1gの勇気

奥手な人の思考と試行

心の鏡(仮名)1

2006-10-14 11:28:23 | 1gのおときばなし
とある町。
とある街に通う、ふつーの会社員。
一応女であることは自覚している。

名は...
heav>> よう、今日は遅かったな。
ryo>> うるさいわね、

40インチの壁掛けテレビ。
帰ってきて、部屋の電源(いろんなものが明かりと同時に起動するため。)を入れると自動的に起動する。
で、このテレビ自動的にチャットが起動する。(一般的なWebサービスならなんでも動く。)

heav>> うぉ。また、えらい機嫌悪いの。
ryo>> ふん、

腕時計から手のひらの方に向かって現れるバーチャルキーボード(片手用)に打ち込む。
しかし...40インチ(なぜこの時代になってまでインチなんだ?cmでよいと思うが。)
のテレビでチャットするか?

「そこ、うるさい!」
後方右、僅かに慎重より高い位置に意識を向け、沈めた声でいう。
...。(失礼。)

heav>> 聞いてやるから、ゆうてみ。

無視してブラウスを脱ぎ捨て、ベットに放り投げる。
が、パンツは脱がない。

おなかは減ってはいるものの、動く気がしない。
シャワーすら面倒。
男(だれ)がいるわけでなし。

どさっとベットを背に座り、ぼさっと点滅しているプロンプトを眺める。
字のでかさは2cmくらいある。
字幕なみだ。

ryo>> 何か言いなさいよ。
heav>> おかえり。
ryo>> ...ただいま。

力無く床に落ちた腕。
床に指を叩く。
あまりいい感触ではない。

「...爪、切らなきゃ。」
こんな会話が始まって三ヶ月。
どこの誰とも知らない男(?)との会話。

なぜか、とあるフォーラムにつなげると瞬時に現れる。
少なくともこの時間は。
たまに他の子も入ってきたりするが、あまり盛り上がる感じはない。

というか、なぜか人生相談みたいのが多い。
し、いいところで切られる。
どうも"heav"が切ってるらしい。

「プライバシーに配慮でもしてるつもり?」
無意識に声が出る。
プロンプトは点滅したまま。

"heav"は次の言葉を待ってるらしい。
のか、他のことに気を取られているのかはわからない。

ryo>> あんたも暇ね。

...返事がない。
忙しいらしい。

テレビのデフォルトがこのフォーラムになってから久しい。
たまにいないこともあり、そんなときは妙に(本人は強く否定するが)さみしい。

heav>> おお。そうでもなきゃ、ryoの相手なんてしれられへんし。
ryo>> いい加減、そのインチキくさい関西弁やめなさい、
heav>> インチキ?どのへんが。
ryo>> イントネーションが全ん然ん違うわ。
heav>> ...テキストでイントネーション見えるんか。さすがプロだの。
ryo>> ふん、

ワンルーム。
決して広くはないが、独りで住むにはちょうどよい。
これ以上広いときっとさみしい。

heav>> で、なにがあった。訊いてやるから胸元開いてゆうてみ。
ryo>> 胸襟でしょ!大体開くのは訊く方よ。
heav>> おれの胸元見て何が楽しい。
ryo>> 真顔でゆな、
heav>> ...見えるんかい。さすがプロ。

"heav"の口癖。さすがプロ。
何のプロかはどうでもいいらしい。
涼子のつっこみ癖を会話早々に見抜き、つっこみ所をなるたけ用意するように気を遣っている。

ryo>> 何か言った?
heav>> い、いや。なにも。
ryo>> だいたい話が長いわよ、これ読んでる人ももう飽きてるわよきっと、
heav>> ?誰が飽きてるって?
ryo>> ...

