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浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

知らないままに・・・

2025-03-28 18:58:20 | 

 吉見俊哉『アメリカ・イン・ジャパン』(岩波新書)を読んでいる。それを読んでいて、驚いたことがある。

 戦争末期、米軍が日本へ激しい空襲を行ったことは誰でも知っている。どこに落とすべきか、アメリカ軍は何度も空から写真を撮って、分析していた。その際に撮影した写真は、今、国土地理院だったと思うがみることができる。

 その撮影の詳細が、本書には記されている。

 (写真偵察機)F13の機体はB29を改造し、数種の大型カメラを装備していました。第一は、地上の30ー50キロ四方の比較的広い範囲を撮影するトライメトロゴン用カメラ3台です。「トライメトロゴン」というのは地図製作用の技術で、中央のカメラは下方、左右のカメラは水平面から30度傾け、各カメラで撮影された写真をカメラの位置を光源として水平面上に投影することで正確な地図を作成できました。第二に、F13は同じ範囲に照準して鉛直軸からわずかに傾く2台のカメラも装備していました。これらのカメラで約3キロ四方を撮影し、そのフィルムを合成して地上の高低や建物の高さを計算し、それらの凸凹を立体視できる写真を作成できたのです。さらに、より広い範囲を直下で撮影するため、もう1台の直下撮影用のカメラも搭載されていました。加えて、F13には夜間撮影用のカメラも載せられ、照明弾とセットで使用されました。

 このF13が、東京上空に最初に飛来したのは1944年11月1日です。午後一時頃に房総半島から東京に侵入し、東京近郊の航空関連工場、京浜の軍事工場や横浜近郊の海軍施設を撮影しました。その後も同機は、11月に27回、12月にも27回出撃し、東京と名古屋を上空から精密撮影しました。こうして44年から45年にかけての頻繁な飛行で撮影された膨大な枚数の航空写真は、サイパンにあったアメリカ空軍第三写真偵察隊で現像され、組織的な分析と地図や模型の製作が進められました。この部隊は、45年5月には1000人を擁するまでに膨れあがったそうで、F13の写真が米軍の日本空爆でいかに重視されていたかがわかります。東京上空は、敗戦一年近く前からすでに「占領」されていたようなものだったのです。

 米軍が技術開発を進めていたのは、F13による航空写真だけではありません。爆撃の効果を正確に予測し、その結果を検証する仕組みも発達させていました。1943年10月に作成された『日本ー焼夷攻撃資料』では、米軍は日本の20都市を空爆対象として選定し、それらの都市を焼き尽くすのに必要な焼夷弾の量を計算しています。そのため、各都市の構造、建物配置、消失可能性、人口密度等についてのデータが集められ、爆撃の対象地域が三種の焼夷区間にゾーニングまでされていました。

(中略)

 このような地区選定には、さまざまな社会学的データも利用されていました。とりわけこのゾーニングでは、1940年に日本政府が実施した国勢調査の結果が利用され、地区ごとの精密な人口密度が算出されていました。米軍は、日本政府が実施した調査を利用し、日本空爆のための基礎データを得ていたのです。これに加え、彼らは日本の諸都市での火災保険データも入手していましたから、家屋の保険料から地区ごとの「もえやすさ」を算出していました。これらと航空写真から得られる建物物のデータを総合すれば、各地区でどのくらいの焼夷弾を投下すれば、どれだけ火災が広がるかを統計的に予測できたわけです。(137~140)

 結局、日米戦争の最中にあっても、日本人は自分たちの都市や国土が徹底して観察・分析されていることに気づかず、「鬼畜米英」という幻想的な標語によってアメリカの実体を視界の外に追いやり、相手を直視することを避けて内閉していきました。日米の間には、軍事的・経済的な不均衡ばかりでなく、こうした圧倒的なまなざしの不均衡が存在したのです。(144)

 その文の前に、こういう記述がある、

 日本人は、「アメリカとは何か」をまるで理解も認識もしないまま、よく知らない巨大な相手に無謀な戦争を仕掛けていったのです。(144)

 この最後の記述は、現在もそのままだと思った。日本は、アメリカがいかなる国家であるかを観察・分析することなく、「日米同盟」とか、「日米パートナーシップ」と言い、全面的にアメリカを信じ、従っている。アメリカが中国を敵視すれば、日本も同じように敵視し、沖縄県の諸島に自衛隊の軍事施設を積極的に建設し、アメリカへの忠勤に励む。冷戦時代は、北海道に自衛隊の主要部隊があった、ソ連がアメリカの敵であったからだ。

 アメリカは、きわめて独善的な国家である。気にくわなければCIAをつかって他国の政権転覆など、平気でおこなう。独善的だけではなく、きわめて好戦的な国家でもある。

 日本が、アメリカにべったりとくっついていることの意味を、しっかりと認識すべきである。トランプが何を考えているかを分析することなく、どうか日本の自動車には関税をかけないで、などと懇願する日本政府の姿勢には失望するしかない。

 


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