アールグレイ日和

春畑 茜(短歌人+里俳句会)のつれづれ。
降っても晴れても、そこにサッカーはある。

セレクション歌人32「吉川宏志集」を読む

2005年12月13日 15時45分29秒 | 歌集・句集を読む
「吉川宏志集」は邑書林のセレクション歌人シリーズの一冊。2005年2月20日発行。
この本が出る少し前の1月15日には第3歌集『海雨』(砂子屋書房)が出されている。

この「吉川宏志集」には、第一歌集『青蝉』全作品、第二歌集『夜光』(抄)、初期作品、散文、
それから谷岡亜紀さんの吉川宏志論「不可思議へ至る」、略歴等が収められている。
『青蝉』のみずみずしい作品から『夜光』へ、読み進めてゆくにつれてかなり作品の味が深くなる印象だった。
散文では評論の類に読み応えがあるのは言うまでもないのだが、
その中の「スウェーデン・リレー」というエッセイに、青春のほろ苦さとそのタイトルの奇妙さの、なんとも忘れ難い味が出ていた。


・時雨忌の残してゆきし水たまり暮れゆくときに縁が光れる


この歌は第二歌集『夜光』の「時雨忌」に収められている一首。
日が暮れてゆくときに、水たまりの、その縁のほうが光っているのだという。
観察力というのか、一瞬の把握といえばいいのか、描写はこまやかで、しかし描かれた風景は狭くはない。
このような「観る力」や「捉える力」は吉川さんの歌の魅力のひとつだと思う。



・梔子(くちなし)の匂いのなかの校廊に糸のこぎりはひとすじ光る


この歌は風景描写の的確さもさることながら、表記(漢字やひらがなの配分)のバランスがとても美しい。
「梔子」「匂」「校廊」「糸」「光」と、順に置かれた漢字を味わうだけでも十分にそれは見えるのだが、あえてひらがなにしてひびきをひらいたような「のこぎり」「ひとすじ」「なか」という表記もこの歌の魅力だろう。
風景描写というと視覚中心になりそうなところを、「梔子の匂い」の嗅覚から歌い起こしているところにも注目した。


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吉川宏志さんは今年、短歌研究賞を受賞された(おめでとうございます!)。
すでに多くの方々にその歌の魅力は伝わっていると思うのだが
もしまだその作品に触れていないという方がおられたら、
ぜひこの「吉川宏志集」を読んでいただきたいと思う。




光悦の「時雨」

2005年12月13日 13時44分49秒 | 短歌あれこれ
目が覚めたら、名古屋は雪だった。

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今日の中日新聞朝刊(名古屋版)がパソコンの左手に置いてあって、
「森川コレクション」の記事にたびたび視線が行ってしまう。
「門外不出 お宝公開」という見出しの文字がなんとも俗っぽいのだが、
本阿弥光悦の黒茶碗「時雨」が写真つきで紹介されていて、
思わず何度も眺めてしまった。
専門的な調査の後、2007年以降に全容公開される予定のようだ。
公開されたら、たとえひと目でもいいから、絶対に見に行こうと思う。



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(けふの即詠)

・銀いろのこゑ降り来ると思ふまで硝子に朝を眺めてゐたり  (春畑 茜)