさせておけ。とりあえずここでは、神の話だ。
ryo>> そ、そうね、で、で?
heav>> ryoは全ての事柄について、いちいち考えて生活しているか?
ryo>> え?あ、そりゃ、考えてるわよ、今夜の夕飯とか、
heav>> ふむ。なら、タマネギ切る時、包丁の使い方をひとつひとつ確認してるか?
ryo>> しないわよ、そんなの、タンタンタンって、テンポよく。
heav>> だろ。つまり、いちいち包丁の使い方なんて考えてはいないんだ。
ryo>> ...そね、で、それが神と何の関係が?
heav>> もし、それが善悪の判断だとしたらどうだ?
ryo>> タマネギ切るのが?
heav>> そうだ。

本当は違う話だったのだが、もういい。
めんどくさい。
なんか最近ようやく、ryoが天然だということに気がついてきた。

ryo>> 何の問題もないんじゃない?悪ではないわ。
heav>> なら、善か?
ryo>> ...食べるためだもん、生きてくためだわ。善よ。
heav>> 考えただろ。今。
ryo>> あなたが変なこと言うからよ。
heav>> そうやっていちいち考えてると面倒だろ?
heav>> 極端にいえば、なんで悪いことしてはいけないか。どう思う?
ryo>> え?あ、だって、ほら、だめなのよ、えーっと、
ryo>> 他の人に迷惑だし。
heav>> もし一年後に同じこと訊いても、やっぱり考えるだろ。なぜ?って。
ryo>> ま、まあね、
heav>> キリスト教で言えば、神の国へいくためだ。
ryo>> なにが?
heav>> 悪いことをしてはいけない理由だ。
ryo>> ふーん、神の国?って何?
heav>> 簡単に言えば天国だな。
ryo>> ああ、天国、いいわね。それは、悪いことできないわね、
heav>> キリスト教徒に訊いてみると言い、今訊いても、一年後訊いても同じ答えが返ってくる。
ryo>> あ、...なるほど、考えなくていい、わけね、
heav>> そうだ。信じてるってのはそういうことだ。
heav>> 唯一の答えが決まってるからそれについて考える必要ないのだ。
ryo>> ふむふむ、で、神の存在は?
heav>> そこに唯一の答えを示す神をおけば、その神の言葉だけを信じてれば、
heav>> それについて考える、つまり悩む必要はなくなる。
ryo>> ふーん、まあ、そうね、なんで人殺しがいけないのか、なんて悩む必要はないわね、
ryo>> 神様がそういってるから、で、お終いだもんね、
ryo>> ...なのに、人殺ししているキリスト教信者って、なに?
heav>> さあ、きっと彼らには矛盾はないんだろう、ようわからんが。
heav>> それこそ、十字軍かもしれん、異教徒は人間ではない。よって殺しても人殺しにはならない。
ryo>> ひどーい、なにそれ、
heav>> 十字軍の言い分だ。当時は異教徒は人間ではないとされていた。
ryo>> ...それの末裔なわけね、ブッシュは。
heav>> かもな。...そろそろ話を戻してもいいか?
ryo>> あ、えーっと、なんだっけ?
heav>> 神を信じる理由だ。
ryo>> ああ、そうそう、悩まなくていいって話だったわね、
heav>> ああ。ある程度の規範が決まっていれば楽だろ。いちいち考えなくても生活できて。
ryo>> まあ、ね。そうかもね。でも、日本でも昔から人殺しは悪だわ。
heav>> 例外もあるがな。
ryo>> 例外?
heav>> 仇討ちとか。
ryo>> あー、あれは人殺しよね、...あれは合法か、ふーん、
heav>> 誰も仇討ちが違法、つまり悪いことだとは考えていない。
heav>> これも考えるまでもない。つまり、信じてるってことだ。
heav>> 件の神と一緒だな。
ryo>> んー、なんだかよくわかんないわね。
heav>> つまり、信じるってことだ。信じていることは疑う、つまり考える必要はない。
heav>> そうすれば、簡単に生活できる。
ryo>> まあ、そうね。
heav>> 周りの人間、つまり社会全体がそれを信じていれば、それが事実上の法となる。
ryo>> ああ、なるほど。それに反することは罰が伴う。
heav>> その罰も必要かどうか悩む必要はない。だれもが信じているんだから。
ryo>> んー、なんかそれって、危険じゃない?
heav>> まあ、な。おかげで魔女狩りなんていう、殺人がまかり通ってわけだ。
ryo>> あー、聞いたことある、火あぶりにするあれでしょ?
heav>> そうだ。人は神を理由に同胞すら何の罪も感じずに殺してきた。
heav>> 信じるってのは、そういう面もある。
heav>> その究極が神だろ。
ryo>> ...でも、信じてる、楽だから、...いいの?それで、
heav>> いちいちタマネギの切り方悩みたくないだろ?
ryo>> それとこれとは、
heav>> 一緒だ。いちいち悩まなくていいように、人間はいろんなものを信じてる。
heav>> それこそ、無意識のうちに。
ryo>> その一つが、神の言葉、
heav>> そうだ。それで、楽に生きられるから、これだけ世界に広まった。
ryo>> そう、ね。イスラム教は教えさえ守ってれば、それだけでいいっていうし。
heav>> 楽だろ。いちいち考えなくて済んで。
ryo>> まあね。でも...
heav>> 神の教えに違和感を持つのは当然だ。それはryoがこれまで信じてきたのとは反するからな。
ryo>> ...どちらも間違いではない、
heav>> そうだ。どちらが、その社会にとって都合がいいかだけだ。
heav>> 日本だって明文化されてない風習がいくつもあるだろう。
heav>> そして、それを信じて生きているのが日本人だ。
ryo>> なるほど。でも日本人にもキリスト教徒はいるわよ、
heav>> ...なんかうまいこと折り合いをつけてるんだろ。ようわからんが。
ryo>> へー、あなたにもわからないことがあるのね、
heav>> 当然だ、おれは神ではない。
ryo>> つまり、考えなくてはならないことも、あるってことね。
heav>> そらそうだろう、生きてれば見たことも聞いたこともない状況に出くわすことなどしょっちゅうだ。
ryo>> なら、考えなきゃないじゃない。
heav>> ああ、そういうことはな。でもいつもやってることを悩まなくて済めば、
heav>> いざってときに、十分考えられるだろう。
heav>> いつも頭を悩ましてたら、いざってときには疲れて考えられなくなる。
ryo>> うん、そうね、だから、か、信じるって、必要なのね、
heav>> ああ、だから、人間は宗教を生み出した。
heav>> それは、人間がいざって時に考えることができるように。
heav>> つまり、生きていくために。
ryo>> 生きていくために神が必要だった。って、こと?
heav>> そうだ。神はともかく宗教のない国や民族なんてない。
ryo>> 日本は?無宗教ってよく言われるけど、
heav>> 妄信的に信じることだけが宗教ではない。初詣に行くだろ?
ryo>> まあ、ね。おみくじも引くわね、
heav>> 日本式の社会規範の中で生きている。疑いもなく。つまり信じて。
ryo>> ああ、なるほど。そうね。普段意識しないけど、
ryo>> 意識しないってことが信じてるってこと?
heav>> 無意識に信じてるってことだろ。無意識に行動できる。考えずに。
ryo>> 楽ね。...そうね。生きてくために必要なのね。信じるって。
heav>> ああ、人間にとってはな。やることがたくさんあるからな。
ryo>> 何か大変ね、人間って。
heav>> そうだな。
ryo>> あんまり大変ではないようね、あなたは、
heav>> まあ、神に頼るほどではないな。
ryo>> ほかに信じていることがあるってことね、
heav>> かもな。
ryo>> なんかはぐらかされたような気もするけど、いいわ、ありがと、
heav>> ああ、またな。今度はもうちょっと簡単な話にしてくれ。
ryo>> 努力してみるわ、

