《 ⑥ からのつづき 》
『大草原』の7年間は、アリソンにとって、大きな救いであり逃避でした。
忙しさが、兄にされていたことについて考える暇を、くすぶる感情が表面に上ってくるチャンスを、与えずにおいてくれたからです。
『大草原』を離れてからも、一年ほどは、独立した住居での自由を満喫しました。
友人たちが自由に出入りし、終わることのないホリデーのような気ままな毎日を楽しみました。
しかし一年ほど経ったある日、過去が突然アリソンを、何トンものレンガのように打ちつけました。
考える時間ができたため、努めて考えないように避けてきた事柄が、怖れ、恐怖、不安の波になって彼女に襲いかかったのです。
過去から来た悪魔に真向から対峙されたアリソンは、夜眠れなくなり、動悸が激しくなり、妙な発疹が出、不安が高まるあまり失神しそうな気がしました。
あまりにも長いこと感情を閉ざしてきたため、もう感情はどこかに消え失せたと思っていました。でも虐待を受けると、痛みは決して消え失せることはありません。
表面から深く沈み、親友さえ気づかないかもしれませんが、痛みは変わらずそこにあり、悪性の腫瘍のように大きくなり続けます。
虐待は体の細胞に住みつき、傷跡は毎日の毎分毎秒、存在し続けるのです。虐待の記憶に耐え切れなくなったアリソンは、嘔吐を繰り返し、死にたくすらなりました。
22歳のときでした。
(何かしなければ)と思い、よく知っている婦人科医に相談すると、優秀な精神分析医を紹介してくれました。
率直に過去の性的虐待について話し、セラピーに通い始めると、数日内に嘔吐が止まりました。
医者はアリソンに、両親に話すことを薦めました。両親がどこまで知っていたのかを知ることは、セラピーの助けになるからと。
最初はアリソンはそのアイディアを嫌いましたが、適切な機会が訪れました。
子供時代に性的虐待を受けた若い女性役のオーディションを受けるよう両親が薦めてきたので、それに絡めて話すことにしたのです。
アリソンは怖気づいただけだろうと、母親は彼女を説得するため彼女の住居を訪れました。
アリソンは彼女に話しました――なぜ自分がオーディションを受けたくないのかを。
私はこの役を、スクリーン上で演じたくないの。なぜなら過去に、実際にそれを体験しているから。
アリソンは母親に、ステファンが彼女にしたことを話しました。
ステファンと二人きりにしないよう何度も何度も懇願したことも、母親に思い出させました。
数秒間沈黙したあと、母親は言いました。 “Oh, shit.”
母親が自分の言ったことを信じ、ふさわしい反応を示してくれたことに、アリソンは心から嬉しくなり、安堵しました。
ずっと長いこと、アリソンは確信できずにいたからです。
母親は、知っていたのに見逃していたのか。感づいてはいたけれど無視を決め込んだのか。
それとも本当に、まったく、気づいていなかったのか。
その日の母親の反応を自ら観察したアリソンは、母親はまったく知らなかったと確信できました。
どんなに偉大な女優でも、絶対に演じられないショック反応だったからです。
母親はオーディションのことは即刻忘れるようアリソンに言い、父親には自分から話すと約束してくれました。
アリソンのセラピストは、アリソンが両親に打ち明けたことを、進歩として喜びました。でもまだ終わりではありませんでした。
セラピストは今度は、ステファン本人と対決することをアリソンに薦めました。80年代は『赦し』だの『癒し』だの『和解』だのが流行していたのです。
ステファンが過去に毎日のように自分にしたことを、まるで何もなかったことにしてしまうのを、アリソン自身も不満に思っていました。
ステファンは自分の行為を間違ったことだとは思わなかったの? すべて記憶から締め出してしまったの?