ryo>> で、訊かないの?何があったのか。
heav>> あのな。何度もきいとるやんけ。
ryo>> そ、そうだったかしら、

床に指を打つのに疲れたか、半ば無意識に体を前に寄せ、ローテーブルに手首を置く。

heav>> de,
ryo>>
heav>> それは
ryo>> 売ってる?
heav>> いや、どっちかというと
ryo>> ...
heav>> まあ、ゆうてみ。
ryo>> ...×、
heav>>
ryo>> なんで、あなたが、
ryo>> watasiの方が落ち込みたいわよ。
heav>> いや、話してくれへんから。
ryo>> 言いたくないの、
heav>> 俺には。か?
ryo>> soko,泣かないの、
heav>> 心配してくれるんか。
ryo>> 叱ってるのよ、
heav>> なんや、怒られてたんか。安心した。
ryo>> ...もう、意味分かんない。
heav>> まあ、そのふくよかな胸に手を当てて、

体を伸ばしてベットの上の枕をテレビに投げつける。

ryo>> セクハラ!
heav>> じゃあ、そのない
ryo>> それ以上言ったら殴るわよ、
heav>> mさっき殴られた気が...
ryo>> もう一回。
heav>> ...や、やめとくわ。
ryo>> 賢明ね、
heav>> そろそろ忘れた?
ryo>> 何を、
heav>> ならいい。
ryo>> あん?
heav>> そのまま寝とき。感情は時が解決してくれる。
ryo>> ...まだやることあるのよ。
heav>> それはきっと明日でもできる。
ryo>> あんたはそれでいいでしょうけど、女はいろいろ大変なのよ、
heav>> 落とすほど化粧しとんのか?
ryo>> 当たり前でしょ!
heav>> ほう。好きな男でもできたか?
ryo>> できたとはなによ、当然じゃない、
heav>> ほうほう。それはよかったな。
ryo>> よくないわよ、あんたには分からないでしょうけどね、
heav>> なにが、
ryo>> 恋する心。
heav>> それはわからんな。
ryo>> ...随分素直ね。
heav>> 男に興味ないし。
ryo>> 女には?

改行キー押した瞬間、失敗した。と思った。

heav>> そらー、あるにきまっとるy
ryo>> どうでもいい、
heav>> a...って、訊いといてそれは失礼ではないかと。
ryo>> 前言撤回。で、満足?
heav>> ...yes.
heav>> いらいらの原因はそれか?
ryo>> 全部よ、
heav>> 何が。
ryo>> 世の中全部、
heav>> ...なら簡単だ。
ryo>> 何がよ、
heav>> はよ寝ろ。
ryo>> 言われなくても。
heav>> ここで見ててやるから、早よそのキャミ脱いで、

近くのリモコン(なぜか三つあるが、どれでも動く。)拾って電源ボタンを押す。
ブラックアウト。

何となく見られているような気がして、床から天井までカメラを探す。
当然、そんなものは見あたらない。

言われたとおり、キャミソール...いや全部脱いでシャワー浴びて(化粧落として)、
パジャマ(上下。ピンク。うさちゃんつき。)着て、ベットに倒れる。
枕がない。

うー。
「あのばか、」
しかたないので、枕を取りに。

ついでにテレビをつける。
フォーラムではなく、ふつーの垂れ流しテレビ。
ニュースやってる。

最近このニュースキャスター(当然同性)人気があるらしい。
...どこがいいのか。
世の男どもの視点わからん。

歯みがきガムを二,三個(数えてない)口に放り込み、丁寧にかむ。
...歯みがきしなさいって。(うお。にらまれた。)
ニュースは続く。

貧困者急増。
いじめで自殺。
国の借金はもう返せる状態ではない。事実上破綻。

ティッシュで鼻をかみ(僅かに花粉が漂っているようだ)、ぺってガムをはき出す。
そのままゴミ箱へ、ぽいっ。いつものように外れる。
が、どうでもいいようだ。

いつものように朝出かける時にはゴミ箱に入ってる。はず。
ニュースキャスターは優しげな表情(笑顔ではない。)で、語りかけるように話す。
...これ?かしら。

疲労は眠気に。
眠気は自然と体を横に。
僅かな寒さが布団を掛けさす。

タイマーを掛ける必要はない。
部屋のセンサーが活動停止を判断すると、明かりを緩やかに落とす。
明かりと連動して、テレビ光も、その音も。

heav>> おやすみ。ryo。


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