「信じる。ね。」
テレビのスイッチを切る。
「生きるため。か。なんか不思議な話ね。」

でも、不思議と今日の話に違和感はない。
人殺しはよくない、ブッシュのやってることはおかしい。
ということに共感してもらえたのかもしれない。

そして、ふと思う。
神は人殺しはしない。そうも教えてはいない。
神が教えているのは、規範だけ。

人殺しをしているのは、人であり、神の教えを都合よく解釈している。
つまり、利用している。
「だけよね。」

心の鏡(仮名)4

2006-10-29 12:32:42 | 1gのおときばなし
「だめなの。」
ベットの端を背に、両膝を抱え、ようやくでた言葉。
深夜と呼べる時間。

明かりもつけず。(自動的に付く機能はさっき叩いた。まだちょっと手が痛い。)
唯一人。
この世にいるのは、自分だけ。

そんな感覚。
いや、事実そうだと感じてる。思いこんでる、思いこみたい。
言い換えれば、ひとりでいたい。そしてこのまま消え入りたい。

言語化せぬとも、背中が語る。
冷たい言葉。
放っておけば凍死しそうなほどの。

それでも、望むのは、誰かの温もり。
無条件の。
そして、

「誰か、いないの?」
分かってる。
虚しく響く、そしてその返事さえも拒絶している自分の内も。

別に解決して欲しいわけではない。
この気持ちを理解して欲しいわけでもない。
そして、まだ心は開けない。

友達と呼べるひともいる。
たぶん、話せば同情してくれる。
でも、今は。

そんなものが欲しいわけではない。
いや。
話したくないのだ。

知られたくない。のかもしれない。
あまりにも、不確定で、惨めで、哀れで。
そして、分からない。

そこにあるのは、感情だから。
理屈ではない。
言葉を使って説明できる自信もない。

テレビをつければ、"heav"がいる。...たぶん。
でも。できない。説明。
なのに。時間を取らせるのも...

"heav"に気を遣っていることに気づく。
ようやく。
さっきから頭の片隅にはあった。でも否定(本当は拒否)してきた。

えい!
思い切って腕時計に仕込んである片手用キーボード(ホログラム)を起動する。
そして、キーを二つ叩いてテレビをつける。

heav>> ん?のぞきか?
ryo>> はぁ?
heav>> ひとの入浴を覗くってのはあまりいい趣味とは言えんな。
ryo>> なに言ってんの、わけわかんない、
heav>> 俺も風呂ぐらい入るってことだ。
ryo>> ...お風呂にまで持ち込んでんの、それ、
heav>> お前みたいに、気遣いが足りないのがいるからな。
ryo>> わ、悪かったわね、いいわよ後で、
heav>> いや、聞いとくよ。今は風呂に入っていたい気分だ。急がせるな。

...意味が分からん。
けど、分かる気もする。
のんびり風呂に浸かっているようだ。人の気も知らずに。

ryo>> わからないの、
heav>> そらそうだろうな。
ryo>> なんでわかるのよ、
heav>> 分かってたら、悩むまい?
ryo>> ま、まあ、
heav>> 何があった?
ryo>> ...言いたくない、
heav>> ふむ。なら、どんな気分だ?
ryo>> もういや、
heav>> って気分としておこう。
ryo>>

何か言おうとしたが、黙ってEnterを押す。

heav>> 死んでもいいことないぞ。
ryo>> 生きてるよりましよ、
heav>> また、随分深刻だな。今日は。
ryo>> あなたに何が分かるって言うの、
heav>> いや。わからん。
ryo>> ...聞く気ある?

かなりの勢いでキーを叩く。
が、相手はフォログラム。
叩いた分の反作用(衝撃とか、硬さとか、痛さなど)はない。のが、また気に入らない。
身を乗り出して、テレビの下のキーボードを引っ張り出す。

heav>> ああ。もちろん。準備万端。

ごもっともで。
拒否してたのは自分だった。
のを、認めるのも大きな抵抗。

ryo>> いやなの、
heav>> ほう。それは、どの辺りが?
ryo>> 全部、もう、いや、
heav>> ならどうしたい?
ryo>> なにが、
heav>> 現状がいやなのだろう。なら、こうしたい。というのがあるはずだ。
ryo>> ...わかんない。
heav>> 隠してるだろ。
ryo>> 何も隠してなんてないわよ、大体、何を言おうと何を言うのやめようと私の勝手でしょ、
heav>> ああ。そうだ。俺に対してはな。
ryo>> そうよ、...どういう意味よ、
heav>> 自分に。だ。自分に何か隠していることはないか?
ryo>> あるわけないじゃない、私が私に何を隠すって、隠せるって言うの、
heav>> 意識的に、あるいは無意識のうちに、考えないようにしているものはないか?
ryo>> ないわよ、あるわけないじゃない、そんな

そんな、で指が止まる。
湧き起こってくるこの感情の底にあるもの。
決して思い出したくない、数々の出来事。そしてその時の想い、感情。

もう涸(か)れたかと思っていた、涙がまた流れ出す。
止めどなく。
ただただ。

"heav"は黙って次のひと言を待つ。

ryo>> だから、なによ、

逆ギレされるのもいい加減慣れた。
問題はここから如何に言葉をつなげるかだ。

heav>> つらいのは、そのせいだ。というのは、気づいているな。
ryo>> うるさい、

この際これを肯定の返事と受け取る。
まるで子供を相手にしているようだが...
まあ、感情的になっている、そして否定を繰り返している人間なんてそんなもんだ。

heav>> くさいものにふたをしても、どんなまじないを掛けてもそれは、消えんぞ。
ryo>> なら、どうしろっていうの、忘れるなんて...無理、よ、
heav>> ああ、分かってる。忘れられるくらいのことなら、疾うに忘れてる。
ryo>> なら、どうしろと、わけわかんない、
heav>> 忘れられないのは、それを消化できてないからだ。
ryo>> 胃薬でも飲めと?ばか?あんた、

めちゃめちゃ攻撃的。
さすがに"heav"もちょっと怯む...かと思いきや。

heav>> ま、それもいいかもな。
ryo>> ...ばか、

早く、話を続けろと促す。(涼子は促しているつもり。この言葉で。)
...こんな時の、女の子の言葉を額面通りに受け取っても何の解決にもならない。

heav>> その、いやなこと、恐らく過去の出来事あるいは、後悔だと思うが、
ryo>> 、
heav>> それに対して、真剣に向き合ったことはあるか?
ryo>> 私に死ねと?
heav>> 安心しろ。そんなことくらいで死ぬんなら俺は100回は死んでる。
ryo>> できるわけないじゃない、そんなこと、
heav>> したことあるのか?
ryo>> ある...、

ないらしい。

heav>> 既に終わったことだ、いくら考えても事実は変わらない。
heav>> しかし、自分の中での、その出来事の意味はいくらでも変容できる。
ryo>> なんで、事実は変わらないのに、
heav>> 他人にとってのな。けれども、自分にとっての事実は如何様にもなる。
heav>> 例えば、失恋も、うじうじと、自分の何が悪かったのかと考えるのと、
heav>> あんな男、こっちの方から願い下げ、別れるきっかけをくれてありがとう。
heav>> ってのでは、違うだろ。その事実さえ。
ryo>> ...だって、つらいのよ、
heav>> 分かってる。
ryo>> なら、軽く言わないで、
heav>> つらいから、できないのか?つらいから、やらないんだろ。つまり逃げてる。