好奇心が怖れを打ち負かし、アリソンは彼と話すことにしました。
ティーン時代からアルコールと麻薬に溺れていたステファンは、ちょうどその頃は“クリーン”でした。少なくとも本人はそう言っていました。
少し前に彼は3階の窓から落ちて――あるいは飛び降りて、あるいは落とされて――、全身を金属棒で牽引された状態で病院で目覚めました。
その経験は、誰にとっても悪い習慣から足を洗うのに十分だったことでしょう。それまでやっていた浴びるような飲酒と麻薬をやめたようだったので、
希望はあるとアリソンは思いました。アリソンが話し易いよう、母親が前もってステファンに話しておいてくれました。
ステファンの暴力性は家を出て独立してからも変わることなく、彼の恋人たちはほぼ全員が、痣ができるほどの暴力を受けました。
母親と口論した際は母親すらをもひどく突き飛ばし、その結果彼女の腕が折れたこともありました。
そのため大事を取って、アリソンは彼と電話で話しました。
彼の反応として、否定、記憶の欠如、脅し、怒号などを予期していたアリソンは、彼がそのどれもしなかったため、ラッキーだったと最初は思いました。
彼は自分がしたことを覚えていて、すべてを認め、自分は「ひどく病気だった(very sick)」と言い、麻薬とアルコールのせいにしました。
彼はまた、アリソンが自分と完全に縁を切りたいと思っても理解できるとすら言いました。
和解の奇跡が起き、彼は自分のしたことがどれほど彼女を傷つけたかを理解し、もう二度と誰にもあんなことをするつもりはなく、たぶん
自分のしたことを後悔しているとすらアリソンは思いました。が、彼は話し続け、謝罪の言葉は一切口にせず、言いました:
“Sexually molesting you was the greatest sexual experience of my life, and everything else has been downhill from there.”
(お前にした性的いたずらがこれまでで最高の性体験だったよ、あれ以降はすべてが下り坂だ。)
それが、完全にしらふなステファンが、本当に言ったことでした。・・・
過去と向き合った結果、誰も、ステファン当人でさえも、虐待があったことを否定しませんでした。でもアリソンは、別の新たな否定を感じました。
両親は彼女に、過去は過去として“元通り”になるよう期待しているようでした。両親が信じていた過去が、すべて嘘だったとは気づかずに。
アリソンの子供時代は、生き地獄でした。兄との関係はすべて嘘で、何年もの間彼は彼女を叩き、レイプしました。
それをすべて水に流して“ハッピー・ファミリー”に戻るのは、出した歯磨き粉をチューブに戻すと同様、難しいことです。
アリソンがそうして悶々とした日々を過ごしていたまさにそのとき、“The Return of Nellie” の一話だけ『大草原』に戻ることが決まり、
10代の大半を一緒に過ごした懐しい友人たちとの再会は、彼女にとって大きな救い、大きな癒しになりました。
2002年12月28日に、アリソンは一通のメールを受け取りました。
それは National Association to Protect Children (略: PROTECT)という、虐待された子供に直接影響する法律を
変えようと活動している新しい組織からのメールで、アリソンに、委員会のメンバーになることを要請するものでした。
当時、アメリカの30以上の州には、子供への性的虐待者に対する刑罰に関し、『近親姦例外条項』がありました。
子供を性的に虐待した大人が被害者の身近な人間――父親、継父、養父、親類、被害者と同居していた人間、さらには家への客人――
であった場合は、刑罰が、たとえば『一日だけの収監』のように、犯人が赤の他人であった場合よりも、ずっと軽くて済みました。
子供への性的虐待の加害者の大多数が近親や親類であることを踏まえると、これは信じ難い、赦せない不正義でした。
PROTECT はすでにノース・カロライナ州で、この馬鹿げた例外条項を破棄させることに成功していました。
彼らの次の目標は、カリフォルニア州。
委員会のメンバーになることにまったく異存はなく、すぐにもOKと即答したいところでしたが、アリソンは考えなければなりませんでした。
委員になれば、やがてはレポーターに訊かれることでしょう。
「アーングリムさん、これはあなたにとって個人的な問題なんですか?」
嘘はつけません。アリソンはしばらく考え、夫のボブとかかりつけの精神分析医にも相談したのち、「イエス」と返事しました。
カリフォルニアの州都サクラメントに州政府の役人に会いにいったとき、アリソンはすべてスムーズに行くような空想をしていました。
アリソンたちPROTECTのメンバーがこの信じられないような例外条項を指摘すると、おののいた政府役人たちは同意し、その場で例外条項を破棄してくれると。
しかし現実は、それとは対照的に厳しいものでした。
過去の性的虐待の被害者たちも同行し、政府役人たちとのミーティングで、アリソンとともに自分たちの被害体験をシェアしました。
それが済んだとき、素敵な民主党上院議員のこれまた素敵な女性補佐官が、アリソンに向かって言いました:
“No one in Sacramento gives a shit that you were molested.”