痛い。
傷んだ心に塩を塗るようなことをする。
でも、事実。あまりにも、正しいから、だから、痛い。

ryo>> できない、
heav>> そう思いこんでるだけだ。ryoならできる。強い娘だろ。
ryo>> なんで、
heav>> そういってたじゃないか。私は強い女だって。
ryo>> ...そんなこと、...分かってるでしょ、ほんとのわたしを、
heav>> こんな言葉知ってるか。
ryo>>
heav>> できるかできないかではなく、やるかやらないか。
heav>> できないというのは、簡単だ。でもそれは単なる逃げ口上。
heav>> 本当にできるかどうかは、やってみなければ分からない。
ryo>> 今の私に、それをしろと?
heav>> できるだろ?本当は。
ryo>> したくない、
heav>> なぜ?
ryo>> だって、今までずっと、そんな私を、私の中の事実を前提に生きていたのよ、
ryo>> 今までの自分を否定しろと言うの?
heav>> それで、つらさを乗り越えられるなら、ひとつやってみてもよいとはおもわんか。
ryo>> 自分を否定するな、と言ってたのはあなたでしょう、
heav>> ふむ。確かに。ちょっと言葉が足りなかったか。
heav>> 自己否定ではない。本当の自分を見つける。ということだ。
ryo>> つまり、今までの自分はうそだったってこと?
heav>> 半分はな。でも、安心しろ、本当のryoはそこにいる。
ryo>> どこに、
heav>> 過去の自分と向き合った、その先だ。
ryo>>
heav>> もう気づいているはずだ、そのことに。
heav>> 今までも、幾度となく繰り返してきたことだ。例え無意識で、であっても。
ryo>> 大切な人なのよ、今でも、
heav>> ああ。
ryo>> なのに、どうして、そんなことができるって言うのよ、
heav>> 大切な人なら、なおさらだ。そのひともきっと、自分のせいで苦しむryoを見たくはないだろ。
ryo>> ...、
heav>> 今度会えた時、心の底からの笑顔で挨拶ができるように。
ryo>> どうすればいいの?
heav>> 徹底的に悩めばいい。
ryo>> 私に死ねと?
heav>> ああ、それで死ぬんなら死んでみるのもいいだろう。

若干投げやり。

ryo>> ちゃんと答えて、
heav>> 向き合うことだ。見たくないものを、見、訊きたくないことを訊き、
heav>> 考えたくないことを考えて、その全てを見ることだ。
heav>> そうしていく内に、本当の自分はそれをどう考えているのかが分かってくる。
ryo>> そんなことしたら死んじゃうわ、
heav>> ああ、そうして、生まれ変わる。
ryo>> ...屁理屈、
heav>> そうして、ひとは大きくなっていくものだ。
ryo>> ハードル、
heav>> そうだ。人生の中の、乗り越えなければならないハードル。
ryo>> ...百回は死ぬって言ったわよね、
heav>> ん?...ああ、悩んで死ぬんだったらな。
ryo>> 何を悩んだの?
heav>> さて、昔のことだ、忘れちまったな。
ryo>> に・げ・て・る、
heav>> ああ、さて、そろそろ風呂上がらんと。のぼせてきた。
ryo>> ...ありがと、
heav>> 大変なのはこれからだ。戦いに疲れたらまたこい。
ryo>> そ、ね。

珍しく向こうから切られる。
限界だったらしい。
フォーラムのトップページへ強制移動させられた。

「ふぅ。」
チャンネルを変える。
音が聞きたい。なんでもいい、人の声が。

「向き合う。か。」
これを片づけなきゃ、あのひとにも心を向けられない。
だから、悩んでた。

それが、怖いから、本当にそんなことをしていいのか分からなかったから、
感情だけが、あふれてた。
それを、してもいいと言うことが、わかっただけでも、なんか、心が軽くなった。

というか、もう、結論は出ていた。
自然と向き合っていたのだ。あのひと、あのことと。
でも、それを認めたくなかった。

「ふぅ。」
拒否していたのは、自分だったのだ。
大切な、あのひとを。あのひととの思い出を。

丸ごと受け入れてあげれば、それで済むのに。
愛していたなら、本当に愛していたなら、できるはずなのに。
拒否していた。

そうしたら、それをしたなら、終わってしまうから。
そしたら、もう考えることもなくなる。
それが怖かったのかも知れない。

"heav"の言うとおり、既にそれをしたことあったし、もうしていた。
結論も出ていた。ようだ。
無意識のうちに。

「ふぅ。」
何度目かのため息の後、んー、と伸びをして、顔を洗いに行く。
全ての、過去にこびりついた負の感情を洗い流しに。

心の鏡(仮名)3

2006-10-21 12:01:13 | 1gのおときばなし
とある街。
通う元は、とある町。
自分がAround thirty(アラサー)と呼ばれていることを最近知る。

若干世間に置いてけぼりをくってるような気分。
のまま、朝を迎えた。
いつものように。いつもの場所で。抱いてくれるひともなく。

リモコンでテレビをつける。
いつもの"heav"につなげる。
半ば無意識の涼子の行動。

heav>> おはよう。
ryo>> 今日は土曜日よ、
heav>> そうらしいな。
ryo>> まだ朝よ、
heav>> 朝は嫌いか?

「そうね。」
あまり好きではないかも。

ryo>> ...。いつ寝てんの?
heav>> まあ、ぼちぼちな。
ryo>> 答えになってない。
heav>> 俺のことが気になるか?
heav>> お、もしかしたら惚れt
ryo>> バカ、
heav>> a で、どうした。こんな朝っぱらか。
ryo>> 私ってどう?
heav>>

一瞬止まる。
さすがに"heav"も言葉を探しているらしい。
せめて話の脈絡が分かれば答えられるのだが...こう唐突では。

heav>> まあ、なんだ。ひとは見かけじゃないというか...
ryo>> 何言ってんの、
heav>> 何を言わせたいんだ?
ryo>> 私よ、私、
heav>> ...日本語は正しく使った方がよいと思うぞ。
ryo>> あんたに言われたくないわ、
heav>> そらそうだ。
ryo>> もう、三ヶ月もつき合ってんだから、わかるでしょ、私のこと、
heav>> つき合った?いや、まだ一度もさせてもr
ryo>> まじめに答えて!
heav>> a 失礼。ん、まあ悩み多き、ふつうの女。
ryo>> ...やっぱり多い?
heav>> いや。ふつうだろ。このくらい。
heav>> 誰だって悩んでいるものさ。山ほどのありもしないコンプレックス抱えて。さ。
ryo>> そか、ふつうか、

何の根拠も示せない言葉。
それでも、みんなと一緒というニュアンスで少し心が軽くなる。

heav>> ああ。で、なんか思いついたんだろ?
ryo>> なにが、
heav>> こんな朝っぱらからここへ来るなんて。

そう。夜家に帰ってきた時以外は、テレビはふつーの垂れ流し番組を映してる。
前に何度か、用もないのにつなげてしまって、迷惑掛けたから。
"heav"がそれを迷惑と感じていたかどうかは疑問だが。

ryo>> 見えてんでしょ、
heav>> んー、そうだな。寝起きのひどい顔だ。
ryo>> やっぱり、
heav>> とりあえず、顔洗ってこい。
ryo>>

なんか打とうと思って、やめた。
「そうね。」
意外と素直。

顔を洗う。
ついでに家着に着替える。
カーテン開ける。

朝日はいつものように、どんより差し込む。
最近すかっとした晴れを見た記憶がない。
見えてないだけかも知れないが。

ノンメイクで戻ってくる。
目元は明らかに寝不足を示してる。

ryo>> ただいま、
heav>> 整理ついたか?
ryo>> 全然、
heav>> なら、本題に入ろうか。
ryo>> そうね、

数秒の間。
どう切り出そうか。
いや、そもそも言っていいものか。

心にしまっておくべきではないのか。
迷いは消えず。

ryo>> 言わなくてもいい?
heav>> どーぞ。お好きなように。
heav>> いつでも、話したくなったらまたおいで。
ryo>> ...ありがと、

ふっと心が軽くなる。
言いたい時が言い時。
それをいつでも受けてくれるひとがいる。

そう感じたら、自然と指がキーを打った。

ryo>> あのね、好きな人がいるの、
heav>> おお、この間ゆうてたのか。
ryo>> そ、で、どうしたらいいと思う?
heav>> 当たって砕けろ。
ryo>> バカ、そんなことできるわけないでしょ。
heav>> したいのか?
ryo>> 何言ってんの、
heav>> できない。とゆうたから。したくないではなく。
ryo>> 言葉のアヤよ、
heav>> ちなみに、その場合のアヤは、綾だ。
ryo>> それはどーも、
heav>> どうしたいんだ?
ryo>> なにが、よ、
heav>> 好きな人ができて、どうしたらいいと思う?だろ?
ryo>> そうよ、
heav>> もう、あるんだろ。山ほどの妄想した結果が。
ryo>> ば、ばか、そ、そんなの、
ryo>> な、なに言ってんのよ、

つっこみたいのはやまやまだが、ちょっとかわいそう(というか、かわいいと感じた)

なので、やめておく。

heav>> どうしたいんだ?
ryo>> それがわからないから、訊いてるんじゃない。
heav>> つき合いたいのか?
ryo>> そ、そりゃ、もし、...なら、
heav>> 相手はひとりか?
ryo>> わかんない、けど、指輪はなかった、
heav>> 相手は気づいてくれてるのか?
ryo>> なにを?
heav>> ryoの、好きで好きで夜も眠れない!って気持ち。

直撃。
ぼっと頬が燃え上がる。
そう、昨夜は結局眠れなかった。

だから、つなげた。"heav"に。
なにか、僅かでも、ヒントが欲しかった。
それこそワラをもつかむ思いで。

「おれはワラか?」
らしいな。
「ずいぶんと見くびられたものだ。」

ryo>> そ、そんなことないもん、

ほら、きたぞ。
お姫様のお気持ちが。
「ワラへの気持ちか?」
...わけわからん。

heav>> もん、って。またずいぶんとかわいい
ryo>> 茶化さないで、
heav>> なら、で、気づいているのか?
ryo>> わからない、
heav>>
ryo>> ...気づいてないかも、

なんかひと言入れようとしたがすぐに涼子に取られた。

heav>> なら、まずそこからだな。
ryo>> うん、わかってる、けど、どうしたら、
heav>> まずは。その隈取りをとってだな。
ryo>> うるさい、
heav>> まじめな話をしておる。ちときけ。
ryo>>

いつもと違う言葉にちょっと驚く。
そして、聞き耳を立てる。
40インチの薄暗い(自動調整)テレビの画面に。

heav>> 女は容姿だ。
ryo>> ...ケンカ売ってる?

幻滅しかかるも、一応続く言葉に僅かな望みを。

heav>> 別に生まれもった見た目の話をしているわけではない。
heav>> さっきもゆうたろ、隈取り取れって。
ryo>>

どーやって、
って書きたかったけど、バカみたいなのでやめ。
弱い女と思われるのも、"いまさらながら"、いやならしい。

heav>> どうアプローチするにせよ、元気な笑顔。が絶対条件だ。
ryo>> 寝不足の、暗い顔して近づいてもだめ...ね、
heav>> だろ。
ryo>> そのあとは?
heav>> また元気になったらこい。
heav>> きっとその時には、よい方向の妄想が生まれてるはずだ。

妄想という言葉が気に入らないが、その通りかも知れない。
悪い方向。だから、眠れなかったのだ。

ryo>> そ、ね、元気な笑顔、作ってくるわ、
heav>> ああ。楽しみにしてる。
ryo>> ありがと、じゃ、おやすみ。

ぷつっと切れる。いや、切った。テレビを。
何の解決にもなっていない会話。
でも、話せたことで、誰かと気持ちを共有できたことで、

気持ちが楽になった。
そして、眠くなった。
まだ朝なのに。

でも、最後のおやすみ。の言葉は、素直な気持ち。
体の求める素直な本能。
その本能を邪魔する前頭葉は、楽になったか、活動を弱めた。

ベットに倒れる。
無理に頬をゆるめて。
自然と、楽になる。体、そして、心。

恋心は、そして、現状は、なにも変わらない。
それでも、何かが自分の中で変わった気がする。
そんなことを感じた頃には、既に睡魔に支配されていた。

...かぜひくよ。

心の鏡(仮名)2

2006-10-15 23:06:05 | 1gのおときばなし
日曜日。
もうすぐ寝る時間。
に、"heav"につなげる、涼子。

テレビのリモコンにセットしてあるショートカット(お気に入りの方が通りがいい?)を押す。
真っ白の画面。
「...いないの?」

数秒の間のあと、

heav>>

「...」
ホログラムキーボード(入り腕時計)はないので、
携帯電話の要領でテレビリモコンで打ち込む。(携帯でも打ち込めるが、あいにく充電中。)

ryo>> いるの?

...反応なs

heav>> おお。ちょっと待った。
ryo>> ...何してんの、
heav>> 取り込み中。
ryo>> だから、何を、
heav>> 言ってもいいが、訊かない方がよいぞ。
ryo>> ...で、女の子をいつまで待たせる気、
heav>> 五分後また会おう。
ryo>> 了解、

「ふぅ、ま、一応人間ってことかしらね。」
「...女かしら。というか、このひと一体いくつなの?」
動かない画面をぼーっと見ながらつぶやく。

結論としては、"興味ない"ということにしたらしい。
その間に、テレビのしたのキーボードを久方ぶりに引っ張り出す。
何か本気で相談したいことでもあるらしい。

五分と二分後。

heav>> よう、待たせたな。
ryo>> 遅刻、
heav>> まあ、そういうな。まさか日曜の夜に繋いでくるとは思わなかったし。
heav>> 初めてだろ?
ryo>> 二度目、
heav>> よく覚えてるの。さすがプロ。
ryo>> ...
heav>> なにがあった?デートでへまでもしたか?
ryo>> うるさい。って、まだそこまで行ってないわよ、
heav>> なんだ、片想いか。はよ玉砕せ。
ryo>> ...ケンカ売ってる?
heav>> 正当な忠告だ。
ryo>> まじめに話聞く気ある?
heav>> おっと、失礼。お聞きしましょう。恋愛ネタ。
ryo>> ...切るわよ。
heav>> 深刻そうだな。指が震えてる。
ryo>> え?