(あなたがいたずらされていた事なんて、サクラメントの人間にはどうでもいいことよ。)
紳士淑女の皆さん、あなたの納めた税金の仕事ぶりを、とくとご覧あれ!
好意的な見方をするならば、彼女は助けになろうとしてくれていたのです。政治家と交渉する際の黄金のレッスンを与えることで:
政治家は政治的圧力にしか応えず、個人の苦しみは政治的圧力とはみなされない。
アリソンのサクラメント行きのハイライトは、共和党上院議員ジェームズ・バッティンに会うことでした。
バッティンは『近親姦例外条項』に反対し、それをカリフォルニア州法から取り除く議案を提出していましたが、アリソンに、
目的達成までは長い道のりになるだろうと警告しました。
アリソンたちは California Senate Public Safety Committee (カリフォルニア上院公共安全委員会?)と対決しなければならなかったからです。
バッティンによると、人々は同委員会に、苦しみを真摯に切々と訴えてきましたが、それはすべて無視され、はねつけられてきました。
「あら、じゃあそれって、オーディションに行くようなものね?」アリソンは応えました。
バッティン上院議員はタフかもしれないけれど、キャスティング・ディレクターに会ったことはないもの。
委員会とのミーティングの際、アリソンは、近親による性的虐待被害の経験を率直に話し、犠牲者たちの市民権を守るよう訴えました。
同行したPROTECTの医師も、近親姦が及ぼすひどい影響、加害者が罰を受ける代わりに保護されているのを目の当たりにすることで
犠牲者たちが受ける二次的被害、そして近親姦とそうでない場合の加害者には、心理状態に何の相違もないことを説明しました。
しかしながら、バッティン上院議員の言った通り、アリソンたちの訴えは完全な空振りに終わりました。
アリソンを見下ろす上院議員の面々は、見下げるような軽蔑や烈火のような怒りといった表情を浮かべていました。
そのときアリソンは知らなかったのですが、彼女はカリフォルニア州の最も影響力のある上院議員たちだけでなく、近親姦例外条項を法案化した
まさにその政治家たちをも相手にしていたのです。アリソンたちの訴えが終わり、提出された議案(近親姦例外条項の破棄)を
否決する議員たちは、ほとんど喜びに近い感情を隠しているようでした。近親姦の例外扱いは、続くことになりました。
議員たちは、アリソンが泣くことを期待したかもしれません。
が、彼女はハリウッド育ちです。泣く代わりに、広報者に電話しました。ただの広報者ではなく、ラリー・キング・ライブのプロデューサーと
長いつきあいのあるハーラン・ボルです。彼女がボルに詳しく状況を説明すると、ボルはすぐさまプロデューサーにコンタクトしてくれました。
「過去にとても人気のあった家族向けドラマシリーズに子役で出演していた女優が性的虐待に遭っていたことを公にするとしたら、興味あるかい?」
大いに興味を示したプロデューサーたちに、ボルは説明しました。インタビューはその女優の性的虐待だけでは終わらず、近親姦を
例外扱いするショッキングな法にも触れることになる。被害者の一人だった彼女は、何百万の犠牲者たちのために口を開くのだ。
そしてボルは、その女優が『大草原』のアリソンであることを明かしました。
プロデューサーたちは、色めき立ちました。「(虐待したのは)マイケル・ランドンか?」
「ちがーう!気でもおかしくなったのか?近親者だよ!」
「あぁ、・・・そうか、また連絡するよ・・・」
そのときは望み薄に思われたものの、アリソンは連絡を受け、プロデューサーと会い、自分の過去のみならず法に関しても、きちんと筋立てて説明できることを
証明しました。女性プロデューサーは深い興味を示し、アリソンの話が終わる前に携帯電話からオフィスに電話し、アリソンは確実にラリー・キング・ライブに
出演すると約束してくれました。率直に言うとアリソンは、自分は出演したくないと思っていたし、これは自分だけの闘いではないから、出演するのは
自分でなくてもいいと思っていました。法律家も精神科医もいるし、バッティン議員も出演してもいいと言ってくれていました。
でもプロデューサーは、微笑んで言いました。
「ううん、ダメ。彼らがどんな番組に出演していたというの?視聴者は彼らを知らないけれど、あなたのことは知ってる。」
伝説的番組だった『大草原』が一生自分についてまわる可能性には気づいていましたが、今回ネリーは、アリソンの武器になってくれようとしていました。
この戦闘を共に戦う、舌の鋭い剣として。