周囲を見回す。カメラでもあるんではないかと。(まあいつものことだ。)
指が震えてるのは確か。
緊張してるのだ。

heav>> 明日何かあるのか?
ryo>> ちょっとね。
heav>>
ryo>> ...あの、
heav>> 続けて。
ryo>> あ、いや、えーっと、...誰にも言わない?
heav>> 言ったって影響ないだろう。どこの誰ともわからんひとの噂なんて。
ryo>> あるのよ、あるかもしれないでしょ、約束しなさい、
heav>> へいへい。安心しな。
ryo>> ...、明日プレゼンがあるの、
heav>> ほう。
ryo>> 訊かないの?誰にとか、何をとか。
heav>> 話してはくれないのか?
ryo>> ...話すわよ、
heav>>
ryo>> 社内のちょっとした業務改善案をね、役員会で。
heav>> ほう。それは大変だの。
ryo>> そうなのよ、
heav>> で、相談とは?
ryo>> べ、別にそんなんじゃないけど...
heav>> 自慢したい訳じゃないだろ?
ryo>> ...怖いの、
heav>> 何が。
ryo>> ふつー緊張するでしょう、こんなの初めてだし、
heav>> そうか?相手は日本人だろ?日本語通じるんだろ?
ryo>> あたりまえでしょ、そうじゃなくてn
heav>> 何が怖いんだ?失敗か?
ryo>> e、人の言葉に割り込まない、
heav>> いつもやってるくせn
ryo>> うるさい、
heav>> iで、何が怖い?
ryo>> べ、別に怖いなんて言ってないでしょ、
heav>> まあ、確かに。言ってはないな。でも怖いんだろ?
ryo>> ...不安なの、
heav>> どうして?
ryo>> わかんない、けど、うまくできなかったら...と思うと、
heav>> うまくできてもできなくても、明日のプレゼンは自動的に終わるもんさ。
ryo>> そ、そうだけど、失敗したら、
heav>> 首になるわけでもあるまい?
ryo>> ま、まあ、
heav>> 客先ならともかく、社内のお偉いさん相手なら別に売り上げに響く訳でもないだろ?
ryo>> そ、そうだけど、でも、やっぱり、
heav>> しくじったら何か問題であるのか?
ryo>> 上司とか、他の人に迷惑が...
heav>> ほっとけ。上司なんてそのためにいるようなものだ。その分余計に金もらってる。
ryo>> ...そういう考え方もあるのね。
heav>> 上司は使うものだ。
ryo>> あなた、サラリーマン?
heav>> さぁ。そんな時期もあったかもしれん。
ryo>> でも、
heav>> 心配しなさんな。うまくいこうが、失敗しようが、それがその時の、ryoの実力。
heav>> 仮に失敗したら、そんなことをさせた上司が悪い。だろ?
ryo>> ふぅ、簡単に言うわね、
heav>> 大体今悩んだってしかたないだろ。やるのは明日だ。
heav>> 今から余計な心配して、不安感じてても、明日余計に緊張するだけだとは思わんか?
ryo>> そうかもしれないけど、不安なものは不安なの。
heav>> テトリスでもやっとけ。
ryo>> は?
heav>> そうすれば、いっ時忘れられるだろ。
ryo>> ...それは現実逃避ではないの?
heav>> その通り。だが、無意味な不安の連鎖を繰り返すのが現実なら逃避した方がなんぼかマシだ。
ryo>> なんか違うような、
heav>> 準備は済んだんだろ?プレゼンの。
ryo>> 当然よ。金曜日に終わってるわ、
heav>> なら、もうすることはないじゃないか。不安になることも含めて。
ryo>> だって、なるんだもん、しかたないでしょ、
heav>> だから、テトリスでもしとけって、眠くなるまで。
ryo>> ...何でテトリスなのよ。
heav>> 例えだ。別になんでもいいが、俺はこんな時はテトリスだ。
ryo>> お勧めってわけね、
heav>> そうだ。かなりいいぞ。適度に疲れるから眠くもなる。
ryo>> ふぅ。疲れるのがいいなら、外でも走ってこようかな。
heav>> ま、それもいいかもな。
ryo>> 相変わらず、なんだかよく分からない理屈で丸め込まれたような気がするけど、
heav>> でも、走る気になったろ?
ryo>> テトリスではなくてね、
ryo>> じゃ、ちょっと行ってくるわ、
heav>> いってらっしゃい。車には気をつけて。
ryo>> ありがと、じゃ、

リモコンで電源を切る。(キーボードにも電源ボタンはあるが、使ったことはない。)
「さて。じゃあひとっ走りしてきますか。」
とは言っても、普段走ったりはしない、涼子。

「まあ夜だし。これでいいか。」
まったくおしゃれのかけらもないスエット着て、出かける。
不思議と走っていると、余計なことは浮かんでこない。

というか、どうでもよくなってくる。
そもそも、なんで、あんなに怖かったのだろう。
確かに、うまくいこうがいかなかろうが、会社が傾くわけでも、自分が首になるわけでもない。

ただ、ちょっと上司に迷惑がかかるだけだ。
あの上司に。
いいか。たまには迷惑掛けてみるのも。

その分の高い給料もらってるわけだし。
すっかり、"heav"の言葉を自分の意見にしていることに、自覚はない。ようだ。
明日はいつものようにやってくる。そこに不安があろうとなかろうと。

心の鏡(仮名)1

2006-10-14 11:28:23 | 1gのおときばなし
とある町。
とある街に通う、ふつーの会社員。
一応女であることは自覚している。

名は...
heav>> よう、今日は遅かったな。
ryo>> うるさいわね、

40インチの壁掛けテレビ。
帰ってきて、部屋の電源(いろんなものが明かりと同時に起動するため。)を入れると自動的に起動する。
で、このテレビ自動的にチャットが起動する。(一般的なWebサービスならなんでも動く。)

heav>> うぉ。また、えらい機嫌悪いの。
ryo>> ふん、

腕時計から手のひらの方に向かって現れるバーチャルキーボード(片手用)に打ち込む。
しかし...40インチ(なぜこの時代になってまでインチなんだ?cmでよいと思うが。)
のテレビでチャットするか?

「そこ、うるさい!」
後方右、僅かに慎重より高い位置に意識を向け、沈めた声でいう。
...。(失礼。)

heav>> 聞いてやるから、ゆうてみ。

無視してブラウスを脱ぎ捨て、ベットに放り投げる。
が、パンツは脱がない。

おなかは減ってはいるものの、動く気がしない。
シャワーすら面倒。
男(だれ)がいるわけでなし。

どさっとベットを背に座り、ぼさっと点滅しているプロンプトを眺める。
字のでかさは2cmくらいある。
字幕なみだ。

ryo>> 何か言いなさいよ。
heav>> おかえり。
ryo>> ...ただいま。

力無く床に落ちた腕。
床に指を叩く。
あまりいい感触ではない。

「...爪、切らなきゃ。」
こんな会話が始まって三ヶ月。
どこの誰とも知らない男(?)との会話。

なぜか、とあるフォーラムにつなげると瞬時に現れる。
少なくともこの時間は。
たまに他の子も入ってきたりするが、あまり盛り上がる感じはない。

というか、なぜか人生相談みたいのが多い。
し、いいところで切られる。
どうも"heav"が切ってるらしい。

「プライバシーに配慮でもしてるつもり?」
無意識に声が出る。
プロンプトは点滅したまま。

"heav"は次の言葉を待ってるらしい。
のか、他のことに気を取られているのかはわからない。

ryo>> あんたも暇ね。

...返事がない。
忙しいらしい。

テレビのデフォルトがこのフォーラムになってから久しい。
たまにいないこともあり、そんなときは妙に(本人は強く否定するが)さみしい。

heav>> おお。そうでもなきゃ、ryoの相手なんてしれられへんし。
ryo>> いい加減、そのインチキくさい関西弁やめなさい、
heav>> インチキ?どのへんが。
ryo>> イントネーションが全ん然ん違うわ。
heav>> ...テキストでイントネーション見えるんか。さすがプロだの。
ryo>> ふん、

ワンルーム。
決して広くはないが、独りで住むにはちょうどよい。
これ以上広いときっとさみしい。

heav>> で、なにがあった。訊いてやるから胸元開いてゆうてみ。
ryo>> 胸襟でしょ!大体開くのは訊く方よ。
heav>> おれの胸元見て何が楽しい。
ryo>> 真顔でゆな、
heav>> ...見えるんかい。さすがプロ。

"heav"の口癖。さすがプロ。
何のプロかはどうでもいいらしい。
涼子のつっこみ癖を会話早々に見抜き、つっこみ所をなるたけ用意するように気を遣っている。

ryo>> 何か言った?
heav>> い、いや。なにも。
ryo>> だいたい話が長いわよ、これ読んでる人ももう飽きてるわよきっと、
heav>> ?誰が飽きてるって?
ryo>> ...

ryo>> で、訊かないの?何があったのか。
heav>> あのな。何度もきいとるやんけ。
ryo>> そ、そうだったかしら、

床に指を打つのに疲れたか、半ば無意識に体を前に寄せ、ローテーブルに手首を置く。

heav>> de,
ryo>>
heav>> それは
ryo>> 売ってる?
heav>> いや、どっちかというと
ryo>> ...
heav>> まあ、ゆうてみ。
ryo>> ...×、
heav>>
ryo>> なんで、あなたが、
ryo>> watasiの方が落ち込みたいわよ。
heav>> いや、話してくれへんから。
ryo>> 言いたくないの、
heav>> 俺には。か?
ryo>> soko,泣かないの、
heav>> 心配してくれるんか。
ryo>> 叱ってるのよ、
heav>> なんや、怒られてたんか。安心した。
ryo>> ...もう、意味分かんない。
heav>> まあ、そのふくよかな胸に手を当てて、

体を伸ばしてベットの上の枕をテレビに投げつける。

ryo>> セクハラ!
heav>> じゃあ、そのない
ryo>> それ以上言ったら殴るわよ、
heav>> mさっき殴られた気が...
ryo>> もう一回。
heav>> ...や、やめとくわ。
ryo>> 賢明ね、
heav>> そろそろ忘れた?
ryo>> 何を、
heav>> ならいい。
ryo>> あん?
heav>> そのまま寝とき。感情は時が解決してくれる。
ryo>> ...まだやることあるのよ。
heav>> それはきっと明日でもできる。
ryo>> あんたはそれでいいでしょうけど、女はいろいろ大変なのよ、
heav>> 落とすほど化粧しとんのか?
ryo>> 当たり前でしょ!
heav>> ほう。好きな男でもできたか?
ryo>> できたとはなによ、当然じゃない、
heav>> ほうほう。それはよかったな。
ryo>> よくないわよ、あんたには分からないでしょうけどね、
heav>> なにが、
ryo>> 恋する心。
heav>> それはわからんな。
ryo>> ...随分素直ね。
heav>> 男に興味ないし。
ryo>> 女には?

改行キー押した瞬間、失敗した。と思った。

heav>> そらー、あるにきまっとるy
ryo>> どうでもいい、
heav>> a...って、訊いといてそれは失礼ではないかと。
ryo>> 前言撤回。で、満足?
heav>> ...yes.
heav>> いらいらの原因はそれか?
ryo>> 全部よ、
heav>> 何が。
ryo>> 世の中全部、
heav>> ...なら簡単だ。
ryo>> 何がよ、
heav>> はよ寝ろ。
ryo>> 言われなくても。
heav>> ここで見ててやるから、早よそのキャミ脱いで、

近くのリモコン(なぜか三つあるが、どれでも動く。)拾って電源ボタンを押す。
ブラックアウト。

何となく見られているような気がして、床から天井までカメラを探す。
当然、そんなものは見あたらない。

言われたとおり、キャミソール...いや全部脱いでシャワー浴びて(化粧落として)、
パジャマ(上下。ピンク。うさちゃんつき。)着て、ベットに倒れる。
枕がない。

うー。
「あのばか、」
しかたないので、枕を取りに。

ついでにテレビをつける。
フォーラムではなく、ふつーの垂れ流しテレビ。
ニュースやってる。

最近このニュースキャスター(当然同性)人気があるらしい。
...どこがいいのか。
世の男どもの視点わからん。

歯みがきガムを二,三個(数えてない)口に放り込み、丁寧にかむ。
...歯みがきしなさいって。(うお。にらまれた。)
ニュースは続く。

貧困者急増。
いじめで自殺。
国の借金はもう返せる状態ではない。事実上破綻。

ティッシュで鼻をかみ(僅かに花粉が漂っているようだ)、ぺってガムをはき出す。
そのままゴミ箱へ、ぽいっ。いつものように外れる。
が、どうでもいいようだ。

いつものように朝出かける時にはゴミ箱に入ってる。はず。
ニュースキャスターは優しげな表情(笑顔ではない。)で、語りかけるように話す。
...これ?かしら。

疲労は眠気に。
眠気は自然と体を横に。
僅かな寒さが布団を掛けさす。

タイマーを掛ける必要はない。
部屋のセンサーが活動停止を判断すると、明かりを緩やかに落とす。
明かりと連動して、テレビ光も、その音も。

heav>> おやすみ。ryo。

グルームの朝

2005-11-20 22:43:16 | 1gのおときばなし
とあるアパート。
カンカンカンカン。
ツトツクツトツク。

ドアの前に立った女性が一人。
ガッ...鍵穴を外した模様。
お前まで逆らうか!

...と言ってみてもますますいらいらするだけで。
月も高いこんな時間にドアを蹴る勇気もなく。
ぐりぐり回しながらなんとか鍵穴を見つける。

一度右に回し...回そうとして間違ったことにまたいらつく。
黙って左に回す。
今にも誰かを殴り倒しそうな勢いで。

がちゃ。
いつもの間の抜けた音。
どんなにやさしく回しても、どんなに乱暴に回しても音は一緒だ。

まるで、お前の力などその程度だ。と言わんばかり。
ガッと鍵を抜き乱暴に玄関の小さな靴箱の上にふん投げる。
翌朝鍵を探し回る羽目になるとも知らずに。

ふんふんっとパンプスのかかとを外し、馬が後ろ足で蹴り上げるかのように、はず...
れない。足がパンパン。
いらいらしつつ手でもぎ取る。

真っ暗な部屋。
電気をつける。
さすがにこれは失敗しない。

どんなに元気な時でも、どんなにいらついている時でも、電気のスイッチは同じ位置にある。
バックをどさっ。
束ねた髪をばさっ。

上着だけ脱いでソファーにどてっ。
いつもは意味もなくつけるテレビも無視。(リモコンが見あたらない。)
天井が見える。

白い天井。
タバコは吸わないので、壁紙の白が色を見せない。
ぼーっとしてると若干回る。天井が。

...死にたい。
もう、死にたい。
不思議と感情は動かない。もちろん涙も出ない。

けれども。
死にたい。
耳に残る流行り歌のサビのように、ぐるぐる回る。

感情は動いていない。
それでも、一筋の涙が、目からあふれる。
髪に吸い込まれる。

冷たい。
どさ。
何かが落ちる音がした。

気にしない。
どさ。なら何も壊れていない。
がさ。なら...コックローチ探すところだが。

何かが動く気配。を感じた。(さすがに首をそちらに向ける。かなりめんどくさそうに。)
テレビと自分の間にあるガラスのテーブルにはい上がる茶色の物体。
のこのこと、なんとか上がって、両足ちと開いて腰に手を当て、えっへん。

とする。くま。のぬいぐるみ。
...。
寝たまま向けた首をまた天井に戻す。

...立場のないくま。
おお、おい、おい、くまだぞくま。
とぬいぐるみの雰囲気を壊さない声でいう。かなり心外だ。

...。(無視。)
がおー。
ひらがなで吠えてみる。

どうせそういう設定なんでしょ?
今はそういう気分じゃないの。(自分の声に涙が混じっているのに気づくが、敢えて無視。)
...ますます立場のないくま。超常現象を無視かい。

せ、設定って...(泣きそうだ。)
夢でしょ。これ。
あ?(気に入らないくま。)

ま、まあ、夢がいいんならそうしておく。(がんばって気を取り直したくま。)
で、グルームちゃんが何の用?(どうでもいい声だ。)
ん?