出演にこぎつけるまでの打ち合わせで、プロデューサーたちはアリソンの被虐待経験の生々しい詳細を期待していることがわかりました。彼女は
それを受け入れ、引き換えに、性的虐待者が近親や家族の知り合いだった場合はほぼ罪に問われないという信じられないような例外条項があること、
でもサクラメントはその例外条項を猛烈に支持し破棄しようとしないこと、PROTECTはその例外条項を多くの州政府に破棄させようとしている唯一の
組織であることを話させてもらうよう要求し、すべて受け入れられました。
アリソンは、自分の話を裏づけてくれる人間が必要でした。母親のノーマ・マクミランは数年前に他界していたため、父親トアに電話し、
PROTECTとの関わりやサクラメントでのことを説明しました。
父親は熱心に聞き、サポートを約束してくれました。そこにアリソンから、爆弾ニュースが落ちました。
「私、ラリー・キング・ライブに出演するの」
一瞬沈黙してから、父親は言いました。 「・・・ラリー・キング?今ラリー・キングと言ったか?」
「ええ」
父親は熱狂しました。まるで宝くじに当たったみたいに。 「ラリー・キング!」 喜びのあまり叫びました。 「ラリー・キング!」
「ええ、私、自分が受けた性的虐待について話すことになるのよ」 アリソンは父親に思い出させようとしました。
「うんうん、もちろんだ。ファンタスティックだ!ラリー・キング!出演する時間はどれくらいなんだ?」 息切れしながら、父親は尋ねました。
「一時間よ」
「一時間だって?」 彼は金切り声を上げました。 「何てこった!他のゲストは誰だ?」
「誰も。私一人よ。」
この時点で、彼の最後の正気がすっ飛びました。
「おまえだけだって?おまえは丸一時間、一人きりで、ラリー・キング・ライブに出演するって?」
有頂天になった父親は、ぶつぶつと独り言を始めました。 「なんてこった、こりゃファンタスティックだ。皆に電話して見るよう言わなきゃならん。・・・」
アリソンは彼を遮りました。
「ね、お父さん、喜んでくれるのは嬉しいけれど、番組で私は、子供時代にお父さんと同じ屋根の下で繰り返しレイプされていたことを話すことになるのよ、いい?」
アリソンの言葉は高揚感に包まれた彼には届かないようでした。
「ああ、わかってる、とても重要なことだ。」 父親は落ち着きを取り戻したふりをしました。
「おまえがやらなくちゃな。いつかおまえがやってくれるものと信じていたよ。それが一番だ。」
父親はアリソンが期待したよりはるかに協力的でした。が、それ以上は狂喜を隠せず、 「しかしな、」 とまた始まりました。
「ラリー・キングだぞ!大したもんだ!皆を招かなきゃ・・・待てよ、料理する時間はあるか?いや、仕出し屋を頼もう。」
アリソンがレイプされていたことはとても悪いことだったし、近親姦を例外扱いすることももちろん赦せない不正義でした。が、
アリソンの家族を取り巻く宇宙では、アリソンがTVに出ることが最も重要なことだったのです。なので父親が番組のプロデューサーと話し、
アリソンの話を裏づけてくれることに関しては、何の問題もありませんでした。
長い年月を経て、アリソンはようやく父親の脳がいかに働くかを理解するようになっていました。
でもそれをボルやPROTECTのメンバー、さらには他の犠牲者たちに説明するのは困難でした。
「お父さんの反応はどうだった?」 「どちらにすべきか迷っていると思うわ。」 「どちらって?」
「(おつまみを)カニのパフにするか、ほうれん草のディップにするかで。」
アリソンは2004年4月27日に、ラリー・キング・ライブに出演しました。番組前にラリーはアリソンに会いに来て、説明してくれました。
「いいかい、我々は何については私が質問しないかですでに同意している。しかし私は、そのうちいくつかは質問する。でも答えなくていいよ。
答えて欲しくない。代わりに『それについては話したくありません』とか『あなたには関係ないことです』とか好きなように言ってくれ。
私が質問するのは、君に答えさせようとか、君の感情を逆撫でしようとするからじゃない。私は基本的に、視聴者の代表だ。
視聴者の頭にあるであろう質問をもし私がしなかったら、彼らは変に思うだろう。だがだからといって、君が答えることはないんだ。いいね?」
ラリー・キングとゲストの間にある机は、テレビで見て思っていたよりずっと小さいことにアリソンは気づきました。それから、ラリー・キングの頭。
テレビで見ても大きかったけれど、本当に体とはアンバランスに大きくて、実際に面と向かって彼にインタビューされるのは、まるで
巨大なカマキリと対峙しているようで、アリソンは彼の頭から目が離せませんでした。
6歳のときに始まった性的虐待について、また不正義でしかない法に関する大事な詳細について、初めて公に、適切に話そうと努力するアリソン。
しかし彼女が考えられることといえば、(わぁ、彼の頭は本当に大きいんだわ)。でもおかげで緊張がほぐれたのかもしれません。
アリソンは、話したかったことをすべて話すことができました。
ラリー・キング: なぜ今になって話す気になったのですか?
アリソン: 多くの有名人がテレビに出てこういったことでカミングアウトするのを見ながら、私は絶対にそういうことはしたくないと思っていました。
でも、もし本当に大切な有意義な理由があるなら――私の場合はPROTECTという組織の委員になったことで、
私たちはある議案をサクラメントに持ち込んだんですが・・・
第一部が終わってCMが入ろうとしたとき、ラリー・キングは突然カメラの方を向いて言いました。 “That's www dot PROTECT dot ORG!”
アリソンは卒倒しそうになりました。ラリーはその後もCM前に “PROTECT dot org!” と叫んでくれました。
収録が終わると、ラリーは天井にいる誰かに向かって、これの放映はいつになるのか訊きました。
『放映したいときに放映する』を意味する 「エバーグリーンです」 という声が返って来、アリソンはパニックしました。
すぐさま放映してもらわないと、サクラメントでの助けにはなりません。放映を保留にされたら、すべてが台無しです。
喉に大きな塊がこみ上げるのを感じました。
ラリーは天井の声に向かって言いました。「木曜日に放映だ!」
アリソンはラリーにキスしたい気分でした。
世界中の人々がPROTECTのウェブサイトを訪れました。そこで彼らは何を見たか?
近親姦例外条項の破棄に反対票を投じた、Public Safety Committee(公共安全委員会)の上院議員たちです。
名前だけでなく、BETRAYED と大書された画像まで、一緒に。
その下には彼らの電話番号、ファックス番号、メールアドレスもついていました。
まもなく議員たちのところに、有権者たちからのファックスやメールや電話が殺到しました。電話で人々は、怒鳴りつけました。
「いったい何をやってるんだ!あんた、病気か!?」
効果はてきめんでした。バッティン議員はカリフォルニア州に対し、議案を再提出。
以前はサクラメントの誰一人としてアリソンの性的虐待被害に関心がなかったかもしれませんが、ラリー・キングのおかげで、
今は関心を持たざるを得なくなりました。
議案は通過をはじめ、委員会、次の委員会、上院、下院を通過し、最終的に議場投票に達し、満場一致で可決されました。
2005年10月4日、“ターミネーター” ことアーノルド・シュワルツネッガー自身が、議案を法にする署名をしました。
アリソンは幸福でした。ただただ幸福でした。
それから泣きました。彼女は幸せなときしか泣きません。
私は議場のみならずカリフォルニア州立法部全体を相手に闘い――勝利した。
何十年もの間存在し、何千人もの子供たちを苦しめてきた、このうえなく不正義な法律を変える手助けができた。
私が成功したのは、政治家だったからでも、法律家だったからでも、精神分析医だったからでも、虐待体験を語った被害者だったからでもない。
共に闘った同胞にあった教育も、経験も、私にはなかった。
なのに私は成功した、なぜなら私には、他の皆になかったものがあったから。
私は皆が知っている誰か、皆の居間にいた誰かだった。
それがネリーだったのだから、もう言うことなしだわ。
アリソンは、『大草原』の家族を今も大切に思っています。残念ながらビクター・フレンチ(エドワーズさん)はかなり前に、
ケヴィン・ハーゲン(ベイカー先生)とダブス・グリア(オルデン牧師)もここ数年の間に他界して、天国でマイケルとスティーヴに合流しました。
でも残りの面々とは、驚くべきことに、今でも連絡を取り合っています。メリッサ・スー・アンダーソンは相変わらず例外ですが、年齢を重ねた今、
メリッサ・スーとも共通点が増えたから、もっとましな関係が築けるのでは?とアリソンは密かに期待しています。
オルソン家の人々?弟ウィリーの行方は、誰にもよくわかっていません。ジョナサン・ギルバートは世界放浪に出、居場所を突き止めるのが
困難になっています。“父さん”のリチャード・ブル(オルソン氏)はシカゴに住み、まだまだ演技を続けています。オルソン夫人?