用があるから出てきたんでしょ。ここ(夢)に。
お、おう、そ、そうだ。
まあ、なんだ。そんな簡単に死にたいなんて言うな。

いきなり深心に触れる、女心の分からないくま。(まあ、所詮くまだ。)
言ってないわよ。そんなこと。(本当のことだ。声には乗せてない。)
ふふーん。(ちとえらそう)、何年連れ合ってると思ってんだい。

こーんな小さい(ざっと30cmか)頃から見てる、おいらに聞こえないとでも思ったかい?
そう。3才の誕生日にもらった(らしい)ぬいぐるみ。
一緒に寝始めてから、かれこれもう20年になる。

さすがに今は飾り物だが、捨てられない。
実家に置いてくることすら、ためらわれた。
側にはいても、いつもは存在を意識することはない。そんなくま。

...だったら何よ。
何が分かるって言うのよ、!
がばっと起きてくまを見据える。

くまは怯(ひる)まない。
プラスチックの黒い目が見上げる。そして言葉を発す。
はん、ちょっと仕事がうまくいかないくらいで、一人男をとりのがしたくらいで、

知った風にかぶりを振りながら。
頭(と顔)が真っ赤な歩美がくまの頭を、がしっとつかまえ...ようとしたが、よけられた。
まるでそれを予期していたかのような、瞬発的な動きで平手で思いっきりたたく。いや投げる。

台所の方へすっ飛んでいく。
どん、どて。
遠くでこけた音が聞こえた。

くまは何事もなかったかのように戻ってくる。
のこのこと。しかしすばやく。
お、意外と元気じゃないか。(負け惜しみっぽい。)

あんたに何が分かるのよ、!
立ち上がって怒鳴る。(もうよその家の迷惑なんて気にならないらしい。)
くまも怯まない。(というか、全然相手にしていないように見える。)

さすがにテーブルに登るのはあきらめたらしい。その場で言う。
そりゃー分かるさ。
顔に書いてある。

うぐっ。
くまが表情読むなんてバカな話だが、真実には逆らえない。
恐らく顔に書いてある。それほどひどい顔をしているはずだ。見ずとも分かる。

まあ、なんだ、あー、
ああ、そう、随分いい女になったじゃないか、お前も。
くまに言われたくない。

しかし20年一緒にいたという事実が多少なりとも言葉に意味を持たせる。
そして、急に恥ずかしくなり、バッと腰を引き、両肩を抱く。胸を隠すように。
どうもこのくまは男の子らしい。

しかし。今度は見上げるくまに、羞恥心を「見せたこと」が、恥ずかしくなり、顔を真っ赤にする。
くまは気にしない。(というか意味が分からないといった風。)
しかし、なんかやな間だ。

その間を取り繕うように言う。
まあ、でも胸だけは薄...
皆まで言う前に土手っ腹を蹴り上げられる。

どかっ。
台所へのドアの脇の壁に直撃。
これがマンガだったら2秒くらいは壁に張り付いているところだが、そうもいかずにさっさと落ちる。

くまはへこたれない。(しかしこれはちと効いたよう。)
両手でなんとか体を起こし、同じ場所へのこのこやってくる。
ちょうど蹴りやすい場所だ。

少しはすっきりしたかい?
さすがにもう蹴れない。その健気な姿を見てしまっては。
しかし、意味が分からない。すっきり?

...思い出す。
くまに言われたこと。
できれば向き合いたくなかったこと。

そりゃー、世の中うまくいかないこともあるさ。(いつのまにかテーブルの上に上がってる。)
けれども、そんなことくらいで死にたいなんて言うなよ。な?
そんなこと?

不思議と熱い気持ちはもう出てこない。
くまを蹴り上げたいとは思わない。
けれども、その言葉は受け入れられない。

くまに向き合うようにソファーに座る。
そしてちょっと身を乗り出して、くまに言う。
あなたはいいわよ、こんなつらい思いすることないだから。

そうよ、あなたに何が分かるって言うのよ!
小さく声を荒げる。
そしてすねたようにプイッと横を向く。

向いた先にはカレンダー。
クリスマスを過ごす楽しげなカップルの図。
今年も終わりだ。もう、自分も終わりたい。

こんな思いはもうたくさんだ。
何をやってもうまくいかない。
すべてが裏目に出ている感じだ。

自分の能力のなさも嫌というほどあじあわされた。
そして女としての自分も。
全てが否定された。

そんな思いがぐるぐるまわる。
そして。
何が分かるって言うのよ!(声が涙だ。)

もう一度言う。(本人は二度も言ったとは思っていない。)
くまはだまって見つめてる。
わからんね。

意外なことを言う。
死にたいなんていうやつの気持ちなんて。
...さっきと言ってることが違う。が、そんなことは誰も覚えてない。

今に始まったことではないだろ。
どじなのも、薄いのも。(薄いはよけいだ。)
それでも立派に生きてきたじゃないか。

こんなにいい女になったじゃないか。
もうひと言いいたいが、所詮はくまだ。言葉が続かない。
歩美はだまって見つめてる。涙を拭くこともなく。

そう、がんばってきた。
いっぱいいっぱいがんばってきた。
でもね、結局無駄だった。

涙を隠すように天井を向く。
もういいの。
こんな思いをするのはもういいの。

で、逃げ出すのか?
挑発したつもり。けれども。
返ってきた答えは。うん。

許してくれるわよ。みんな、きっと。
がんばってきたんだもん。
もう、いいわよね。

ね。
くまをみる。
くまは言葉を探してる。

歩美は、くまの両脇に手を入れ抱き寄せる。
キュッと。
いや、ギュッと。

どのくらい時間が経ったか。
力が緩む。
くまが見上げる。

もう涙はない。
あるのは化粧の落ちたひどい顔だけだ。
決してすっきりした顔ではない。

死にたくないと顔に書いてある。
かといって、それをやめたわけでもない。
どうしていいかわからないようだ。

そんなに自分を殺したいなら、まずはおいらを殺しな。
やさしく言葉をかける。
え?

言っている意味に気づくのに少し時間がかかった。
なんで?
くまは、両手から抜け出して横に座る。

おいらはお前のためにある。
一緒にいたいと言うから、いてあげてるんだ。
20年も。(ちょっと不満げだ。)

おいらはお前自身でもある。
だから、まず、おいらを殺してみろ。
それができないようで、自分を殺せはしない。

横に座るくまを見下ろす。
いつもより小さく見える。
これが今の自分の姿...か。

...できないよ。
グルームを殺すなんてできないよ。
くまを手に取り、じっとみつめる。

プラスチックの目がきらんと光る。
うぅ。
感情が止まらない。

一人では声を出してなんて泣けない。
けれども、今は。
ギュッと(くまの言うところの薄い)胸に抱いて。

ひとしきり、思いを出したところで、ふと力が抜ける。
どてっとソファーに横になる。
くまの頭を愛しげに撫でながら。

---

ん、んー...
ん?
あ、朝...

カーテンも閉めずに寝ていたらしい。
朝日が眩しい。
目覚ましは鳴らない。セットしてないので当然だ。

くまは胸の中。
何年ぶりだろう。
グルーム抱いて寝たの。

夢?
じゃあなぜグルームがここに?
真実はわからない。

けれども、分かったことが一つ。
グルームは男の子だ。
昔からそうだとは思っていたが、今日はっきりした。

そして、もう一人の自分。
この姿を見ていると、この子の前でしたこと、いろんなことが思い出される。
中学生まではいろんなことをくまに愚痴ってた。誰にも言えないことを。

そのグルームが自分を殺してはいけないと言っている。
たぶん、それは自分の言葉だ。
深なる心が叫んだ言葉。

ふぅ。
そうね、どじなのも胸が...のも今に始まったことではない。
だいたい、あんな男こっちから願い下げ!