今年85歳になるキャサリン・マグレガーは永遠に死なないタイプの女性。再会したら、今でもアリソンにあれこれ命令することでしょう。
でもそれが彼女。アリソンはそんな彼女が大好きです。(注:すべて2010年の時点です。)
カレン・グラッスル(母さん)とシャーロット・スチュワート(ビードゥル先生)は北部のナパ近郊に移ってしまったから普段はメールをやりとりする
ことしかできませんが、『大草原』のキャストのメンバーたちは、少なくとも年に一回は、再会するよう心がけています。
パーキンソン病を患ったアリソンの父親トアは、2009年12月16日に81歳で他界しました。
重篤な状態に陥った彼が運び込まれた緊急救命室で、アリソンは兄ステファンと、数時間にわたって同室しました。
が、彼と腹を割って話す気分になど到底なれず、彼女は兄を他人とみなして父親に神経を集中させるよう努めました。
その後兄と会うことはありませんでした。
実の家族を失ったアリソンにとって、『大草原』の家族はこの先もずっと、大切な家族であり続けることでしょう。
ネリーを演じたとき、私は安全な場所で、叫び、吼え、物を投げつけ、痛みや憤怒をぶちまけることができた。
ネリーは私に、怒ってもいいことを教えてくれた。番組を通じて一生付き合える家族をくれた。友達も。世界中に。
友人たちをエイズで亡くし始めたときは、彼らを助けるための資金集めを手伝ってくれた――介護や、彼らの権利を守る代理人や、
エイズについての教育を広めるための資金。
そして性的虐待を受けた子供たちのための闘いを始めたときも、ネリーは私に手段をくれた。
私が受けた性的虐待は、もうとうの昔に時効になり、私にはどうすることもできない。
でも代わりに私は、多くの場合私よりずっと酷い、数百万にのぼる虐待のケースの結果に影響を与えるチャンスをもらえた。
これは言葉では表現し尽くせないくらいに私自身を癒すことになる、貴重な贈物だった。
そしてすべては、大草原のビッチのおかげ。
ネリーが話せば、ラリー・キングでさえ耳を傾ける。
だから私はハッピー。
私がもらった信じられないような贈物で何ができるかに、ようやく気づけたのだもの。
それはまだ、始まったばかり。
そして今や私は、カツラを着ける必要すらないんだわ・・・・・
《 おわり 》
あとがき
今回ようやく完結したこの連載は、2010年に出版されたアリソン・アーングリムの自伝
Confessions of a Prairie Bitch の主な部分を、意訳拙訳全開で紹介させていただいたものですので、ご了承願います。
アリソンの日本語版ウィキにもある通り、彼女はラリー・キング・ライブでは、自分を性的に虐待した相手は公表しませんでした。
ただ「両親ではない」ことだけを明らかにして。
虐待者が兄ステファンだったことを暴露したのは、2010年に世に出たこの著書の中ででした。
兄のステファン(Stefan Arngrim)は、現在もカナダのバンクーバーで俳優業を続けているようです。
(このクソ野郎がみじめで苦痛に満ちた晩年を迎えますように!)