カレンダーを見る。幸せ気な男の子と女の子。
心がちくりとするが。絵の中の女の子にひと言。
がんばってね。

そして、腕の中のくまにも。
ありがとう。
ふと、時計を見る。...あー、もうこんな時間。

女の朝は忙しいのです。
しかも化粧したまま寝たもんだからもう...
どたばたはいつものこと。

心に新たな朝光を得た歩美にはそれすら楽しい。
そんな姿を見て安心して眠りにつく、くま。
いつの間にか、いつもの定位置(どうやって登ったんだ?)戻ってね。

七色のキツネ

2005-01-11 20:48:30 | 1gのおときばなし
いつまでも起きてないで早く寝るのよー!

はいはい。
寝ますよ、寝ればいいんでしょ。

いつものようにご飯を食べ、
いつものようにお風呂に入り、
いつものように母の声におされて部屋に向かう。

今年の春中学生になる。
中学生か。
昔は中学生は大人にみえたもんだけど。
なってみると(まだだ)全然かわんないね。
子供と。

階段をとっとととのぼって部屋に入る。
床が冷たい。
スリッパはくんだった。

ドアを開けて電気をつける。
壊れたエアコンの代わりに買ってもらったハロゲンヒーターに明かりをともす。
なんでも閑散期の方が修理代が安いとかで、修理は後回し。
ハロゲンヒーターの方が高いんじゃないのか?という疑問もあったが、
エアコンの温風よりも直火の方が好きなので、気づかないふりをした。

いつもの部屋。
そう、いつもの部屋。
のはず。

何かがおかしい。
何かが違う。

すぐにその理由が分かった。
コン太。
キツネのぬいぐるみだ。
ものごころついた時からずっといる。
何度も母親に治してもらった大切なもの。
とくにしっぽがよくとれる。

 「しっぽもって振り回すからだ。」

...え?
だ、誰かいるの?
背筋に冷たいものを感じながら部屋を見回す。
いつもの部屋。
いや、コン太。
そうだ、コン太だ。
コン太がいない。

昔はお気に入りなのを知ってて弟がしかえしのために
持っていったり、
いたずら書きしたり、
しっぽ持って振り回したり、

 「まったくだ。ひとをなんだと思ってるんだ。」

え?
今度は声の方向が分かった。
ベットの上。
コン太がいた。
犬のお座りな恰好で、こっちを見上げてる。
大きなしっぽはふにふに揺れてる。

...コン太?
夢見る少女(自称)はこのくらいでは動じない。

 「そうだ。見て分かるだろ。」

分かる。
でもなんで動いてるの?
という疑問を持ちつつも、先に出た言葉は、
どうしたの?

 「俺っちは何色に見える?」

え?
色って...
それよりもコン太は男の子だったの?

 「コン太だからオスだろ?違うのか?」

コン太はちょっと不安げだ。
ちょっとかわいそうに思えて、とりあえず肯定する。
そ、そうね。

 「そうだろ。」

コン太は満足げに鼻を鳴らす

 「で、何色に見える?」

そうか、男の子か。
今度から着替えの時は目隠ししなきゃ。
昨日まで見られていたのも気に入らないが、
小学生だし。というおおよそ女の子とは思えない理屈でいいことにした。

 「そらそうだろ。オス猫に覗かれて悲鳴あげるか?」

そういえばそうね。

 「で、何色に見える?」

どうしても答えて欲しいらしい。
んー、エメラルドグリーン。

 「ほう。エメラルドグリーンってこんな色か?」

ちょっと自信がなくなる。
そもそもコン太(きつねだ)がエメラルドグリーンなのが変なのだが、
このときはコン太の色は普通にエメラルドグリーンだと思ってた。
(本当はキツネ色だ。)
そういえば、いつもよりも薄い気がする。

んー、もうちょっと濃いかな。

 「じゃあ、これか?」

もうちょっと。

 「これでどうだ?」

それは緑!エメラルドグリーンはもっとこう、美しい色でしょ。

 「むつかしいこと言うな。じゃあ明度をもうちょっといじって...」

あ、その色。

 「これか。ほんとにこれか?」

そうよ。

 「これじゃないのか?」

それは黄緑。
ちょっといらつく。

 「ふーん。」

意味ありげに見つめる。
キツネっぽく。
なによ。

 「何かあったか?」

え?(ぎくっ)
あ...え?

 「昨日よりずいぶん色がくすんでるみたいだが。」

両脇開いて自分の体の色を見ている。
なんだ後ろ足だけで座れるんじゃん。
...じゃなくて、
なに?どうして?

 「これが今日のエメラルドグリーンなんだろ?」

今日の?

 「そうだ。昨日はこうだった。」

さっきのやたら明るい黄緑色になった。
...どういうこと?

 「これはおまえの心の色だ。」

おまえ?ちょっと気に入らないが、その後ろの言葉の方が気になった。
心の色?

 「これが今の心の色だ。」
 「そしてこれが昨日の心の色。」

...ちょっとね。
いろいろあるのよ、年頃の女の子には。

 「言ってみろ?。」

やさしく諭すように言ってきた。
え、あー、あのね。
友達...。

 「。」

両手をついてやさしく見上げている。
言葉の続きを待っている。そんな感じだ。
...。

 「。」

友達がね、(涙が浮かぶ。)

 「ん。」

友達がね、私立行くんだって。(頬をつたう。健気に泣くのはがまんする。)

 「?」

コン太には理解できないようだった。
公立へ行く自分と別れ離れになる。
今日知ったこと。
前から、そんなことは言っていた。
けど、どうせ受かんないよ。とも言っていた。
合格したんだって。

 「ほ、ほう...???」

コン太の頭に、はてなマークがふたつみっつ。浮かんでる。
だからね、お別れなの。

コン太の表情が変わる。
やっとわかったという安堵感とその意味の重さが表情にでている。

 「そ、そうか。」

でもね、
でも別に引っ越す訳じゃなくて、家から通うんだって。
だから平気だよ。

コン太が落ち込んだのを見てなぜか元気づける。
涙声で。
でも涙はふかない。
帰る時に泣かないって決めたから。

ずっと一緒に学校に通ってた。
学校はここから20分くらい。
小学生には十分遠い。一人でかようのは(特に夕暮れ)心細い。
最近は帰りは別なことが多いけど、朝はいつも迎えに着てくれてた。
それもあと2ヶ月。

 「ま、まああれだ、そのー、なんだ...ん?泣いてる....のか?」

いつの間にか自分の側にいる主人から、流れ落ちてくる冷たいものを、鼻に感じてようやく気づいた。
キツネは目がよくないのだ。
表情変えずただ流れる涙なんて気づかない。

な、泣いてなんて...
もう言葉にならない。
ベットの側でコン太をぎゅっと抱きしめて、鼻をすする。
のどの奥で押し殺したような嗚咽が直接コン太に響く。

コン太はちょっと苦しそうに身をよじった後、こう言った。

 「泣いてあげろ。友達のために泣いてあげないのか?」

硬く誓ったはずの心のたがが外れた。
大泣きする。
驚いて母親が見に来るくらい。
うるさい、あっちいってと手振りで追い返す。
母親はちょっと心配そうだが、年頃の女の子だしととりあえず引き上げる。
外で、いいの、ほっといて上げなさい。という母親の声が聞こえた。
弟もそこまできたらしい。

どのくらい経ったのだろう。
すでに十分部屋もあったまっていた。
ゆっくりを腕の力を抜いて、
涙でぐちゃぐちゃなコン太の顔を見た。

いつものキツネ色だ。