アリソンがこんな想像を絶する辛いことがあったのは知らなかったです。
それにしてもレイプ野郎がテレビに出る仕事をしてるのが信じられません…
出来れば人目に触れることなく一人で苦しんで苦しんで死んでほしいです。
言葉が汚くてすみません😔
完結したのはちょっと寂しいですけどハナママゴンさんのblogこれからも読ませてもらいますね🎶
興味が他に移るとつい連載をほったらかしにしてしまうんですが、トシもトシだし。
突然何らかの理由で急死した場合に備え、連載は終わらせなきゃと思っています。
この連載は真先に完結したかったので、完結できて大満足です
アリソンの兄は、ほんっとクソ野郎ですよね!妹には兄を選んで生まれてくることなんてできないのに。
反省とか後悔とか改悛の情とかは皆無で、しかも俳優を続けているって、信じられません。
アリソンの著書が世に出て以降は世間に嫌悪され、仕事も激減し、みじめな老後が待っていることを期待します。
彼とは対照的に、アリソンの素晴らしいこと!
自分の悲劇の過去を、利他的な目的のために最大限に使って、多くの被害者たちを助ける結果を導いたのですから。
彼女がネリーでなかったら、あの悪法はその後も存在し続けたと思うと、怖ろしいです。
アリソンの未来に幸あれ!
本当に勇気がある。
彼女に救われた人や子供は沢山いるでしょうね。
子供の頃、大草原でのネリーを見てた時は、ただ美人な子だなーと思ってたけど、こんな辛い過去を乗り越えて演じてたとは。
そして、お父さんすっごくズレてますね‥。
メジャーなテレビに出れれば内容は何でもいいのか。
兄、老年の写真がもうやさぐれて貧相で不潔っぽくて、内面を表してますね。
こんな奴を俳優として見たい人も居ないでしょうから、仕事無くなって惨めな老後を過ごす事でしょう。
小さな妹と見くびってると痛い目に合うという事ですね。
アリソンの逆襲に、度肝を抜かれたことでしょうね。
ざまぁ見ろ~!痛快!
この痛快感は、個人的には、『模倣犯』のクライマックスと同じくらいに素晴らしかったです。
『模倣犯』はフィクションだったけど、アリソンの闘いは本物だったのだから、もう最高。
彼女の今後が幸福に満ちたものでありますように。
『大草原のビッチの告白』を読んでよかった。
この先『大草原』を見るときは、ネリーをこれまでとは違った目で見られそうです
とても楽しんで読みました。
もちろんテレビの大草原の家も大好きでしたが、
ネリーがそんな目にあっていたとは。。。
お兄さん、今も野放しなんですね、
怖い。。。
訳してくださってありがとうございます。
個人的に、ローラのお父さんが脱いだりするのが、すごく苦手で(思春期だったので!!)
それにそんな戦略があったとは。。。!と、
すごいインパクトを受けています。
ローラとネリーが親友というのも、
ドラマみたいでいいですね♪
農作業中とか、たらいで清拭中とか、怪我をして(いつも上半身に!笑)ベイカー先生に診てもらったりとか。
あれ、すべて計算づくだったんですね。
アリソンがネリー役を獲得して本当に良かったです。
ネリー役が彼女の運命を大転換させましたもんね。
しかも彼女の演技の上手いこと・・・ 『地』じゃないの!?と思わせるくらいに上手かったこと・・・
久しぶりにDVDを見たくなりました。
途中長~い間が空いてしまったにもかかわらず(呆)最後まで読んでいただき、ありがとうございました
ありがとうございました😌
長いことお待たせして本当に申し訳ありませんでした。
大草原の小さな家シリーズに関する部分も興味深く読みましたが、とにかく彼女自身が素晴らしい女性で感銘を受けました!残念ながら未だに日本語版は出版されていないようですが、ハナママゴンさまのおかげで内容を知ることができて、本当に感謝です。大草原の小さな家でイジワルネリーを見る目が変わりそうです(*^-^*)
「あの」(笑)ネリーは大嫌いでしたが、ネリーを演じていたアリソン自身は、このように聡明で分別もある素晴らしい女性だったとは。
彼女の著作を読んで、本当に良かったです。
ネリーを演じることがアリソンの癒しとストレス解消になっていたと知り、私も今後、ネリーを見る目が変わりそうです。
コメントありがとうございました!